アイティクラウドが運営するIT製品のレビュープラットフォーム「ITreview」は、6月20日にベンダーを対象としたユーザー会「ITreview User Conference 2024~VOICE~」を東京ポートシティ竹芝で開催した。ITreviewを利用して自社、顧客ともに成功している企業の表彰式やITreviewの今後のロードマップ紹介など、盛りだくさんのステージが用意された当日の様子をレポートする。
急増するIT製品と、拡大するレビューマーケティングの可能性
オープニングトークにはアイティクラウド 黒野源太氏(代表取締役社長 兼 CEO)が登壇した。2018年にITreviewがリリースされて約5年半。今回で2回目の開催となるユーザー会には、マーケターを中心として300人近いベンダー関係者が集まった。同氏は1回目のユーザー会の状況を振り返りながら、5年半の成長に対する感謝を述べると同時にITreviewを始めた背景や想いを述べた。
オープニングトークを務めた黒野氏
黒野氏は、ITreviewのビジネスモデルはリードジェネレーションではないと説く。必要な情報を自由に選べる“プラットフォーム”だとし、その結果として良質なインテントデータ※1を提供できると述べた。「ITreviewはマーケティング活動だけではなく、経営層への報告や開発に生かせるプラットフォーム。今後も『IT選びに、革新と確信を』をビジョンに、データや最先端のレビューマーケティングを提供する」。同氏は最後にそう語ると、本パートを締めた。
※1:Web上で測定できる企業の行動データ。
「Customer Voice Leaders」を表彰 選定企業の取り組みは
ITreviewの利用企業を表彰する「Customer Voice Leaders 2024」には10社が選定された。Customer Voice Leadersとは、「ITreviewを利用して顧客の声に向き合い、顧客を中心にビジネスを回し、自社・顧客ともに成功している企業」を指す。受賞企業は以下の通りだ。
■Customer Voice Leaders 2024 受賞企業
表彰部門受賞企業インテントデータ活用部門
arcserve Japan、ユーソナー
コンテンツ活用部門
トヨクモ、弥生、コラボスタイル
プロダクト改善活用部門
シムトップス、サイボウズ
カスタマーサクセス活用部門
100(ハンドレッド)、エムオーテックス
エグゼクティブ活用部門
インフォマート
表彰されたCustomer Voice Leadersは全10社
表彰では各社のITreview活用事例も紹介された。会計ソフトを提供する弥生は、「弥生会計オンライン」での活用が評価された。従来のデスクトップ版とは立ち位置が異なるプロダクトであったため顧客に受け入れられるか不安な部分があったというが、ITreviewで顧客の声を可視化できたことで「サービスの立ち位置が明確になり、進むべき道が見えた」とコメント。ITreviewのレビューとバッジを自社サイトに掲載するなど、積極的なコンテンツ活用で成果を得ている。
100(ハンドレッド)は、CRM「HubSpot」の認定パートナー事業という特殊な立場での受賞となった。代表者は「導入や活用支援を主とする企業のレビューを収集できるのでありがたい」と語り、レビューを基にサービスを改善した取り組みを話した。同社は2024年にHubSpot Best Partner in Japanを3年連続で受賞しており、「これもITreviewのおかげ」と笑顔で語った。
インフォマートは、レビューを独自に分析して自社の経営戦略やプロダクト戦略を立てる際の資料として生かしている。ITreviewのデータは、自社サービスの市場ニーズを把握したり今後のサービス展開を検討したりするのに非常に役立つという。
コラボスタイルとシムトップスに聞く「成果を出す」ITreview活用
ITreviewの活用事例は、受賞企業をゲストに迎えたトークセッションでも詳細が語られた。ゲストはシムトップスの前川泰宏氏(企画・マーケティンググループ)、コラボスタイルの水野雅元氏(営業部 マーケティング・広報チーム)。モデレーターはアイティクラウド 野島哉氏(ITreview事業 カスタマーサクセス部 部長)が務めた。
