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安心安全で美味しいものを届けるために。DX推進によって変革するKIRINの商品開発の裏側

キリンホールディングス(以下、キリン)は社会とともに成長する企業を目指し、これまでの常識にとらわれず、商品開発プロセスや営業活動、また社内の業務改革など、さまざまなチャレンジをし続けることを大切にしています。

そして “老舗飲料メーカー” という印象を抱かれる方も多いかもしれませんが、実はこれまでのやり方に縛られることなく、テクノロジーを取り入れた業務プロセスの変革や新規事業開発など、DX推進にも積極的に取り組んでいます。

2020年4月に、キリンホールディングス経営企画部の直下の組織として「DX戦略推進室」を設置。組織としてDXに注力しており、各事業会社を巻き込んだ変革を推し進めています。

実際に、飲料のレシピ開発を手掛けるキリンビバレッジ商品開発研究所(以下、商品開発研究所)では、業務品質の向上、業務効率改善を目指し、DX戦略推進室と共にテクノロジーを用いた商品開発プロセス変革のプロジェクトを行っています。

そこで今回、本プロジェクトを担当した商品開発研究所の大石竜也、そしてDX戦略推進室の村尾和樹のふたりに、プロジェクトが発足した背景から実行プロセス、また、今後の展望について語ってもらいました。

記事を通じて、KIRINのDX推進の取り組みや考え方、そしてお客様に対しての価値創造への想いを感じていただければ幸いです。

## 企画から実行まで担当者が主導。飲料レシピの開発や改善を行う商品開発研究所のDX推進プロジェクトとは

―― あらためて商品開発研究所、およびDX戦略推進室がどういった部署なのか教えて下さい。

大石:商品開発研究所は、商品の付加価値を高め、安全安心でお客様に喜んでいただける商品の開発を行うことをミッションとしており、キリンビバレッジが掲げる事業戦略、マーケティング戦略をレシピ開発や技術開発を通じて具現化するキリンビバレッジの根源を担う部署です。

そして昨今は変化の激しい時代ですから、安全安心で、お客様の生活の中で楽しまれたり役に立ったりするものを、よりスピード感を持ってご提供するために、商品開発研究所では日々技術開発と、それを活かした飲料レシピの開発・改善に取り組んでいます。

村尾:DX戦略推進室は、各事業部門が抱える課題を現場の方と一体となって考え、業務プロセスや価値創造プロセスをデジタル起点で変革していくというミッションのもと、キリングループ全体のDXを推進する専門部署として2020年4月に設立しました。

そして、DX戦略推進室は今回の商品開発研究所とのプロジェクトだけでなく、人事や生産、物流など、キリングループにおける様々な領域でDXの推進に取り組んでいます。

また、キリンにおいてDX推進は多くを外部の専門会社にお任せするといった進め方ではなく、企画から実行、改善といった一連のプロセスを担当者が中心となって進めていきます。実際のDXプロジェクトにおいても必要に応じて外部ベンダーも巻き込んでいきつつ、全体の計画策定から要件の整理、また実際の開発フェーズに至るまで社内のケイパビリティ活用を主とした進め方をしています。

                                大石(写真左)、村尾(写真右)

―― 今回、どういった課題認識から商品開発研究所のDX推進プロジェクトが発足したのか、その背景を教えて下さい。

大石:キリンビバレッジとしてこれまで多くのレシピ開発を行なってきたわけですが、そうしたレシピ開発を通じて得られた知見の量というのが膨大で、人力で最適な情報にアクセスして活用するということに課題を感じていたことがキッカケです。

さらにキリングループとして目指すビジョンの実現に向けて、新規レシピ開発の重要性がより増していく中、商品開発研究所として、開発者がよりレシピ開発や技術開発に向き合う時間を増やしていくことが必要であると考えておりました。

そこでテクノロジーを活用し、組織全体での業務効率の向上を図り、さらに業務効率化によって注力すべき新規レシピ開発のための時間創出を実現すべく、今回の取り組みに至りました。

村尾:そういった課題認識を持っていても、やはり事業部門は営業活動や商品開発、生産や研究等の業務が本業ですから、業務改善のためのシステム開発に100%のリソースを割けるわけではありません。また、当然ながらテクノロジーに関する知見やノウハウも多くはありません。

そこで各事業部と二人三脚を組み、DX推進プロジェクトを進めていくというのがDX戦略推進室の役割となるのです。

今回の商品開発研究所とのプロジェクトにおいては、商品開発プロセスの変革を目的に様々な課題解決のための施策を進めており、そのうちの1つが2022年4月より試験稼働が開始した『アセスメントAI』という品質アセスメント業務をサポートするツール導入(※)でした。

アセスメントAIは、これまでの膨大なレシピ情報をデータベース化し、必要な情報へのアクセスを効率化することで、開発者は五感を活かしたレシピ開発に向き合う時間を確保することができるようになります。


※参照:「アセスメントAI」の試験運用を開始~高品質で効率的な飲料開発業務の実現に向けた、キリンビバレッジのDX~

## システム導入ありきで発想しない。現場を尊重した事業成長のための変革がDX推進に求められること

―― 『アセスメントAI』の導入に至るまでのプロセスを、あらためて教えていただけますでしょうか?

