2022年1月、FICC代表 森啓子より、全社メンバーに向けて新年のスピーチが行われました。
2018年から始まり、5回目となった今回。ここは、世界や日本、会社で起こった一年間の出来事を振り返りながら、今年はどんな一年にしたいのか、どんなことを考えながらこの一年を過ごしてほしいのか、森から全メンバーに向けて語られる場です。
世界的に続いているコロナ禍という未曾有の事態のなかで、「民主主義」「SDGs」「ジェンダー平等」などのキーワードに目を向ける森。 2021年は「日本の現状が顕在化した一年だった」と語ります。
そうして迎えた2022年はどんな年になっていくのでしょうか?取り巻く環境が目まぐるしく変化し、未来が見えないことが前提となったこのコロナ禍。これからの企業やブランドの在り方、そしてその未来に向き合う上で必要な考え方について、メンバーをエンパワーする森のスピーチを紹介します。
対面でも集えた喜び、一人ひとりに合った働き方
2022年は、みんなの意思で参加する場を選択することができる、オンラインとオフラインのハイブリットな環境でスタートしています。今年は、対面で集まる機会も増やしながら、ただ集まることを強制するのではなく、みんなで "自分に合った働き方“ を考えながら選択肢を拡げていける、そんな一年にしていけたらいいなと思っています。
2021年始スピーチの振り返り
昨年は「混乱の中から単純なものを、不和から調和を見出せ。困難の真っ只中にチャンスがあるのだ」という、アインシュタインの言葉を伝えました。コロナ禍の未来が見えないなかでの拠り所として、世界中で引用されていた言葉でした。
そして、もう一つ。世界情勢の改善に取り組む国際機関「世界経済フォーラム(WEF)」が、昨年「グレート・リセット」というテーマを掲げたことです。世界中で、資本主義のシステムが限界を迎えていると叫ばれています。資本主義は、格差があって成り立つ仕組み。新しい仕組みを持って、コロナ禍での経済回復を世界全体で行っていくことが今後のテーマになるということをお話しました。
2021年に起こった出来事やニュース
では、実際に2021年はどんな年だったのでしょうか?
世界中で民主主義が危ぶまれる、さまざまなニュースが飛び交った一年でした。
個人的にも私が衝撃を受けたのは、トランプ前米大統領の支持者による連邦議会議事堂の襲撃事件。選挙で決まった民意を暴力で覆そうとした事件が昨年1月に起きました。暴動がニュースで放映される中、「国のリーダーに倫理観がないことが子どもたちの目にも映った今、子どもたちの心のケアをしながら、どう対話していくべきか……」と、家庭内や教育現場で子どもと向き合う人たちの悩む声が、SNSで数多く投稿されていたことが印象に残っています。
そして、米軍のアフガニスタン撤退により、20年続いていたアフガニスタンの戦争が終わり民主化を放棄。女性の人権問題が危惧されています。今20代の女性は、以前のタリバン政権の時代を生きていないなかで、ある日突然自由を奪われてしまうのです。
2月には、ミャンマーの軍事クーデター。選挙でアウン・サン・スー・チー氏率いるNLD(国民民主連盟)が圧勝していたにも関わらず、軍事クーデターが起きミャンマー国軍が政権を掌握しました。母国の家族を心配する、在日のミャンマーの人たちも支援し続けるなど、いまだに国民が民主主義を取り戻そうと戦い続けています。
香港でも。2019年から続いている香港のデモ。香港で中国共産党を批判してきた大衆紙「アップル・デイリー」が2021年に廃刊に追い込まれ、中国に対してものを言えるメディアが香港内になくなってしまいました。日々、民主主義が脅かされる香港の未来を危惧した多くの人たちが、イギリスなど国外へ移住という選択をしています。
そんな世界情勢が大きく揺れる中、日本では岸田内閣が発足しました。「新しい資本主義」と「成長と分配の好循環」という政策が言われていますね。国家予算の3分の2は私たちからの税金、その他は借金です。高齢化社会が加速するなかで社会保障の予算も増えていき、そのために消費税も上がっていますよね。課題先進国であり借金大国である日本は、これからどうするのか解決法が求められています。
コロナ禍で相対的貧困・格差の拡大がより深刻になっている一方で、家庭の平均貯蓄は増えている。景気回復のためは、お金が使われ、経済がまわっていく必要があるけれど、老後含めて、未来が不安で使われないというのが日本の現状です。
そして今、世界的なコンテナ不足による輸送の遅延と運賃高騰で、物価が高騰しています。スーパーで「お肉の価格が高い」と思った人もいるかもしれません。日本の相対的貧困の問題があるなかで、物価の高騰により生活がより苦しくなっている人たちが多くいます。
そして、FICCでもリモートワークを継続していましたが、日本全体でリモートワークが続くなか「メンタルケア」が重要なテーマとなっています。約6割の人がコロナ禍でメンタル不調に陥っているという調査データもありました。
2021年はより良い社会や経済に繋がる一年だったか?
