スタートアップが世界で活躍できる環境を、広島に創り育てる。 【実施企業紹介/Hiroshima Global Connection】
貿易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会の更なる発展に貢献することを目指している「JETRO」。70カ所を超える海外事務所のほか、本部(東京)を始めとする国内約50の事務所による国内外ネットワークをフルに活用し、日本のスタートアップの海外展開支援、対日投資の促進、農林水産物・食品の輸出や中堅・中小企業等の海外展開支援に機動的かつ効率的に取り組むとともに、調査や研究を通じ日本の企業活動や通商政策に貢献しています。JETRO広島では、県内においてイノベーションエコシステムを創出するために、海外展開を目指すスタートアップを対象に、成果の創出や事業の発展に繋げていくことを目的とした支援プログラム「Hiroshima Global Connection」を広島県と協力のうえ実施しています。
今回はJETRO広島の松元郁実さんと井上祥子さんにインタビューを行い、プログラムを始めた経緯や実施した感想などを伺いました。
松元 郁実 (まつもと いくみ)
新卒でJETRO本部(東京)に入構し、中堅中小企業の海外展開を支援する部署で管理総務業務や予算・成果のとりまとめ、支援機関との連携業務に従事。2022年9月に広島事務所に赴任し、現在はスタートアップ事業や対日投資を含むイノベーション事業、デニムプロジェクト等を担当。
井上 祥子(いのうえ さちこ)
新卒で製造業メーカーに入社。材料のバイヤーとして国内外の取引先との価格交渉や海外新規材料の採用プロジェクト等を担当。インテリア業界に転職後は輸入商品の仕入れ調査・企画・販売を実施。JETROに入構後は中小企業の海外展開支援を担い、2020年からはスタートアップ支援コーディネーターとして活躍中。NEDO認定 SSA Associate。
JETROとは
ーーまずはJETROについて教えて下さい。
松元さん:
経済産業省所管の独立行政法人です。現在は、組織として4つのミッションで動いています。1つ目は対日投資や海外企業との協業・連携、高度外国人材の活躍推進やスタートアップの海外展開支援を通じた資本、技術、人材が国内外で循環するエコシステムの形成・強化です。2つ目は農林水産物・食品の輸出支援で、本部も含め各地の事務所でサポートしています。3つ目は、中堅中小企業などの海外展開支援で、越境EC等のプログラム活用し関係機関と協力をしながら、海外展開を支援しています。最後は日々の貿易投資相談や調査・研究活動を通じて、日本企業の海外展開・通商政策における課題に対応しています。
井上さん:
国内には全国47都道府県、海外には55カ国75の事務所があり、連携して管轄地域企業の海外展開を支援しています。
ーーその中でJETRO広島はどんなことに力を入れていますか。
松元さん:
大きなプロジェクトの一つとして、内閣府予算によるスタートアップの支援が挙げられます。牡蠣や日本酒等の食品輸出についても、各自治体と連携して支援を展開しています。また、福山市がデニム生地の生産地と言われていることから、ここ数年はJETRO岡山事務所と連携をしてデニムの海外販路開拓支援プログラムも実施しています。
そのほか、高度外国人材の採用を目指す企業へのサポートや、製造業を含む地元の中堅・中小企業の海外展開を、外部の専門家等と連携をしながら継続してサポートしています。
JETRO広島のスタートアップ支援について
ーー2023年度実施の「Hiroshima Global Connection」を実施した経緯を教えて下さい。
松元さん:
2020年に内閣府が全国でスタートアップエコシステム拠点都市を8拠点定めており、広島は推進拠点都市として選定されています。JETRO広島では、2022年度より広島県と協力のうえプログラムを展開しており、海外展開を目指すスタートアップの支援、また広島でのスタートアップエコシステムを形成していく取り組みを行っています。
井上さん:
JETRO本部では海外のアクセラレーターに委託し、全国のスタートアップを対象としたアクセラレーションプログラムも展開していますが、全て英語で実施されたり、海外展開の体制が必要など一定のハードルがあることから、プログラムに参加したいと思っている広島の企業が参加できていない現状がありました。そのような課題を広島の企業に寄り添った形でプログラムを組成することで解決できると考え、今回のプログラムを実施することにしました。
ーー具体的にはどんな内容になっていますか。
井上さん:
このプログラムは5本の柱から構成されています。1つ目は短期集中ブートキャンプです。
海外展開を目指すスタートアップにピッチ資料のブラッシュアップや、海外展開に関する相談を提供しました。日本人と外国人のメンターをアサインして2ヶ月の間、企業側の好きなタイミングで相談できるような体制を整えました。
ブートキャンプに参加した企業を対象に2つ目の柱としてハンズオン支援を実施しました。毎月私たちが支援面談をして、企業それぞれの海外展開に関する課題に対して適切なプログラムを紹介し、場合によっては私たちもプログラムの中身まで同席してフォローアップするといった内容です。
松元さん:
