UTECおよびDNX Venturesより総額4億円の資金調達を実施した「アダコテック」の技術を支える二人に、産総研特許技術であるHLAC技術についてや、製造業界の今後について聞きました。
左:取締役システムソリューション部長 伊藤 桂一
2001年頃から、機械学習や遺伝的アルゴリズムといった技術を利用した研究開発、製品開発に従事
半導体設計、防犯/見守り、外観検査等様々な用途に向けた開発を行い、
現在は国立研究開発法人産業技術総合研究所で発明されたAI技術を利用した事業展開を行っています。
右:システムソリューション部 伊部 卓秀
画像/動画/音データなど様々なデータを対象として、産業技術総合研究所で発明されたAI技術を用いた製品の開発などをおこなっています。
機械学習エンジンからユーザーインターフェイスの部分まで幅広く開発しています。
◆あらためて産業技術総合研究所についてや、アダコテックが追求されてきた技術について聞かせてください!
まず産業技術総合研究所(産総研)についてですが、経済産業省が所管する日本を代表する公的研究機関で、日本の産業や社会に役立つ研究や実用化を目指し日夜研究開発をしています。
国の研究機関は「研究開発法人」という法人になっていますが、産総研は「特定国立研究開発法人」に指定されています。(https://www.aist.go.jp/aist_j/news/au20161001.html)
国内の研究機関の中で、産総研の他に「特定国立研究開発法人」に指定されているのは理化学研究所(RIKEN、理研)、物質・材料研究機構(NIMS)の2つのみです。産総研はその中でも役割が産業界のイノベーションに貢献するというもので、長い伝統がある組織です。
アダコテックは産総研が研究するAI分野の中でも、HLAC/CHLACという技術をコアに開発を進めてきました。基礎理念自体は1970年~80年頃からできていましたが、当時のマシンスペックでは実装して動かす環境がなく、最近花開いた技術です。
産総研の技術力や脚光を浴びるきっかけになった事例ついて
これはテロ対策の一貫で行われた「無人監視・認識技術」のコンテストで、MITなど名だたる大学を抑えて産総研の技術が世界1位になりました。
◆MITを抑えての世界1位は迫力が増しますね。AIというのも広義ですが、他のAI企業との差別化や強みは?
AIの根本的な話でいくと、AIで画像認識という括りにしても、「見つけたいのか?識別したいのか?計測したいのか?」等の様々な用途があります。
例えば、人の顔を認識したいのか、スマホの液晶パネルを検査したいのか?という対象の話と、単純に欠陥を見つければ良いのか、欠陥の種類を識別したいのか、欠陥の大きさを計測したいのか等、色々目的があります。
もともと昔的なAIというのはその目的に対して、特徴量を定義しそれをAIで処理をするのですが、この特徴部分が問題ごとにヒューリスティックに作られたものが多く、事例や課題毎に特徴量定義する必要があり転用が難しいという問題があります。
また我々の技術の対抗馬として深層学習(DeepLearning)がありますが、実際に使っているお客様の声を聞くと現場の課題が見えてきます。
例えば、工場の検査業務を「深層学習」で代替しようとした場合「大量の学習サンプル」が必要になります。また用意するデータの種類として不良となるサンプルデータも必要になります。
そもそも大量のデータサンプルという点でも一定のハードルがありますが、特に不良品のサンプルデータに関しては多く出るものではないため沢山用意するということが難しいという実情があります。
このように深層学習の場合では、沢山の学習データを用意する必要があることや、結果が出た際にも複雑な式を自動で組み上げるという形となるため、何が起きたのかが分かりにくく・把握がしずらいという問題もあります。
一方で我々アダコテックの技術は「シンプルな線形式」で表現できる形態を目指しているため、途中の計算の見える化が容易、ブラックボックス化しないというメリットがあります。
また、シンプル=少ないデータで学習を行うことができるため、深層学習と比べて「10分の1・100分の1」のデータ量で実装できる事や、現状の我々の枠組みとして、良品から逸脱しているものを不良と判定しているため、モデルを学習することに対して不良サンプルを必要としないというメリットもあります。
◆アダコテックの技術優位性まとめ
①深層学習と比べて、少ないデータで学習を行うことができる点。
②推論結果の可視化が行いやすくブラックボックス化を防ぐことができる点。
③良品だけで学習ができるため、不良データを必要とせず、また未知の異常にも対応が可能な点。
◆AIに携わっている期間が研究時代からを考えると20年近いと思いますが、当時を振り返って何か感じることはありますか?
そうですね、今は第3次AIブームと呼ばれていますが、私たちはその前からAIに携わっていたため、ブーム前の対応と、ブームが起きている今の好待遇のどちらも経験しています。
「ニューラルネット」ニュースとしてはIBMがPCでチェスのチャンピオンに勝ちましたくらいの時代に学生としてAIの研究に携わり、その後にAI技術を活用した技術開発を行う会社に就職しました。第3次AIブームが起きる10年くらい前です。その頃でも、AIに興味を持ってくれるお客様はいました。ただ、AIで出来る事/出来ない事の理解が解らず過剰な期待を頂かれる一方で、導入の前例がないため、なかなか予算を付けて頂けないケースが多々ありました。
「パラメーターとか調整とか面倒くさいからボタン一つで短時間で実行できるようにしてね。後、業務的に間違いは許されないので100%の精度がマストだから、完璧なものをお試し期間無料で提示してくれないと使わないよ。」などと、よく言われたのがAIブーム前でした。
その頃の営業の要請で、各種パラメータほぼほぼを固定して「ボタン一つで短時間で実行できる」ソフトを作っていって、お客様ごとに中を変えてみたいな感じだった。そうなると非常に手離れが悪い。やっぱりある程度、パラメーターを調整する余地を残すがあるなと、限界を感じていました。
Googleの影響でAIブームが始まると、お客様のAIの理解も進み、そもそもAIは万能ではないと実感されたお客様が増えてきました。また、徐々に事例が生まれはじめたため、FS段階からもお客様が費用を負担頂ける形になってきました。
「パラメータの調整方法などはノウハウとして社内に蓄積すべきだし、AIと言っても100%完全は無理なので、最終的には人間がジャッチすべきですよ。もちろん予算もつけますよ」と言われるようになりました。
そうなってくると、パラメーターとしてはある程度自由に決められる機構は当然としてあって、お客様側で試行錯誤してノウハウを蓄積して頂く環境を用意します。さらに、パラメータを自動で最適化する機能も提供する事で、お客様サイドでより簡便にAIを導入を進めて頂く事が可能となります。
ブーム前後の大きな違いとしては、「許せないという部分と、これくらいは許容できるという範囲」が生産者側も分かってきて、現実的な落とし所や議論ができるようになったことが大きいと感じています。
後半に続く
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