弊社では4月にコーポレートコミュニケーション / デザインの全面リニューアルを行いました。
以前から、弊社が「何をしている企業なのかよく分からない」「アプリで治療ってどういうこと?何が良いのか?」といった質問を頂くことがありました。
私たちが目指している「テクノロジーで生み出す新しい医療」の姿と、実現するための取り組みを多くの方にご理解頂くべく、ロゴ・コーポレートサイト・プレゼンテーション資料・名刺に至るまで、デザイナーとディスカッションしながら刷新していきました。
今回は、その過程をリードして頂いたデザイナーの斉藤さんに、その経緯や苦労した点をうかがいました。
リニューアルの経緯は?どういったことを考えて取り組みましたか?:経営陣の想いを汲む
デザインする上でまず当たり前のことですが、要求されていること、課題・問題となっている点を明確にしなくてはなりません。
キュア・アップでは、「アプリで治療を行う」「アプリ自体が医薬品と同じように治療効果を創出する」という、日本だけでなく世界でも「未来の医療」を先んじて開拓しています。
にも関わらず、対外的にそれを伝えられていないのはどうにかならないか、というのが話のはじまりでした。たとえば名刺ひとつにしても、コーポレートサイトにしても、最先端のテクノロジーを医療に根ざした形で実装している、という実態とはちょっとズレている...と。
もちろん刷新といっても、表現の方向性は多々あります。何を、どういうデザインで伝えていきたいのかは、しっかりと理解しなくてはいけません。ここは経営陣の想いであったり、会社としてこんなイメージを持ってもらいたい、こんな世界を届けたい、という要素に沿っていることが大切です。そのため、最初はもちろん、途中にも案を出しては何度も話し合いました。
このフェーズは正直、どこまで突っ込んで聞いていいものか躊躇することもありましたが、目指したい方向性について正面から話し合い、資料や他社事例を用意してもらって早めに擦り合わせることができたので、その後もスムーズに進めることができたと思います
この過程を経て重要な要素を明確にした後、出来るだけ短いキーワードにまとめて経営陣と共有し、自分が一番目立つところにメモしておきます。
具体的なキーワードはここでは差し控えますが、
・「アカデミックな知見の蓄積を大切にする」
・「いのちを支えるテクノロジー」
という佐竹さん(弊社CEO)の言葉は印象的でした。先人たちの知恵や苦労が詰まった学術的な蓄積に基づき、さらに最先端のテクノロジーを掛け合わせることで新たな治療アプローチを創出する。それは、医学的に根拠のない・医療の質を落とすような安価なヘルスケアサービスは提供しない、という決意でもあり、その想いをデザインに反映しなくてはならないーー というコンセプトが固まりました。ようやくデザイナーとしての本職のはじまりです。
どのように表現しましたか?気をつけた点は?
目指したいデザインが決まったら、実際に具現化する作業に入ります。今回の大きな山は、キュア・アップという企業を初めて見る方がまず目にするであろう、ロゴとコーポレートサイトのデザインでした。
・ブランドロゴ
いままで何度かロゴデザインの仕事はありましたが、アプリやWebサービスがほとんどで、企業ブランドのロゴを作るのは今回は初めてでした。ブランドロゴというのはそれこそ会社の「顔」なわけですから、結構なプレッシャーを感じたのを覚えています。
とはいえ、進め方としては基本に忠実に。要件を明確にして、求めらているものは何かを深く理解し、具現化していきます。何度か打ち合わせを行って明確になった要素をつき詰めた結果、先述のキーワードに加えて、今回のロゴのデザインとしてこういった形であるべきと考えました。
− 伝えたいことを明確に伝えられる、シンプルなものである
− 先進的な印象がある
− 医療に携わる方であれば誰しも分かるような、シンボリックな「医療」のモチーフがある
上2つは後述しますが、最後の「医療であることが分かるモチーフ」。ここが思いのほか悩みました。
医療機器のモチーフはもちろんたくさんあります(聴診器とか注射器とか)。しかし、どれもたくさんある医療行為のどこか一点で限定的に用いるものが多く、「医療」のシンボルとしてはいま一つ広がりに欠けました。そのため、今見えている医療から、もう少し時間軸も世界観も広げる必要があると思いました。