前川氏はレビュー獲得の施策として行った「機能要望実装キャンペーン」を紹介。レビューに書かれた改善要望で、数が多かったものを機能に反映した。機能改善の希望を直にかなえることが、ユーザーにとってレビューを書く動機になると考えたという。これには大きな効果があり、数件だったレビューが約50件に増加した。
水野氏は、自社サービスがITreviewのワークフローシステム部門で高評価を獲得していることを自社サイトでアピールしている他、ホワイトペーパーやセミナーの資料に掲載していることを紹介した。「部門ごとにサービスを導入する場合は、一般消費者に近い目線を持っているため『顧客満足度ナンバーワン』※2など分かりやすい言葉の方が響きやすい。資料への活用例としては、ITreviewの管理画面から出せる他社との比較グラフを使って優位性をアピールすることが多い」(水野氏)
※2:ITreviewでは、3カ月に一度カテゴリーレポートを発表。レポート内でレビューが一定件数以上の製品を項目別に集計・評価しており、その中で最も点数が高いものをナンバーワンとして認定している。
続いてシムトップスは、サイボウズとの協業企画を紹介した。前川氏は「ITreviewを見ると、自社サービス『i-Reporter』とサイボウズ『kintone』は比較回数が年間1200回を超えている。しかし弊社はサイボウズのパートナー企業であり、i-Reporterとkintoneは連携製品。この誤認を解決したかった」と振り返る。
そこでサイボウズに相談し、i-Reporterとkintoneの「徹底解剖」企画を一緒に進めた。特設サイトとチラシを「両製品の比較」という切り口で制作したが、読み進めていくと双方を連携させることのメリットが理解できる構成を意識した。「ITreviewでは比較回数など細かなコンテンツも利用できる」(前川氏)という良い事例だ。
トークセッションに参加するシムトップス 前川氏(左)と、コラボスタイル 水野氏(右)
野島氏から「なぜ、ITreviewを長年利用し続けているのか」と問われると、水野氏は「レビューサイトとしての知名度の高さ」を挙げた。レビュー自体に必ずチェックが入り、中身のない投稿やなりすまし投稿などが除外された状態で掲載されることに魅力を感じているという。
前川氏はSEOに強い点を評価しながら、受注率への影響についても語った。「ITreviewのインテントデータを使って弊社のリード情報と照らし合わせた。ITreviewの閲覧状況で受注率がどう変わるかを調べたところ、ITreviewを見ている方が10%も受注率が高いことが分かった。ITreviewの利用はやめられない」
機能強化の発表も続々と バイヤーとベンダー双方に新しい価値を提供
イベント後半は、アイティクラウド 新木啓悟氏(取締役 CRO)によるステージ「これからのITreview」で幕を開けた。新木氏は「バイヤー(ユーザー企業)とベンダー、どちらに対しても提供価値を継続的に向上させていくことが重要」と語り、今夏のリニューアル方針を説いた。
バイヤー側への新たな価値提供として掲げるビジョンは「より製品が選びやすく選定時に必ず通るサイトへ」。例に挙がったのは「ITreview Grid」※3の改善だ。カテゴリーや製品数が増えたことによる視認性の低下(マップの混雑)が現状の課題だといい、サイズを広げて製品の重なりを軽減するなどの改修を予定している。また「ITreview Grid Award」※4やベストソフトウェアの取得情報を新たに表示して、どこが評価されているかのポイントを分かりやすくするという。
※3:ITreview独自のアルゴリズムで、掲載製品をカテゴリーごとにマップ化したもの。/※4:投稿されたレビューを基に四半期に一度ユーザーに支持された製品を表彰するもの。
AIによる製品レコメンドも、今期後半から来期にかけての実装を計画している。ITreviewが提携し、かつベンチマークしているアメリカのレビューサイト「G2.com」ではAIレコメンド機能がすでにリリースされており、「そのノウハウも借りてITreviewのサイトに実装する」(新木氏)
