「伸びるものどうしをどうやって縫うの?」それを可能にする匠の技とは?
kay meのワンピースは、女性のカラダを美しいラインに見せるために、パーツを出来るだけ細かく分け、つなぎめにギャザーやドレープを多用します。
そのため、通常のワンピース1着の制作に必要な生地が1~1.5メートルであるのに対して、kay meのワンピースに必要なのは、3メートル分。また、通常1枚で作るワンピースの後ろ身頃は、kay meの場合は4枚に分けて作るなど、kay meの洋服にはたっぷりの生地を必要とします。
全身で切る?切った端からカールする生地と悪戦苦闘
また、kay meのワンピースの特徴の1つでもある美しいプリントデザイン。年間120~150のプリント図案が生まれますが、その柄を美しく見せるために、柄の出し方についても非常に厳密な指示が出されます。
「どの部位にどのように柄が出るかまで厳密に指定されているので、柄がイメージ通りに出るように神経を遣いながら、一反ずつ裁断しています。布地が非常に柔らかく伸縮性があるので、担当者が台の上に乗り、全身の力で重しを押さえながらの作業です。
また、異なる4つのサイズのものを一緒に裁つことはできないので、サイズごとに4回に分けるのですが、細心の注意を払いながらの裁断はどうしても時間がかかります。1つの型の裁断に2日かかることもあります。」(裁断担当者)
決め手は「伸びる生地」と「伸びる糸」の組み合わせ
裁断作業の次は、大橋さんに「非常識」と言わせた縫製作業です。
kay meの伸縮性のあるジャージー素材は、非常に柔らかで伸縮性があるので、裁断すると端から丸まってしまいます。そのため1つ1つのパーツの全辺に手でテープを貼り、ピンと伸ばした状態でそれぞれを縫い合わせていきます。
また、伸縮性のある素材を縫製するためには、同じく伸縮性のある糸を使用する必要がありますが、実はこれが容易ではありません。
例えば、ヴィーナスワンピースのような裾周り(蹴回し)が狭いものは、自転車に乗ったときなどに布が引っ張られ、糸が切れてしまうことがあります。それを防ぐために、伸縮性のある布地と糸の伸び率を合わせ、蹴回しのサイズによって糸を変える必要があります。
とはいえ、単に伸縮性のある糸を使用すればいいというものでなく、伸びすぎる糸ではワンピースの全体的なシルエットが崩れてしまいます。布地に合わせてどの糸を使用するのか、職人さんの勘所が重要な鍵となります。
大橋さんによると、「1枚のワンピースに使用する糸の種類は、1つではないんです。原則、上糸と下糸は種類を変えています。さらに色がグラデーションになっている布地や、伸縮性の高いところ、布地が厚めのウエスト、ファスナーなど箇所によっても糸を変えているのです。」
「また、箇所によって変えているのは糸だけではありません。『ひだを100個寄せた幅が3センチになるように』というような指示があるのですが、たっぷりのギャザーを寄せると必然的に布地が厚くなるので、針の目が飛んでしまったり、ロックができないこともしょっちゅうです。布地の伸縮性も毎回、異なりますから調整は毎回必要になります。普通には縫えないので、毎回ミシンの押さえ圧をミシン屋さんに調整してもらっているんです。」(大橋さん)
ミシンの調整をしたり、工夫を重ねても、どうしても縫えないと判断した場合は、洋服のデザイン自体の変更をお願いすることもあるそう。
縫い直し無理!の緊張感の中での緻密な作業
さらに縫製者泣かせなのが、「ほどき」。ここでもkay meの服は、匠を悩ませます。「多くの作業工程において、ときには縫い間違えることもあります。その場合は、縫った箇所をほどいて縫い直しますが、kay meの場合は布地によって、ほどきが一切きかないものもあります。
例えば表が黒く、裏が白い生地だとすると、縫い直すために糸をほどくと、針穴から裏の白い糸が見えてしまうとか。もちろん、そうなるとその生地はもう使えません。生地も高級なものを使っているのもわかりますし、やり直しがきかないので、すごい緊張感を保ちながらの作業になるんです。」(大橋さん)
「『工場さん泣かせ』であるkay me のアイテムたち。それでも毎回それを『挑戦』として取り組んでくださり、kay meの洋服のために、いつも改善できることを提案してくださっていることに、頭が下がる思いですし、感謝の気持ちでいっぱいです。」(毛見)
◆ラベンダー テーラードジャケット
◆ ネイビーエレナ ギャザーワンピース