「目が見えないからといって、手加減されることはありません。むしろ、一人のエンジニアとして、あるいはマネージャーとして、純粋にアウトプットの価値で評価される。それがfreeeという場所です」
そう穏やかに、しかし確かな自信を込めて語るのは、2020年に新卒で入社し、現在は法人向けクレジットカード「freeeカード Unlimited」の開発チームでエンジニアリングマネージャー(EM)を務める野澤 幸男(のざわ ゆきお)さん。社内では「cat(キャット)さん」の愛称で親しまれる彼は、全盲という視覚障害を持ちながら、複雑な金融プロダクトの開発組織を牽引しています。
昨今、多くの企業が「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」を掲げていますが、その内実は様々です。freeeにおけるそれは、単なる「優しさ」や「配慮」に留まるものではありませんでした。catさんの言葉から見えてきたのは、プロフェッショナルとしての誇りと信頼が交差する、極めてフラットで熱い開発現場の姿。
前編となる本記事では、一人のエンジニアとしてのcatさんのルーツを辿りながら、freeeという組織の根底に流れるカルチャーや、主体的に描けるキャリアパスについて深掘りします。
野澤 幸男(Yukio Nozawa) / cat
2020年新卒入社。小学3年生から独学でプログラミングを始め、2008年頃からフリーソフト作家として活動。自らサウンドデザインまで手がけるゲーム開発でコンテスト受賞歴を持つ。大学卒業後、freeeに入社。入社後は認証・認可基盤のエンジニアリングを2年間担当した後、2023年より「freeeカード Unlimited」のエンジニアリングマネージャーとして、ネパール、インドなど多国籍なメンバーを率い、開発組織の最大化を担っている。
12年に及ぶ独学の開発経験と、突き当たった社会の「壁」
catさんのエンジニアとしての歩みは、生粋の「物づくり」への情熱に支えられてきました。
小学3年生で初めてコードを書き、中学・高校時代には1年半かけて長編RPGを制作。複数のプログラミング言語を操り、独学で培ったその技術力は、プログラミングコンテストでの特別賞受賞という形で結実します。しかし、大学を卒業し社会に出ようとした時、視覚障害を持つ方のキャリアを取り巻く現実は、想像以上に厳しいものでした。
cat:「一般的に、視覚障害を持つ方の職業選択は、いまだにマッサージ師などの国家資格を軸にしたものに限定されがちです。どれだけ技術があっても、企業側は『目が見えなくて本当にコードが書けるのか?』という戸惑いから、採用や役割の付与を躊躇してしまう。そんな構造的な壁が厳然として存在しています」
そんな中、catさんがfreeeを選んだのは、ある先輩の紹介がきっかけでした。
cat:「調べてみると、freeeはアクセシビリティに本気で取り組んでいる会社でした。freee会計が使いやすくなれば、視覚障害を持つ個人事業主が、紙の書類に縛られず自立して確定申告ができるようになる。この会社なら、自分の技術で誰かの『不自由』を直接解決できると確信したんです」
「補助輪」がいらない、エンジニアとしての解放感
入社後、catさんが驚いたのは、周囲のあまりに「普通」な反応でした。
cat:「配属先を決める際、上長から『catさんなら、どこでも(どんな役割でも)いいですよね』と言い切られたんです。さすがに少しびっくりしましたが、同時にこれこそが自分が求めていた環境だとも感じました」
視覚障害を理由に役割を制限するのではなく、一人のエンジニアとしてのポテンシャルを信じ、マネージャーという重責を次々と託していく。catさんはこの環境を「補助輪が外れた状態」と表現します。
cat:「日常生活や、多くの一般的な企業環境では、どうしても周囲の『補助』という名の制限が必要になる場面があります。でも、freeeで仕事をしている時は、その補助輪が一切外れた状態で、自分の足だけで全力で走れている感覚があるんです。良くも悪くも、freeeは徹底した成果主義。属性によるバイアスを排除し、アウトプットを正当に評価する。このフェアさが、私にとっての最高の解放感を作ってくれました」
