M&Aの「成約」ではなく、その先の「成功」を追求する。
皆さんは「M&A仲介会社」と聞いて、どのような仕事をイメージするでしょうか。
会社を売りたい経営者と、買いたい企業を結びつける仕事。企業価値を算定し、条件交渉を進め、契約を成立させる仕事。もちろん、それらはM&Aアドバイザーの重要な役割です。しかし、私たちインクグロウは、そこに一つの問いを持っています。
「M&Aが成立すれば、それは本当に成功と言えるのだろうか?」
会社を譲渡した経営者は、その後も納得しているのか。従業員の雇用や企業文化は守られているのか。そして、会社は新たな成長へと歩み始めているのか。こうした問いに向き合うため、私たちは2021年から早稲田大学産業経営研究所と、中小企業M&Aに関する共同研究を続けています。今回は、この共同研究を通じて、インクグロウがどのようなM&Aを目指しているのか、その背景にある問題意識をご紹介します。
なぜ、私たちが大学と共同研究を行うのか?
日本の中小企業は、後継者不足や経営者の高齢化という大きな課題に直面しています。優れた技術や長年培ってきた顧客基盤を持ちながら、後継者がいないという理由で廃業を検討する企業も少なくありません。その解決策の一つとして、M&Aの重要性は高まっています。一方で、M&A市場が拡大するなか、私たちは一つの課題を感じていました。
それは、「どのようなM&Aが、経営者や企業にとって本当の成功なのか」という問いに対して、客観的なデータが十分ではないことです。M&A業界では、成約件数や取引金額などが成果を測る指標として使われています。しかし、それだけではM&Aの本当の価値を測ることはできません。例えば、高い譲渡価格で会社を売却できたとしても、譲渡後に社長と共に歩んできた大切な従業員が次々と退職してしまったらどうでしょうか。反対に、必ずしも高い価格での譲渡ではなくても、経営者の想いを引き継ぐ相手に会社を託し、従業員が安心して働き続け、会社が成長していくのであれば、それも素晴らしいM&Aではないでしょうか。
こうしたM&Aの成功要因を、経験則や感覚だけでなく、客観的なデータと学術的な分析によって明らかにしたい。その問題意識から、早稲田大学との共同研究が始まりました。
2026年の研究テーマは「会社を譲る」という決断
2026年9月16日、早稲田大学産業経営研究所とインクグロウは、第4回となる共同研究報告会を開催しました。今回のテーマは、「データで読み解く『会社を譲る』という決断」です。これまでの研究で取り上げてきた譲受企業側の視点に加え、今回は会社を譲渡した経営者に焦点を当てました。
研究では、実際に会社を譲渡した経営者へのアンケート調査やインタビューを通じて、主に次のようなテーマを分析しています。
・経営者は、なぜ会社を譲渡する決断をしたのか
・どのような要因が売却のタイミングに影響するのか
・M&Aを経験した経営者は、何に満足し、何に不満を感じるのか
・売却価格だけでは測れない、経営者の納得感とは何か
研究報告では、早稲田大学の久保克行教授による統計分析に加え、山野井順一教授と当社取締役副社長の石垣圭史による定性分析が紹介されました。
特に重要なのは、M&Aの成否を考えるうえで、取引条件だけでなく、経営者自身の納得感や従業員・取引先との関係にも目を向けていることです。会社を譲るという決断は、単なる経済合理性だけで説明できるものではありません。
創業者であれば、自ら育ててきた会社への愛着があります。事業を引き継いだ経営者であれば、先代から託された想いがあります。そうした経営者の人生や企業の歴史まで理解することが、M&Aアドバイザーには求められるのだと、私たちは考えています。
次回予告|【後編】研究を通じて、私たちが目指す「正しいM&A」とは?
今回ご紹介した早稲田大学との共同研究は、単に研究成果を発表するための取り組みではありません。私たちが目指しているのは、そこで得られた知見を実際のM&A支援に生かし、中小企業のより良い未来につなげていくことです。では、インクグロウが考える「正しいM&A」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
そして、その実現に向けて、私たちはどのような価値観を大切にし、日々の仕事に向き合っているのでしょうか。次回の後編では、「正しいM&A」を実現するための私たちの考え方と、インクグロウで働くことの意義についてご紹介します。
ぜひ、次回もご覧ください。