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VRはなぜ生まれたのか、そしてどこに行き着くのか 前篇

VRが普及するかどうかというのは、世間では散々に議論されているお題ですが、いま目の前にあるものだけをみて「あんな高いものが普及するはずがない」とか、「こんなごついデバイスが家庭におかれているイメージがつかない」あるいは「ゲーム用としてはクオリティが高いからコアゲーマーから普及するはずだ」という話をしていることが多いように感じられます。

果たして、VRが家庭に置かれたり、コアゲーマー以外のユーザーにリーチしたり、一般的に普及することは難しいのでしょうか。

そこで今回は、VRを「流れ」として捉えることで、今後どうなっていくのかを考えてみます。ということで、まずは過去に遡り、VRの起源から見てみましょう。

VRの起源

VRというテクノロジーの起源は1960年代に遡ります。アイバン・サザランドという研究者がコンピュータ・グラフィックス(CG)の概念を確立させたことが始まりでした。それまでデータ計算などを行うものでしかなかったコンピュータを使って絵を描くことを考え、研究したのです。

そのため彼は「コンピュータ・グラフィックスの父」と呼ばれているのですが、さらにそのCGの考え方を発展させて、コンピュータによって三次元空間を創出し、そこに人間が入り込んでリアルタイムにコンピュータを動かすというアイデアを考えます。その実現のために準備した装置が、昨今の「HMD(ヘッドマウンティドディスプレイ)」の礎となったことから、サザランドは「VRの祖」とも呼ばれています。

そして、彼の弟子であるアラン・ケイは、現在のコンピュータ操作手法のスタンダードとなっており、初期のマッキントッシュなどに使われたGUI(グラフィックユーザーインターフェースの略。アイコンのクリックなど、ユーザが画面上で視覚的に捉えて行動を指定できるもの)の設計思想を生み出しました。

当時はまだ技術が追いついていなかったこともあり、その後VRは下火になりますが、1980年代以降も継続的に研究は続けられ、今日の商業的なVRデバイスの発売にまで至ります。

それでは、なぜサザランドはこのようなVRの元となるものを開発したのでしょうか。また、今あるVRが完成形ではなく途上のものであるとするならば、今後VRはどこに向かって進化していくのでしょうか。

テクノロジーの性質

この問に答えるにあたって、まずはテクノロジーの性質について考えてみましょう。

未来に先回りする思考法」によると、

「(VRを含む)全てのテクノロジーは、何かの必要性を満たすために生まれてくる」

とのこと。そして、

「よりその必要性を効率的に満たすように進化」

していきます。

同じ必要性を満たすのに、より効率的、より便利なものがあればそちらを選ぶのは当たり前ですよね。

また、「テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?」において、著者のケヴィン・リーは、

「テクノロジーは人間の拡張である」

と言っています。

例えば石器は、それまで人間の手でやっていたことを効率よくするために、人間によって創られたものであるので、「手を拡張した」ものであると捉えることが出来ます。蒸気機関車も、それらがなければ徒歩で移動しなければいけなかったことを考えると、人間の「足を拡張した」ものであると考えることが出来ます。眼鏡やコンタクトレンズは眼の拡張、インターネットは脳(知性)の拡張ですね。このように、テクノロジーは人間を拡張していく性質をもちます。

さらに「テクノロジーとイノベーション」において、ブライアン・アーサーは

テクノロジーにおいては、組み合わせによる進化は主流となっており、定常的に行われている

と述べています。これは液晶や電子回路とインターネットが組み合わさってパーソナルコンピューターが登場するなど、それぞれのテクノロジーが相互作用することで起こる進化を指します。

これらを整理すると、テクノロジーは「何かの必要性を満たすために生まれ、人間(が持つ機能)を拡張し、さらにテクノロジー同士が組み合わさることによって進化する」性質を持つと考えることが出来ます。

VRはなぜ生まれたのか

ここで最初の質問に戻り、「VRはなぜ生まれたのか」を考えてみましょう。

上記より、(テクノロジーである)VRも、何かの必要性を満たすために生まれたと考えられます。

サザランドやその後の研究を考えると、当時は「コンピュータを操作するための手法」としての必要性から生まれたと考えられます。

1980年代にはNASAの研究者であるスコット・フィッシャーが、持ち込めるものに制限のある宇宙においてバーチャルな空間を作り、書斎やコックピットなどをバーチャルによって再現する「バーチャル・エンバイロンメント・ワークステーション」を考え出しました。

