東急株式会社が手がける「common」は、街への貢献の場を通じてご近所さんとの共助関係を生み出し、より良い街をみんなでつくるサービスです。
2023年1月現在、以下の2つの機能をメインに提供しています。
・街の情報や、困りごと・相談を共有する「投稿機能」
・ご近所さんと不要品を譲り合う「譲渡機能」
この「common」において東急株式会社と共同開発を行ったフラーは、単にアプリの開発だけでなく、効果的なアプリの改善や施策を行うためのデータ分析から、プロダクトをユーザーに広めるためのプロモーション施策の企画提案・デザイン物制作まで、幅広い領域で戦略を共に検討。業務全般で伴走し、プロジェクトを進めています。
その中で、実際にエンジニアリングやデザイン、ディレクションを手掛けたフラーのメンバーは、どのような思いをもって取り組んだのでしょうか。
今回は、「common」のディレクションを担当したディレクターの服部 卓史が、プロダクトへの思いやその魅力を実例を交えて語りました。
服部 卓史(はっとり たかふみ)
1996年生。2018年4月にフラー株式会社へ入社。
自社サービスである「App Ape」のマーケティング業務に従事した後、2020年4月より
デジタルパートナー事業のディレクターとして、アプリ・Webサービスの企画・開発及びグロースに取り組む。
2022年7月よりシニアディレクターとして、マネジメント業務を兼務。
目次
- 現代の都市の課題
- ゆるやかな繋がりを生み出し、「街づくり」に関われる機会を提供する
- 街に貢献する6つの方法
- 自己開示の範囲を機能毎に設計
- 検証フェーズから拡大フェーズへ、グロースの中で意識していること
- 最後に
現代の都市の課題
街づくりのプロフェッショナルである東急さんが考える、現代の都市の課題を理解するところから、プロジェクトはスタートしました。
資本主義の現代において、人々はお金を払えば何不自由なく生活することができます。それは、生活しやすい環境・街を行政や自治体・町内会等の自治組織が維持しているためです。
ただし、昔のように行政が街の維持・運営を全て担うことは難しくなり、自治体・町内会などの自治組織が代わりを担うことも難航しています。
その背景としては都市一極化が進み続け、地方の人口が減少、住民の高齢化が進行していることが挙げられます。人口減少による歳入の減少、高齢化による自治組織活動への支障・担い手不足などの課題が発生しているためです。
将来的にはこうした課題がより顕著になることで、行政や自治組織が街を良く維持していくことが難しくなっていくと考えられています。
また、現代の都市は都市化によって住民同士のつながりが希薄化し、地縁が失われています。その結果、非常時の助け合いが起こりづらく、社会的に孤立する人も出てきています。
「common」は、こうした課題をデジタルの力でどのように解決し、持続可能な街を創り上げることができるかにトライしているプロジェクトです。
ゆるやかな繋がりを生み出し、「街づくり」に関われる機会を提供する
上述した都市の課題を解決し、良い街を維持し続けるためには、現代に合った形の地縁=人々のゆるやかな繋がりを創り出し、何か困ったときなどに助け合いが起きる「共助」を生み出す必要があると、私たちは考えています。
そして、最終的には行政や自治組織に頼りきりな状態を抜け出し、自分たちの街は自分たちで良くするという「街づくりの民主化」を目指す必要がある——それが私たちの意見です。
持続可能な街を目指す上で最初のハードルは、「街への関心を生むこと」。
現代の人々は、自分の住んでる街に関心が薄い人が多いのではないでしょうか。どれだけ行政や自治組織が働きかけたとしても、関心を抱いてなければ人は動きません。そのため、住民1人1人に自分の住んでいる街に対して関心を抱いてもらうことが、課題解決のファーストステップです。
また、住民が街に対して関心を持ち自ら地域に対して何か行動しようとしても、そのアクションを起こせる機会が少ないという問題もあります。地域でのボランティア活動等は存在しているものの、いつどこでどのような団体が活動しているのかは、インターネットや掲示板・回覧板等で自ら情報を取りにいかない限り分かりません。
そのため「common」では、
・地域の情報や人との出会いの機会を創り出すことで、街に関心を抱いてもらう
・各機能を通して自ら地域に貢献する機会を生み出す
