Kurasuのメンバーは、みんな昔からコーヒーが好きだった……というわけではありません。現在、商品企画チームのリーダーとして活躍しているSakiは、もともとコーヒーに興味がなかったといいます。
しかし、ある日たまたま近所のKurasu Ebisugawaでラテを飲んだことをきっかけに、彼女はコーヒーラバーになりました。お客さんとして数年お店に通った後、2024年2月、パズルのピースがそろうような瞬間を経てKurasuにジョインします。
ものづくりやバイヤーの経験を活かしてオリジナル商品の企画を担当している彼女に、Kurasuとの出会いや取り組んでいる仕事、今後のビジョンについて聞きました。
経営学部を卒業後、フランスに渡って刺繍を学ぶ
——Sakiさんの学生時代と卒業後の進路について教えてください。
私は、子どもの頃からものづくりが好きでした。裁縫や工作が玄人はだしの腕前だった母や伯母の影響で、針と糸を使うことが得意だったんです。高校を卒業し、関西の大学の経営学部に入ってからも布や刺繍に強い興味があって、サークル活動で服をつくったり、京都の伝統的な着物のファッションショーを企画・開催したりしました。
いざ就職活動をする段階になって、自分の好きな「ドレス」を扱う会社ということで、ブライダル関係の企業に話を聞きにいきました。しかしその過程で、自分がやりたいことと現実がうまくマッチしないと感じ、「もう就活はやめよう。大好きな“つくること”を一度とことんやってみよう!」と決意したんです。
大学卒業後はフランスに渡り、刺繍の学校に通って技法を習得しました。シャネルやディオールといったハイブランドのオートクチュールのコレクションで使われるような、ビーズのきらびやかな刺繍です。
私はコースの最初から最後まで、すべての技術を最短期間で習得したいと考え、1日3時間の授業を10か月間取り続けました。授業が3時間というと短いようにも思えますが、出された課題を翌日までにやっていかないと次のステップに進めないので、帰宅後もずっと、ときには深夜まで夢中で刺繍をしていました。忙しくも、濃密な日々でしたね。
——フランスから帰国された後はどんなことをされたのですか。
刺繍学校のコースを終えて帰国した時点では明確なビジョンはなかったのですが、社会経験を積んでいく中で「企業の取り組みを発信したり、商品をどう売っていくかを一緒に考えたりする仕事をしてみたい」と考えるようになりました。
さらに、海外で暮らしたことで日本(京都)の魅力がはっきりとわかるようになりました。シャネルのメティエダールの価値観からの学びもあり、伝統的なプロダクトや、継承されてきた技術の素晴らしさにあらためて気づいたんです。伝統・地場産業の技を用いてつくられるアイテムをもっと多くの人に届けていきたい、そう考えて、自分の会社を設立しました。
そうやって実際に伝統産業や地場産業の現場と向き合ってみると、本質的な課題とぶつかり、悩む毎日が続きました。「世の中の需要にきちんと応えること」の難しさを、実感する場面が多かったんです。マーケットをリサーチして、人々が求めるものを開発し、求めている人々に販売する。そういった「当たり前」を実行していくのが、実際には難しいことなんだと肌で感じました。
そもそも私がものづくりを好きになったのは、そのプロセスでハッピーが積み重なっていくからです。みんなが楽しそうにものづくりをしている会社と付き合えたらハッピーだし、自分たちが発注することでつくり手さんがハッピーになってくれたら嬉しいし、ハッピーな気持ちがこもったものを届けることでお客さんもハッピーになって、どんどんハッピーが積み重なっていきますよね。
そういった価値観を持っていた私は、いろいろなしがらみの中でハッピーではない側面にも触れていくうちに、いつからか「このままだと(自分自身のものづくりにおいて)ハッピーになる未来が見えない」と思うようになってしまったんです。
そんな中で第一子の妊娠が発覚し、産前うつの影響もあって、当時携わっていた仕事の最前線から身を引くことにしました。
——それは大変でしたね。そこから少しずつ回復していけたのでしょうか。
妊娠中は仕事も思うようにできず、罪悪感や無力感に苛まれていましたが、出産してからは暗いトンネルから抜け出すように、少しずつ気力を取り戻していきました。
