日々メインファシリテーター(講師)として子どもたちに授業を届けつつ、9月から始まるオンライン教室:深めるコース「人体」の制作も担う、花岡太一さん(以下たいっちゃん)。
今回同じくメインファシリテーターを務めるあつし(向 敦史)がインタビュアーとして、たいっちゃんが3年前に初めて制作した授業「人といきもの編」の話を通じて、授業にかける想いや情熱に迫りました!
▼プロフィール
花岡太一(はなおか たいち)
愛称"たいっちゃん"メインファシリテーター・授業制作
大学卒業後、「お、ねだん以上ニトリ♪」に入社。物流・店舗マネジメント・商品部など11年間経験。退職後コーチングや心理学を学び日本コーチカウンセラー連盟のプロ認定を取得。また、カンボジアの孤児院で1ヶ月過ごした経験もあり。ワクワクすること、素敵な人に出会えるチャンスをつくりたく、2021年1月に探究学舎に参画。趣味は海外旅行、卓球、ゴルフ。
■嫌われ者のスズメバチに密着
ー探究学舎では、主にどのような業務をしていますか?
授業制作とメインファシリテーター、子どもたちのホームルームを担当しています。初めて完全に自分が作った、と言えるのは3年前の「人といきもの編」のスズメバチの回。ぼくが参加したときには「人が嫌がる生き物」というテーマは決まっていたので、そこからスズメバチについて調べていきました。
ーまずは調べることから始めるんですね
ぼくは蜂が何年生きるかも知らなかったので。本を調べて情報をいっぱい集めました。太郎さん(森田太郎講師/たろちゃん)から「おもしろいよ」と渡された本を読んで、そこからのつながりでYouTubeやNHKの番組を見たりもしましたね。ちなみに、蜂ってどれくらい生きるか知っていますか?
ー……8ヶ月ですか?
蜂だけに?(笑)。働き蜂は半年ぐらいしか生きられません。女王蜂だけが越冬して翌年の卵を産み、子どもを育て、次の女王蜂が生まれた後に死んでしまうんです。その短い期間中に、あれだけ大きな巣を作り上げることに、ぼくは驚きとロマンを感じました。これは子どもたちに伝えたい!届けたい!と思いましたね。
ー女王蜂は1匹だけで越冬するんですか?
はい。1人だけで、朽ちた木を掘って越冬します。羽根と足は閉じた状態で、向きはたぶんこんな感じ。冬場に朽ちた木を割るといろんな所にスズメバチがいますよ。冬眠する女王蜂の体の中にはすでにオス蜂の精子はいくつか入っていて、選んで受精するらしいです。そうして冬眠後は壺をひっくり返したような形の小さな巣を作って、卵を産んで、働き蜂がある程度できるまで1人でやっているんです。
ー私たちがよく見る大きな巣の初期段階は、女王蜂がひとりで作るんですね
そう。なんか一生懸命に生きてるんですよ、彼らも。
ー巣の材料は何なんですか?
木屑と自分の口で作れる蝋です。木をかじって木屑にして、自分の唾液と絡めて塗っていくみたいな感じ。スズメバチの巣がマーブル模様になっているのは、働き蜂が取ってくる木の種類が違うからなんです。白っぽい木から取ってくる子もいれば茶色っぽい木から取ってくる子もいるので、繋ぎ合わせていくと単純にマーブル模様になってしまう。そして一匹の働き蜂は、今日はこの木、明日はこの木、ではなくて毎日同じ木から取ってくるんですよ。
ーおもしろいですねぇ。じゃあ同じ木しか生えてなかったらマーブル模様にはならなかったりして。
可能性としてあると思います。でも、同じ種類でも違う木だと巣の色が違ったりするんですよ。あと、最初作った場所が手狭だなと思ったら引っ越しもします。いきものは、本当におもしろいです。
■体験から生まれる感動は、電波を超える
ー実際に蜂を見に行ったときはいかがでしたか?
プロのスズメバチ駆除ハンターと一緒に蜂の巣を取りに行ったんですが、最初、めっちゃ怖いんですよ。防護服を着ないので、怖くて相当離れて見てました。
ーえっ? 防護服なしだったんですか?
