栃木の田舎からアメリカへ
はじめまして。私は、主に小学生高学年から高校生を対象とした英語塾エベレストを運営しています。
英語塾を始める前は語学教育に携わる外資系企業に勤めていて、
その前にも何社か外資系企業を渡り歩いてきました。出身は栃木県の那須塩原です。
親や先生の意向に沿う形で勉強に励んできましたが、
高校2年生の後半に突如として将来の進路を自分の意思で決めるという難題を突きつけられました。
当時の私は、これまで何となく周りを見渡して、言われるがままに皆が通る道を進んできただけ。
世の中にはどんな職業があって、どういう生き方があるのか。
また、どんな大人がいて自分はどうありたいのか。自分の生き方を問われたことなどなく、
まともに考えたことすらありませんでした。
大学への進学を前提としても、将来に大きく関わる学部を決めなければなりません。
一度学部に入ればその後の進路に大きな影響を与え、変更は容易ではありません。
深く考えずに有名大学、有名企業という他者から幸福と見られる道もありましたが、
それは魅力的には思えず、もっと大きな世界でもっと広く自分の道を考えたいと、
最終的にアメリカに渡るという決断をしました。
親に作文を5回提出して渡米の許可をもらい、当時留学にはTOEFLのスコアが550点必要だったため、
四六時中、英語に時間を費やしました。
栃木の田舎から350人の学年の中でアメリカに渡ったのは私だけでした。
学校の成績と語学の能力は一致しない
テキサス大学アーリントン校という州立大学に入学したのですが、英語が苦手だった私は1年間
大学附属の語学学校に通っていました。同じ語学学校に日本人の学生がいました。
彼女は不良だらけの高校出身で、偏差値50以下、英語はいつも30点と語学は苦手と豪語していました。
しかし、学校がスタートすると不思議なことに彼女の英語力はみるみる伸びていき、
同時期に入学した学生よりも先に語学学校を卒業していきました。
彼女は日本の教科としての英語はできなかったのですが、ルームメートのことをもっと知りたい、
自分のを伝えたいという想い(目的)が明確でした。
毎日、昼夜問わず積極的にルームメートとコミュニケーションを取り、ルームメートは発言したことを、
メモに取り自分でも何度も繰り返し話してみる。そんな風にして誰よりも英語を使っていたのです。
日本の学校教育における彼女の評価とアメリカでの彼女の英語力の伸びは真逆でした。
学校の成績と個人の能力を同一視してしまいがちな社会から離れ、人の能力は多様で可能性に満ち溢れ、
正しい学び方をすれば、不得意は大得意にもなり得ることを思い知らされた良いきっかけになりました。
「ここに座っていいですか?」
一方、私はというと、日本で散々英語を勉強してきたにもかかわず、実際に海外の人を目の前にすると、
一言も言葉が出てきませんでした。アメリカ生活が始まってすぐのこと。
お昼過ぎの大学のカフェテリアで、清掃員のおじさんが一人で休んでいました。
私はどうにか誰かに話し掛けなければ、絶対に英語力が伸びないと焦っていて、
このおじさんに話し掛けることに決めました。
ただ、そこで自分の英語力の無さに改めて驚嘆するのです。
「なんて声を掛けたらいいんだ?」。
あれだけ勉強してきたのに一言が出てきません。
恥ずかしい話ですが、初回は失敗。何もできずに一人で食事を取って終わりました。
次の日、またあのおじさんが同じ場所に座っています。僕は、右手に食事のトレーを持って、
左手に「とっさのひとこと辞典」というフレーズ集を握って、話し掛けに行きました。
昨夜練習したフレーズを言ってみようと近づいたところで頭が真っ白に。
苦笑いをしつつ、急いで本をめくって恐る恐る一言棒読み。
「May I sit here?(ここに座っていいですか?)」。
これが初めてアメリカ人に話し掛けた一言でした。
彼はこちらを気にすることなく、どうぞと言ってくれたのですが、
どっと汗が噴き出しました。この日はこの一言で燃え尽き、
翌日は「What is your favorite past time?(あなたの趣味は何?)」と、
また本に書いてある文章を読みました。会話というには程遠かったと思います。
それでも一つ一つ自分が使える表現を増やしていきました。
休んでいるおじさんからすれば、迷惑な話ですが、この毎日の積み重ねを通じて、
話せないのは話してないからで、話せば話せるようになるという単純な事実を実感しました。
英語は教科や座学ではなく、コミュニケーションツールであり、
トレーニングなんだということを思い知ったのです。
世界から取り残される日本の学校教育
大学卒業後、日本に帰国し、外資系企業に計10年以上在籍しました。
ビジネスの場面で必要となる英語力やクリティカルシンキング(論理的思考)の重要性を認識していく中、
自分が受けてきた教育を振り返り、自分にどこまで役に立っているのか、
投資した時間がもったいなかったかもしれないと思うようになりました。
それは学んだことが実社会においてはほとんど活かされていなかったためでした。
そして、現場を調べれば調べるほど、日本の語学教育の遅れと
実社会とのズレに危機感を抱くようになりました。
その諸悪の根源には、受験勉強にあると考えています。東京の有名私立校の宿題や内容を見て驚きます。
1日3時間かけないと終わらない作業としての宿題をこなし、
