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大義を業務につなげて自走できる組織へ。再春館製薬所のつくりたい未来を見据えたコーポレートブランディングプロジェクト

熊本を拠点に、基礎化粧品と共にお客様に寄り添う再春館製薬所。根幹にあるのは「ありたい姿」という考えです。しかし、社内ではこの理解度が異なっていたことで、部署や役職ごとに見ている方向がバラバラになってしまっていました。「自分たちはなんのためにここにいるのか?」大義と手元の業務とつなげることを目的に、FICCでは2022年10月からワークショップを設計。

ワークのなかで見えた独自性の再発見、ブランディングとマーケティングが接続したことで、社内にどんな変化が起きたのか?再春館製薬所の音成さん、秋本さん、FICCからはBXクリエイティブ事業部の小林と立石が、当時のプロジェクトを振り返ります。

再春館製薬所の活動の拠り所となっている「ありたい姿」の考え

── 再春館製薬所と言えば「ドモホルンリンクル」を思い浮かべる方も多いかと思いますが、改めて会社について教えていただけますでしょうか?

音成:よく、ドモホルンリンクルの会社と言われるんですけど、化粧品の会社ではなくて。もともとは漢方の製薬会社で、“根本から”悩みを解消する漢方発想の製品づくりとサービスを展開しています。

この“根本から”が、うちのキーワード。お客様対応の社員からは、悩みの背景を掘り下げる対話を常に心がけていると聞きました。

会長の言葉に「生涯の伴侶たれ」という言葉があります。ただ綺麗になって終わりではなくて、その人が幸せに年齢を重ねていくことを応援したい。お客様に末永くお付き合いいただける会社でありたいと。

こうした商品づくりやお客様への向き合い方の姿勢は「ありたい姿」と呼ばれ、会社の目標・理念としてまとめられています。普段から社内でも、会話のなかで「ありたい姿にのっとると〜」という言葉が出てきます。「ありがとう」を日頃からきちんと相手に伝えることが会社の文化になっているのも、「ありたい姿」に基づく行動のひとつです。

──感謝の言葉が会社の文化になっているのは素敵ですね。

小林:打ち合わせで熊本に来た際は、いつも食堂でご飯をいただいていて。社員の方々が社員食堂のスタッフさんに対して「ありがとうございます」と声をかけられていたのが印象的でした。

食堂の風景。お漬物からデザートまで、食堂で出されるメニューのほぼすべてが手づくりのもの


──お2人は、どんなお仕事をされているのでしょうか?

秋本:元々はWeb担当として入社しました。その後、事業推進部で事業のことに関わるうちに、きちんと人に向き合って人事をやりたいなと。2022年から人財部に配属してもらい、組織や事業を成長させるための人事業務を幅広く行っています。

秋本翼(あきもと・つばさ) 株式会社 再春館製薬所 人財部 部長

音成:転職で入社してから、マーケティングやブランディングに関わっています。漢方理念に基づきながら、年齢を重ねるとともに訪れる悩みを解消し、毎日を楽しく生きていただきたい。そんな考えもあり、うちの社内では「グッドエイジング」という言葉が使われています。その想いや価値観を伝えていくために、2021年に『私らしく。』というメディアを立ち上げ運用したり、現在は、その他ブランディング全般や広報を担当しています。

音成宏美(おとなり・ひろみ) 株式会社 再春館製薬所 ブランドコミュニケーション部 部長

自分たちの大義ってなんだろう?指針が不明瞭だから数字至上主義になってしまっていた過去

──2022年の当初、FICCへは製品戦略のご相談でお声掛けいただきましたよね。なにか課題があったのでしょうか?

音成:主力製品のドモホルンリンクルの認知度は、全体的に90%を超えています。でも「名前を知ってるだけ」で終わってしまっていたり……知っていても、通販ビジネスということもあって「顔が見えないから手を出すのが怖い」みたいなブランドイメージになってしまっていて。

小林:実は私もみなさんにお会いする前はそんなイメージも持っていたのですが、熊本に訪れた際ギャラリースペースでお客さんから返送された商品が展示されてていて驚きました。再春館製薬所社内では、忘れてはいけない過去の失敗として刻まれ、もう20年近くインバウンド中心のビジネスなのに、ここまで過去のイメージが残っているものかと……。

展示スペースでは、「お客様の満足を第一に考える」という原点にいつでも返れるように、90年代当時のお客様からの返品の山の展示を続けている

音成:そんなブランドのイメージに加えて、見込み客からの問い合わせ等の反応を得るレスポンスと価値を伝えるブランディング、そのバランスが崩れてきて、とにかく目立つことを重視したコミュニケーションが中心となっていたことも課題に。これがボディーブローのように効いてきて、次第になにをしても​​広告効率が悪化していきました。

小林:そこで、まずはドモホルンリンクルの「ブランドホロタイプ®・モデル」※を作成し、社内の共通認識をつくりました。大義の部分は、再春館製薬所の大義について議論し、身体精神社会の3つが充実し、生き生きと年齢を重ねる「グッドエイジング」という大きな方向性が見えてきたんです。

