AIは、作れるだけでは届かない。CEO OfficeのProgram Manager(経営企画室VP)である藤井は、その事実を二度、別々の立場から目撃してきました。一度目は、AIプラットフォーム企業の製造業担当GMとして日本中の製造業の現場を回っていた「売る側」のとき。二度目は、化粧品製造業でIT本部長としてDXを担っていた「買う側」のとき。「作れるのに、使われない」の本当の理由は、技術ではなく意思決定と組織の側にあったといいます。
そう語る藤井さんが今、コーピーで取り組んでいるのは、プロダクトを売ることではなく、市場そのものが立ち上がる条件をつくることです。ITコンサル、商社、AIプラットフォーム企業、製造業、そしてコーピー。キャリアの節目で安定よりダイナミズムを選び続けてきた藤井さんに、仕事の哲学とコーピーの現在地について、じっくりお話を伺いました。
世の中が変わるところに、身を置いてきた
——キャリアの節目では、安定よりもダイナミズムを選んでこられたように見えます。その判断軸はどこから来ていますか?
直感的に「楽しそう」と思ったこと、「やりたい」と思ったことに、わりと忠実に動いてきただけなんです。「そのときそのときで、世の中を変えそうなところに自分の身を置きたい」、その衝動が、ずっと判断軸になっていると思います。
最初にITコンサルを選んだのも、2000年代に「ITで世の中が変わる」と思ったから。そこから大手商社に移ったのは、ちょうど製造業がグローバルに海外生産を広げていた時期で、「ITで海外に出られる」と感じたから。商社ではIoTとAIを商材として扱っていて、主に製造業にIoTソリューションを入れて、集まってくるデータで何ができるかを模索していました。
——そこから、なぜAIプラットフォーム企業に?
前職の商社は、当時そのAIプラットフォームのユーザーでもあったんです。グループ会社で退職者予測モデルを作ったら、これがよく当たる。たとえば毎月ぴったり決まった残業時間しかつけていない人、つまりサービス残業が常態化している人は、辞めていく確率が高い。そういうパターンが一定見えてくる。
「このプロダクトには面白い何かがあるな」と思っていたタイミングで、ちょうどそのAIプラットフォーム企業から声をかけてもらった。そのタイミングに運命的なものも感じましたし、何より「AIで世の中が変わる」という直感があった。迷わず移りました。
「誰でも簡単にAIが作れる」は、現場までは届かなかった
——AIプラットフォーム企業では製造業のGMとして、多くの企業にAI導入を提案されていました。「作れるのに、使われない」という場面はどのくらいありましたか?
当時のプロダクトは、「誰でも簡単にAIが作れる」という触れ込みで売られていたんです。テーブルデータさえあれば、ドラッグ&ドロップでモデルができる。ものの数十分で「お、それっぽいものが出た」というWowが体験できる。多くのお客様に喜んでいただきました。
ただ、そこまでなんです。たとえば工場の生産ラインで、素材の配合比や加工温度から製品の不良率を予測するモデルは作れる。R&D側としては「この条件だと不良が出やすい」とわかる。でも、実際に製造条件を変えるのは製造現場の判断で、R&Dのモデルはそこまで届かない。縦割りの壁がある。鉄鋼メーカーでも、面白い予測モデルはできるんです。でも、その予測を使って巨大な工場のオペレーションを動かすかというと、「まあ、待て待て」となる。
PoCはたくさん実施しました。みんなに「Wow」と言ってもらえた。でも、実際に業務に組み込んで使ってもらえたケースは、製造業ではほとんどなかったと思います。
——PoCは進むのに、その先に行かない。その構造の本質はどこにあると感じていましたか?
現場の人が「ふむふむ、面白いね」で終わらせていては進まない、ということにある時点で気づきました。そこから上の人を巻き込む方向に舵を切って、経営層のラウンドテーブルのような場も設けるようにしたんです。お互いの事例や社内展開を共有する中から、「よし、じゃあうちも業務プロセスを変えよう」という意思決定ができるかもしれない、と。
業務プロセスを変える、仕事のやり方を変える。この意思決定ができないと、AIは使えるようにならない。それに気づいてからは、プロダクトを売るよりも、意思決定を動かし、継続して使ってもらえることに力を入れていきました。
——顧客側の意思決定の弱さを感じたとのことですが、どういう場面で「これは売り手の努力では越えられない」と思いましたか?