といったアプローチで、現代の都市の課題を解決できればと考えています。
街に貢献する6つの方法
「common」を通して自ら地域に貢献することを考えたときに、まず人々が地域に提供できるものは何があるか検討を行いました。特定の人しか提供することができないものも混在していますが、大きく下記の6つが挙げられます。
- 労働力:自分ができるお手伝い(例:ボランティアへの参加)
- 情報:自分が知っている街の情報(例:新店舗のオープン情報)
- お金:自分が自由に使えるお金(例:地域イベントへの寄付)
- モノ:自分が不要になった物(例:着なくなった子供服)
- 場所:自分が貸し出せる場所(例:営業時間外の店舗)
- つながり:特定領域に専門性のある知人(例:英語が堪能な友人)
コミュニティサービスを立ち上げる上では、初期ユーザーが全員等しく貢献できる方法を採る必要があります。上記6つの切り口の中で「より多くの初期ユーザーが対象となる」、そして「より多くのユーザーにとってメリットのある」バランスの良いものは何かと考え、「情報」が最善と判断しました。
そして街への情報というのは、現代の情報化社会において、まだ進化する余地がある領域でもあります。Googleは情報の即効性に弱く、かつ街のつぶさな情報は拾うことができません。一方でTwitterは細かな情報が飛び交いますが、自分の街に関する情報だけを集めることは非常に難しいです。
そこで「情報」にフォーカスし、超ローカルな情報の集約地としてアプリを価値提供しようと考えました。
これらの理由により、「common」は地域情報を発信/閲覧する「投稿機能」を軸としてサービスを立ち上げました。
リリースから9ヶ月が経過した2021年12月には、初めての大型アップデートを実施。そこでは「住民による街の情報提供」という初期の切り口に加え、「住民同士のモノの譲り渡し」を実現する譲渡機能を開発しました。
ユーザーインタビューを通して得たニーズの高さ、フリマアプリ等の既存サービスによるマーケットの証明、開発工数/スケジュールを踏まえた実現可能性などの理由から、「モノ」にフォーカスをした形です。
今後も上記の6つの切り口をベースに、「common」を通して地域に対してアクションを起こす事ができる機会を増やすとともに、街に対して興味関心を抱くきっかけを提供できればと考えています。
自己開示の範囲を機能毎に設計
「common」を設計する中で意識していることの1つが、ユーザーのプロフィールをどこまで開示するかです。
コミュニティ等のサービスを考える上で、ユーザーアカウントを「匿名・実名」のいずれで設計するかはそのサービスの色が出る部分だと思います。
一般的に、匿名→実名となることで、情報発信のハードルは上がりますが、情報に対する信頼度は上がります。匿名であればその発言に対して責任を持つ必要が無いため気軽に投稿でき、実名であれば「〇〇さんが言っているのであれば信頼できる」というように、その人の経歴・実績等に応じて情報の信頼性が担保されます。
「common」の場合は、投稿機能においては「匿名」を採用しており、譲渡機能においては「実名」を採用しています。
UGC型のサービスである「common」は、投稿によりコンテンツが生まれない限りサービスとして成り立ちません。そのため、サービスの基本としている投稿機能は「匿名」を採用し、限りなく投稿のハードルを下げる設計にしています。
「common」は、リアルな街での生活をデジタル上に投影していることを意識しています。現代の街では、同じ地域に住んでいる人の顔と名前は基本的には一致しません。そのため、実名での地域コミュニケーションは現実世界と乖離が発生すると共に、心理的なハードルが上がることも想定されたため、匿名でのコミュニケーションとして設計しました。
実際にユーザーの方の声を聞いても、独特のゆるやかなコミュニティの雰囲気に価値を感じてもらえています。
他方で、譲渡機能は本人確認を必須とし、実名でのコミュニケーションとして設計しています。譲渡機能は基本的にユーザー同士が対面で直接出会いモノの受け渡しを行うため、匿名の場合は安心感が足りないと考えました。
そのため、マッチング時に相手の名字や自由記入のプロフィール情報等を把握することができる設計としています。譲る側のユーザーはその情報やリクエストのメッセージを見た上で、どのユーザーに受け渡すかを判断することができます。
