日本マクドナルドの業績はV字回復中である。これまで同社では、藤田氏、原田氏、カサノバ氏と歴代3人のトップを迎えてきた。それぞれが経営のプロであり、顧客視点のマーケティング志向に関しては共通していたが、経営スタイルには違いがあったように見える。
藤田氏は孫正義氏が師と仰いだほどの経営手腕を持ち、彼の就任時は、経済成長と食文化の欧米化が進むファーストフードチェーンには追い風の時代でもあった。藤田氏個人の好物はうどんであり、ハンバーガーは商品として割り切ってビジネス展開をしていたという。自身が情熱を感じない商品でも事業を成功させる点では、生粋の「商人」だったといえよう。
1971 年銀座 当時は「マクドナルドください」と注文する人が多かったという
そうした時代の流れが追い風から向かい風に変化する中で後を継いだ原田氏は、当然のことながら難しい舵取りを余儀なくされた。業績悪化の引き金として記憶に残っているのは、中国からの鶏肉調達問題だったが、それ以前から客離れや客層の変化は起こっていたのだ。それらの状況の対応の前後の足跡で、全体合理性起点にするアプローチの原田氏は典型的な「MBA型リーダー」とい言えそうだ。デフレ市場では会社が縮小均衡に向かいやすく、トップダウンの中央集権は現場の離散を招きやすい。
それに対し、女性経営者であるカサノバ氏のスタイルはよりボトムアップ的で、時代流れを汲み、方向性を指し示す良い意味での「風見鶏型」と言えよう。あるフランチャイズ・オーナーは、原田氏とカサノバ氏の違いに、現場への経営の方向性掲示の有無を挙げている。顧客や社員、パートナーなどの声に耳を傾けると共に、会社の戦略・方針を組織全体に伝えていくのである。氏は、全国の店舗を廻り、客だけでなく従業員とも会話して現場の声を掬い取る。そうした姿勢が信頼を呼ぶのかもしれない。
カサノバ氏はさらに、女性たちや母親目線を重視しているように見える。家族の財布と胃袋を掴んでいるだけでなく、口コミ発信源にもなる、そうした層を重視する賢さも貢献しているようだ。特に女性からの意見では、店舗の衛生面や整理整頓の指摘も多いようだ。環境整備が行き届いた店舗は顧客から評価されるだけでなく、そこで働く人達のモチベーションにもプラスになる。V字回復中とは言え、売上はまだピーク時までには回復していない。未だデフレが払拭されない成熟市場で、今後もカサノバ氏は注目される。
時代の流れ、風の向き、市場や企業に関わる人、すべては常に変化していく。日本マクドナルドの歴代トップによる経営変革にはダイバーシティ時代の生き残りのヒントが見えてくる。