「井戸を掘ってくれた人を、忘れたくないんだよね」
東京で働いていたころ、友人がふと話してくれたその言葉を、今でも覚えています。
その友人は、仁村くんという同い年の経営者仲間でした。
仁村くんは、人とのご縁を本当に大切にする人です。
具体的にどんな場面だったかは、正直もう思い出せません。
でも、彼がその言葉を大事にしていたことだけは、はっきり覚えています。
村ができて、街ができて、たくさんの人が当たり前に水を飲んで暮らしている。でも、何もない場所に最初の一本を掘った人がいたから、すべてが始まった。
賑わいができたあとも、その最初の一人を忘れない。
気になって少し調べてみたら、この言葉には、思っていた以上に長い時間の流れがありました。
もとをたどると、6世紀の中国、北周の庾信(ゆしん)という詩人が残した言葉に行き着きます。
庾信は「落其實者思其樹,飲其流者懷其源」——果実を食べる者はその木を思い、水を飲む者はその源を思う、という趣旨の言葉を残しました。
そこから後世に、「飲水思源(いんすいしげん)」という言葉として語り継がれてきました。
「水を飲む者は、その源を思う」。
井戸の水を飲むとき、その井戸を掘ってくれた人のことを忘れない。
そんな意味合いで、国や時代をまたいで語り継がれてきた言葉です。
時代が下って、この言葉は日本にも届いています。
1972年、日中国交正常化のころ。
当時の中国首相・周恩来が、全日空(ANA)の2代目社長で、国交回復に長く力を尽くした岡崎嘉平太さんに、こう言ったと伝えられています。
「水を飲むときは、井戸を掘った人を忘れない」
間もなく田中総理が来て国交が正常化する。
でも、その井戸を掘ったのは岡崎さんです、と。
国や時代をまたいで、こんなふうに語り継がれてきた言葉なんだと知って、なんだか少し嬉しくなりました。
この言葉を思い出すとき、僕の頭に浮かぶ顔があります。KOBIRAの4代目社長、かんちゃん(小平勘太)です。
僕が家族で東京から鹿児島にIターン移住してきたのは、2021年のことでした。親戚も知り合いもいない土地です。
そんな僕が、移住してまもないころに出会ったのが、かんちゃんでした。
鹿児島の経営者やリーダーが集うNPO法人SELFという場で知り合って、同い年だったこともあり、話すうちにすぐ意気投合しました。
鹿児島に来てかんちゃんと出会ったことが
今の仕事人生につながっていきました。
数ヶ月して、かんちゃんから「うちの会社に来ない?」と声をかけてもらいました。(漢気あふれる、ストレートな口説きっぷり!)
ちょうどKOBIRAでは、組織の課題が山積していた時期。
かんちゃんは、その状態を本気でなんとかしたいと考えていました。そして創業から100年を超える歴史ある会社で、ローカルだからこその新しい経営モデルをつくろうとしている。しかも、圧倒的なスピード感で。
そのかんちゃんの言葉は、「一緒に働きたい」と思わせてくれました。
ぽっと現れたよそ者の僕に、会社の未来を一緒につくろうと誘ってくれた。
たぶん、かんちゃんは「池田のために井戸を掘ってやろう」みたいには思っていなかったと思います。
ただ、自分ひとりでは抱えきれない会社の課題を前にして、「一緒にやらないか」と声をかけてくれた。
その一言が、結果的に僕の人生に大きな水脈を開いてくれました。
あのとき声をかけてもらえなかったら、今のこの仕事人生はありません。
大げさでなく、KOBIRAに飛び込んでからのこの4年は、人生でいちばんと言っていいくらい(大変だけど)充実しています。
やっていることが面白い。
一緒に働く人が面白い。
そして何より、ここでしかできないこと、自分にしかできないことに身を投じることで、自分の人生をちゃんと使っている感じがある。
僕にとってかんちゃんは、間違いなく、人生に井戸を掘ってくれた一人です。
と、ここまで偉そうに語ってしまっていますが、
僕自身は人生を通じて、常に井戸を掘ってくれた人のことを想えていたわけではありません。
お世話になった人みんなに、十分な恩返しができているかと言われると、全然です。むしろ、返せていないことの方が多い…。(すみません…)
でも、だからこそ。
これから少しずつでも、井戸を掘ってくれた人たちに「ありがとう」を返していける自分でいたい。
この言葉を思い出すたびに、そう背筋が伸びます。
仕事の成果なんて、一人で出せるものは一つもありません。
自分の力で進んできたような顔をしていても、実際には、誰かが先に掘ってくれた井戸の水を汲ませてもらっている。
そういうことばかりです。
だから今度は、自分が掘る番だなとも思います。
すぐに役立つものじゃなくてもいい。
何年も経ってから、もしかしたら何十年も経ってから、たくさんの人に「あの井戸、助かったな」と思ってもらえるような、そんな井戸を掘っていけたらいい。
KOBIRAは「これからの百年も、地域から安心と希望の火を熾(おこ)す」ことを理念に掲げています。
火も井戸も、最初の一人がいなければ始まらない。
灯りは、誰かの手を離れたあとも、
次の誰かを照らし続ける。
そして、最初の一人が起こした火や、掘ってくれた井戸は、きっとその人の手を離れたあとも、誰かの暮らしを支え続ける。
僕も、そういう仕事がしたいです。
まずは、かんちゃんに。
声をかけてくれて、本当にありがとう。
そして、これまでの人生でご縁をいただいた、すべての皆さんにも。
まだ全然返しきれていませんが、少しずつ、自分なりの井戸を掘っていきます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
池田亮平
株式会社KOBIRA 副社長取締役 CHRO / AI推進室長
生成AIが大好きで、「組織の力×AI推進で、最高のローカルアトツギ企業を創る!」をミッションに、
日々楽しみながら試行錯誤しています(^^)
XアカウントURL : @ryoheiikeda