ハードとソフト
「問題は解決ではなく、解消せよ」 ~混迷のIT業界を生き抜くためのマネジメントツール SSM 第2回 本記事は、2008年11月11日に公開された記事を再編集し再掲載したものです。 ...
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IT業界で生きている私達にとって、最も普通に使っている言葉である「ソフトウェア」。この「ソフトウェア」という言葉が生まれてから、既に半世紀が経過しています。それが長いのか短いのかは何とも言えないところではありますが、もともとコンピュータ自体は金属の塊で出来た機械であったことから、「硬い」ハードウェアに対する概念として、形の見えないプログラムを「柔らかい」ソフトウェアと呼んだことは改めて述べるまでも無いでしょう。
コンピュータの世界以外でも、この「ハード」と「ソフト」という概念は様々な使い方がされているのは周知の通りです。たとえば、CD やビデオなどの機械(ハード)に対して、その機械上で動く映画や音楽などがソフトであり、ラジオやTVでは、受信機や受像機(ハード)を流れる番組の内容(コンテンツ)がソフトとなります。
つまり至極当たり前のことではありますが、コンピュータにしてもCDにしてもハードとソフトはどちらかだけでは成立せず、両方が揃って初めて意味のある働きをするものです。ソフトの無いハードはただの箱ですし、ハードの無いソフトは無用の長物です。(コンタクトレンズの場合は...ちょっと置いておきましょう)
さらにこの2つの概念は、より拡張された意味合いとしても使われていて、たとえば「形のあるもの」に対する「形の無いもの」との対比から、「はっきりしたもの(こと)」「はっきりしないもの(こと)」というような概念を表現する比喩としても使用されています。
それを考え方のアプローチにも適用したのが、明確な(はっきりした)問題を解決するための「ハード思考」であり、明確でない(はっきりしない)問題を対象とする「ソフト思考」です。
もともと目に見えない「考え方」のような「コト」を扱う場合に対しても、このように「ハードな考え方」という使い方がされているのは、ちょっと考えてみると面白いと言えるでしょう。(「頭が硬い」「柔軟な思考」というような言葉は日常でもよく目にします)
ハードアプローチの典型として、よく例に挙がるのがシステム工学であり、またアポロ計画です。「1960年代中に月面に人類を送る」という当時のケネディ大統領による明確すぎる目標に対して、そのためには「どのように」すれば人間を月に送ることが出来るのか?を追求するものがアポロ計画でした。
そしてそれは計画通りアポロ11号の月面着陸によって、1969年7月16日に見事に達成されたのは誰もが知るところのものとなっています。(捏造説もありましたが、まあそれは良いでしょう)
このように科学や数学の世界では、基本的には正しい答えが存在します。それは立場がはっきりしていて、視点や目的も定まっているので「どのように」すれば問題を解決できるのかが特定できるためです。つまりHOWを問うためのものである、と言うことができるでしょう。
しかし私達が営んでいる日常生活で遭遇する種々の社会問題の場合には、当然のごとく関係者にはいろいろな立場があり、立場が異なれば視点も異なり目的も様々となるため、「どのように」すれば問題を解決できるのかは一意に決まるものでは有りません。これまではそのような問題に対しても、歴史的にはハードなアプローチで対応しようとしてきました。発生した問題を詳細に「分析」し、それを細部に「分解」して個々の原因を追究します。原因が明らかになった(と思った)らそれを一つ一つ取り上げて、問題を解決してゆくのです。
そういった分析主義的な要素還元的手法は、明確な問題に対しては前述のアポロ計画のように効を奏しますが、問題が明確ではなく複数の要因が絡み合うことで、個々の問題とは異なった別の事象が発生するようないわゆる創発特性(emergent property)を持つ問題に対しては機能しません。それぞれの問題に対する各々の解決策が、総体としての改善に寄与するとは限らないからです。
たとえば、現在の派遣村のような問題に対して、唯一の解決すべき課題が明確に定義できるでしょうか。逆に、一人ひとりの問題に対して一つ一つ対処することが、全体としての問題を解決することになるでしょうか。それぞれがそれぞれの立場で異なった問題に直面している状況ではいろいろな解決策があり、どれが正しくてどれが間違っている、というわけではありません。そうではなくてそうした状況をそのまま受け止めて、それぞれが異なった立場に立脚していることを認めるところからスタートしなければ、何も始まらないのです。
それには現象を一つ一つに分解するのではなく、全体を全体として見ることで何が起きているのか、何が問題なのかという WHAT を把握する必要があります。
こうした状況からもわかるように、「問題解決」においてはこれまで「ハード」な考え方、つまりハード思考が適用されてきました。むしろ世の中のほとんど、特にIT業界においてはことさら要素還元主義に代表されるハード思考が、大勢を占めていると言って良いでしょう。
最初に述べたようにハードとソフト、どちらかだけで成立するものではなく両方のバランスが必要であるにもかかわらず、あまりにもハード面のみが強調されている現状は、決して良い状況とは言えません。もともと重要視されているハード思考と、現状ではほとんど無視されているソフト思考、この両方のアプローチを適切な問題に対して適切に適用することこそが、これからの問題解決そしてひいてはIT業界には重要であり、そうでない限りは現在の混沌状態はこれからも延々と続くでしょう。
だからこそ価値観の多様化した現代社会を行く抜くためには、個々の状況に応じたアプローチである『ソフト思考』は不可欠なのです。
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