小林実央(こばやし・みお)FICC BXクリエイティブ事業部 ブランドスペシャリスト

音成:ブランドホロタイプ®・モデルで策定し、ドモホルンリンクルが戦略に基づく実行フェーズに入ったタイミングで「グッドエイジングを言語化したい」と、代表の西川からオーダーがあったんです。製品主語ではなく、グッドエイジングを主語に話がしたいと。そして、先ほどお伝えした再春館の「ありたい姿」の理解度もまちまちでした。「末永いお付き合い」という文脈だけが切り抜かれて、行動指針のようになってしまっていた問題もあって。

秋本:組織においては、他者からの指示を待ってから動くのではなく、社員が自ら考え、動く。そんな各社員の自発的な行動を強化していきたいという代表の西川の想いがありました。

立場の違いから見えてきたそれぞれの課題、掘り起こされた独自性

──そこで、大義を整理するワークショップを行ったのですね。ありたい姿やグッドエイジングが言語化ができてないことで、立場の違う社員同士のコミュニケーションに弊害はなかったのでしょうか?

秋本:基本、全部署がそうなってしまっていたと思います。社歴が長い人ほど、ありたい姿がわからないと言えない空気になっていて。結局みんなわかってないから説明できない。説明できないから離れていったっていう。

音成:だから、わかりやすい行動指針のような形で残っていたんでしょうね。

小林:一番最初に、現状の課題を把握する会を設計しました。そこでは解釈の違いに気づくようなことがたくさん出てきましたよね。

音成:例えば私は、ありたい姿の中にある「100人に1回ではなく、1人に100回買っていただく」という言葉は、ターゲティングの話かと思ってたんです。でも、実際に代表の西川に聞くとCRMのことだと。マーケティングの考え方でも解釈の違いがあったんです。数字優先になってしまい、大事にすべきことがちょっとずつズレてしまっていて。

──ワークショップ参加メンバーの12人それぞれが、いろんな部署から選ばれたと聞きました。ベテランと若手を混ぜた理由はなぜだったのでしょうか?

秋本:ベテランは、会社の文化を築いてきたからこそ。その経験を踏まえた変化はどうあるべきか、という観点で関わってほしいと思っていました。若手を入れたのは、今後を期待する人たちだから。各部門ごとに、整理しながら向き合う過程を知ってもらいたかったからということもあって。みんな関わりたいと言ってくれたので、よかったなと思っています。

小林:ありたい姿に対して、ベテラン社員と若手とで認識が違ったのは印象に残っています。

──ちなみに、ワークショップは立石さん、小林さんの2チームに分かれて行ったんですよね?なにか工夫点があれば教えてください。

立石:僕はベテランでも若手でも、フラットに意見を出してもらうことが大事だと思ったので、発言しきれてなさそうな方に意識的に話を振っていました。若手チームが、的を射るような素直な発言をたくさんしてくれましたね。

立石圭吾(たていし・けいご)FICC BXクリエイティブ事業部 ブランドスペシャリスト

秋本:むしろ言えちゃう立場だからこそ(笑)。

小林:いろんな世代、いろんな部署だからこそ、みんな視点が違っている。そこの違いに気づくワークができたらいいなと思っていて。お客様からのお声を全員で見たり、課題図書を出すなど、各メンバーに共通のインプットをしてもらうことで、その違いを表出することをワークでは意識していました。

立石:音成さんと秋本さんが客観的な視点で発言をしてくださることで、それを聞いてるベテランたちも意見を出すようになって。全員の本音がちょっとずつ見えてきたのかなと。

──再春館さん側も「場づくり」を意識してくださっていたんですね。

音成:参加していた上層部メンバーも、「忖度なしで全部喋ろうね」としつこく言ってくれてました。

秋本:みんな日頃考えていたことが、いっぱい出てきましたよね。例えば、コールセンターでお客様対応をしている3年目の若手社員の話。業務上、お客様に寄りがちになっちゃうんですよ。迎合してしまうというか。上司がそういう判断を下すから、言われたらその通りに対応するしかないと。

でも、自分はそうじゃないと思ってるんだと。お客様にきちんと伝えないと、自分たちの誇りにつながらないんだと、自分の意見を開示してくれたんです。結局、判断基準がないのは大義がないから。

──確かに。「なんのために働くのか」という拠り所になりますよね。

立石:ワークの中で、ターニングポイントになったタイミングが2つありまして。1つ目は「どうすればみんなが大義に対して熱くなれるか?」と問いかけをした時に、今の大義は人に向きすぎているのかも、と意見が出たんですよ。もう少し広い視野で「自然環境や社会をとらえていたらいいよね」となり、皆の気持ちが乗っていったなと。

2つ目は、再春館製薬所の漢方理念やそれに基づく自然への考え方の話から、会長や代表の考えに行き着いた時があって。「そういえば、こんなこと言ってた」と、みんなでハッとなったんです。「昔から独自性があるじゃん!」と。ワークの中で、社員の顔つきが変わったなと感じる2つの印象的なシーンでした。

