マニラ空港、第1ターミナル。
チェックインカウンターに並びながら、谷津さんと牧野先生と3人でラジオを録りました。ざわざわとした環境音もありましたが、生の感情を収録したかったんです。
1週間のフィリピン出張の帰り。緊張感のあるスケジュールをこなし、一定の手応えを覚え、振り返る時間は、本当にかけがえのないものでした。
West Visayas State UniversityとIloilo City Community Collegeとの連携協定。学生たちの発表。先生方の歓迎。想像以上の熱量に触れながら、私はずっと不思議な気持ちでした。
「なぜ、こんな展開になっているのだろう」と。
私たちは世界に通用するものをつくっている、と当然のように受け入れている自分と、地元で活動することしか考えていなかったのに、というギャップに戸惑う自分。それが共存していて不思議なのです。
私たちが、海外で挑戦するきっかけを得たのは、ちょうど1年前。振り返ってみたいと思います。
きっかけは、「論文にしてみない?」
ずっとお世話になっていたAPU(立命館アジア太平洋大学)の牧野先生がワガママ町家に遊びに来てくれたとき、笑顔で私に言いました。
「ワガママLabの実践、論文にしてみない?」
私は、ほとんど反射的に答えていました。
「やりたいです!」
私と牧野先生
実は、大学の先生と一緒に論文を書いている知人がいて、ずっとうらやましく思っていました。いつか私たちも、日々の実践で得た気づきを、ちゃんとまとめて発信していきたいと。
だから瞬間的に「それ、ずっとやりたかったことだ!!!」と食いついていました。
ラジオで牧野先生「まさか、乗ってくるとは思わなかった」と言ってましたが(そうだったんだ・・・)、たまたま私にとっては念願のことでした。
しかし、私は研究者ではないので、論文を書いたことがありません。さらに、牧野先生はAPUの先生なので、お誘いいただいたのは当たり前のように国際カンファレンスでした。
日本語でもやったことがないのに英語です。abstractを出してください、と言われてもイメージが湧きせんでした。
それでも、私たちの仲間の黒須さんが助けてくれてなんとか提出。国際カンファレンスの発表の切符を手に入れます。
これが全ての始まりでした。
フィリピン大学セブ校で開催、ISTR国際学会へ
2025年4月、フィリピン大学セブ校で開催されたISTR(International Society for Third-Sector Research)Asia-Pacific Regional Conference。
非営利・市民活動・ソーシャルビジネスなど「サードセクター」を研究する国際学会です。
学会という初めての現場。独特な雰囲気。英語でのコミュニケーション。
はじめてのフィリピン。
「タダじゃ帰れないぞ」と意気込んで参加しましたが、何をどうすれば何につながるのかもわかりませんでした。
とにかく、拙い英語で頑張って話をしていきました。
「たったひとりのワガママが、社会を動かす」という私たちのキーコンセプトだけ英語で暗記している、というレベル感でした。
私たちの発表は、最終日の最終セッション。
数日間で出会った研究者の方々が「聞きに行くよ」と席を埋めてくれました。たくさんの質問をもらいました。正直ほとんど聞き取れなかったのですが、みなさん関心を持ってくれていることだけはわかりました。
そして、「フィリピンでやりたい」と言ってくれたチームがいました。
学会を出席する目標として据えていた「海外でワガママLabをやってみたい」という想いが、現実のものになりました。
今振り返ると、無謀でした。
ワガママLabの講義ができるメンバーに、英語が流暢な人は一人もいません。でも、「できる」という絵が浮かびました。
その勘違いがなければ、今回のフィリピン訪問もありませんでした。
Iloilo Wagamama Innovators発足!
そこからの展開は、驚くほど速かったと思います。
9月には「Iloilo Wagamama Innovators」プロジェクトがスタートしました。
Faina先生、Sharon先生、Edelynさんが中心となってくださり、フィリピン・イロイロ市のIloilo City Community College(ICCC)とWest Visayas State University(WVSU)との連携が決まりました。
日本での体制は、牧野先生(APU)、石田先生(関西学院大学)、そして私たちIRODORIです。
ICCCとWVSUそれぞれ15名、合計30名の学生を対象に実施が決まりました。数々の困難を乗り越えた裏側については、別の記事で。
オンラインで1ヶ月・4回の講座を経て、6つのアプリが生まれました。
3つご紹介します。
1)Dish Cover
目が見えない友人のための、“料理の見た目”を知るためのAI音声アプリ。きっかけは「自分も食べているものを見てみたい」という、つぶやきでした。
2)IPCare
先住民族(Indigenous People)への偏見をなくすための文化紹介アプリ。「友人が外見で差別されているのを見て、何かしたかった」という想いから誕生しました。
3)iSentinel
学生新聞をデジタル化し、声を届けるプラットフォーム。 「言葉を失っている同級生の声を可視化したい」という願いが動機でした。
身近に、当たり前に、先住民の差別があり、盲目の友達の存在がある。日本との違いに驚きました。
そして先生方が言いました。「こういう挑戦をさせたかった」と。さらに生徒たちからは「貴重な機会をありがとう」という感謝の言葉を何度もいただきました。
報告会はオンラインで、フィリピン大使館を巻き込みながら実施しました。
なぜ、こんなに受け入れてくれたのだろう
報告会を終えた夜、私はぐるぐると考えていました。
私たちの拙い英語の授業で、なぜこれほどまでに「たったひとり」から始まるコンセプトを受け取ってくれて、アプリとして形になったのか。
もしかすると、日本よりも強く必要とされている状況が、そこにはあるのかもしれません。
行動を待つのではなく、「自分から始めていい」と思える環境。
それが整えば、どこの国でも、どの地域でも、若者は動き出す。教育者はそれを求めているのではないか。
今回の出張で確信したのは、ワガママLabは、世界共通の普遍的な問いを扱っている、ということでした。
その問いを、もっと突き詰めたい。結果として、国境をさらに越えていくのかもしれない。
果たして、どこまでいくのか。
地元にこだわっていた私でしたが、どこまでも広く、深く、届ける挑戦をしてみたいと思うようになりました。
次の記事では、Iloiloでの1週間を、具体的に振り返ります。