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前回の記事では、サンクコストバイアスに気づくことの重要性を説明する為に一つの例を上げました。
簡単に要約すると、20年を見込んでいたプロジェクトでも5年目で成功しないと分かったら5年でやめるべきだよ。最初の5年間で投資したリソースはサンクコストなので、早く損失計上して、それ以上損失が膨らまないようにすべきだよ。もったいない、と思わずにサクッと気持ちを切り替えて他の有望なプロジェクトに切り替えるべきだよということでした。
このケースには一つ重大な仮定が含まれています。それは「開始5年目で、このプロジェクトが成功しないと分かる」という仮定です。
しかし、開始5年目で、「このプロジェクトは100%失敗すると分かる」という状況はよくあるケースなのでしょうか?おそらくあまりないのではないのでしょうか?
それよりも、
「このプロジェクトは開始時(5年前)より少し雲行きが怪しくなってきている。5年前は成功確率70%と思って始めたけど、今はもしかしたら50%くらいかもしれない。成功確率50%の今、今までの5年間で投資したリソースをサンクコストとして切り捨て、このプロジェクトはあっさりやめて違う事業にリソースを振り分けるべきか?それとも、もう少しこのプロジェクトを続けたら思わぬ形で状況が好転するかもしれない。難しい判断を迫られる。」
というケースの方が多いのではないでしょうか?
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私は、前回のブログで、「Aさんはプロジェクトの開始から5年時点でプロジェクトをやめるべきだった、このプロジェクトを20年続けたことで50億円の損失が発生した」という趣旨のことを書きました。
しかし、これは、プロジェクトの開始から20年後の時点から見た結果論です。プロジェクトが終わった後に、状況を分析していろいろ評論することはできますが、プロジェクトが始まる前、もしくは走っている途中に、終わった後と同じ絵が見えていることはあり得ません。いつだって未来はどうなるかわからないのです。
この、「振り返ったら当たり前に見える(けど最初は分からなかった)」という認知的歪みのことを行動経済学で「ハインドサイトバイアス」と呼びます。
*英語でHindsight Bias。Hindsightは「後知恵」という意味。
このハインドサイトバイアスも、サンクコストバイアスと同じく、日常にありふれています。
例えば、リーマンショックが起こった理由の事後的な説明。
リーマンショックが起こったあと、多くの識者がその原因について分析し、評論しました。「サブプライムローンという信用格付けの低い債券に投資していたんだから、破綻は目に見えていた」というような原因分析はよく耳にしたかもしれません。
でも、それでは、その人は、金融危機が起こる前に、起こることを予測できていたのでしょうか?もし予測できていたなら、なぜ、先物取引をして大儲けしなかったのでしょう?
(株価が必ず下がる、と予測できていれば、先物取引、という取引を行って利益を稼ぐことができます。)
もしくは、ユニクロが成功した理由の後付けの説明。「安くて品質の良い衣服を売ったら、そりゃヒットするでしょ。それくらいのビジネスモデル、僕でも思いつくよ。」
ではなぜやらなかったのでしょう?
「アップルは、テクノロジーとアートを組み合わせたから成功したんだよ。成功は必然だったのさ。」
では、テクノロジーとアートを組み合わせて失敗したアップル以外のベンチャー企業はなぜ失敗したのでしょう?
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日々仕事をしていても同じような状況があるはずです。
失敗したプロジェクトを後から振り返ってみると失敗の原因が次から次へと思い浮かんで、「失敗して当然だった」と思える。でも始めたときは分からなかった。
それが「ハインドサイトバイアス」です。
なので、すべてが終わった後に「だから言ったじゃん、俺は失敗すると思ってたよ」というのはナシでしょう。もしそう思っていたのなら、最初から言うべきだったでしょう。理由もそえて。もしそのプロジェクトの失敗の理由を彼がすべて事前に予言できていたのなら、彼は本当の預言者かもしれません。
ハインドサイトバイアスによって、過去の評論ばかりするのはやめたいものです。未来はいつだって不確実です。だからこそ、いつだって良くする余地があるのです。
それでは今日は、この有名な言葉で締めくくりたいと思います。
~The best way to predict your future is to create it~
Abraham Lincoln
参考図書:
Mercier, H., & Sperber, D. (2017). The enigma of reason. Cambridge, MA, US: Harvard University Press.
Kahneman, D. (2011). Thinking, fast and slow. New York: Farrar, Straus and Giroux.