2026年9月11日、マレーシア・クアラルンプール近郊のSunway Pyramid Convention Centreで「COS-MIC CCIP ASIA CONFERENCE 2026」を開催しました。
主催はAAB ASIA SDN.BHD.とDBS ASIA MANAGEMENT SDN.BHD.。
在マレーシア日本国大使館、MDEC、JETRO、国際交流基金クアラルンプール日本文化センター、ANIMAS、CAKAP JEPUNほかにご後援いただきました。
テーマは「消費から『共創』へ」。日本のコンテンツを“輸出して消費してもらう”段階から、マレーシアやASEANの企業・クリエイターと“一緒につくる”段階へ進むためのB2Bカンファレンスです。全セッションに日英同時通訳を入れ、参加は無料・事前登録制としました。
会場のSunway Pyramid Convention Centre
開会:JETROとMDECからのメッセージ
開会にあたり、JETROクアラルンプール事務所の新田浩之副所長と、マレーシア・デジタル経済公社(MDEC)のAmir Azlan氏にご挨拶をいただきました。
新田副所長は、日本政府がコンテンツ産業を戦略分野に位置づけていること、JETROとMDECが協力の覚書を結び、日馬の企業とクリエイターをつなぐ取り組みを進めていることを紹介。Amir氏は、2030年までにマレーシアを地域のデジタルコンテンツ・ハブにするという目標と、その柱の一つに「日本をはじめとする国際共同制作」を掲げていることを語りました。
数日前には、マレーシアのスタジオが手がけたゲームがNintendo Directで発表され、バンダイナムコがアジアで販売するというニュースもあったそうです。日本側もマレーシア側も、同じ方向を向いていることを確かめてから、本題に入りました。
なぜフェスの主催者がカンファレンスを開いたのか
COS-MICは、私たちAABが自社で育てているマレーシア発のポップカルチャーフェスティバルです。4月の「COS-MIC Spring Festival 2026」には約2万人が来場しました。
フェスを続けるなかで強く感じていることがあります。マレーシアには日本のアニメや音楽を愛するファンが確かにいる。ただ、その熱量の多くはまだ「消費」で止まっている。現地の企業やクリエイターが日本側と一緒に作品や事業をつくる回路は、ほとんど開いていません。
フェスが「ファンが集まる場」だとすれば、このカンファレンスは「つくる人が集まる場」です。数十年にわたって日本のエンタメをつくってきた当事者に、そのやり方を直接語ってもらい、現地のプレイヤーと同じ部屋で話す。それが今回の狙いでした。
開会のあいさつ
第1部:日本IPは「作品」ではなく「仕組み」で強い
第1部はアニメ・IP共創セッション「日本IPの強さと、マレーシアとの共同製作・IPローカライズの具体策」。登壇いただいたのは次のお二人です。
- 亀山泰夫氏:博士(学術)、iU超特任教授。1986年から2012年までADK、ウィーヴでアニメを中心とした映像コンテンツと周辺事業をプロデュース
- 渡辺哲也氏:円谷フィールズホールディングス 上席執行役員。アニメの権利ビジネス、事業投資、海外展開に精通
第1部:アニメ・IP共創セッション
亀山氏が示したのは、日本のアニメ産業の「伸び方」の変化です。
市場は2011年から2024年で3倍近くに成長しましたが、国内は1.6倍にとどまり、海外は8倍。DVDをマニアに売るビジネスから、世界の配信プラットフォームに権利を売るビジネスへ移った結果です。
一方で制作本数は横ばい。原因はクリエイター不足で、今新しく企画しても完成は4、5年先だといいます。だからこそ、世界のスタジオやクリエイターにチャンスがある。韓国のWebtoonを原作に日本で制作された『俺だけレベルアップな件』のように、原作がどの国のものでも世界で勝負できる時代になっています。
渡辺氏は、日本のアニメがどう見られ、誰がお金を出しているのかを解剖しました。地上波と配信の併用、東京MXから生まれた『鬼滅の刃』のヒット、そして製作委員会。出版社、玩具メーカー、レコード会社、放送局、ときにはコンビニまでもが出資し、放送と同時に商品、音楽、キャンペーンを一斉に動かす仕組みです。
ここがこのセッションの核心だと私は受け取りました。日本のIPが強いのは、作品が面白いからだけではありません。
放送、配信、商品化といった窓口が一つの作品を中心に設計され、権利が幾重にもお金を生む。渡辺氏はマレーシアとの協業を、①マレーシア企業が製作委員会に出資しアジアの窓口を持つ、②IPを共同開発する、③アニメそのものを一緒につくる、という3つのステップで示しました。「仕組み」ごと共有できなければ、共同製作も単発で終わってしまう。その道筋が具体的に見えた時間でした。
日本のアニメを支える、放送・配信・商品化のエコシステム
