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事業者を支える、日本発・世界拠点の「インフラ」をつくりたい地域プロジェクト専門ユニットが目指すもの

ロフトワークが10年以上前から手がけてきたテーマ「地域×クリエイティブ」。

この秋、社内でも随一の数の地域プロジェクトを担ってきた二本栁友彦が新ユニット「ゆえん」を立ち上げました。「由縁を紐解き、所以を紡ぎ出す」を掲げるゆえんユニットは、なぜ生まれ、何に取り組むのか。旗揚げ人の二本栁に尋ねました。

聞き手・構成・文:原口さとみ
撮影:村上大輔

話した人

Profile

二本栁 友彦(ユニットリーダー)

1977年大阪府岸和田生まれ。千葉大学工学部デザイン工学科卒。大学在学中から様々なアートイベントの運営に携わり、建築設計事務所勤務を経てIID世田谷ものづくり学校を運営する株式会社ものづくり学校に入社。企画ディレクション、企画室長・広報を担当。姉妹校「隠岐の島ものづくり学校」「三条ものづくり学校」の立ち上げにも関わる。
2014年にロフトワークに入社。「経済産業省 JAPANブランドプロデュース支援事業 MORE THAN プロジェクト(2014-2016)」のプロデュース・ディレクションをはじめ、「SUWAデザインプロジェクト」「Hokkaido to Go」「ふるさとデザインアカデミー ichi」「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」などを手がけている。官公庁や自治体のプロジェクトを中心に、場所を問わず、クリエイティブコラボレーションを軸に展開している。

自分も会社も無駄なく活かしきる

── ロフトワークではこれまでたくさんの地域プロジェクトを手がけていますね。

僕は2014年に入社したのでそれより前のものは参加していないのですが、ロフトワークは地域プロジェクトを手がけるようになって10年以上経ちますね。僕は日本各地の事業者の海外進出を支える「MORE THAN PROJECT」や、「MORE THAN PROJECT」を機に立ち上げた、地域産業に関わる方々のマッチングの場を提供する「JAPAN BRAND FESTIVAL」、6年連続で実施した長野県諏訪市の「SUWAデザインプロジェクト」など、ものづくり系のプロジェクトをはじめ、最近だと地域事業者に「デザイン経営」を導入するプロジェクトなど、さまざまな取り組みに参加しています。

だから、社内ではいまさら感はあるかもしれませんが、いまこそ立ち上げのタイミングだと思っています。というのも、僕は地域のプロジェクトを数多く担当してきましたが、地域との関わり方の難しさを感じはじめていました。

僕はクリエイターではないし、プロデューサーやディレクターといった横文字を並べても、地域の人たちからすれば「つまりあなたの役割は何?」となる。かといって裸一貫で地域に入り込むのは自信もない。

立ち位置も見出せない自分が、地域の変革に携わることが本当に地域にとって良いことなのかよくわからなくなってしまった時期がありました。補助金というシステムや、委託という関係性で事業を推進していくこともとても意義はあることだし、今後も挑戦していきたいとは思ったけれど、積み重ねた先に本当の意味で地域産業の発展に繋がるところまで持っていくことが可能なのか? という自問自答を繰り返していました。今考えるとおこがましい限りですが。

そんななかコロナ禍になり、立ち止まって考える時間ができました。そこでふと、自分はそもそもロフトワークにいるという状況を活かしきっているのか? と考えはじめたのです。自分が元来持っているリソースも使いこなしてきたのか、個人で考えられる範囲でとどまっていたり、価値や可能性をプロジェクトメンバーに伝える努力をしてこれたと言えないのでは? と思った。

会社も経営体制が新しくなり、ロフトワーク代表の諏訪の「50の部署をつくって、いろんな挑戦をして事業化していく」というビジョンを聞いたとき、「それなら僕も1つやってみよう」と思いました。

── それでユニットを立ち上げようと動きはじめたのですね。

ロフトワークが持っているさまざまな資産をフル活用すれば、もっと多くの挑戦ができるプラットフォームや仕組みをつくったり、日本だけじゃなくグローバルとも接続することがいま以上に有機的にできると考えていて。

