私たちの店では、ひとつの役割に限定されない働き方が存在しています。
バリスタとしてカウンターに立ちながら、店内のテーブルやベンチを自らの手でつくる袈裟丸空来(けさまる そら)さんは、そんな二つの仕事を行き来しながら働いているスタッフの一人です。
一見すると異なる二つの仕事ですが、この場所では特別なものではなく、その人の興味や得意がそのまま仕事につながった結果として、自然に生まれているものです。
今回は、袈裟丸さんの働き方を通して、私たちの店のあり方についてもご紹介します。
「好き」が重なったタイミング
── もともと大工をされていたと聞きました。
袈裟丸:そうです。高校を出てから大工として働いていました。
社員としては2年くらいで、その前からアルバイトみたいな形で現場に入っていたので、実際はもう少し長く関わっていました。
もともと、何かをつくることが好きで、家でも棚をつくったり、小さいものを自分でいろいろつくったりしていました。そういうのが好きで、その延長で大工になったという感じです。
── そこからコーヒーの仕事に?
袈裟丸:前の会社を辞めたタイミングで、次に何をしようか考えていたときに、ヘイズコーヒー飛騨高山店の求人を見つけたのがきっかけです。
もともとコーヒーが好きで、スペシャルティコーヒーもよく飲んでいましたし、自分でもYouTubeなどを見ながらドリップして、淹れ方を変えてみたりとか、ちょっとこだわってみたりとか、楽しんでいました。
なので「これを仕事にできたらいいな」という気持ちは前からあって。ちょうどタイミングが重なったのでやってみたいと思い、そのまま応募しました。
あと、お店がまだこれからつくられていく段階だったので、そこに関われるのも面白そうだなと思いました。
完成している場所に入るというより、一緒に形をつくっていける感じも魅力的でした。
── 未経験からのスタートだったんですね。
袈裟丸:そうですね、完全に未経験でした。
最初は本当に何も分からなくて、コーヒーのことも接客のことも一からでした。
接客は正直得意な方ではなかったので不安はありましたが、やっていくうちに少しずつ慣れてきて、今は自然にできるようになりました。やってみないと分からないことも多いなと感じています。
入社当初、当時の店舗マネージャーから抽出はもちろん、コーヒー豆や生産者の背景など、コーヒー全体に関して広く教えてもらいました。その時身につけた技術や知識があるからこそ、自信を持って接客もできるし、ブレずに今の働き方ができているように思います。
「少しの違い」が結果を変える
—— 大工とバリスタ、両方やってみて似ているところはありますか?
袈裟丸:ありますね。
コーヒーって、抽出の仕方やレシピを少し変えるだけで、味が本当に大きく変わるんです。例えば、お湯の注ぎ方とか時間とか、ちょっとした違いなんですけど、それで全然違う味になるので、すごく繊細な仕事だなと思います。
大工の仕事も同じで、ほんの少しのズレや違いで仕上がりが変わってしまうので、その点がすごく似ているなと感じます。
「これくらいでいいか」と思った部分が、そのまま仕上がりに出てしまうのも両方共通です。どちらも細かいところまで拘りを持つ必要がある仕事だと思っています。
── 感覚的な部分も大きそうですね。
袈裟丸:そうですね。
どちらも理屈ももちろんありますが、最後は感覚で判断する部分が多いです。
何度もやっていく中で、自分の中に基準みたいなものができていって、それを頼りに調整していく感じなので、そこも共通していると思います。
わずかな違いに妥協せずに拘り続けることは、形はそれぞれだけど、作る仕事に共通する本質なのかと思っています。
「ハマった」と感じる瞬間
── バリスタとして、うまくいったと感じる瞬間はどんな時ですか?
袈裟丸:抽出がハマったときですね。抽出していると、自分の中で「今のはいい」とはっきり思える瞬間があります。
豆の持っている良さをしっかり引き出せたと感じるときで、味としてバランスがよく出ているのを感じます。
それをお客さんに提供して、「おいしい」と言ってもらえたときはやっぱり嬉しいですし、その瞬間が一番やりがいを感じます。
海外からのお客さまは、言葉にして感想を伝えてくださることも多く、そのリアクションから実感できた時は本当に嬉しいですね。
── 大工として「ハマった」と感じるのはどんな時ですか?
袈裟丸:完成したときに、見た目と使い勝手がぴったり合っているときですね。
このお店ではテーブルや外のベンチ、洗面台のタイルなどをつくりましたが、例えばベンチだったら、実際に置いてみて、お店の雰囲気にちゃんと合っているかを見ます。
さらに、座ったときの高さや、視線の抜け方、座ったときにドリンクは置きやすいかなど、そういうところまで含めて違和感がないかを確認します。
ただ置くだけではなくて、その空間の中に自然に馴染んでいるかどうかが大事だと思っています。
「これがあることで、この店の雰囲気がちゃんと成立している」と感じられたときに、ハマったなと思います。
Vol.2では、「どちらも諦めない」という選択を体現する袈裟丸さんの働き方を通して、この場所ならではの仕事のつくり方に迫ります。