第2部:40年分の「ヒットのつくり方」を、アジアに開く
第2部は音楽セッション「J-POP/アジア戦略、時代を超えるアーティスト・プロデュースの極意」。音楽プロデューサーの鎌田俊哉氏と、モデレーターのZepp KL支配人・本多真一郎氏の対談です。
第2部:音楽コンテンツのアジア展開セッション
鎌田氏はプロデュース歴40年以上。山下達郎氏のムーン・レコードに参加し、近藤真彦、少年隊、SMAP、嵐、Kiroro、MISIA、倉木麻衣といったアーティストを手がけてこられました。2010年からは中国に進出し、スライドでは中国版「Produce 101」(2018〜19年)で音楽ディレクターを務めた経歴も紹介されました。
モデレーターの本多氏は、ブキットビンタンの2,500人規模のホールZepp KLを運営し、上海、香港、シンガポール、台湾、クアラルンプールと計20年以上、現地に住んでJ-POPを届けてきた方です。日本の内側からヒットをつくってきた人と、アジアの現場でそれを届けてきた人。この組み合わせだからこそ、話が理念で終わらず現場の話になりました。
印象に残ったのは、鎌田氏のこの言葉です。「日本のやり方は世界では通用しないと、痛いほど経験してきた。日本のアーティストをただ売ろうという考えは全くありません。一緒に新しいIPを作っていきたい」。中国では、まず縦読みの漫画をつくり、その世界に合わせてアイドルをデビューさせたそうです。同じやり方で、マレーシアのアーティストと日本のクリエイターで新しいIPをつくりたいという提案もありました。
また、日本の強みとして挙げられたのがアニメソングです。オープニングは1分にも満たないのに、主人公の生き様や夢、涙と笑顔が凝縮されている。鎌田氏はそれを「最高のプロモーションビデオ」と表現し、マレーシアでアニメをつくる人たちにも参考にしてほしいと語りました。
鎌田氏の著書『ヒットのつくり方』も紹介された
後半には、今年4月に刊行された鎌田氏の著書『ヒットのつくり方』も紹介されました。流行は偶然ではなく、つくり方がある。その前提に立つと、マレーシアのアーティストやレーベルにとっても、日本と組む意味は「人気の借用」ではなく「方法の共有」になります。
質疑では、Kiroroの話題も出ました。客席から「Kiroroの曲はマレーシアでは定番で、ある世代以上はみんな歌える」という声が上がると、鎌田氏は来馬前にボーカルの千春さんから預かってきた言伝を紹介しました。「マレーシアやアジアの人たちとデュエットしたい」。推薦したい人がいればどんどん連絡してほしい、と。消費から共創へというテーマが、その場で具体的な話の形をとった瞬間でした。
質疑応答:客席から立ち上がる人たち
今回いちばん手応えを感じたのは、質疑応答の時間でした。マイクを握ったのは、マレーシアのクリエイティブ企業やグッズ制作会社の方、インドでエンタメ事業を手がける方、日本でのデビューを目指す歌手。聴講ではなく、自分の仕事にどう活かすかを具体的に尋ねる質問が続きました。
- 日馬の協業で足りないものは? 亀山氏は「国際共同制作を組み立てられるビジネスプロデューサーが、日本にも少ない」。渡辺氏は2Dアニメーターの育成を挙げ、一話まるごとマレーシアでつくれるスタジオが育てば、発注先ではなく共同制作の相手になれると答えました。
- 製作委員会は村社会では? 亀山氏は「日本企業でも新規参入は難しい」と認めたうえで、10本やって1本当たるかの世界に付き合い続けられるかが鍵だと語りました。
- グッズの許諾に半年以上かかる 渡辺氏の答えは「ものの品質と、人間関係」。
- 日本でのデビューを目指すには? 鎌田氏は「今の日本のZ世代に響くのは、サウンドより言葉」。歌のうまさより、伝えたいメッセージが大事だと語りました。
- J-POPとK-POPの差は? 鎌田氏は国の後押しの差を指摘。本多氏は「アニメと連動できるのはJ-POPだけの強み」と補足しました。
客席から次々と質問が寄せられた
「消費から共創へ」というテーマは、こちらが一方的に掲げるものではありません。現地の人たちが自分の言葉で問いを投げ返してくれた瞬間に、はじめて成り立ちます。その手応えが、この日いちばんの収穫でした。
おわりに:次は「一緒につくる」番だ
約3時間、アニメと音楽という日本の二つの柱について、それをつくってきた当事者から直接話を聞くことができました。登壇してくださった亀山さん、渡辺さん、鎌田さん、本多さん。後援いただいた各団体の皆さま、そして会場に足を運んでくださった皆さまに、心から感謝します。
カンファレンスは、話をして終わりではありません。この日に生まれた出会いを、共同製作や事業という形にしていくことが、私たちの次の仕事です。
COS-MICはマレーシアからマニラ、ジャカルタへと広がり、2027年には東京での開催を目指しています。ファンが集まる場と、つくる人が集まる場。その両輪で、アジアのエンタメを「消費」から「共創」へ動かしていきます。