薬局やドラッグストア向けの業務支援システムをはじめ、医薬品業界や薬剤師、患者を支援する数々のシステムやサービスを手がける株式会社グッドサイクルシステム。設立から14年、組織も大きく、事業も幅広くなったものの創業の想いは14年前から変わりません。今回は遠藤社長へのインタビューを通して、創業に秘められた想いをお伝えします。
ガイドライン以前から電子薬歴設計に携わる
薬局の当たり前が世間の非常識、そのことに気づいて起業
● まず初めに、グッドサイクルシステムはどんな事業を行っているんでしょうか?
私たちは薬局の薬剤師が使う電子カルテ、業界では『電子薬歴』という言い方をしますけど、その開発・販売・サポートを一貫して行っています。全国に調剤薬局が約58,000店あるなかで約3,500店舗(約6%)がユーザーです。
● 起業のきっかけは何だったのでしょうか?
それは「起業する価値のあるコンセプトに出会ったから」です。
ちょっと長くなりますが、起業する前の経緯をお話しします。
起業する前の会社でも電子薬歴の設計開発をしていましたが、最初から設計に携わっていたわけではありません。当初は、社員は社長と私の二人だけ。カルテや処方箋のファイリングシステムを開発・販売しており、その処方箋ファイリングシステムのオプションとして最初の電子薬歴がありました。当時は電子カルテのガイドラインが出たばかりで、電子薬歴のガイドラインが未だ無い時代。「法的に問題ないの?」という疑問に答えながら販売をしていました。
● 電子薬歴ガイドライン以前から電子薬歴に携わっていたんですね。
そうなんです。2000年のある時、行政による新規開局後の個別指導の際にユーザーが電子薬歴から薬歴簿を出力して提出したところ問題になりまして、私が社会保険事務局と直接やり取りをしました。社内では「(法的に認められていないので)開発を止めよう」なんて意見もありましたが、電子カルテは1999年にガイドラインが制定されて「これから」という時期でした。販売サポートをしていて薬局からの評判も良かったし、前向きな要望もたくさん受けていたので「むしろ製品改良に注力するべき」と提案しました。社内は当時5人くらいになっていましたが、「誰が考えるの?」「じゃぁ、遠藤」ということで、そこから私が電子薬歴の設計を担当するようになりました。
●何を担当されていたんですか?
機能設計から画面設計まで担当していました。その他に今の薬局システムでは普通ですけど、リアルタイムでレセコンと連動する仕様の作成なんかもしましたね。営業面では、販売価格の設定や提案書、パンフレットなども作っていましたし、代理店開拓で全国を走り回っていました。当時は車で営業をしていたので、この頃は年間84,000キロ走ってました。
●売れましたか?
売れましたね。新製品をリリースした2001年当時はレセコン会社の電子薬歴が無い時代でしたので、レセコン会社が良く販売してくれました。2002年に電子薬歴ガイドラインが出てからはレセコン会社も電子薬歴を開発し競合となりましたが、開発先行していたので競争力がありました。特にパソコンが不得意な人でも運用できるという点が評価されていたと思います。
●パソコンが不得意な人でも使える電子薬歴ですか?
ええ。薬局の運用やニーズをヒアリングして、パソコンが不得意な人も多くいることはわかっていましたので、現場的に無理がないシステムを目指しました。そのため、パソコンが使えない人でも記録ができるように入力は「手書きしてスキャナ」取り込み。参照は受付時に過去の薬歴を「支援票」として自動印刷することで、ほとんどパソコンを使わなくても運用が完結できるようにしました。
●順調そうですが、どうしてその会社を辞めたのですか?
そうですね、会社は順調に発展して、2004年には30名を超える規模になっていました。その頃、私は2004年4月に新しい電子薬歴をリリースするための準備をしていました。しかしその直前、ちょうどリリース一ヶ月程前に社長から急に「この製品はリリースできない」と言われ、製品企画担当から外されました。この時の新製品はキーボードで服薬指導入力をしていく機能を加えたものだったのですが、社長は難しすぎると判断したようでした。
●直前のリリース中止!?
リリース中止の最終判断はリリース予定日の前日だったので、導入が決まっていた薬局への謝罪が大変でしたね(笑)。しばらくは営業として活動しましたが、企画設計には戻れそうにないので、転職することに決めました。
●転職ですか。起業は考えなかったんですか?
全く考えなかったわけではありません。自分が考えた製品がリリースできなかったことが悔しいからと言って、別の会社で元々リリースする予定のものを作っても、世の中的には同じような製品が二つあるだけで意味がないと思って止めました。
●では、何で起業をしたんですか?
ようやく最初の回答にもどりますが、「起業する価値のあるコンセプトに出会ったから」です。
ある展示会でユーザーの薬剤師の方が来られて「遠藤さん、レセコンメーカー各社に相談したんだけど『それは無理です』って言われて……。相談に乗ってもらえる?」と言われて。それが「先確認がしたい」という要望でした。
●「先確認」とは?
薬局に行ったら処方箋を出して、待って、薬ができたら説明を受けて薬を受け取るのが当たり前ですよね? でも本当は「お薬はきちんと飲んだのか?」「副作用は出ていないのか?」などといったことを、処方箋受付時に患者さんに確認してから薬を作るのが薬局の本来あるべき姿で、これが「先確認」です。普通に考えたら当たり前のことで、例えば喫茶店でも、メニューがあって、お客さんがオーダーしてからコーヒーが出てくるわけです。でも薬局はそうなっていない。そのときに初めて薬局業界の常識が世間の非常識だと言うことに気づかされました。
● 確かに、 薬局では処方箋を渡しているだけですね……。
ドクターがオーダーした通りに薬剤師が調剤しているだけなので、患者中心の医療とは程遠いなと……。誰も疑問を持たないけども、そもそもいまの状態がおかしいのであって、患者中心を突き詰めていくと、必ず逆転して「先確認」がスタンダードになるだろうと確信しました。また、先確認」「患者中心」の観点から振り返ると、これまで設計してきた電子薬歴の課題にも気づきました。
●「先確認」が起業する価値のあるコンセプトだったんですね。
電子薬歴設計の経験があったからこそ「先確認」の価値に気づけました。でも「先確認」は誰もやったことがないし、どうしたらできるかわからない。「じゃぁ、それを実現するツールを創ろう!」と。それならば、以前に自分で設計してきた電子薬歴とは異なる価値=患者さんに役立ち、薬局薬剤師の社会的価値向上にも貢献できる、社会的に意味がある事業だと。ちなみに「先確認」は、2010年の診療報酬改定で努力規定に、2014年の診療報酬改定で義務化されました。