先日、第27回日本赤十字看護学会学術集会のランチョンセミナーに登壇し、「看護師採用で成果が出るSNS運用の共通点」についてお話しする機会をいただきました。
日本赤十字看護大学広尾キャンパスのランチョンセミナーの様子
看護師の確保は、いまや個々の病院の努力だけでは解決が難しい構造的な課題になっています。
紹介会社への依存度が高まり、採用コストは膨らみ続ける。
一方で、SNSという新しい採用チャネルに挑戦したものの、成果が出ずに更新が止まってしまった──僕たちは、そんな切実な声を数多く伺います。
今回は、当日お伝えした内容をもとに、看護師採用SNSの「失敗と成功の分岐点」を整理してお届けします。 先に結論を述べれば、SNS採用とは「アカウントを運用するツールの話」ではありません。
組織として、情報の発信体制・内容・仕組みを変えるという経営施策の話です。
看護師の「病院の選び方」は、すでに変わっている
まず押さえたいのは、看護師の情報収集行動の変化だ。
今、転職や復職を検討する看護師は、求人票だけで応募先を決めない。InstagramやTikTokで職場の雰囲気を確かめ、口コミサイトの評価と照らし合わせ、総合的に判断してから応募する。
職場選びの失敗が心身に与える影響の大きさを、誰よりも知っているのが看護師本人だ。「応募する前に、できる限り実態を確かめたい」というのは、きわめて合理的な行動なのである。
では、彼女たちが本当に知りたい情報とは何か。 人間関係、教育・プリセプター体制、夜勤の回数、残業や有給取得の実態、子育てとの両立、配属先の空気感──いずれも、求人票には書かれない「働いてみないと分からない情報」である。
看護師が本当に知りたい情報は、求人票の外側にある
給与や病床数といった求人票の情報は、どの病院も似たように見える。差がつくのは「求人票の外側」だ。この外側の情報を届けられる場所こそがSNSであり、だからこそ今、SNS採用が注目されている。
それでも多くの病院が失敗する──3つの共通パターン
ところが現実には、SNS採用に取り組んだ病院の多くが成果を出せずにいる。更新が止まったアカウント、月1回だけ学会参加やイベントの様子を投稿するアカウント、問い合わせゼロのアカウント。 私たちが医療機関のSNSを50以上支援し、500以上のアカウントをリサーチするなかで見えてきた失敗には、明確な共通パターンがある。
この点については以前の記事を参照いただきたい。
なぜ普通のSNS代行業者では看護師採用がうまくいかないのか|株式会社メドエックス
講演では、会場にこんな質問を投げかけた。
「転職を検討中の看護師なら、どちらのアカウントをフォローしますか?」 Aは夜勤体制や教育制度、配属先の雰囲気といった働き方のリアルを語るアカウント。Bは学会参加やイベント行事の報告が並ぶアカウント。
答えは会場でも明白だった。
看護師さんがみたいのはA、病院がやってしまいがちなのはB
しかし自院を振り返ったとき、Bになってしまっている病院は決して少なくない。ここに分岐点がある。
分岐点は「ペルソナを決める」こと
講演で最も強調したのが、この点だ。 同じ「看護師採用」でも、届けたい相手によって、伝えるべき内容も、トーンも、投稿すべき時間帯も、すべてが変わる。
たとえば、私たちは届けたい相手を大きく3つに分けて設計している。
新卒看護学生が知りたいのは、研修体制やプリセプター制度、同期の雰囲気。訴求すべきはフレッシュさと安心感だ。
転職を検討する3〜5年目が見ているのは、リアルな夜勤体制、スキルアップ環境、人間関係の実態。比較検討に耐える具体的な情報が要る。
育休明けなどの潜在看護師には、子育て支援制度や時短・夜勤免除、ブランクからの復帰実例。「自分にも戻れる」と思える共感の設計が欠かせない。
日本には、資格を持ちながら現場を離れている潜在看護師が数多く存在する。この層に「復帰できる職場のリアル」を届けられるかどうかは、一病院の採用課題であると同時に、地域医療の持続性に関わる社会課題でもある。
成果が出る病院の3つの共通点
失敗パターンを裏返せば、成果が出る病院の姿が見えてくる。
SNS採用で成果が出る病院の3つの共通点
①継続できる体制。
SNSを「専任業務」として組織に組み込み、担当者個人に依存せず週次で安定投稿できる仕組みを持っている。
②看護師目線の企画。