そして子どもが生後半年を迎える頃、ひょんなことから「日本全国の品々のバイイング(買い付け)ができる人を探しているのですが」とご相談を受けたんです。子育てにも慣れてきた時期で、業務内容も面白そうだと感じて、リモートでその仕事をすることに決めました。
しばらく自分の殻に閉じこもる生活をしていたので、「仕事を再開した」という事実によって、心の回復を実感できたんですよね。そのあたりから、再び商品づくりや絵本づくりなど、自分のやりたいことができるようになっていきました。
子育て時代、Kurasuのデカフェを飲んでコーヒーに目覚めた
——Kurasuと出会ったきっかけを教えてください。
私は上の子を妊娠しているときに夷川通(えびすがわどおり)のマンションに引っ越したんです。かかりつけの産婦人科への通り道にKurasu Ebisugawaがあって、そのとき初めてKurasuの存在を知りました。Kurasu Ebisugawaがオープンしてまだ間もない頃のことだったと思います。
実は、私はもともとコーヒーはあまり好きではなかったんです。夫はコーヒーが大好きで家にコーヒー器具もあったのですが、私は全然飲みませんでした。でも、いつの頃からか、夫がコーヒーを淹れていると「いい香りだな」と感じるようになって、「あれ、私ちょっとコーヒー好きになってきたかもしれない」と思い始めた、その程度でした。
そんな生後5か月検診の帰り道、Kurasu Ebisugawaにふらっと立ち寄ったときのことは今でも忘れられません。エアロプレスで淹れてもらったデカフェのラテを飲んで、「コーヒーってこんなにおいしいものだったんだ!」と驚きました。
それからすっかりハマってしまって、子育ての息抜きにKurasuに通うようになりました。当時はコロナ禍でお店も空いていて、落ち着いた店内でゆっくりコーヒーを飲む時間はかけがえのないものでした。私がコーヒーラバーになったのは、Kurasuのおかげなんです。
——その流れで、お客さんとしてだけでなく、仕事としても関わるように?
いえ、Kurasuに仕事として関わるようになるのはもっと後のことです。しばらく子育ての合間にときどきKurasu Ebisugawaに通う日々が続いて、数年後に私は第二子を妊娠・出産しました。
第一子のときと違い、非常に安定した精神状態で穏やかに子どもを産めたことで、心身ともに回復も早く、自信がつきました。さらに、二人目ということもあって、子育てに対して心の余裕が持てていました。それで、「これなら外に出て仕事ができる。人生の休息時間はもう終わり、今こそ頑張るときだ!」と感じたのです。
そのときなんとなくWantedlyを見ると、Kurasuの求人がありました。ストーリー記事を読んでみると、Ebisugawaで見かけたことのあったAyakaさんがなんと出産されていて、経営メンバーとして事業を引っ張っておられて。「こんな重要なポジションにいる人が出産して子連れで出勤できる会社なら、私も仕事ができるかも」と思い、「話を聞きにいきたい」ボタンを押しました。
その後、Yozoさんとオンライン面談をし、「オリジナル商品の企画に興味はありますか」と打診されました。商品づくり、企画、バイイング……どれも経験がある、得意分野です。プライベートで通っていた好きなお店でこんなドンピシャな仕事ができるなんて、と胸が躍りました。
ほかのメンバーともオンラインで話し、一人ひとりタイプは違うものの、みんなが自然体で働いている素敵な会社だと感じて、2024年2月から業務委託としてジョインすることにしました。
Kurasuのアイデンティティをどのように体現するか
——Kurasuではどのような業務を担当していますか。
オリジナル商品の企画を担当しています。Kurasuのグッズ製作もその一つですが、この先ブランドが成長していけば、コーヒー器具づくりなども視野に入ってくるでしょう。Kurasuにとってのオリジナル商品は単なるグッズではなく、Kurasuのブランド力をプロダクトという形で伝えていくためのツールの一つであると私は考えています。
商品づくりは決して簡単なものではありません。データをつくりグッズ制作会社に発注すれば「それらしいオリジナル商品」はつくれますが、それは誰にでも模倣できるものです。