「寿司奢ります」に象徴される、高い自律性とあそび心
freeeのエンジニア組織を語る上で欠かせないのが、プロとしての厳しい規律を「あそび心」で維持する独特の文化です。その象徴が、社内でも語り草となっている「寿司奢ります」というエピソード。
cat:「離席時にPCをロックし忘れると、隣のエンジニアがその人のSlackを借りて『寿司奢ります!』と投稿しちゃうんです(笑)。これ、一見するとただの悪ふざけに見えるかもしれませんが、実は非常に高度な情報リテラシーと相互信頼の上に成り立っています。PCロックというセキュリティの基本を、上からの命令や監視ではなく、エンジニア同士のコミュニケーションとして楽しむ。こうした茶目っ気が、プロとしての規律を自然に形作っているんです」
また、開発環境の鍵(クレデンシャル)の取り扱いミスを防ぐために新卒エンジニアが歌を作ってYouTubeにアップするなど、「地味で辛い注意喚起も、どうせやるなら面白く、仕組みで解決しよう」というポジティブな空気感があります。
cat:「freeeには『やることさえやっていれば自由』というルールがありますが、それは裏を返せば、全員がプロとしての自律性を持っていることが前提です。家庭の事情で中抜けする際も、自分で進捗を調整し、周囲との連携を疎かにしない。属性やライフスタイルに関わらず、全員が『プロのエンジニア』として同じ土俵で戦っているからこそ、この自由が成立しています」
専門性を最大化させる「4つの道」と、自ら戦場を選ぶ「移動戦国」
優秀なエンジニアがキャリアを停滞させないために、freeeでは4つの明確なキャリアパスを定義しています。
- EM(Engineering Manager):
ピープルマネジメントに責任を持ち、チームのパフォーマンスを最大化させる。 - TL(Technical Lead):
卓越した技術力でシステム設計を牽引し、技術的難題を解決する。 - PdL(Product Lead):
開発の視点を持ちながら、PdM(プロダクトマネージャー)と共に「何を作るか」の上流から関わる。 - IC(Individual Contributor):
特定領域の深いスペシャリストとして、圧倒的なコードや発明レベルの開発でインパクトを出す。
cat:「私は現在、エンジニアリングマネージャーの役割を担っていますが、この役割は決して固定ではありません。野望や伸ばしたいスキルに合わせて調整可能です。さらに、年に一度開催される『移動戦国』という社内公募制度もユニークです。部署の都合ではなく、自分がどのプロダクトを、どの技術で救いたいか。戦う場所を自分で選べる仕組みです」
誰かにキャリアを決められるのではなく、自らの意志で道を切り拓く。そのための投資や制度も、エンジニアの成長を加速させるための「合理的な投資」として機能しています。
次の世代へ、プロフェッショナルの可能性を証明する
現在、catさんはネパールやインドなど多国籍なメンバーで構成されるグローバルチームを率いています。多様な背景を持つメンバーが、共通の「技術」という言語とプロダクトへの情熱で繋がる現場。そこには性別や国籍、障害といった境界線は存在しません。
cat:「私がここでマネージャーを担っている事実が、将来、後輩たちが挑戦しようとする際の強力なエビデンス(証拠)になればいいと思っています。実績があるんだから、できるに決まっている。そう当たり前に言える社会を、まずはfreeeという現場から作っていきたいですね」
自分はエンジニアだからここまで、という枠に縛られず、自分の得意なことを持ち寄って物づくりを楽しみたい。そんな方にとって、freeeは最高の挑戦の場になるはずです。
▼動画で見る:catさんが語る「エンジニアの可能性」
インタビューの様子を動画でも公開中。
catさんの柔らかな語り口から、freeeの空気感を感じてみてください。
<catさんのインタビュー動画はこちら>
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次回の【後編】では、catさんが率いるチームがいかにして技術的負債に向き合い、最新のAIを駆使しながら爆速でプロダクトを進化させているのか。その「技術的挑戦」の裏側に迫ります。