結局、AIが使えるようになるためには膨大なエネルギー、つまりヒト・モノ・カネが必要なんですよね。でも当時は、真剣に考えている企業が圧倒的に少なかった。
例えば多くのPoCでは、担当者が本業を抱えていて、AIは片手間だったことだと思うんです。本業が忙しくなれば止まる。担当ですらそうであれば、上位の人はさらに片手間です。また、技術の性質上、100%の結果を保証するということも難しく、さらに意思決定を渋らせる要因はいくらでもありました。AIというもの自体、まだちゃんと理解されていない時代だったんだと思います。
ごく少数ですが、ある大手メーカーではAI専任のチームを10人規模で立ち上げ、外部から専門家もマネジメントとして招聘して意思決定を任せていた。その会社は、他社の何倍ものスピードで導入が進んでいました。
その時、「だったら自分で製造業のどこかに入って、中からAI導入をして企業変革を実践してやろう」と思ったんです。
買う側に立って、初めて見えたこと
——前職の化粧品製造業ではIT本部長としてDX推進を担われました。実際に「買う側」に立ってみて、売り手だった頃には見えていなかったものは何でしたか?
AIベンダーにいた頃は、カルチャーとして「こんなすごいものがあるのに、買わないでどうするんですか」という売り方をしていました。完全にプロダクトアウトの論理です。でも受け手側からすると、AI導入が優先順位1位であることは、ほとんどない。
たとえば「今うちはセキュリティで事故があって、そっちを先に対応しないといけない」「PoCをやっている場合じゃない」、そういう事情のほうが、現実の現場には山ほどある。売り手は「こんなに良いものがあるのになぜ使わないのか」と言い、買い手は「それどころじゃない」と言う。温度差が全然違うな、と買う側に立って初めて実感しました。
その製造業では、私が入った当時はAIどころの話ではなかった。セキュリティの管理システムも整っていない、PCやライセンス管理も十分ではない、営業情報は個人でExcel管理している...そういう会社をどうDX化していくか、という現場でした。まずやったのは、Salesforceを入れること、情報の一元管理です。「AIをやるべきなのはわかっているが、今じゃない」ということの連続でした。
当時のAIプラットフォームのユーザーも、きっと同じ景色を見ていたんだと思います。返信が来なくなったり、契約が更新されなかったりしたお客様の多くは、「AIの優先順位が下がった」というより、「もっと急ぎで解決すべき問題が常にあった」ということだったんだろうな、と。
——「データ以前の問題。そもそもデータがない」という現実にも直面したと伺いました。
AIができること・できないことは、AIベンダー時代から理解していたつもりです。データが揃わないと動かない、ということも。ただ、実際に買う側に立つと、「データを揃える」という作業そのものの重さが、売る側で想像していたより遥かに大きい。少なくともその時の現場ですぐにAIが使える、という感触は正直なかったですね。
——売る側と買う側、それぞれがどんな幻想を持ちがちだと思いますか?
売る側の幻想は「その製品を入れさえすれば、すぐにAIを使いこなせて、成功する」というもの。売る側にいた頃の自分もそうでしたが、製品の前後にあるプロセスや、お客様側の環境まで見えていなかった。成功までの道筋を描ききれないまま、「入れれば変わる」と信じてしまっていた。
買う側の幻想は、「いい製品が全てを変えてくれる」というもの。実際にはAIを導入するために、AI以外のところでやるべきことが山ほど出てくる。業務プロセスを変える、人の配置を変える。そういう組織変更のコストが、AI導入には必ずついてくるのに、その覚悟も準備もできていない。
基幹システム刷新なら、みんな「大変なことだ」とわかっているから、体制もお金もしっかり整えて臨みます。でもAIは、その大変さがまだ社会的に可視化されていない。基幹システム並みの覚悟が本来は必要なのに、その準備が買う側に全然できていない。これが、両方を経て一番よく見えた景色です。
潮目が変わったと直感した
——AIの売り手も買い手も経験された上で、再びAI企業に戻ろうと思った理由は何ですか?
ひとつは生成AIの台頭です。ChatGPTやClaudeが出てきて、AIに対する世の中の敷居が一気に下がった。AIベンダー時代に感じていた「いろんなハードル」が、目に見えて低くなってきている。これは、もう一段大きく進むんじゃないかと感じました。企業でAIに取り組むことが、ようやく本当に面白くなりそうだ、と。
もうひとつは、XAI(説明可能AI)に対する個人的な手応えです。前職のAIプラットフォームで、実は一番お客様に使ってもらえていたのは、モデルが予測するときにどの特徴量がどれだけ効いているかを可視化する機能でした。素材の配合比から不良率を予測するなら何が効いているか、鉄鋼の材料特性から強度を予測するなら何が効いているか、生産ラインの稼働データから歩留まりを予測するなら何が効いているか——これが見えるようになる。
XAIの機能のひとつですが、これが製造業の現場では飛び抜けて受けがよかったんです。「ああ、これがこうなっているから、不良が出るんだ」と腹落ちして、そこから品質改善につながる。AIは気づきのきっかけを与えているだけですが、それを受けて人が判断し、品質改善につなげていく。この人とAIの協働こそが、一番強力なユースケースでした。コーピーに声をかけてもらったとき、XAIとQAAIに注力していると聞いて、「同じことを言っているな」と思ったんです。ここに本気で張っているなら、きっと面白い。ユーザーが一番気にするポイントそのものを掘っているわけですから。
——コーピーの「ここは違う」と感じるポイントは他にもありましたか?
