前回、たった3人で「製造業のYahoo!を作ろう!」という構想が、いかに当時の常識破りであったかを熱く語らせていただきました。だんだんいろんなことを思い出し、楽しくなってきたので、また話がそれて、昔話をしだすかもしれませんがご容赦ください。
さて、改めてイプロスを語るにあたり、何か資料が残っていないかと、古い書類をひっくり返してみました。すると、実に懐かしいものが出てきました。 自分でも驚くほど綺麗にとってありました。お宝発見!といったところです。
初めて世に出す、正真正銘本邦初公開の「Iprosプロジェクト」のプトジェクト概要です。
・プロジェクトの目標
・プロジェクトの概要
・競合分析
・技術情報
・チーム構成/必要設備
・工程
・スケジュールと進捗状況
・関連文書
以上の8項目で構成されています。
古いバージョンのパワポを駆使して、メンバーAがまとめてくれたものです。
当時はそれなりに頑張ってスタイリッシュに作ったと思いますが、今読むと内容はかなり「雑」(笑)。それでも「よく書いたなぁ」と、しみじみ思います。
企画書の作成日が2000年2月19日。
そして同年2月29日に「販促」の印鑑が押されています。
実はこの小さなハンコが、意外と重要なのです。
まずは超難関を突破せよ!
さて、やるべきことは決まった。あとはゴールに向けて突っ走るだけ!
------なのですが、現実のものにするためには、社長はじめ上層部のGOサインが必要です。いくら「30周年記念」の特別企画といえども、キーエンスの看板を背負ってやるからには、半端なものを世に出すわけにはいかないからです。
そのGOサインを得られる唯一の場が、商品化認証会です。ご存知の方も多いと思いますが、キーエンスの新商品はすべて、この超絶難関を突破しなければなりません。
認証、つまり承認を得る場ですから、アイデアを揉む的な一般的なプレゼン会議とはまるで違います。メンバーは社長はじめ各事業部長といった錚々たる面々。提出された企画に対し、さまざまな視点で厳しくジャッジしていきます。しかも進退がこの場で決まるという、とても重要な決戦の場です。
よって、ここを目指す者は入念な準備をして挑みます。徹底した調査で顧客ニーズをつかむことはもちろん、明確な数字と超具体的なシミュレーションを提示する必要があり、準備に半年や1年かける人も珍しくはありません。そこまでやっても無事通過するとは限らないのが、商品化認証会なのです。
山口たちのチームも、ここを通過しなければ明るい未来はありません。30周年の特別企画といえども例外を許さないのがキーエンスです。山口らはGOサインを獲得のために具体的に動きはじめました。
といっても、ほとんどパソコンの前に座って、なにやらカタカタやっているわけですから、人の目には遊んでいるようにしか映らなかったと思いますが……。
「イプロス」という名前の由来
企画書を作るにあたり、「名前、どうする問題」が当然持ち上がります。いつまでも「製造業のYahoo」と呼ぶわけにもいきませんから、正式なプロジェクト名を決めなければなりません。
アイデアをするっと出してくれたのが、もう一人の若手メンバーAでした。
Aは山口より1年あとに新卒で採用され、最初から商品企画を希望した個性派。いろいろと経験を積んだのちにその希望を叶え、シーケンサやタッチパネルなどの商品企画を担当していました。
そんなAが、温めていたのが「イプロス(Ipros)」という名前。
情報(information)と「繁栄・成功した」を意味する「prosperous」を掛け合わせた造語で「 ipros(イプロス)」と命名したのです。
ちなみに、山口の記憶の中では「インターネット(internet)」と「繁栄(prosperity)」と微秒な変化を遂げていましたが、時代とともに「I」には「internet」が入ってしかるべしでしょう。
そして、この時誕生した「繁栄」というキーワードは、今もアプトの経営理念である『仕事を通して、お客さんともども成長し、繁栄する。』として生き続けています。
ちなみに、昨今活躍のAIに聞いてみたところ、造語であることは正しく理解しているようですが、
Intellectual(知的な、知的な財産)+ Professional(プロフェッショナル、専門家)
だったり
integrated(統合された)+ PR (広報・PR) + Opportunity(商機・機会)+System(システム)
という回答にも巡り合いました。いずれも「なるほど」となるものなので、解釈は自由で良いと思います。
でも、私たちは「情報がつながって便利になったね」で終わるのではなく、つなぐことによって双方が繁栄する。そんな世の中を目指していたのです。
2人の意外な共通点
さて、ちょっと横道に逸れます。
今回のチーム結成時に、山口とメンバーAは「はじめまして」となったのですが、タイプが違う2人。一緒にやっていけるのか?と思ったのもつかのま、話をしているうちに意外な共通項が見つかり、急に距離がグッと近づきました。
それが子供の頃にハマった「パピコン」の存在。正式名称はNECの「PC-6001」といって1981年1月に発売となった家庭用パソコンです。ホビーや学習用に開発されたもので、いわゆるIT男子(オタク)の垂涎のマシンです。
山口は、中学の入学祝いにおじさんに買ってもらったその日から、自作ゲームを作るべく、パソコン雑誌をガン見しながらベーシックでプログラムを組むことに夢中になり、一方メンバーAもまた、ちょうど同じ頃に夢中でプログラミングに明け暮れていたというのですから、ものすごいシンクロです。
パソコン少年だった2人が、時を得てキーエンスで出会い、まだ誰もやったことのないイプロスを作り上げていく……。世の中って本当に面白いですね。
三者三様 役割が明確に
具体的に動くにつれ、3人の役割分担が明確になっていきました。メンバーAは、イプロス命名のその時点で、「インターネットが来る!」を確信していました。Yahoo!やその他、インターネットに関する調査研究も人並みハズレており、SEOの「エ」の字もない時代から、「人はどんなキーワードで検索をするのか?」といったことを考えているような人間でした。
一方、山口はというと、一般営業として新卒入社してから、持ち前の要領の良さで結果を出し続け、入社3年目にして、営業開発部という社長直属の新しい部署に大抜擢。20代は山口ただ一人で、周りは歳の離れた先輩方に囲まれながら、「販促」のノウハウをぐんぐん吸収していきました。
ちなみに、キーエンスの「販促(販売促進)」は一般的な販促のイメージとは違い、何をどう売るか、潜在的ニーズも含め市場をどうやって作り出すかなどを考える事業の要。その戦略のもとに動く、頼もしい実行部隊が営業です。山口が今、最も得意とする「しくみで売る」という考え方は、この時期に巻かれたタネが育ったものだといえるでしょう。
3人チームに配属される直前まで、販促スキルを磨いていた山口。一方、商品企画としてまだこの世にないものを世に送り出してきたメンバーA。それをうまくまとめる0部長。まさに三者三様の活躍で、プロジェクトは着々と具体化していったのでした。
つづく。