8割の中小企業がAIを使ってない。一方、鹿児島の老舗企業の現場レベルでのClaude Code爆速開発が始まった。
2026年5月、日本経済新聞が一つの調査結果を報じました。日本の中小企業でAIを導入している会社はわずか24%。大企業の65パーセントと比べて40ポイント以上の開きがあり、しかも中小企業の59パーセントは「導入予定なし、必要性を感じない」と回答していると。これ見て自分はガッツポーズしました。地方じゃもっと数字下がるだろうし、うちの一人勝ちになっちゃうんじゃないかとほくそ笑みました。
中小企業の6割が「AI導入予定なし」 民間調査 - 日本経済新聞
というのもうちの会社、私が代表を務める小平株式会社では、まったく別の景色が広がっています。
地域活性化の担当者が、GeminiでGoogle Apps Scriptで動く自分専用のメール優先度分類ツールを動かし、営業マネジャーが、Claude Codeを使ってAppSheetで内製した販売管理ツールから見積書PDFと発注書をワンクリックで吐き出させる。人事担当のメンバーが、自己評価コメントと目標シートをClaudeとの対話で仕上げ、社内に汎用テンプレートを配ってる。デザイン担当が、部署ごとのClaude Design用の社内デザインシステム(Design.md)を作ってWebやスライドを部署ごとに作れるようにする。Slackには毎日、新しい「やってみた」「作ってみた」の報告が流れます。書き手は、エンジニアだけではなく事務や営業職員と管理職です。
小平株式会社は、1912年に鹿児島で鍛冶屋として産声を上げ、LPガス、再生可能エネルギー、IT、貿易、へと事業を広げながら、100年以上ものあいだ地域の暮らしの足元を支えてきた会社です。中小企業の59パーセントが導入予定なしと答えるその時代に、なぜこの古い会社で、非エンジニアまでが日常的にAIを使いこなすようになったか、その秘密を書いてみます。
いつでもスタートは経営者の実践とメッセージ
自分はITコンサル出身なのでAI大好きです。朝から晩までフル回転させて、画面の数が足りなくて4画面で常に回してます。
私の机: 真ん中がChrome、上がClaude Code、みぎがSlack、左がManus & Cowork
経営判断の壁打ち相手、全社方針文書のドラフト、規程の改定草案、議事録の整形、合併関連の論点整理、新規事業の試算と感応度分析、作業自動化のアプリ作成、note記事案の壁打ちに至るまで、Claude Code が横にいる前提で進めるようになりました。
社長の仕事は、①人間関係の構築と②判断行動(決断すること)とそれに伴う情報収集と情報提供です。②を爆速で正確に行えるようにすることで会社のスピードをあげ、AIで時間の余裕を作ることで①の人間関係の構築にリソース投下するというのが自分の経営者としてのAI戦略です。
それで、社員全員使って欲しいと思ったんですが、最初に当たったのが「AI使うと私たち事務員はクビになるんじゃないだろうか?」というベテラン事務員さんをはじめとした人達の不安でした。
そこでまず経営者として取り組んだのが明確なメッセージの提供です。
宣言①会社として、AIエージェントによる業務の完全自律化を目指す
私は労働人口が地方において劇的に足りなくなる時代に人間でなくていい作業は全てAIにすると全社集会で宣言しました。毎年のマイルストーンを定め、その中でLv5を2030年に目指すことを全員の前で説明しました。
宣言②AIを入れるのはお客様との時間を増やすため
そして宣言の1の後にこんなメッセージを出しました。「AIはあなたの仕事を奪うわけではない。高度に複雑化した制度への対応や労働人口が減る中で、自分たちがお客様に向き合う時間を増やすためのAIです。AIを使いこなすことで、私たちの強みであるお客様との関係性を深める時間ををさらに濃くすることになります。」
このメッセージを出した時に、社内の空気が大きく動いた気がします。AIで人を減らす話ではなく、AIで人の時間を取り戻し、その時間をお客様に向き直すために使う。お客様と向き合う時間というのは、創業100年を超えるこの会社にとって抽象的な合言葉ではなく、いまも続く商売の根幹そのものです。
AI推進室が1年かけて土を耕した。
そして時間は前後しますが2025年の3月に副社長主導で社内に小さな部署が一つ生まれました。AI推進室です。副社長を室長に、経営企画と新規事業のメンバー数名で立ち上げました。