ビズリーチ経由でコーピーからメッセージをもらって、「何この会社?」と思って調べたら、新卒同期が中にいることがわかって(笑)。それで話を聞いてみることにしたんです。
それから代表の山元と話して、コーピーの成長に向けた課題を聞く中で、自分の経験である、強いプロダクトを売ってきたことと、ユーザー側に立っていたことが役に立つかもしれない、と感じました。社内整備やプロセス構築は前職の製造業でもやってきたので、そこも手伝えるな、と。入るタイミングとしても、ちょうどよかったと思います。
海軍に入るくらいなら、海賊でいい。でも両立はさせたい
——CEO Office Program Managerという役割は、実際にはどういう仕事ですか?
一言で言うと「何でも屋」です。トラブルシューティング。困ったところに顔を出して、手が足りない場所で手を動かす。
直近の1週間でいうと、国のAI関連プロジェクトへの参画に向けた提案書の作成に時間を使っていました。大手顧客のアカウントオフィスも担当していますし、ISMSの社内整備も進めています。基幹業務管理システムの運用整備や、その次の段階としての経営と管理会計を見える化する仕組みもゼロから設計しているところです。
——やりがいはどんなところに感じますか?
誰かがやらなければいけないことを引き受けられている、という実感はあります。今のコーピーはIPOに向けて社内整備を進めなければいけないフェーズで、仕組みを作らないといけない部分がたくさんある。これまでのように「お客様が仕事をくれる」という受け身の構造では、上場企業としての業績はコントロールできない。ダッシュボードも、予実管理も、自分たちで設計し、動かす必要がある。この「会社としての仕組みを作る」という部分は、チャレンジとしてすごく面白いと感じています。
とはいえ、個人的にはカチカチしたものはあまり好きではないんです。スティーブ・ジョブズが「海軍に入るくらいなら海賊になった方がいい」と言っていましたが、コーピーはこれまで、ある意味で海賊のような会社だったと思います。個人の裁量と発想でやりたいことをやって、お客様から喜ばれて、成功してきた。ただ、そのやり方には再現性が乏しい。
今、IPOに向けて「ちゃんと整備して、海軍になっていこうよ」というフェーズに入っています。ただ、海軍そのものになってしまうのは、個人的にも、会社としても、もったいない。コーピーが持っている海賊っぽいカルチャーは残しつつ、規律ある組織と両立させたい。特にエンジニアが、安心して今まで通り活躍できる場を残すことが、長期的には一番大事だと思っています。このフェーズだからこそ、そういう設計ができる。
暗黙のルールに、「これ必要ですか」と言える人
——藤井さんから見て、コーピーで力を発揮できるのはどんな人ですか?
海賊のようなスピリットを持った人。自分の裁量で、自分の判断で動ける人でしょうか。
それともうひとつ、自分の意見をちゃんと言える人だと思います。コーピーの中には、長くやってきたからこそ当たり前になっている、暗黙のルールのようなものがいろいろある。それに対して「これって本当に必要ですか?」と聞ける胆力がある人。新しい人が入ってきて、その質問を投げてくれることが、これからの会社にとって一番必要なことだと思います。そういう人なら、きっと自由に、楽しく働ける環境だと思います。
——最後に、これからコーピーで一緒に働く方へのメッセージをお願いします。
AIは今、政治、経済、企業活動、そして個人の生活にまで、インパクトを与え続けています。AIが誰でも使えるツールになった今、10年前に私が探し回っていた「正しい意思決定者」も、もはや探す必要がないのかもしれません。AIの価値を体験した人が、そのまま導入を決められる時代になってきている。
そうなると次に問われるのは、「そのAIは本当に信頼できるのか」です。コーピーが取り組んでいるXAIやQAAIは、まさにその問いに答える領域です。「説明できないAI、品質を保証できないAIはちょっと使えないよね」という空気が、市場に生まれてきている。
市場は、ようやく目の前に落ちているところまで来ています。今年が勝負だと思う。市場が立ち上がってきているからこそ、早くチームを揃えなければいけないし、デリバリーする体制も整えなければいけない。だから、今入ることに意味がある。
人生の大半は仕事に費やすわけですから、せっかく働くなら、世の中に意味のある仕事・プロダクトに時間を使いたい。そう思う方に、ぜひコーピーの扉を叩いてほしいです。