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メンタリングと心理的安全性「エンジニアリング組織論への招待 - 第2章 - 」

株式会社Globee CTOの上赤です。先日「エンジニアリング組織論への招待」の第1章についての感想を書きましたが、今回は第2章について書きます。

第2章はメンタリングがテーマです。メンタリングという用語自体は最近良く聞くものではありますが、その詳しい手法については恥ずかしながら本書を読むまであまり知らないままでした。

ソフトウェア開発の技術は仕事をやっていく中で自然と覚えていきますし、先輩の仕事から学べることも多い気がします。それに対してメンタリングなどの人の成長に寄与するための技術に関しては、必要性が表面化しにくい上に人を見て学ぶ事が難しいので、自分で明示的に学ぼうとする意思が必要な気がします

メンタリングとは

  • メンタリングとは、知識のある人がない人に対して上から押し付けるような教育方法ではない。対話を通じてメンタリングする人の思考力を一時的に貸し出し、思考の幅を広げていく事でその人の歪んだ認知を補正し、次の行動を促し成長させていく手法である。
  • メンタリングは、「自ら考える人材を作る」テクニックである。人は与えられたと思っている役割に対して、自分の思考を閉じてしまうという習性がある。与えられた役割の中で自分自身が「心地よく」いられる思考の範囲や行動の範囲を「コンフォートゾーン」と呼び、自分自身のコンフォートゾーンを変えるのは難しい。

コンフォートゾーンから抜け出すのはなかなか難しく、例えば私は「自分はベストを尽くしてプロダクトを作る、企画やマーケは自分の仕事ではない」的な発想に陥りがちです。責任範囲を自分の得意分野だけに絞る発想は非常に心地良いですし、自分ではタスクにフォーカスして効率良く働けていると思いがちなので注意が必要です。

自己効力感と自立型人材

  • 自分から考えて動いた結果、評価されたとか、周囲からの尊敬を集めたとか、そういったポジティブな結果を手に入れた人は、「自立的に動くことは楽しい」という感覚を得ることができ、これを「自己効力感」と呼ぶ。(逆の感覚は「学習性無気力」と呼ぶ)
  • メンタリングは自立型人材を作るために、対話によって思考の範囲を限定する枠を取り外し、自力で問題解決ができるように促していく。そして、その体験を通して自立的な思考を行うことの快感(自己効力感)が、依存的な思考を行う快感(コンフォートゾーン)を上回るようにメンティを導いていく。
  • メンタリングが効果的なものになるためには、以下の関係性が必要である。
    • 謙虚:互いに弱さを見せられる
    • 敬意:互いに敬意を持っている
    • 信頼:互いにメンティの成長期待を持っている
  • メンターは、「何か課題を指摘するための存在」ではなく、課題に一緒に向き合い成長を支援するというコミットが求められる。
  • 個人の成長を階段にたとえて「成長の階段を上る」と表現することがあるが、メンタリングでメンティに階段を上らせるには次のことをする必要がある。
    • 階段を認識させる
    • 壁に梯子をかける
    • 階段を上りたくさせる

個人的には 階段を認識させる というフェーズが一番忘れがちでして、メンターとして認識している課題をそのまま解かせてしまう事が多いです。例えばDB設計の分野で成長してほしい時などは、簡単な設計の仕事を振ってみてフィードバックを返すなどすると、本人が自分で課題に気づくので結果的に成長速度が上がるような気もします。

他者説得と自己説得

  • メンタリングがティーチングに比べて優れているポイントは、気がついたことの応用力が身につく点である。この応用力は、他の人から与えられた知識ではなく、自ら獲得した知識だと感じる事によって生まれる。人から与えられた説得による知識を「他者説得」、自分自身で気がついたことを「自己説得」と呼ぶ。
  • 他者説得の特徴
    • 他人が答えを教える
    • 体感を伴わない
    • 理解を確認できない
  • 自己説得の特徴
    • 他人が質問で促す
    • 体感を伴う
    • 行動の変化が発生しやすい
  • 自己説得を生み出すには、適切な質問の積み重ねが重要である。質問によって、より望ましい解決策を自ら発見できるよう促す事ができる。問題解決をするのはメンターではなくメンティであり、当人が抱える問題は当人にしか解決できないので、解決策を言うこと自体が相手への敬意を欠いた行為であると言える。
  • メンタリングを進めるにあたって、メンターはメンティが「悩んでいる」のか「考えている」のかを判断することが重要である。「悩んでいる」状態は手が動いていない状況が続くことで観測でき、この時にはサポートが必要である。
  • メンタリングの基本スキルとして「傾聴」がある。傾聴では、相手を中心としながら相手の思考が整理され、前向きに考えられるよう支援するように意識して会話を行う。
  • 傾聴においては「共感」を伝える事が大事だが、共感という言葉の意味は「相手がそのような気持ちになった理由を理解する」ことである。それに対して「自分が相手と同じ気持ちになる」ことを同感という。傾聴において示すべきは「共感」であって「同感」ではない。