Kurasuは、コーヒー器具を取り扱い、コーヒー豆を自社焙煎し、海外にカフェも展開して、世界中のお客様に愛されているブランドです。その土台には、パートナーロースターさんとの関係性も含め、代表のYozoさんがコーヒー業界で築き上げてきたものがあります。
そんなKurasuのアイデンティティを一番よく伝えられるのは、なんといってもコーヒーです。オリジナル商品は、そのコーヒーの質の高さの背後にあるKurasuのパワーを、目に見える形で伝えていくブランディングツールとなると思っています。
——具体的な商品開発のプロセスを教えてください。
最初に「どんなオリジナル商品をつくりたいか」というイメージを言語化し、それから、「何をつくるか」「何をつくらないか」の基準となるコンセプトを決めました。
そのとき私が掲げたのは、「オリジナル商品は、Kurasuのプロダクトやコーヒーを買って帰った人が、Kurasuで体験した素敵な時間を誰かと分かち合ったり、自分でもう一回楽しんだりできるものであるべきだ」というもの。いわゆる「シェアハピ」の文化ですね。
シェアハピできない商品はつくる必要がないという考えから、「持ち帰れるもの」「自分用にすることも、誰かに贈ることもできるもの」「質がよく、ストーリーがあるもの」がいいなと思いました。そしてたどり着いたものの一つが、日本の誇りである伝統的な繊維産地でゼロからつくるオリジナルテキスタイルです。
コーヒーの味わいが産地や技法によって違うように、同じデザインでも製法によって生地の表情はかなり違ってきます。さらに、制作にかけた手間や表現の奥行きによって、できあがりが全く異なるのも、コーヒーとの共通点だと思います。このテキスタイルを使った商品以外に、オリジナルマグカップなどの焼き物も企画していて、そちらの情報も早く話したくてたまりません!
私は、お店に入ったときにお客さんの目に入るものが直感的に美しいものであってほしいと思っています。Kurasuが扱っているコーヒーや器具などの質の高さ、そこに込められた想いが、言葉にしなくても伝わるような世界観にこだわっていきたいです。
ブランドとして伝えるべきメッセージを伝えていくこと
——Kurasuはどんどん大きくなっていって、メンバーを増やしているフェーズだと思います。どんな人であれば、Kurasuにフィットしそうでしょうか。
kurasuのメンバーには海外経験がある人が多いからかもしれませんが、「こうしなくてはならない」といった固定観念がほとんどありません。みんなすごくよく働くし、自分の仕事に対する責任も持っているけれど、「自分がやらないと詰む」とか「やらないと怒られる」というのではなく、やりたいからやっている人ばかりです。
責任感が強すぎて苦しくなってしまうタイプの人も、Kurasuに来れば、みんなが受け止めてくれ、一緒に荷物を背負ってくれるので、のびのび働けると思います。仕事における新しい価値観に触れたい、働き方を見直したいという人にも「それが叶う会社が京都にあるよ」と伝えたいです。
——SakiさんのKurasuでの意気込みや目標を教えて下さい!
まずは今取り組んでいるプロダクトの計画をしっかり形にしていきたいですね。今のところ商品づくりは順調ですが、人の手でつくる素材を選んでいるからこそイレギュラーなことも発生しますし、この先、一度決まったことを翻す場面や乗り越えなくてはならない壁も出てくるでしょう。でも、それも平和に楽しく乗り越えていけたらいいなと思っています。
生産管理や商品企画は、自分の好きなものをつくったり売ったりするわけでなく、デザインと人をつなぐ役割です。商品がどんなふうに人々に受け取られていくのかを見るのは、少し緊張します。全員が「いいね」「素敵だね」と言ってくれるわけではありませんから。
とにかく大事なのは、ブランドとして伝えるべきメッセージを、伝えるべき人に伝えられているかどうか。ブレることなく、そこに向き合い続けたいと思います。
——Sakiさん、ありがとうございました。最後にお気に入りのコーヒーを教えてください!
私の人生を変えてくれたKurasu Ebisugawaのエアロプレスラテが一番ですね。ドリップコーヒーよりもジューシーなフレーバーと、フレンチプレスよりもスムースで、丸みのある質感を味わえます。一杯ずつ丁寧にバリスタがカウンターでつくるので、その工程も観察して楽しんでみてください!