見栄えの良さではなく、転職検討中の看護師が本当に知りたい「リアルな働き方・職場の声」を中心にコンテンツを設計している。
③ターゲット設計。
届けたい相手を明確に絞り込み、その人に刺さる投稿に集中している。
この3つは、いずれも「動画のクオリティ」の話ではない。
組織の設計の話である。だからこそ、一度仕組みができれば、担当者が変わっても成果は再現できる。
実際に、高度急性期から回復期・慢性期、循環器特化型まで、機能の異なる複数の病院で取り組みを進めてきたが、いただく声には共通点がある。
「紹介会社一本だったが、自社サイトとSNS経由の応募が入るようになった」
「事前にアカウントで職場を知ってくれているため、入職後のミスマッチが減り、マッチする人材が増えた」
「新卒採用試験を例年より早く終えることができた」
注目すべきは、再生数やフォロワー数そのものではなく、
応募・問い合わせ・定着という採用成果に変化が起きている点だ。
SNSは目的ではなく、看護師と病院の「出会い方」を変える手段である。
「トップが動けば、組織が動く」
──これは経営施策である
私の講演に続いて登壇された横浜市立みなと赤十字病院の副院長間瀬氏のお話で、何度も繰り返されていた言葉がある。
「トップが動けば、組織が動く」。
SNS採用は、広報担当者や一部の若手に任せる「現場のタスク」ではなく、院長・理事長といった経営層が旗を振ってはじめて機能する取り組みだ
という指摘である。
実際、組織として取り組んだ発信は、就職説明会では到底届かない人数に波及していく。再生数が伸びるだけではない。
自院の教育体制や職場の魅力が言語化され、発信されることで、働いている職員自身が自分の職場の価値を再認識する。
このインナーブランディング効果は、採用の入り口だけでなく、スタッフの定着・離職率の低下にまでつながっていく
──間瀬氏のお話は、まさにその実感に裏打ちされたものだった。
ここまで来ると、もはや「どのSNSツールを使うか」という話ではないことが分かるはずだ。病院側には発信の体制と仕組みを変える行動変容を、応募者側には「この職場で働きたい」という行動変容を、同時に設計する。
これは組織として取り組む経営施策にほかならない。
だからこそメドエックスでは、運用の設計においても「経営施策」としての規律を重視している。たとえば──
・撮影・投稿は組織専用端末で行い、個人端末は使わない。
情報管理の責任を個人に負わせず、担当者が替わっても資産と運用が組織に残る形にする。
・投稿前に、必ず倫理確認のフェーズを入れる。
患者・職員のプライバシー、医療広告のルール、写り込みの確認。
医療機関の発信には、一般企業以上の慎重さが求められる。
上記は一例だが、こうしたガバナンスの設計まで含めて、はじめて「継続できる体制」は完成する。
「広告予算」ではなく「現場の何を語るか」の勝負へ
SNS採用ツールや広告予算としてみれば、メドエックスへの外注費は高く思えるかもしれない(それでも看護師一人あたりの採用成果報酬よりは安いのだが)。 しかし、我々が取り組んでいるのは、動画制作のセンスを上げることでも、広告予算の多寡でもない。
「誰に、現場の何を語るか」──この設計を通じて、病院が自分たちの魅力を"働いてほしい看護師"に届くように伝え、経営を圧迫していた採用コストを抑え、看護師不足による病棟閉鎖を防ぎ、地域医療を守ることだ。
この構造を理解すれば、看護師採用は資金力のある大病院だけが勝つゲームではなくなる。
教育体制、職場の人間関係、子育てとの両立──語るべき現場の物語を持つすべての医療機関に、チャンスがある。むしろ、地域に根ざし、一人ひとりの働き方に向き合ってきた病院ほど、語れるリアルは豊かなはずだ。
看護師不足は、一朝一夕には解けない構造課題である。
しかし、発信の体制・内容・仕組みを変えるという経営判断は、今日からでも下せる。
トップが動けば、組織が動く。私たちはこれからも、医療現場の隣で、その転換をともにつくっていきたい。
看護師採用SNSについてのご相談は、無料でお受けしています。
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株式会社メドエックス | 医療機関特化のSNS運用代行 × 看護師AIマッチング
右高 稜大|株式会社メドエックス 代表取締役
文章・構成・袈裟丸梨里子|株式会社メドエックス広報戦略顧問