これらはまさしく、「空間型のコンピュータ・インターフェース」の発想にほかなりません。

これは「人間が生活しているのは三次元空間なので、人間にとっては三次元空間が最も記憶しやすく操作もしやすい、したがってコンピュータも三次元空間を利用して行うべきだ」という考えに基づいていました。

しかし、コンピュータを操作する手法としてVRが普及するには、技術的に未熟でした。そして、その必要性を当時の技術力で満たすGUIが生まれ、そもそもの必要性は満たされてしまいました。

その後も研究は続けられ、任天堂のバーチャルボーイなど商品化までこぎつけたものもありましたが、技術的な進歩が追いつかず、普及するに至りませんでした。

ところが2010年代に入り、Oculusの創業者であるパーマ・ラッキーが、Oculus Riftのプロトタイプを開発し、その後サムスンやHTCなどもVRデバイスを開発しました。

もちろん専門家による研究自体はずっと続けられており、液晶ディスプレイやインターネットなどの技術の進化によって実現が可能になったという側面もあります。しかし、わずか数年の間にほぼ同時に複数のデバイスが登場するなど、VRが三度表舞台に姿を表したのは、そこにVRによって満たすべき、あるいはより効率的に満たすことができる何らかの必要性が存在するためだと考えられます。

では、その必要性とは一体何でしょうか。

それは、私は現時点では、「情報の伝達」、そして、当初VRが生まれた理由でもある「コンピュータを操作するための手法」の必要性だと考えています。

まずは「情報の伝達」の必要性について考えてみます。

大昔、元々は口頭でのやりとりのみだった情報の伝達が、文字の発明によって人間と切り離して情報を扱えるようになりました。その後、印刷技術の登場によって一気に情報が拡散され、ラジオ、テレビと情報を伝達する効率性を高めてきました。

文字や音声のみより有声映像のほうが、視覚情報も付加されるためより情報量が増え、効率的に情報を伝えることができるといえます。そしてパソコンやスマートフォンがインターネットと融合することで爆発的に情報伝達のコストが下がり、スピードが上がりました。より多くの情報をより広く伝達できるインターネット動画が主流となってきているのも非常に自然です。

そして既存の映像に加えて、全方位や奥行きの情報を付加することができ、より多くの情報の伝達が可能となるVRは、情報伝達の必要性をより効率的に満たすことができるテクノロジーとしてこの流れの先頭に加わってくるという予想ができます。

たとえばSNSでは、友達と情報を共有するにあたって、文字や画像、動画のみの情報共有より、VRによって実際の体験そのものを友達に共有できるほうが、より臨場感や感情など「体験そのもの」を伝えることができます。FacebookがOculusを買収し、VRに力を入れる理由も説明ができます。

そして、「コンピュータを操作するための手法」についてですが、現時点でもコンピュータによる三次元の利用というのが技術的にコストが高く、一部の特殊利用を除いて、パソコンなどのように生活に馴染む形で普段から使われることはありません。

しかし、テクノロジーの進化が進み、三次元での利用コストが大きく低下してくるとどうでしょうか?

上記でも述べましたが、「人間が生活しているのは三次元空間なので、人間にとっては三次元空間が最も記憶しやすく操作もしやすい。したがってコンピュータも三次元空間を利用して行うべきだ」という考え方はその通りだと思っていて、「コンピュータを操作するための手法」としてより効率的な手法であることは間違いありません。1980年代のスコット・フィッシャーの時代には一般的に普及するにはコストが高すぎましたが、私は企業などのビジネスシーンにおいて、「空間型のコンピュータ・インターフェース」を利用してコンピュータを操作する未来はそう遠くないと考えています。

さいごに

今回は、「VRが普及するかどうか」という命題に対して、VRの過去にさかのぼり、VRがなぜうまれ、なぜ再度登場してきたのかをテクノロジーの性質の観点から考察することによってVRが普及する大きな流れを導きました。

VRが今後どのような形に進化して普及していくかは、文中で述べた「人間(が持つ機能)を拡張し、さらにテクノロジー同士が組み合わさることによって進化する」という性質に沿って考えていくとVRのおおよその完成形はイメージできるはずです。それについてはまた次回に考察してみることとします。

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