3つ目が海外渡航プログラムで、中四国地方で海外展開をより具体的に考える企業の中から選考で採択された企業をシリコンバレーに派遣しました。今年度はPlug and Play Japanというシリコンバレーを本拠地とするアクセラレーター/ベンチャーキャピタルと連携させていただきました。現地起業家によるワークショップや英語でのピッチイベントへの参加のほか、現地の事業会社やメンターとの個社面談の時間も設けました。
4つ目はセミナーになりますが、昨年のアクセラレーションプログラムに参加いただいた企業で今年度も積極的に動かれ、海外展開を目指して活動されているスタートアップ、著名なスタートアップ支援組織であるCIC TokyoやPlug and Play Japanの皆様をお呼びして、海外展開を目指すスタートアップがどのような課題に対してどう動いているのか、また現地のエコシステムについて語っていただくセッションを設けました。
5つ目が発信事業です。忙しいスタートアップの皆さんはなかなか自社の発信にまで手が回っていません。また、広島県内でエコシステムを作っていくというミッションを持つ私たちは海外を目指すスタートアップを増やしていくという目標もあります。そこで、企業がどんな事業をしているのか、どのように海外展開に向けて動いているのか、情報発信の機会が必要だと考えています。
ーープログラムに参加した企業からはどんな声が届いていますか。
松元さん:
ご一緒した企業からは「継続して海外展開への意識づけができた」「何らかのアクションを起こしていかないと思うきっかけになった」というお声をいただきました。定期的に企業の状況を把握できたことで、JETROが持っている支援プログラムだけでなく他の機関が提供されているプログラムもタイムリーにご案内し、次の取り組みに繋げることができました。
井上さん:
シリコンバレーのプログラムに参加した企業からは「米国展開の壁やハードルを改めて痛感した」という声も多く寄せられました。そこから「より加速してやっていかないといけない」と思いを新たにされた企業もいれば「米国ではなく今あるネットワークをしっかり地固めしていく」と事業展開の見直しをされた企業もおられました。皆様それぞれが気づきや課題、海外でのネットワーク形成の一歩を得られるプログラムになったのではないかと思います。
ーープログラムの改善点もお聞かせください。
松元さん:
予算の制約でシリコンバレーへの渡航に関して行程がタイトなものになってしまいました。企業の皆様がお会いしたい方や行かれたい場所があったにも関わらず、日程が固定されているため身動きが取れないケースが多くありました。前後に少し時間の余裕を持たせたり、折角の機会を活かし、それぞれの企業が柔軟に動けるような時間を設定したりと企業のニーズにあわせて検討できる点はあるかと思います。また、従来の行政の支援の中では1社の企業さん単体に海外派遣プログラムはご用意できず、最大公約数をとるような形で、どうしてもグループ支援という形にならざるを得ない側面もあります。スタートアップ企業に限った話ではありませんが、企業それぞれのステージ、対象国・地域、課題を抱えられており、グループ支援という形で括った際に、提供できる機会にばらつきが生まれてしまっており、そのあたりも引き続き課題ではないかと感じています。
実際のところ、他拠点と比べて、広島県では海外マーケットも視野に入れるスタートアップが限られているのも事実であり、その中でも、海外を目指すスタートアップへの効果的な支援と、ロールモデルの創出が重要だと考えています。
JETRO広島が見据えるスタートアップ支援の未来
ーー来年度もプログラムは用意されますか。
井上さん:
引き続きスタートアップの海外展開の支援を広島事務所として実施していきたいと考えています。まだ各所との調整中ではありますが、今年度と同じく海外投資家や事業会社向けピッチ資料のブラッシュアップを目的としたブートキャンプや、定期的に支援面談を行いフォローしていくハンズオン支援、私たちの方でプログラムを用意する形での海外派遣プログラムを検討しています。新たな取り組みとしては、ブートキャンプの参加対象に学生も入れるなど、将来グローバルを見据えて起業を考えている方々にも間口を広げて、ご案内していきたいと考えています。
松元さん:
県内でのエコシステム形成という面では、企業同士の横の連携や支援者同士の繋がり作りも目標として、イベントも継続的に実施していきたいです。
ーー海外展開に興味を持っている企業に向けてメッセージをいただけますか。
井上さん:
海外に少しでも関心があって挑戦してみたいという熱意と、相談のための時間を用意していただける企業の皆様には、JETRO広島にいつでもお気軽に相談にきてほしいです。事務所には専門のアドバイザーもおり、相談内容に応じて海外展開へのアドバイスをしたり、適切なプログラムにお繋ぎしたりしています。やはり自ら能動的に動いていかれる方たちが、上手にプログラムを使われていて、次のビジネスステップへの展開も早い印象です。
松元さん:
JETROでは対応ができないことがあることも事実ですが、様々な機関と連携をさせていただき、私たちのプログラムでフォローが難しいことについて、そういった専門機関にお繋ぎすることもあります。海外ビジネスについて、「一定のレベルまで到達しないと相談できない」と思われる必要は全くありません。より多くの皆様が相談に来てくださることを心よりお待ちしております。
※写真右:地域統括センター長(中国地域)・JETRO広島 所長 岡部光利、
写真左:JETRO広島 所長代理 豊嶋佑介