共感という言葉は様々な所で様々な意味で語られている気がしますが、個人的には本書の「相手がそのような気持ちになった理由を理解すること」という定義は割としっくりきました。悩みを聞く上で共感が大事だというのは良く言われる事ですが、自分が相手と同じ気持ちになってしまうと相談者と同じ認知の中に入り込んでしまうので、かえって悩み解決の妨げになる気がします。

心理的安全性とアクノレッジメント

  • 近年、チームの生産性と強い関係性のある要員として「心理的安全性」という用語が注目を浴びているが、これは「対人リスクを取っても問題ないという信念がチームで共有されている状態」というような定義がされている。メンタリングにおいてもメンターとメンティの間で「心理的安全性」は極めて重要である。
  • 心理的安全性はいわゆるぬるま湯な関係性とは違い、「問題点の指摘」「自分の弱みの開示」「失敗の報告」などの対人リスクが高い行動が増えている状態の事を意味する。
  • メンターとメンティの間にも「心理的安全性が高い」状態、すなわち「どんなダメなところを見せても、関係性が破綻することはないという確信」をメンティに抱いてもらう必要がある。このために「メンティ自身の存在を認めている」というメッセージを発し続ける必要があり、これを「アクノレッジメント」と呼ぶ。
  • アクノレッジメントは「承認」を意味し、メンターはメンティの存在に対して、承認しているというメッセージを発し続ける必要がある。これは「褒めること」と同一視されがちだが、「よかった結果を褒める事」とは違う。
  • 相手に対して興味関心を持ち、変化にいち早く気がつき、時間を費やして言葉や行動を通じて伝える事がアクノレッジメントの基本である。アクノレッジメントには3つの段階がある。
    • 存在承認とは、相手が今ここにいてくれてありがたいというメッセージ。挨拶をする、会った時に笑顔である、頑張っている様子を励ますなど。
    • 行動承認とは、「結論から話すようになった」「前よりよく調べてある」などポジティブな行動をとった時にその行動を言葉に出して伝える事。これによってこの行動は承認されているのだと相手が感じる事がある。
    • 結果承認とは、「~はすごい成果だね」のように出来上がったものに対してそれを主観を持って伝える事。
  • 必要なのは結果だけではなく行動、行動だけでなく存在への承認である。承認を示す一番わかりやすいものが言葉をかける事、また感謝を伝える事である。
  • メンターがメンティに相談して意見を求めるというのもアクノレッジメントの一つである。頼られるという体験は、強烈な自己承認と自己効力感を生み出す。

心理的安全性という用語は割と色々な所で使われている気がしますが、いわゆる「ぬるま湯」な状態との違いはあまり語られていない気がします。

また、スタートアップではメンバー間での衝突が多くなりがちだと思いますが、互いに存在承認が発信されていれば破綻はしないような気がします。その点リモートワークだと存在承認を発信するのが難しく、ここは大きな課題の一つです。

成功体験が無い人にどうやって最初の成功体験を積ませるか、というのも良く語られる問題だとは思いますが、存在承認/行動承認から積み重ねていくというのが大事なのかもしれません。

まとめ

第2章はメンタリングの話でした。メンタリングの技術は「コードレビュー」「ペアプロ」「チームマネジメント」などのソフトウェア開発のプロセスでも必要になりますので、習得していきたいと思います。

なお、弊社では現在エンジニアを募集中です。この記事を読んでもし興味がおありでしたら是非オフィスに遊びに来て下さい!主にアプリエンジニア・Webエンジニアを募集しています。

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