村尾:まずは商品開発研究所の業務を理解すべく、オンラインでのヒアリングの他、横浜市にある研究所で週1〜2回の頻度で実際に勤務してみて、対面で話し合ったり、実際にレシピ開発を行なっている様子を間近で見て、どういったことに課題があるのか調査を進めていきました。

そして、業務課題の抽出を行い、その課題に対してシステム以外の打ち手はないのかということも検討していきました。

というのも、DX戦略推進室はAIやシステムを導入することを目的としていません。あくまでも、商品開発プロセスを改革し、ミスなく安全に、効率的に価値のある商品を開発できるプロセス変革を目指しているため、システム導入ありきではなく、ありたい姿から逆算していくことが大切だと考えています。

そこで業務プロセス自体の見直しも行ないつつ、業務の運用ルールの変更といった別のアイデアなどとも比較検討した結果、今回のアセスメントAIの開発に決定しました。


―― プロジェクトを進めていく上での課題は何かありましたか?

大石:商品開発研究所では、自分たちの業務分析を行い、業務負担が大きくなっている膨大な情報へのアクセスを改善すべく、開発者のサポートができるようなAIを構築したいと考えていました。

そこで、キリングループ内にあるDX戦略推進室に相談してプロジェクトを共に進めることになったのですが、はじめは商品開発研究所とDX戦略推進室で共通理解を持つという点に苦労しました。商品開発研究所はキャリア的に化学専攻のメンバーが多い部門のため、そこまでWebやITに関しての知見を持ち合わせていないわけです。

たとえば“スクラッチ開発” など、私たちが知らない単語が会話の中に出てきたり、逆にDX戦略推進室にとっても私たちの商品開発用語が理解できないこともありました。

そのため、間違った解釈のまま話が進んでしまい、途中で話が食い違っているなと感じることもあったんですね

また、「せっかくなら良いものをつくりたい」という想いから、これもやりたい、あれもやりたいと、プロジェクトの本来の目的とは異なることも要望として出してしまうことがありました。

リソースは限られており、取捨選択をしていかなければならない状況に対し、「こういったことを実装したいのに、なぜわからないのか」と衝突したこともありました。


―― そうした課題をどう解決していったのでしょうか?

村尾:商品開発研究所とDX戦略推進室との間での認識合わせを3ヶ月以上かけて丁寧に進めていくことで、全員が同じ方向を向いてプロジェクトを進めることができるようになったと感じています。「事業成長」を共通のゴールとして、DX戦略推進室のやり方を押し付けるのではなく、あくまでも商品開発研究所の考えや想いを尊重し、商品開発研究所の皆さんに最終的な判断はしてもらったり、相手にとってわかりやすい言葉で説明したりすることを私たちとしては意識しました。

またDX推進する立場として、目先のやりたいことだけにフォーカスしてしまうと、どうしても本来の目的とはズレた設計になってしまいかねないため、結局現場で使われないシステムをつくらないためにも、業務プロセスを正しく理解し、ゴールのために必要な機能なのかどうかを商品開発研究所の方と話し合うようにしていました。

大石:DX戦略推進室側が我々に寄り添い、我々の「美味しいものをつくる」といった想いを尊重してくれたからこそ、商品開発研究所の業務プロセスをしっかりと理解してもらうことができたのだと思っていますし、議論が二転三転してしまったときはDX推進前提ではなく、「本来何を実現したいのか」と基本に立ち戻るよう投げかけてくれました。

アセスメントAIを組む際には、これまでのレシピ情報をデータとしてまとめていく必要があったわけですが、我々としてはレシピ開発自体がメインの仕事であったため、なかなかそこに人工を割けられなかったんです。

そのときも、DX戦略推進室が率先してデータ化に取り組んでくれたりと、本当に我々に寄り添ってプロジェクトを進めてくれたなと感じています。

## DX推進はキリンとしても重要な経営戦略のひとつ。会社の行く末を決める、大きなやりがいを感じられる仕事

―― 商品開発研究所にとって、どういったことに本プロジェクトの価値を感じていますか?