派手な大規模プロジェクトを動かすチームではありません。やっていることは、担当ごとに最新情報を追って共有するAIサービス担当をきめ(AI大臣制度)、そこからキュレーションを日々をSlackで発信し、誰でも気軽に質問できるSlackチャンネルで初学社のサポートを行う、Claude CodeやNotion AIの組織向け公式ルールを起草して反映する、お互いにセミナーをして教え合うということを1年行いました。専任ではなく私も含めた有志で、そういう泥臭い土壌づくりを、もう一年以上続けています。
また新メンバーでそういうAI活用にオンボーディングや日常業務へのAI活用を推進した結果、都市部から移住し新しく入社した社員からも、その先進性を高く評価してもらい共感を得るフックになりました。
社内のAI活用の空気が「相談する」から「作る」に変わってきた瞬間
その方針と土壌が揃って1年が過ぎた頃、社内の景色が静かに変わりはじめました。社内に「AIキュレーション」というSlackチャンネルがあります。もとは最新のAIニュースを共有する場として作られていましたが、いつの間にか「やってみた」「作ってみた」という報告が流れる場へと育っていきました。書き手はエンジニアに限りません。むしろ非エンジニアの投稿のほうが目立つようになっていきました。これはカルチャーの変化 / Claude Codeの有料プランの一律付与 / Opus4.6のリリースのAIの進化 が同時に起こったタイミングだったかと思います。
地域活性化事業の担当者は、自分の受信トレイに溢れるメールに音を上げてAIに相談しました。出来上がったのは、Google Apps Scriptで動く自動優先度分類ツールです。件名や本文に至急や期限やご確認といったワードが入っているか、自分が過去に返信したスレッドか、社内ドライブの共有通知か、そういった条件で点数をつけ、高・中・低の優先度と、社内・社外・メルマガのジャンルラベルを毎朝8時に自動で付けてくれます。コードを書いた経験はない人でした。Claudeに作りたい仕様を口語で伝え、出てきたコードを自分の業務に合わせて調整したそうです。本人いわく、朝の受信トレイの確認が格段に速くなったとのこと。
非エンジニアの営業マネジャーは、自分のチームの販売管理を内製してしまいました。ClaudeとGeminiとManusという三つのAIを使い分けながら、AppSheetで動く販売管理ツールを組み上げ、見積書PDFの自動生成、発注書と売上伝票の事務への自動提出、期や担当別の絞り込み、既存システムからのデータコンバートまでを実装しています。最初はmanusに丸投げしてクレジットを使い切ったそうですが、いまは「ここはGeminiで、難しいところはClaudeで、雑作業はManusに範囲指定して」という具合に使い分けるようになりました。
同じ人物が別の日には、社内基幹システムで間違えて一括入金処理してしまった顧客の取り消しを、PythonでRPAスクリプトを書いて自動化しています。
サポート担当のメンバーは、自己評価コメントと目標設定のテンプレートをClaudeと一緒に整え、社内に汎用化して配ってくれました。等級の定義やSMART基準をプロンプトに織り込み、ファイルを貼り付けて答えていくだけで、評価コメントと目標シートが完成します。一人で頭を抱えて書いていた人事の作業が、対話で進む共同作業に変わりました。
組織再編にあたっては、別の管理職がClaudeだけを使って業務負荷管理ツールをゼロから作りました。要件定義、Google Sheets用の15シートを超えるxlsxファイル、メンバー入力シート、サマリー、引継ぎ割振りのシミュレーター、シート間リンクのGAS、通知メール、操作マニュアル、Slackへの配信投稿まで、コードを一行も自分で書かずに完成させたそうです。本人は、AIを道具として使うというよりも、一緒に作る感覚に近かった、と書いていました。
他にもClaude Codeで趣味のバーチャルフライトシミュレーターを作ったベテラン社員もいます。その時のエピソードを書いたXの投稿は大きな反響を得ました。
デザイン担当のメンバーは、社内のデザインシステムをDESIGN.mdという形式で整備しました。色やタイポグラフィ、スペーシングのルールを一つのMarkdownにまとめ、Claude Codeをはじめとする生成AIに読ませて参照させることで素人でもプロ並みのデザインが出来ます。スライド用、ウェブ制作用と用途別に整理し、社内の資料制作で自動的にそのファイルが参照されるよう繋ぎました。
AIによる経営戦略の変容