これは個人ではできないことで、いま、ロフトワークだからこそできる挑戦だと思っています。前職も含めた今までの経験値、個人のネットワークも無駄なく全部活かすことに、一度ちゃんと向き合ってみたいなと思い、ユニットを立ち上げました。

「ないものがない」ことに気づけるか

── ロフトワークの資産というのはどんなものでしょうか。

人、ネットワーク、グローバルの拠点。そして、取り組めるテーマ・領域の広さですね。

要件定義、ユーザーリサーチ、商品・サービス開発、流通……という商材開発の基本的な工程を行うにしても、アプローチの仕方っていろいろあると思っていて。手がける領域が広ければ、例えばそこに別のテーマや手法を掛け合わせることで新たな魅せ方ができるかもしれない。あらゆるテーマに触手を張り巡らせている、という状態も資産のひとつだと思っています。

── もう少し具体的に言うと?

MTRL(マテリアル)やヒダクマ(飛騨の森でクマは踊る)といった、超特化型のコミュニティをもつチームの存在や、世界各地に拠点をもつFabCafeのグローバルネットワーク、またロフトワーク外でも、ロフトワークが運営をお手伝いしているSHIBUYA QWS(渋谷キューズ)のように、意志ある若い人たちの挑戦を応援する拠点など多岐に渡ります。創業から丁寧にコミュニケーションをして培われてきた人的ネットワークというのも、個人ではなかなか繋がれないような人と関係性をもてるということ。関係性のないところに相談に行くなら正面玄関から行くか誰かの紹介で「はじめまして」からはじまるけれど、ロフトワークっていきなり握手とハグからはじめられるという圧倒的な距離感の違いがあって。

こんなになんでもあって、ないものがない、というのはすごいこと。社内にいると当たり前に感じて活かすことに意識が向きにくいのかもしれないけれど、それってめちゃくちゃもったいないと思ってます。

仕組みがあれば夢は現実になる

── そうした資産をつかって、ゆえんユニットはどんな取り組みをしていくのですか?

地域の事業者の皆さんの挑戦を支える「インフラ」をつくりたいんです。縮小していく日本市場だけではなく、世界を見据えてビジネスの挑戦をしたい時に、基盤となる仕組みをつくりたいと思っています。

例えばモノでもサービスでも、有形無形に関わらず海外に展開することって思っている以上に大変です。文化圏が異なる国で、その価値をちゃんと伝えてそれに見合う金額を払ってもらうわけですから。だから、現地のコーディネーターや通訳といった「人」、商材を展開できる「場所」、現地に入る前からローカルの詳細な情報が手に入りやすい「ネットワーク」などは本当に大事で、それらを備えた「インフラ」をつくりたいと思っています。

2021年にD&Departmentさんと共同企画で実施した、“レンタルから生まれるコミュニケーション”をテーマに、47都道府県のものやサービスを実際に体験(レンタル)・購入できる展覧会「47 RENTAL STORE」は、新たな商流を提案した事例ですね。こういう挑戦を重ねて、様々な機能をもったインフラをたくさん作っていけたら理想ですね。

そして、地域事業者の方が活用できるインフラづくりは、そういうことを面白がってくれる出来るだけ規模の大きな企業の方とも一緒に取り組んでいきたいと思っています。

ただ、いきなりインフラ作りましょうと持ちかけるのは現実的ではないので、行政や企業の皆さんと相談を続けながら準備していければと考えています。行政の補助金を使うことに賛否はありますが、僕はそれもひとつの“仕組み”だと思っていて、仕組みを構築する過程で合致するものがあるなら補助金も活用させてもらい、事業を軌道に乗せて稼ぎにつなぎ、法人税などをちゃんと払って返していければと思うんです。そのために必要なのが、とにかく稼ぐこと。地域の事業者さんはもちろんその視点を持って展開されているだろうし、ゆえんユニットでもちゃんと稼いで、自分たちの責任のもとでインフラづくりに注力していきたいと思っています。