色々調べていくうちに、最もしっくりきたのが「アスクレピオスの杖」でした。これはギリシア神話に登場するアスクレピオスという名医が持っていた蛇(クスシヘビ)の巻きついた杖のことで、医療・医術の象徴として用いられているシンボルマークです。世界的にも知られているし、WHOなどもこのシンボルマークを用いています。また、医師の方に聞くと教科書などにも載っていて、懐かしさも感じると。そこで、これは「医療」のシンボルとして力があるんじゃないかと思いました。
ただ、このモチーフをそのままブランドロゴとして使うわけにはいきません。ここからさらに「シンプル」に研ぎ澄ましていくことと、テクノロジーの「先進的」なイメージを持たせる必要があります。これは思い浮かぶ画をとにかくスケッチして、最適解を探っていきました。
いろいろ描いて試行錯誤を行い、少しずつ確信に近いものが出来上がっていきました。
最初に提案したのが①でした。アスクレピオスの杖というモチーフと、そのロゴへの変換の方向性は好評でしたが、若干アナログっぽさがあり、もっと先進的なイメージを持たせたい、というフィードバック。
それを踏まえて、①よりさらにソリッドな印象を持たせて、未来感を強くしたものが②です。実はこれも良いという声がありましたが「杖感(杖だとすぐ分かる見た目の感じという意味だそうです)が弱いかも?」という声もありました。
そこで、棒を上下に伸ばして、下に行くほど細くなった③のデザインを提案して、決まりました。
こうしてできたシンボルマークに、新たにOpenSanフォントをベースにデザインした"CureApp"を組み合わせて、新しいキュア・アップのロゴが出来上がりました。
・コーポレートサイト
整理した要素をしっかりとデザインに落とし込んで行くのですが、この会社の事業特有の、気をつけなければならない点が幾つもありました。
医療という世界において、何より信頼感は大切です。白衣から連想されるような清潔な印象も持たせなくてはいけませんので、全体のトーンは白をベースに、加えて信頼や安心を感じさせる碧色(濃い青緑色)をメインカラーでまとめました。
また、シンプルに、ということも意識してとにかく不要な要素は限界まで削ぎ落とし、見せたいものだけにフォーカスを当てて際立たせていくという工夫も行っています。
こういった制作の段階ではアンチパターンを頭の片隅に入れておくと、作りたいものがより明確になります。伝えたい要素と逆のイメージやキーワードも考えながら、そういったデザインにならないよう気をつけながら作業を進めていきました。
特に難しかったのは、医療業界というトラディショナルな、ある意味で保守的な部分が多い業界において「テクノロジー」と「先進性」を全面に出していくということで、その整合や調和を成立させるという点でした。この二つはいわば相反していると考える方が普通ですから、両立させるのはどうにも厄介です。
とはいえ、そこは先入観や偏見の目を捨てて、うまく落とし所を探っていくしかありません。こんなときはひとまず「医療」という垣根も「国内」という垣根もとっぱらって、他業種や世界のデザイナーの作品などを参考にすることで、より多角的な知見が得られると思います。今はPinterestやDribbbleなどで簡単にそういった作品を見ることができます。特にDribbbleはいわば世界中のデザイナーの作品お披露目会場みたいな所です。僕もほぼ毎日2,3回は見ています。
今後デザイナーとしての目標は?
もともとアプリのUIデザインのお手伝いをするということでキュア・アップにジョインしたのですが、気がついたらブランド全体のデザインをやっていて(笑)、個人的には非常に貴重な経験をさせてもらうことができました。今後もレイヤーを越えて色々な領域でデザインに携わっていきたいですね。
そういった中で、様々な方々ーーアプリを利用している患者さんであったり、企業であったり、はたまた社内で働いているメンバーや、入社を検討されている方に「キュア・アップのデザインいいね!」と言われるような仕事を目指していきたいと思っています