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僕らにとってKPIとは何か

ビジネスプラットフォーム部の高尾です。僕は普段、データ分析や事業予算の策定に関わる業務を行っています。

いずれも、KPI(Key Performance Indicator)の設定や継続観察が重要な領域ですが、このKPIとの付き合い方には、クラシコムの経営や事業に対する考え方が色濃く現れているように感じています。

今回は、このクラシコム流のKPIとの付き合い方について書いてみようと思います。

計画ではなく、見通しを立てる


話は少しKPIからそれますが、クラシコムに入社したばかりのころ、代表の青木さんと業務についてのコミュニケーションをとる中で、「計画ではなくて見通しを共有してほしい」と言われていました。

その心は、以下の3つのポイントにありました。

・何がいつ頃決着するかの心づもりを持った上で僕(高尾)のマネジメントをしたい。
・当初の想定と比較して、進捗は遅れているのか、速まっているのか、想定通りなのかを、後から振り返りたい。
・ただし、想定よりも遅れることそのものは、悪いこととは捉えない。

以上を考えたときに、「計画」という言葉では、「そのとおりに進行させるべきもの」というニュアンスがやや強まってしまうので、「見通し」という言い方をしていたように感じました。

どうやら、この考え方は、「KPI」にも反映されていそうです。


KPIは、「目標」ではなく「目安」として設定する

データ分析基盤の整備を通じて、経営がウォッチする「KPIレポート」を見やすく、分析しやすい形で作りました。そこでは、売上高をいくつかの観点で分解した指標を、経時的に追えるようにしています。

例えば、訪問者数、コンバージョンレート、注文単価。新規会員登録数や、顧客の継続率をみるためのリピート率や、LTVなどです。


これらの数字は、事業予算立案時に、予測値を設定しているものもあり、毎月の取締役会では、KPIレポートの数字を報告して、経営陣で議論を行っています。そこで行われる議論は予測値とのズレについて考察を行い、「何か想定と異なることが起きていないか?」についてみんなで協議する、というもので、議論というよりは、むしろ「吟味」と言ったほうが正確かもしれません。

なぜならば、KPIレポートでみている指標の多くは、変動させるためのレバーを会社側が握っていないからです。

たとえば、コンバージョンレート(購入者数をお店の訪問者数で割った数値)。売上高を大きく左右する重要な指標ですが、仮に「明日のコンバージョンレートを〇〇%にしよう!」と言ってみたところで、確実に目標を達成できる方法というのはありません。

いい商品企画をし、良いコンテンツを作り、適切なマーケティング・チャネルでお客様に呼びかけを行うことで、結果としてコンバージョンレートが高かったり、低かったりする日が生まれるのであって、コンバージョンレートそのものを必達の目標値として運用するのは難しい、という考えです。

その他の多くの指標も、目安を設定することができても、必達の目標として運営することは、難しいものです。

しかし、仮にある経営指標が事前に設定した指標と乖離するようであれば、「何かがおかしいのかもしれない」「前提を見直すべきかもしれない」という議論を行うことで、経営を健全な状態に保つようにしています。

冒頭で紹介した「計画」ではなくて「見通し」としてロードマップを引く、という考え方に通じるものがあります。


クラシコムの「必達目標」は、フォームの正しさを確認するもの


そんなクラシコムにも、「必達」と社内で考えられているような目標はあります。たとえば、マーチャンダイジングを行う部門がみている「在庫指数」が例として挙げられます。

在庫指数とは、「当月月末の在庫金額/来月の売上額予測値」で計算される指数で、バイヤーたちは、月内の発注の際にこの数字が適正な範囲に収まるように、日々意識しており、この数字を厳守するような運用が行われています。

在庫指数が高すぎるのであれば、商品の販売につながるような施策を行い、在庫が消化されるまで、発注を控えます。逆に、在庫指数が低すぎれば、売れ行きをみながら発注を行います。

商品の購入はお客様の意志によって行われるので、自社が制御することは困難ですが、発注はクラシコムの意志によって行われるので(もちろん取引先様の状況もありますが)、制御が可能です。そして、この制御の結果として、売上が形成されていきます。

このように、売上高やコンバージョンレートのようなPLの数字ではなく、在庫指数というBSの数字を目標値にしており、かつ、自社がコントロールレバーを握れるような指標を必達の目標と置くことで、健全な事業運営がしやすくなると考えています。

これは、弓道で「正射必中」と呼ばれる考え方に近く、フォーム(ここでは仕事の進め方や判断基準のような意味で使っています)が正しいかどうかを測る指標を必達目標にしていると言えそうです。

的には当たっている(例えば、売上高やコンバージョンレートでいい結果を得られている)としても、フォームが崩れている場合は、どこかに不調をきたす可能性があり、サステナブルではないと考えられます。だからこそ、常に、正しいフォームから矢を放つことができているかを見極め、そのフォームの肝となる数値や状態に対しては、とことんこだわりたいと思っています。

僕は前職の素材の会社で化学の研究開発を行っていたのですが、不確実性の高い課題に取り組む研究開発においても、研究のやり方、あり方についての「フォームの正しさ」をチェックするようなKPI設定が行われており、馴染みがあるものでした。


フォームを支える健康診断としてのデータ分析


このようにクラシコムのKPIに対する考え方を振り返ってみると、データ分析もまた、事業のフォームを確認するための大切な手段と言えそうです。

データ分析のアウトプットによって、会社の意思決定をドラマチックに動かすというよりも、日頃の「健康診断」的な役割に近いかもしれません。

どのような観点から健康(正しいフォームが維持できている状態)をチェックするといいのか?を考え、経営に対して、インサイトをスッと差し出せるような分析をする、というのがクラシコムのデータ分析のあり方かな、と考えています。

僕は3人の子どもを育てる父親でもあるのですが、近所のかかりつけの小児科のお医者さんが、赤ちゃんのいる家族に日々の健康と安心をもたらしてくれるような、そんなあたたかさを、経営や事業、スタッフに対してもたらすことができていたらいいな、とひそかに思っています。


▼データ分析について振り返ったnoteはこちら
「北欧、暮らしの道具店」データ分析基盤整備の道のり

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