──社内の張り紙を見ていて、再春館の自然と共生する考えがとても伝わってきました。

音成:会社の中にいると、これが日常として当たり前になってしまっていて。お2人に気づかせてもらいました。

自社工場の年間の電気使用量を100%負担できる太陽光発電パネルを設置。社内では、節電を考えながらも、社員が効率よく仕事ができる冷暖房調節を行っている

小林:私は、やっぱり答えはブランドの中にあるなあと。再春館製薬所の独自性を追求したワークの中で、原点回帰できたんじゃないかなと思った瞬間がありましたよね。

立石:創設者や代表の想いや考えはしっかり根底にあったけど、隠れちゃってたんだなと。代表の意思や想いがないと、コーポレートブランディングは成し得ない。僕らの気づきにもなりました。

小林:終盤で、お客様自身の価値観が表れたお声をみんなで見ていくワークがあったんです。自分たちが、今まで積み上げてきたものがちゃんと伝わっているのを知る中で、参加メンバーが会社や自分の仕事に対して誇りを持ち始めていく姿が印象的でした。

──お客様から手書きの手紙が直接届くのはすごいことです。

秋本:ですよね。それが普通っていうのはすごいし、その事実がやっぱりみんなの誇りにつながりますよね。

ブランディングとマーケティングがつながってきたことで、社内の足並みが揃い始めた

──このワークで整理した内容を元に、最終的に水野さん(good design company)が、タグラインとステートメントをつくってくださったんですよね。タグラインの「自然とつながり、人とつながる明日を」という言葉に、掘り起こされたものすべてが表されているなと思いました。

音成:今回の一番の収穫は、お2人がありたい姿とグッドエイジングの関係性を明確にしてくれたことです。

グッドエイジングは「会社・社会と共有するゴール」。ありたい姿は「社内のゴールで、戦略と行動指針」と、言ってくれたんですよ。切り分けたことですごく整理されました。

社員総会では、西川代表とワークの参加メンバーが発表しました。西川からは全社員に向けて「 ありたい姿はコンパス。ゴールに向かうためのコンパスだ」と伝えてもらったのですが、「しっくりきました」「やっと腹落ちしました」というコメントが多数あったほど。社内の反響が大きかったんです。

──2023年に行われた社員総会で、西川代表とワークの参加メンバーが発表されたんですよね。

秋本:西川は総会の直前まで、ありたい姿は社内もお客様のものでもあると考えていたそうです。でも、明確に分けましょうと提言したんです。

音成:ビジョンという言葉は、日本語に翻訳した際「ありたい姿」とも変換でき、違いが分かりづらい。だから、会社・社会と共有するゴールのことを「ビジョン」ではなく「つくりたい世界」と言ってはどうか、と提案しました。

──その後、社内でなにか変わっていったことはありますか?

秋本:さっき言っていたコールセンターの若手社員は、今の業務の中で、ありたい姿や作りたい世界で判断基準を考えてくれていて。

──それを若手がやってるのはすごい!

秋本:上司から言われるんじゃなくて、自分たちで上司に提言していく。この構造で自走ができるようになったことが素晴らしいなと思います。

音成:参加メンバーとそうでないメンバーにまだまだギャップがあるので、これからもっと浸透させていかなきゃね。

秋本:手元の仕事と大義がつながる絵は描けた。だから、それをちゃんと実行していかなきゃいけないし、日常的につながっている状態をつくらなきゃいけないと。その状態をつくることは、業績にも目を向ける話になるんです。人財部では、そこをしっかり作り込もうと、今まさに現場と一緒にやろうとしています。

音成:私の部署のある社員は、つくりたい世界と製品に紐づけたストーリーをつくって現場と話をしようとしています。それが語れると製品の説得力が増すし、アウトプットの背中を押してくれる。

今回の『私らしく。』(2023年夏号)が神号で(笑)。つくりたい世界のステートメントが出来た頃に企画を立てて、「より​い明日を」というテーマで記事をつくったのですが、アンケートでは3,000件を超えるお声が届きました。再春館製薬所の姿勢や考えに対しての共感の声をいただき、お客様とのつながりがさらに深まったように感じます。

小林:分断されていたブランディングとマーケティングが、だんだんとつながってきたかもしれませんね。

音成:FICCさんのように、会社の考えをしっかり理解をして、ブランディングやマーケティングの支援をいただける会社って、やっぱりなかなかないと思うんです。理解度が高いから、ほぼ“中の人”のような感覚です(笑)。いつもありがとうございます。

熊本県上益城郡益城町にある「再春館ヒルトップ(本社)」にて取材を行いました

※「ブランドホロタイプ®・モデル」は、Coup Marketing Company代表 音部大輔氏が考案したブランドマネジメントの実施の根底となるフレームワークです

インタビュー・執筆:深澤枝里子(FICC) / 撮影:後藤真一郎


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