ワクチンが普及し、日本においては2021年末に向けて感染者数が減少。家族や友人など、リアルで会う人も増えてきています。混乱と、アフターコロナに向けた希望と不安が残る2021年。
より良い社会、より良い経済のあり方に繋がる1年だったのでしょうか?
2021年の出来事を振り返ってみて思うことは、「日本の現状が顕在化した一年」だったのではないでしょうか。
オリンピックでの、森元会長の女性蔑視発言問題が海外メディアに大きく取り上げられましたね。また、今回のオリンピックでは、フードロスを減らす計画がされていたにもかかわらず、約30万食が廃棄されていました。ここで問題になっているのは見積もりの甘さ。開会式で用意された弁当の4割が廃棄され、フードロスへの意識や見積もりの甘さが世界からも指摘されています。
そして、COP26では、日本が2年連続で化石賞を受賞しました。石炭火力から排出されるCO2を減らす「アジア・エネルギー・トランジッション・イニシアティブ」を言及し、全世界で「脱炭素」に取り組まなければならないなかで、日本は脱炭素ではなく、石炭火力を延命し、アジアにも展開する姿勢を批判されました。
日本におけるSDGsの課題は いまだ残っている状態です。38ヶ国の先進国のなかで、「ジェンダー平等」が課題だと言われているのは、日本・韓国・トルコの3ヶ国しかありません。日本の政治家の女性比率は大変低く、民主主義のレベルも低いと言われています。そもそも、日本は選挙の投票率が低すぎます。では、なぜ投票に行かないのかと考えたときに「投票に行ったところで何も変わらない」とみんなが思っているからなのではないか。
2021年の衆議院選挙の期間に、下着ブランドの『Nagi』が注目する衆院選の争点として、選択的夫婦別姓、同性婚、女性活躍支援などを分かりやすくデータと共に説明し、選挙について対話することの大切さを訴求していました。本当に素晴らしいキャンペーンだと思って見ていました。参考:Nagiの選挙割
写真: Sustainable Development Report 2021
2022年はどんな年になっていくのか? 私たちFICCがブランドマーケティングで貢献できることとは?
2020年のコロナ禍1年目は、生活者の「自己便益」が高まっているというデータが、FICCの自主調査からも出ていました。この年末年始、久しぶりに年末年始に帰省したり、親しい人と再会した人もいると思うけれど、2022年は生活者の中での「関係便益」が戻ってくる年になるのではないかと思っています。これからデジタルやDXの進化は加速していきながらも、オフラインでの体験価値も求められる社会になっていくでしょう。
生活者のベネフィット(便益)を大切に、これまで見てきたような社会課題の解決につながる、価値を創造していけるのか。昨年にFICCで講演いただいた岩渕先生も仰っていたように、今の日本はボトムアップで社会の構造にまで捉え働きかけるような取り組みが必要です。社会学・文化研究者の岩渕氏をお招きした、多様性を学ぶ講演会はこちらから。
では、どうやってFICCが「ブランドマーケティング」で貢献できるのでしょうか?