人と人が直接出会いコミュニケーションするからこそ、ユーザーの自己開示の範囲を広げることで安心・安全な繋がりが生み出せるというのが、私たちの考えです。
「common」ではこうして、機能に応じ作り上げたい世界観・距離感に合わせてユーザーの自己開示度合いを変えて設計してます。リアルな街をデジタルに投影することを思想として設計している、common独自の観点だと自負しています。
検証フェーズから拡大フェーズへ、グロースの中で意識していること
commonのプロジェクトチームは、「PMFを目指す」という意識が社外・社内ともにチーム全体で完全に揃っています。そのため、思いつきでの機能追加や施策実施を行わず、基本的に全て定性分析・定量分析の両面から得た仮説を元に意思決定を行っています。
これは、従来の受託開発の企業では中々実現出来ていない取り組みです。これまでのシステム開発のスタンダードとアプリ開発のスタンダードは、大きく異なります。リリースするまでが本番である従来のシステム開発と違い、現在のアプリ開発はリリースしてからの方が意思決定の速度と柔軟な方針転換が求められるため、常にクライアントと仮説検証を繰り返しながら施策を決定していく必要があります。
「common」での定性分析では、数ヶ月に1度ユーザーインタビューを実施しています。
ユーザー行動を定量的に分析し、ヘビーユーザーを特定。そのユーザーがどのような人であり、何に価値を感じて日々生活しているのかなど、ユーザーインタビューを通してヘビーユーザーの人となりを深堀りすることで、「common」が解決しているペインポイントを探っています。
また、新機能検討の際には検討中のUIを提示しヒアリングを行うことで、ユーザーが意図通りに機能を体験してくれるか、どこに疑問を持つのかなどを理解し、機能検討に活かしています。
定量の分析では、スポットでの分析と月に1度の振り返りの2軸で実施しています。
スポットでの分析は、適宜そのタイミングに応じて、開発した機能の効果検証やユーザー行動の分析、プロモーション施策の効果検証等を行います。
月に1度の振り返りでは様々な数値を取り入れたマンスリーレポートを作成し、プロダクトの現況について2時間ほどのディスカッションを実施しています。
PMFに向けて一際重視している指標は、リテンション・アクティブ率です。アプリ全体で追いかけるのはもちろん、対象エリア(「common」を使用できる街)を拡大して以降は、各エリアごとに個別に追いかけています。
「common」では、限られたリソースの中でプロダクトを着実にグロースさせていくために、こうした定性分析・定量分析の両面を軸にプロジェクトを進行しています。もちろん最後は確からしい仮説を信じて施策を実行しますが、その後も検証を行うことでPDCAを回して次に活かすことができています。
こうしたプロジェクトの進行・思考プロセスは、規模こそ違いますが、所謂トップTierのIT事業会社と遜色無いと考えています。また、クライアントワークでありながら、こうした定性・定量の分析を通してユーザーにしっかり向き合いながらプロダクトのグロースに取り組めるところは、フラーの強みだと感じるとともに、私個人としてもプロジェクトに携わっていて楽しいところでもあります。
最後に
海外ではNextdoorというサービスが2021年に上場しましたが、日本で成功している地域コミュニティサービスはまだありません。この1〜2年の間にも多くの競合サービスが立ち上がりましたが、クローズに至っているものも多いです。
それだけ難しいドメインだとは思いますが、そうした高難易度なチャレンジを顧客とワンチームになって取り組むことができるのは、フラーで仕事をしていて楽しいと感じるところです。
また、所謂開発ベンダーで、to Cど真ん中のコミュニティ系新規サービスの立ち上げ・上流から入れる機会は中々珍しいのではないでしょうか。
フラーでは「common」以外にも、大企業の新規事業やC向けサービスの上流から入る機会が多く存在しています。
クライアントワークでそうしたチャレンジをしてみたい方は、ぜひ採用ページをご覧ください!
街の「今」を作るアプリ「common」を手掛けた、ほかのメンバーの記事もあります。ぜひご覧ください。
フラーではディレクターをはじめ一緒に働くメンバーを積極採用中です。
フラーやフラーのディレクターにご興味お持ちいただけましたら、お気軽にご連絡ください。
なお、この記事は、フラー公式note「フラーのデジタルノート」に掲載中の記事を転載したものです。