蜂は自分の子どもを攻撃されない限りは攻撃してこないので、一番最初に蜂を確認するときはプロの方も防護服は着ません。攻撃するときは「カチカチ」と歯を噛み合わせて警告音を鳴らしてくれるので、わかるんです。なので巣を取るときまでは防護服を着ないですし、凶暴なキイロスズメバチ、オオスズメバチ以外は危険がない、とプロが言ってました。比較的おとなしいコガタスズメバチは一応着るけど防護服なしでも大丈夫、と。自分は絶対無理だと思いましたけど(笑)。
ースズメバチの種類によって違いがあるんですね。授業で使いたい、狙った種類はあったんですか?
オオスズメバチですね。ぼくたちはやっぱり、トップオブトップが取りたくて(笑)。最後に行った現場では、オオスズメバチが出入りしてたので「これは間違いない!」と思ったのですが、全滅させられたクロスズメバチの子どもを食べにきていたオオスズメバチだったんです。だからオオスズメバチの巣は取れなかったですね。凶暴な種類ですが、自分たちの子どもではないので駆除してもそんなに暴れることもなく、比較的安全でした。
ー危険を感じたことは?
小さな倉庫の中にできた巣を取る際、確認のために近づき過ぎて襲われそうになりました。プロの方に「さすがにやばいです。いったん引きましょう」と言われたときには焦りましたよ。防護服を着てなかったので白いタオルを頭に巻きましたけど、気休めでしかないので。
ー引くときは、そろりそろり、と下がる感じで
はい、蜂には走る生き物を刺すという本能があり熊さえ刺したりするので。前を向いたままゆっくり後に下がっていきました。
ーそういった体験をすることは授業に影響があるのでしょうか?
めちゃくちゃあると思います。本や動画ではやはりリアリティが薄いと思うんです。取り出したハチの巣や幼虫を触ってみて「こんな感じになってるんだ」という感覚や、実際に羽音を聞いたときに「どうしてこんな音がするんだろう?」と湧き起こる疑問、ハチの針を見たときの恐怖感とか。本の知識を教科書的に説明するのであれば必要ないかもしれませんが、子どもたちに感動してほしいなら、自分が感動したことを届けたいなら、実際に体験することは必要だと思います。
何回もハチに触れていると、だんだん慣れてくる感覚もありました。最初は怖いだけだったのが、ここまでは大丈夫だな、と思うようになってきて。彼らは何がしたくて怒ってるんだろう、ということがわかってくると近くで撮影できるようにもなってきました。花の蜜を吸ってるときは近づいても全然平気なんですよ。卵を守ろうとするときしか、ほぼ怒らないんです。そういったことも授業で表現できたと思っています。
ー授業は、結局のところ情報と映像ですよね。YouTubeを見たり本を読んで編集して、既存の映像を購入して作ることもできます。それでも現地に行くということの直接的な意味は、どのあたりにあるのでしょう?
子どもにとって、知ってる人がやってる、ということが大きいと思います。プロハンターみたいな人が出てきて蜂の巣を取っているのと、いつも見ている先生や天の声、ホームルームメンターが蜂の巣を取っているのとでは、子どもたちの受け取り方が全然変わってきます。「うわ、たろちゃんやってるよ」みたいな。「たいっちゃん、やばい」とか、応援したりハチに襲われてほしい、という気持ちが出てきて(笑)。授業に対する親近感、距離感は全く違うものになります。
ーぼくらがやることで自分の世界の話になるんですね。伝える言葉や熱の乗り方など、作り手としての変化はありますか?
伝える面では、言葉選びが変わってきますね。体験したからこそ出てくる熱量、ワクワク感は、電波を通しても伝わるので。
ー感動は電波を超えると?
超えます。感動も波なので。
■何もかもが濃密な、探究学舎の授業づくり
ー授業を作っていて、いちばん大変だったのはどんなことですか?
自分の中でおもしろいと思って作っても、そのままでは他の人たちに受け入れられないことですね。探究学舎では、授業をリリースする前にプレ授業をする「ゲネプロ」があるのですが、ゲネプロのあとのフィードバックが本当につらい(笑)。めっちゃいいじゃん、と思って作ったものが、「ああした方がいい」「こうした方がいい」と、結構、言葉がくるんですよ。細かい具体的なこともあれば抽象論もあったりして、自分が全否定されたような気になってしまうんです。そこからどうやって作り変えたらいいんだろう?と悩みますし、ゲネプロは結構大変です。
ーよりいいものを作るためのフィードバックではあるものの、気分は落ち込んでしまうかもしれないですね。そのあとはどうやって立て直していったんですか?