「選定時に必ず通るサイト」になるため、SEOも強化する。ITreviewの2024年5月現在の月間PVは前年比で140%伸びている。また「製品名×評判」「カテゴリー×比較」などの検索ワードの検索結果は、8割以上が10位以内に表示される。新木氏は「これを継続しながら(検索ワードの)範囲を広げることで、より熱量の高いユーザーをITreviewに誘導する」と説明し、ITreviewのSEOチームがG2.comのSEOチームと週次で情報交換をして最新のノウハウに基づいた改善に取り組んでいると紹介した。
「これからのITreview」を語る新木氏
ベンダーに対しては「コンテンツとデータがより使いやすいサービスへ」を掲げて、3つの機能強化を図る。1つ目はコンテンツの生成機能だ。多くのベンダーが活用しているバッジやITreview Gridなど、コンテンツを使ったホワイトペーパーやバナーを自動で生成・更新する機能を今後提供する。これにより、企業はマーケティング活動にかかる工数を大幅に削減できる。
2つ目はAI機能「レビュー分析AI」「AIチャットbot」の提供だ。前者は、AIによるレビュー分析によってベンダーが自社の強みや弱みに関する定性的なデータを得られるというもの。後者は、ITreviewのデータとベンダーの営業資料や営業ツールのデータをAIに読み込ませることでチャットbotを制作できるというものだ。チャットbotの制作はITreviewで行うが、自社サイトへの設置も可能なサービス展開を見込んでいる。
3つ目がインテントデータの外部ツール連携。現在はITreviewの管理画面でデータをダウンロードして傾向を分析したりベンダーが自社のツールに連携させたりしているが、「今後はCRMやSFA、MAなどのツールと自動で連携できるようにすることで(ITreviewを)シグナルとして利用できる世界を目指す」(新木氏)。2024年6月現在では、すでにHubSpotとの連携に対応しているという。
ITreview×Sales Markerが描く、インテントデータ活用の未来
インテントデータの外部ツール連携については、連携先ツールとしてITreviewとの協業を発表したSales Markerの小笠原羽恭氏(代表取締役 兼 CEO)によるSpecial session「インテントデータで成果を出すための3つのポイント」で語られた。
インテントデータには3種類ある。ファーストパーティーのデータ、ITreviewなどが提供しているセカンドパーティーのデータ、Sales Markerなどが提供しているサードパーティーのデータだ。小笠原氏は「これらを組み合わせて活用することが最も重要」だと強調した。
インテントデータの活用は海外ではスタンダードとなっており、米IBMは購買意図(インテントシグナル)というインテントデータをマーケティングの標準フローに組み込み、実績を挙げている。日本でも「インテントデータを使うのは必然になる」と、小笠原氏は話す。
Special sessionには、ITreviewの新たな協業先となったSales Markerの小笠原氏が登壇した
ITreviewを導入しているベンダーの多くは、すでにインテントデータが使える状態にある。カテゴリーのデータや自社のプロフィールを見た顧客データ(ここでは興味関心を含むWeb上の行動データを指す)が見えるようになっており、そこからインサイトを拾えるのだという。
ITreviewとSales Markerの協業により、データの活用の幅はさらに広がる。両社はインテントデータを効果的に活用するための研究や実証をし、最新の成果事例を発表するなどの取り組みを行っていく。Sales Markerを契約している企業が、Sales MarkerのインテントシグナルのグラフでITreviewの訪問日、自社サイトの閲覧日などが分かるようになる、といった連携機能のリリースも発表した。
すでに多くのベンダーが、さまざまな工夫をしながら導入効果を得ているITreview。今後のリニューアルに伴う機能強化、中でもSales Markerとタッグを組んださらなるインテントデータの活用支援は多くのベンダーのビジネス拡大に大きく寄与するはずだ。ITreviewの進化に今後も注目したい。