定期的にやってくるテストのために指定範囲をやみくもに覚えさせられるという状況があります。
生徒はこう言います。「とりあえず、今はやるしかないんで。」
そこには、彼らが様々な分野を試したり、自分の人生についてゆっくりと考える時間などありません。
一人一人の個人が自らの可能性を最大化し、心の底から没頭できるものを見つけ、
そこを探求していくことの大切さが軽視されていることにあると思います。
詰込み型の学力でのみ生徒を評価している日本の受験教育そのものが、
生徒の可能性を狭めていると感じています。
8つの知性と8つのライフスキル
一方、インドインターナショナルのカリキュラムを見ると、知性というものを8つのカテゴリーに分けています。(1.Visual/spatial intelligence, 2. Verbal/Linguisti intelligence, 3. Musical/Rhythmic Intelligence, 4. Interpersonal intelligence, 5.Logical/Mathematical intelligence, 6. Bodily/Kinesthetic intelligence, 7. Interpersonal intelligence, 8. Naturalist intelligence) それらの知性を複合的に学んでいけるような構成でカリキュラムが組まれています。
単なるアカデミックなもので終わらずに、リーダーシップ、問題解決能力、社会や他者とのつながり、
意思決定、キャリアデザイン、プログラミングやファイナンスのことまで、
社会で生き抜くための学びがありました。
そして、生き抜く上で必要なスキルをライフスキルと呼び、学業内外を通じて、
生徒の可能性を伸ばす取り組みをしています。
このような背景から、英語塾エベレストでは受験英語ではなく、
生徒一人一人の可能性を最大化することを念頭に、
実社会で通用する英語を身に付けることを目的として、コミュニケーションを前提とした
実践的なプログラムを展開していっています。
初めてのお使い海外版
取り組みの一つとして、昨年夏、中学生の生徒を海外へ連れて行き、
UBCというカナダで三本指に入る大学のサマーキャンプに参加しました。
日本を含む海外10カ国から生徒が集い、寮での共同生活やアクティビティを通じて共に学ぶのです。
私も同行しましたが、飛行機に乗ってからは距離を置き、サポートは最小限、
すべて自分でチャレンジして欲しい旨を伝えておきました。
初めてのお使い海外版といったところでしょうか。
見ていて嬉しかったのは、生徒が貪欲にチャレンジしていたことです。
例えば、飛行機の中で入国審査用の紙が渡されます。知らない単語がたくさんありましたが、
辞書で調べて内容を理解し、空港に着けば、どこから荷物が出てくるかわからず、
すかさず空港関係者に話し掛け確認していました。
何よりの収穫は、英語を話す同年代の友達がたくさんできたことです。
寮での生活で徐々に話し始め、最後別れる時には、
短期間にも関わらず悲しくてみんなで涙を流していました。
仲良くなったブラジルの子と「次はお互い、いつ会えるのかな?10年後?」と
冗談交じりで話していました。
生徒同士の関係ができ、英語を間違えながらも相手に伝えること、
相手を理解したくて一生懸命コミュニケーションを図ること、
相手も完璧でない英語を話すことから、
恥ずかしがらずに英語をどんどん試せたことなどが特に良かった点です。
帰国時に「学校で学ぶ英語と比べてどうだった?」と聞いたら、
真剣な面持ちで「学校のレベルで留まっていたら駄目なんだ」と強く訴えかけていたことから、
世界のレベル感を実感したのだと思います。
新しくできた友達と連絡先を交換していて、帰国後も英語でやり取りしているようです。
英語を学ぶ目的は、相手と通じ合うことなんだということを体感できたことは、
大きな財産になったに違いありません。
各国生徒の学び方
今回改めて驚かされたのは、他国の生徒の英語力です。私が連れて行った生徒は有名私立に通う、
非常に優秀な生徒でした。学校での成績は常に上位。
しかし、そんな生徒が気後れするくらい他国の生徒のレベルは高かったのです。
学習方法をインタビューしてみましたので、最後にご紹介します。
〇歌が好きで、YouTubeで英語の歌をひたすら聞いて歌う。意味を調べて書いてあることを理解する。(ブラジル高校1年生)
〇英語のドラマを見て、言いたいフレーズをピックアップしてノートに取る。状況がドラマで分かるので、どう使うかを想定し、自分で何度も真似して発音練習をする。学校は文法中心で特別なことはしていない。(メキシコ人中学生)
〇親の強制で1日3時間英語だけのレッスンに毎日3年通わされた。きつかったが今思うとよかったと思う。学校は大したことをやっていない。(ウクライナ人中学3年生)
〇学校の英語レッスンがひどくて、自分で学習するしかないなと独学で英語を学び始めた。YouTubeで英語ドラマをみて、漫画が大好きで英語に翻訳されている漫画をひたすら読んだ。(クウェート人中学3年生)
学校教育が酷いことが逆に発奮材料になっていて、独学で勉強している子が多く、
インターネットや漫画を多用して、好きなことから吸収し、好きだからどんどん吸収する。
高校生はほぼネイティブのレベル感でした。こんな子達が世界中にいるのです。
是非、富士山ではなくエベレストに向かって欲しいと思います。