関係便益を中心とした生活者のジョブ(潜在ニーズ)を捉えながら、その体験価値の先にあるものが、社会課題の解決にどう繋がるかまで見据えることが大切です。そして、「何か大きなことをやらなければ」と思い過ぎるのではなく、「なにか自分たちにできることがあるんじゃないか?」と生活者が気づき自ら行動を起こす…… そのなかで、長期的な視点を持った活動をクライアントやパートナーと共に実現していくことが大切だと思います。
投票率が80%を超える北欧の国々では、街のいろいろな場所にブースが現れて、みんなで社会や政治について話しあうことができる場があったり、デンマークでは家庭でも日々カジュアルに対話がなされているという話を聞きます。ブランドが、なにか「答え」を出すのではなく、「自分たちにとって理想の社会ってなんだろう?」と、みんなをエンゲージしながら、身近な意見をテーブルに挙げたり対話をすることができる、そんな体験が大切なのではないでしょうか。
今不足しているのは「心を動かすストーリー」と「未来を描く力」
昨年から、学習指導要領にESD教育「持続可能な開発のための教育」の理念が盛り込まれ、SDGsを前提とした教育がスタートしています。日本のSDGsの認知率は63%、内容も知っている人は34%と、2年前と比べると4倍にまで上昇しています。
毎年政府が出しているSDGsアクションプランに目を通していて明確だったのは、国際社会で日本が遅れをとる「ジェンダー平等」へのアクションが多いこと。でも率直に思ったことは、単純にやることの一覧で、どんな未来を描いて、なにを目指しているか全く伝わらないことでした。「こんな未来にしていこう」というストーリーが存在していないのです。
そして国だけではなく、企業においてもそれは同じです。BCG(ボストンコンサルティンググループ)の著書では、2022年に企業が4つのパラダイムシフトに直面すると伝えています。
FICCでも数年前から向き合ってきたことです。企業の目標が、財務的な利益から社会的な利益の追求へ変わっていくこと。また、先を読む経営から先を読めないことを前提とした経営に変わっていくこと。企業が決めたことを実現する組織から付加価値を追求する組織へ変化すること。そして、企業に即した人材マネジメントから変化に対応する人材マネジメントへ変化すること。これは私たちが価値提供において向き合うクライアントも同様です。参考書籍『BCGが読む経営の論点 2022』
未来が見えないことを前提とし、変化していくことに付加価値を見出すことがブランド側にも求められる時代。だからこそFICCは、「このブランドはなんのために存在しているか?」の存在意義と未来を描き、「どのように向かっていくか」を共に考えることができる存在でなければなりません。その未来を描く力と、その未来が信じられるものであると心を動かすストーリーテリングが大切なのです。
一人ひとりの「FIND A BETTER WAY」
私を含め、FICCの一人ひとりが、自分たちがクライアントへ提供できる価値に向き合ってもらいたいと思います。
ブリーフされたロジックのなかで、やることが中心の提案になっていないか? 「そのブランドとFICCだからその未来を信じて実現したい」と思うような提案や価値を生み出せているか? 社会価値と経済価値が両立された未来を想像することができる表現ができているか?
もう一つ、「自分たちの想像を超えた価値が生まれているか」ということも大切です。自分たちの想像を超えるものが、クライアントや生活者の中で生まれているか? 自分たちが生み出している価値をきちんと見つけられているか?
なにか問題があると、人はついそこに目がいってしまいますよね。でも、FICCが大切にする「創造性」の考えは、本当に大切にすべきものを存続することです。そこで生まれた素晴らしいものを見過ごさず、自分たちが気づくことができる。これは、未来を創造していくうえで、とても大切なことです。
FICCには、みんなが創造したたくさんの素晴らしい資源があります。社内のクロスシンクから生まれたイノベーションの種や、組織・業界の枠を超えたクロスシンクで生まれたビジョンを推進する協業プロダクトやサービス、そしてビジョンを推進する知識資源。
しかし、その資源だけを語るのではなく、語るべきはそれら資源の先にある、ブランドや生活者との世界・未来です。
FICCが大切にする「FIND A BETTER WAY(まだ見ぬ未来の価値のために)」の精神で、メンバー一人ひとりの創造するものが、その先にある世界や未来までをも表現できる姿を目指し、関わる人たちを未来へと導いていきましょう。
2021年の自分をしっかり褒めて、2022年への想いを対話する
コロナ禍で人と話す機会が減ったことで、「自分がやっていることが本当に正しいのか、意義があるのか……」と見えなくなることもあるかと思います。まずは、自分をしっかり褒めてください。どんなことでも、2021年に自分が行ったことを見つめてみてください。
そして、そこで終わることなく、「2022年は、もっとこんな価値を生み出していきたい」と、未来への想いに繋げていきましょう。自己完結するのではなく、互いに伝え対話することで新しい気付きを得たり、またその想いがより強いものになっていくでしょう。そして、一人ひとりが自分で自分の未来を示し、その未来を信じられる存在になっていくことができる。そんな素晴らしい一年にしていきたいと思います。
2022年、自分たちの価値を信じる一年へ
最後に伝えたいことは、自分たちの価値を信じること。
行動する前に立ち止まり、環境を整えることはもちろん大切です。ですが、今の時代整えている時間の中でも、刻々と状況が変化していくことを忘れてはいけません。
「整えること」「自分や互いを信じて勇気を持って試してみる」、この2つをしっかりとみんなで大切にしていきたい。だからこそ、まだ実現されていないことであっても、その可能性を共に描き示し合う創造力と対話を大切にしましょう。
そして、どんなに小さなことでも、そのなかで生まれている素晴らしい価値を見逃さないこと。そのためにも、自分たちが創造する価値を信じることが何よりも大切です。
2022年が、自分たちの価値を信じビジョンを推進し続ける、素晴らしい一年になるように。