大石:我々として実現したいことは、安全安心で、お客様の生活の中で楽しまれたりお役に立つ商品をつくる、ということに尽きるわけですが、たとえば従来の商品に対してもより付加価値を生み出すにはどうすべきかなど、いままでにないものをつくるための自由な発想が求められるわけです。

そうしたときに、今回のようなアセスメントAIなどによって業務を効率化できるところは効率化させることで、自由な発想を持ってレシピ開発に向き合える時間をつくれるというのは非常に大きな価値だと感じています。

また、これまでは過去のレシピ情報を探すという作業にも多くの時間を要していたため、ある意味で今回のプロジェクトは悲願でした。

レシピ開発数が増え続ける今後、新しく入ってくる後輩たちはもっと多くのレシピ情報にアクセスしなければならないわけで、いつまでこの業務プロセスが続くのかと私自身ストレスに感じていました。

しかし、会社としてキリンが本気でDXに取り組んでいるからこそ、今回のプロジェクトが実現したわけですし、キリンのヒトだからこそできる「五感をつかって良いものをつくる」といったことに注力できる環境が生まれたと思っています。


―― あらためて今回のプロジェクトを振り返ってみて、いかがですか?

村尾:当たり前のように手に取る商品ですが、ひとつの商品をつくるのに、数百という試作品を経ていたりするわけです。

ここまで丁寧に労力をかけてつくられ、市場に流通しているのだなとあらためて感じることができ、レシピ開発の現場から美味しいものを届けるというのを一緒に進められたのは、飲料メーカーであるキリンの社員として非常に意味ある経験でした。

大石:DX戦略推進室とのコミュニケーションを通じて、自分たちの業務を言語化していくと、自分たちが絶対に譲れないもの、大切にしているものが何であるのかをあらためて再認識することができました。

そしてレシピ開発の現場というのは、当然ながら社外秘なわけで、なかなか研究所内に外部の方が入るということはできません。そのため、もし今回のプロジェクトが外部のコンサルティング会社やベンダー主導であれば、そもそもプロジェクトを進めることも難しかったでしょう。

しかし、同じキリンの社員だからこそ、我々が持つ情報にアクセスができることはもちろん、美味しさにこだわるという同じ想いを持って進められたと思っています。そうしたキリンとしてのこだわり、価値観を共有できているからこそ実現できたプロジェクトでした。


―― 最後に、DX戦略推進室の今後の展望を教えて下さい。

村尾:DX戦略推進室が目指すのは、キリングループのすべての事業部門、事業会社で自律的にテクノロジーを使ったプロセスの変革や新規ビジネスの創造が行われることです。

今回のプロジェクトにおいても、アセスメントAIを開発したから終わりということではなく、DX戦略推進室として次の打ち手を考えつつ、商品開発研究所側もデジタルやテクノロジーを手段として打ち手を考えていける状態を目指しています

そうした自律的なDX推進が営業、生産、人事など各部門で実現できている状態が展望であり、すでにそうした動きが出始めているため、今後はその動きを加速させていけるよう取り組んでいきたいと思っています。

大石:本当に今回のプロジェクトを通じて、商品開発研究所内でも自発的にアイデアが出たりと、考え方に変化が生まれているなという実感があります。

また、会社としても『キリンDX道場』という独自のDX人財育成プログラムがあり、白帯、黒帯、師範といった形で初級から上級コースまであるのですが、今回プロジェクトに加わったメンバーはみな白帯を取得したんですね。

数年前であればそうしたプログラムがあっても参加していなかったかもしれないのですが、今回のプロジェクトを通じてテクノロジーに興味を持てるようになりましたし、興味が生まれたからこそ、また新たな学びに繋がっています

村尾:経営企画部直下にDX戦略推進室があるとおり、キリンは経営としてDX推進を非常に重要視しており、全社的に本気で取り組んでいます。

そして事業部側も含め、全社でDXリテラシー向上のための取り組みをしているからこそ、「DX部門だけがはりきっていて、事業側に理解されない」といったことがキリンでは起きづらいと感じています。

私たちDX戦略推進室は、会社の行く末を決める大事な役割を任されている部署。ただシステムを導入して終わりではなく、効果が出るところまで現場と伴走してプロジェクト推進していくことが求められるわけですが、その分大きなやりがいを感じられる仕事だなと感じており、これからもいろいろな取り組みを現場と一緒に進めていきたいです。

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