こうした個別の挑戦が毎週積み重なるうちに、事業戦略そのものが書き換わってきました。
一つ目に変わったのは、業務効率化の出発点です。これまでは人を増やすか外注を増やすかが起点だった意思決定が、いまはどの仕事をどのAIに渡せばよいかという問いから始まるようになりました。経理にも、人事にも、営業にも、カスタマーサポートにも、それぞれに「ここはAIに任せて、ここからは人が対応する」という線引きが生まれてきています。
二つ目に変わったのは、プロダクトの作り手と使い手の境界です。営業や事務の担当者が、自分の業務ツールを自分で組み上げ、それを部署横断で配り合うようになりました。情報システム部門に申請して数ヶ月待つ、という回路を経由せずに、現場が現場のための仕組みを生み出しています。
三つ目に変わったのは、ITソフトウェア事業の収益構造です。エンジニアの工数で見積もる従来の型から、AIで自社プロダクトを高速にリリースして積み上げるストック型へと、事業の重心が動きはじめました。AIで稼いだ時間を、新しいプロダクトのリリース頻度に転換する。これが意思決定の前提になっています。
そして四つ目、これが今いちばん大きな転換だと思っています。私たちのIT事業部が、何でも作りますという会社から、二つの領域に絞り込んだ老舗 x AIの事業へと舵を切りました。
一つは、レガシー基幹システムをAIによってエンジニアリングして生まれ変わらせる事業です。どの会社にも、もう何十年も動いているのに、なぜ動いているのか正確に説明できる人が社内に残っていない、設計書もマニュアルも散逸してしまった基幹システムが一つや二つはあります。これを止められない、でも今のままでは使い続けられない。日本中の地方企業が共通して抱える宿題です。
私たちはここに、ベテランのエンジニアが豊富な業務知識をベースにClaude Codeを正面から当てる戦い方を選びました。
古いコードと残った断片的な資料をAIに読み込ませ、システムの振る舞いを再構成し、経験で保管しながら、現代的なクラウド版へと段階的に置き換えていく。これまで数年と数億の世界だった移行が、AIの読解力を前提にすると、工数と費用の桁が一つ落ちます。同じ宿題を抱えた地方の中堅企業に対して、現実的な値段と期間で答えを出せるパートナーが、地方にこそ要るのです。
もう一つは、インフラワーカーを支えるソフトウェア開発事業です。地域の暮らしを底で支えている現場には、毎日重い体を動かしながら、紙とスプレッドシートと長年の勘で仕事を回しているプロフェッショナルがたくさんいます。
私たちは元々、エネルギーを中心とした地域インフラ企業です。また私たちのIT事業部は何十年も新聞や牛乳、保育園などのエッセンシャルワーカーの現場に伴走してきた会社です。
私たちのと開発の隣には、現場で何十年も配達車に乗り、検針票を書いたことがある社員が座っています。その現場の知識を、AIで素早くソフトウェアに翻訳する。インフラを支える現場の人々が、より少ない労力で、より誇りを持って働けるための道具を作る。地域の暮らしを技術で守り続けるという宣言を、プロダクトの形で実装していきます。
社会インフラを支える基幹システムを持続的にし、さらに効率化するためのサービスも作る。社会インフラは誰かが支えなければ静かに失われていくものです。私たちのIT事業部は、速く誰よりも丁寧にインフラを支える人たちをITとAIで支える会社へ。IT事業部の戦い方が、いちばん大きく変わったのはここでした。
AIを道具に火を熾こす。
冒頭の日本経済新聞の数字に話を戻します私たちは鹿児島の地方企業で、社員数も九州の中堅規模に過ぎません。それでも経営者から非エンジニアの社員まで全員がClaudeを日々の道具にして、自分の業務ツールを組み上げています。同じ地域、同じ規模、同じ業界の他社が「まだ早い」「うちには関係ない」と判断しているあいだに、私たちは一年で数年分の差を作れる。
AIは大企業の道具ではなく、むしろ人手の足りない地方企業ほど効くレバーです。皆が使わないからこそ、使い切った会社が勝ち筋を独占できる。100年やってきた老舗が、いま、この時代の地方からもう一度伸びる道筋がはっきり見えはじめました。
100年前、鍛冶屋だった初代・小平正之進が握っていたのは、鞴と槌でした。火を熾し、鉄を打ち、地域の暮らしを支える道具を作りました。100年後のいま、私たちが握っているのは、AIという新しい道具箱です。火を熾す相手は変わりません。鹿児島の地域と、その先に広がる次の100年に向き合い、新しい道具を手に面白いことをたくさんやっていきたいです。