── 実現に向けて、いま行政や協力してくれそうな企業とも関係性を深めていると聞きました。

まだ名前は出せないですが、全国規模の自治体が集う共同体のようなところに専門家として関わらせてもらっており、講師としての登壇などを予定しています。企業の皆さんとも、それぞれの得意技を掛け合わせて、先述の「47Rental Store展」のような仕組みを生み出していくために、議論をはじめています。

── ゆえんユニットが提供できるソリューションが着々と積み上がってきているんですね。

そうですね。ユニットをつくるにあたって、端的に言えばまずはお品書きをつくりたいなと。そのメニューは何かに特化して「僕らができるのはこれだけ」とせず、いろいろな事業者の挑戦に対応できるように数が多くていいと思っています。むしろその方がいい。あんなこともこんなこともやろう、って地域の人と盛り上がりたいじゃないですか。

そういうことをするのにうってつけなのが、やっぱりロフトワークがもっている資産なんですよね。

自分の子どもたちの世代が生きる世界に、自分が信じるものを残すために

── 二本栁さんは本当に身を粉にして地域産業に臨んでいる印象が強いです。その熱源はどこにあるのでしょう?

20年くらい前に海外を訪れた際、海外ではアートや伝統芸能が暮らしに当たり前のように寄り添っているのを目の当たりにしました。一方日本では、伝統的なものやアートは高尚で、日常から切り離されているなと感じました。「守る対象」になりすぎていると感じる現状にはもったいなさを感じていました。

そして日本人自身が、日本の地域産業の魅力や価値に気がつけず、失われてしまうかも知れない現状があることに対してももったいないことだと感じています。自分の子どもらが生きる世界に、自分がいいと思うものがない状態なんて悲しいじゃないですか? コロナ禍になって、世の中の状況がどんどん変化して、プライベートでは息子が生まれて、このまま悩んでるだけでいいのかなと考えるようになった。

いま国が指定する伝統的工芸品って240くらいあるんですが(2022年11月現在)、2025年の大阪万博のときには高齢化やコロナの影響もあいまって、3分の1くらいになるかも、とも言われているそうで、僕も話を聞いたときはぎょっとしました。ただ、作り手の平均年齢が軒並み70を超えているなどの背景を鑑みればそれもあながち大袈裟なことではないんだなと納得せざるを得ませんでした。でもそれまでにできることはまだあると思っていて。

例えばもしゆえんユニットでつくるインフラが、大阪万博と融合して、新しい産地の挑戦を支えるものになっていたりすると、一助を担えたことになるかもしれません。そういう変化をつくっていくことはできると僕は信じていて、代表の諏訪ともその思いが合致したからこそユニットの立ち上げに踏み切りました。これまでロフトワーク全社で取り組んできた挑戦すべてを活かして、日本の地域産業を担う人たちと、共に汗をかく仕事がしたい。

だけど、僕は個人としてできることがあまり多くありません。ここまでお話ししてきたことも、僕一人では到底できるとは思えない。現状も、日々の仕事に追われて、社内の他の資産の活用に向き合えていなかったことからも明白です。だからこそ、様々な得意技をもった仲間にゆえんに参加してもらい、集まってくれた仲間たちと一緒にもりもり活動していけるといいですね。

そう思うと、僕がいま一番頑張らないといけないのは仲間集めなんです。だからこそ、リクルート活動が大事だと思っていて、例えばこの記事を読んでくれた人が、半年後とかにゆえんのメンバーとして一緒に挑戦していたりすると素敵ですね。

地域では既に蒔かれている様々な種があります。いくつかの地域ではもう萌芽を感じるものもあるし、もう少し水を撒けば芽が出るようなものもある。僕たちゆえんでは、種が必要なら種を撒き、水が必要な時には水やりをして、花を咲かせ、実がなれば関係者全員で分かち合う。僕らにしかできない“ゆえん”を紡ぎ続け、皆さんと一緒に挑戦し続けていきたいと思っています。

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