初めて作ったものだったからすごく落ち込んで、困って、だんだん腹が立ってきたりもして。そうしたら、声をかけてくれた仲間がいました。彼の前でもう1回プレ授業をしてみたら、「え、全然いけるじゃん」みたいな言葉をくれて。「あとは作り方だけだよ」と、一緒に考えようと言ってくれたんです。本当に救われたし、安心したのを覚えています。スライドやアニメーション作りで伴走してくれた仲間もいました。何を伝えたいのか、どうやったらより伝わるか、一つ一つに向かい合って、磨いて、ギリギリで完成した授業でした。
ーなんとかして届けたいという思いがあったんですね
そうです、子どもたちが待っているのがわかっているので。あとは「やるぜ!」という気合いでやりました(笑)。授業が子どもたちに届いて、楽しんでくれたときには、心からほっとしましたね。
ーどんなリアクションから「届いてる」と感じましたか?
興味を持っている表情や一生懸命聞いてる様子は、画面からでもわかります。ぼくの授業は100点ではないかもしれませんが、最初の授業でしっかり届けられた、という感じがありました。
ー授業づくりって、どのタイミングで「終わり」なんでしょうか?
ええと、授業開始1時間前くらいでしょうか。
ー(笑)
それは半分本気、半分冗談ですけど(笑)。調べること、スライド作り、アクティビティ、考えれば考えるほど「もっとよくなるかもしれない」と思ってしまうので、締め切りを設けてそれで区切っています。
ー例えば、授業をした60分間で終わりなのか。それとも子どもや保護者からのリアクションが返ってきて終わるのか。それはどこまで続いていくのだろう、と僕も考えてしまいます。
授業を届けたことについては一つの到達点として捉えていて、その先はあまり考えたことはありませんでした。ただ、授業を終えた後にスズメバチの巣を見にきて「これか!」と驚いている子どもたちの様子を見ると嬉しくなりますし、そこからまたいろんな話をしたくなりますね。そう考えると、全ての子どもが全てのことに興味を持つわけではないですが、それぞれに興味を持った授業について「終わり」はないような気もします。
ー3年ぐらい前に作った授業を、 YouTube で見た方がいまだに報告してくれたりしますからね。
探究学舎の授業は神がかっておもしろいものが多いし、子どもたちが熱中して行動が広がっていったりするのがいいですよね。
ー今までやった中で、おもしろいと思う授業は?
ナガミヒナゲシと、シロツメクサ団子。シロツメクサがマメ科で、顕微鏡でないと見えないような小さな豆が取れることを知って、「豆団子ができるぞー!」という発想から生まれた授業ですね。これは思考回路がバグってる人しか思いつかないんじゃないかな(笑)。ピンセットで一つずつ取り出していくから撮影が終わらなくて、本当に大変でした。
ーやっている途中でイノベーションが起きましたよね?
起きました!もっと早く豆を取り出すために、茶漉しを使って脱穀して、豆だけ取り出すことができたんですよね。こうやって発明品が生まれたんだなあって(笑)。授業を作っている過程もおもしろいことが起こって楽しかったです。
ほかにも、どの塩分濃度が人にとっておいしいのか、適切なのかを実際に飲んで検証したり、カップラーメンを一から手作りしたりもしましたね。あと、すごい授業だと思ったのは豚の屠畜についての授業。食肉の現場を子どもたちに届けるということは、ぼくたちにとっても勇気が必要でした。何度もディスカッションをして、ぼくたちは「本物を届けるんだ」という想いのもと、これは必要だと決断して作った授業だったので心に残っています。
ー入社してから本当に多くの授業に携わってきましたね。最後に、太一さんにとって授業作りとは?
ぼくにとって授業作りとは、子どもたちが「夢」と「好き」に出会える場をつくること。ぼく自身、これがすごく好きだ!というものは元々ないんです。何かちょっとしたきっかけを与えてもらって、調べてみるとおもしろくなってくるというタイプなので、探究学舎に入ってから出会った、元素や地球、いきもののおもしろさはすごく新鮮でもっともっと深掘りしていきたいと思っています。これからも、そういうものを通して子どもたちが「夢」や「好き」に出会える場をつくっていきたいです。
ーありがとうございました!