去年の9月のある日のこと、不安げな顔をした中学三年生の女子がC.schoolにやってきた。
「私、芸能活動をやってて、今まで勉強まったくしてこなくて… でも無理かもしれないんですが、◯◯高校に行きたいんです。学力は上がると思いますか…?」
記憶は定かじゃないけど、約2時間、彼女のこれまでの人生の話を聞いた。表面的な学力評価を見れば、模試の結果は志望校E判定。チャレンジ校と言えるレベルの高校だった。でも、彼女の生き方には光り輝くものがあり、「成長したい」という思いは本物だと思った。
「自分たちは塾だから、志望校合格のための学力向上に全力でコミットするよ。でも、時間が限られてる中で、高いレベルの結果を出すには、相当な努力が必要になる。人の成長は、こうすればこうなるというものではないからね。だけど、自分なりにやった分だけ必ず伸びるし、本気でやった自分とやらなかった自分、受験終わったときの自分どっちが自分の人生に良いと思うか。受験は自分の未来をつくるプロセスでしかないから、とにかく悔いのない受験生活をして欲しい。塾には入らなくても良いから、もしまた力になれそうだったら立ち寄って。」
1週間後、「今まで逃げてきた勉強と向き合います。ここで勉強したいです。」と入塾してくれた。それからの彼女の努力は凄まじかった。毎日、学校が終わったらすぐに塾に来て、最後の時間まで勉強した。
現実的には、成績が足りていないから難しいと学校でも言われ続けたみたいだった。実際に、学校の成績は中々伸びなかった。理想と現実に悩むことも少なくなかったと思う。でも、彼女のポテンシャルと必要点数までの道筋を考えると無理な目標じゃない。
それから3ヶ月後の志望校判定模試。
なんと、偏差値8アップのA判定を叩き出した。強い意志を持った人の成長はこんなにも凄まじいのか…‼︎
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でもそんなにうまくはいかないのが人生なのかもしれない…
「先生、人生相談があります…」から始まった1月。学習とは関係ないことだったけど、彼女の心の中では、受験への不安があらゆることに影響を与えているようだった。事実とは違う不安が心の中で生み出されてるように見えた。話を聞いて、彼女の素晴らしさを伝え、信じることしかできなかった。
直後の1月の模試。C判定。心の状態がスランプへと追い込み、悪い結果として現れてしまった。
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周りからは「◯◯高校は、内申重視だし、倍率もトップクラスに高い学校だから宝くじを引くようなものだよ。」と言われた都立の推薦入試。実際、内申も足りてなかった。それでも挑むと決めた彼女の強い意志。
学力だけでは測れない彼女の素晴らしさが伝わってほしいと強く願った。小論文を添削しまくり前日まで面接の練習をしまくった。集団討論の練習もした。
彼女は、部活もしてないし、芸能活動をしていたから不利なんです、と言った。でも、それはむしろ有利だと伝えた。
都立の推薦入試、半分は内申点だけれど、半分はその人の人柄、ポテンシャルをみるためのものだ。学校社会の少ない評価軸で評価され続けていると、人と違うことがネガティブに感じてしまうことがある。しかし、大人になった我々は、さすがに彼女よりもたくさんの社会を見てきている。だからこそ、大人顔負けの彼女の素晴らしさがわかる。社会の人を評価する軸は、もっともっと多様だからだ。なんとか高校の先生に伝わって欲しい。彼女は自分の伝えたいことを言語化するために、前日も最後の最後まで自分がぶつける質問に回答し続けた。(推薦入試の面接は、準備してたより深堀されなかったので楽でしたと他の子も含めていっていた)
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実際に受験を終えて、不安な様子を見せながらも「伝えたいことは伝え切ることができました」と言っていた。それから合格発表までが長かった。成績としてギリギリの戦い。併願校もない。毎日毎日いまできることをやりきって判断しよう、自分に言い聞かせるように、自分と向き合い、取り組んでいた。日に日に不安が募っていく様子をみていてとても苦しかった。
一般的に言われている「内申が勝負」これが本当だとしたら、推薦合格は厳しい。「もう少し”学校”に寄せた方がよかったかな?」内心、自分も不安に思っているところもあった。それでも、表面的な評価を超えた「その人らしさ」を評価してくれれば受かる可能性は多分にある、なによりそれが本当の彼女の良さだと信じて期待していた。高校の先生は、教育のプロだ。きっと見てくれるはず、心の中で祈った。
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そして、合格発表当日の9:05、LINEがなる。
「合格しました!!」
思わず涙。。心から震えた。自分ごとになってしまうけれど、1年前に自分の日記を読み返すと、塾を立ち上げるのか、正直迷っていたことがわかる。でも、1年経ったいま、この一人の人の人生が変わるプロセスに関わることができで、本当にやってよかったと心の底から思います。
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もちろん、この結果の背景には、ご家庭のあり方(特にご両親の自分で悔いのないように決めなさいという方針が素晴らしかった)、学校の先生たちの日々の関わり(先生たちは、一人一人の心と学力の成長のために日々ご尽力されている)、そして何より、本人の強い意志とこれまでの生き方、受験に向き合う姿勢と努力の結果、勝ち得た合格です。塾という存在は、人生のほんのほんの一部でしかないでしょう。それでも、人生の一部に関わらせてもらうことができて、本当に嬉しいです。とても幸せな仕事です。
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今回、圧倒的な大逆転をした1人の物語にフォーカスしたけれど、他の子たちも同じく様々な葛藤を乗り越えてきました。そして、今年もまた一人ひとりが悔いの残らない受験になるよう、もがきながら頑張っています。このだれもが通る「学校教育」を「受験」というプロセスをもっともっと「主体的に、自分らしく、強く、生きる力を育む手段」へと変えていきたい。
志を忘れずに、今日も明日も、一人ひとりと向き合っていきます。