前編では、潜在看護師さん3名が「なぜ現場を離れたか」をお話しいただいた。
後編では、より実践的なテーマ──「復職のリアルなハードル」「転職で騙された経験」「理想の働き方」「採用動画へのホンネ」──を掘り下げる。
復職を考えるかどうか、まず「そこ」から
「来年から幼稚園に入って午前中が空く予定なので、最近ようやく午前だけのパートを調べ始めました。病院以外も経験してみたい。ただ、どう調べればいいか分からなくて」(Bさん)
「ナースバンクから電話がかかってくるんですが、怖くて切ってしまう。自信がないんです。ゆっくり相談に乗ってもらって自信がついたら働く、という感じで、今はそっとしておいてほしい」(Aさん)
「今のライフスタイルに合う形で、仕事30くらいで社会とつながりながら人の役にも立てて、リフレッシュくらいになったら理想。ハードルはやっぱり"両立"で。子供が体調不良で休んでも助け合える職場か。そういう条件で探すと、なかなか出てこなくて疲れてしまう」(Cさん)
3名に共通していたのは「いきなりフルでは戻れない」という感覚だ。
医療行為への恐怖は根強い
復職のハードルとして「医療行為」も繰り返し語られた。
「医療行為はできれば避けたい。より暮らしに近い、デイサービスでの体調確認くらいならいいかなと」(Cさん)
「注射や採血を30年やっていないので、もうできないです。耳鼻科での仕事経験があるから、次もできれば関連したところがいいけど、"初心者大歓迎"で雰囲気が良いなら、少し心は揺れるかも」(Aさん)
一方、Bさんからは少し違うニュアンスも。
「私は大学病院での経験上、わりとガッチリやりたい気持ちもあるんです。急なオペや帝王切開、初対面の方とのアナムネ(問診)が面白かったので。患者さんと仲良くなれるのも嬉しいし、やりがいも欲しい」(Bさん)
「研修からお給料が出るなら行く」「でも職場の雰囲気が一番大事」
復職前の研修制度についても聞いてみた。
「研修からお給料が出たらありがたいですね」(Cさん)
「1,800円くらい出るなら、週1で行きます」(Aさん)
ただ、お金より大事なものがある、とCさんは続けた。
「最低時給でもいいんです。職場の雰囲気が一番大事で。エージェントさんが"子供がいても働きやすいですよ"と言っても、実際その空間にいないと分からないことは分かるじゃないですか。一日見学して雰囲気を見て、合わないと思ったらお互いにそれで終われる。そういう"お試し"があればハードルが下がる」(Cさん)
「病院見学って、そもそも普通はないんです。試験を受けて合格しないと内部には入れない。面接=見学という形が一般的で」(Bさん)
ここで構造的な溝が見えた。
看護師側は「就職するかどうか分からないけど、ラフに見に行きたい」。病院側は「来てくれるなら面接を前提に」。この非対称が、復職の入口をふさいでいる。
「転職で2回、話が違いすぎた」──ギャンブルとトラウマ
これまでの転職経験を聞くと、深刻な「話が違う」被害が明らかになった。
「民間企業と検診センターに、どちらもエージェント経由で入ったんですが、両方とも契約内容と全然違って。リモートのはずが出社しなきゃいけない、人手不足すぎてトイレにも行けない。次も"ここなら子育てと両立できます"と言われ面接で良い印象だったスタッフと働くはずが、全然違う部署に。しかもいきなり"その人が辞めるから数ヶ月引き継いでください"と。それが2回あって、結構トラウマです。こっちは人生をかけているので、嘘を言っちゃダメですよ」(Cさん)
「産休の代替で1年来てくれ、という求人でほぼ騙されて入って、みんな1ヶ月で辞めた、という例もありましたよ」(Aさん)
こうした経験があるからこそ、「入る前に雰囲気を確かめたい」「お試しで働いてみたい」という要望が生まれる。転職への慎重さは、単なる消極性ではなく、リアルな傷つき体験の蓄積なのだ。
パートからなら「全然あり」
「そもそも正社員に転職したいというのが絶対条件ではないので、今の生活にはめ込める形のパートなら全然あり。子供が小学校・中学のタイミングで少しずつステップアップというのが理想」(Cさん)
「アクセスが一番重要。近場に畑違いの職場しかなくても、"すごく働きやすそう"と思えたら、一歩出ちゃうかもしれない」(Bさん)
「給与が下がっても、責任範囲を小さくしてほしい。低いステップから入っていきたい」(Aさん)
仮に同じ業務を担う常勤職員より時給を下げることについては、
「申し訳なく思うので、数百円下げてもいいです。ただ、あまりに低くされると嫌かも。1,500円くらいなら。1,200円を切るとほぼ最低時給なので」(Cさん)
採用動画のホンネ──リアルがみたい
看護師採用SNS動画について、率直な感想を聞いた。
「何気ない1日を切り抜いたみたいなリアルな現場を知りたいですね」(Bさん)
「控室でお弁当を食べている人とか、ある日のお昼風景を自然に映したもの。事前に許可を取っていても、さりげなく見えた方がリアルさを感じます」(Cさん)
「一人のナースを追いながら一日の流れを映すと、"こうやって働けるんだ"と伝わりやすいかもしれませんね」(Aさん)
「上司・先輩と後輩が並んで"先輩のここはまだこれから"とリアルに話して表情が見える方が伝わる。"残業も週1は実はあります"と言われた方がクスっとして、"それくらいならいいか"となる」(Cさん)
SNSアカウントを作っただけでは、採用は変わらない
──心臓血管研究所附属病院、半年37名自己応募の舞台裏
ここで、メドエックスが撮影協力した心臓血管研究所附属病院の事例を紹介したい。
この病院では、採用計画において明確な目標を設定していた。「紹介会社経由ではなく、自己応募での採用に重点を置く」というものだ。
その目標から逆算して設計されたのが、手術室のリアルな雰囲気を伝えるドキュメンタリー風の動画だ。結果は数字が示している。
動画の再生数は約50万回を記録。そして半年で37名の自己応募が集まった。
中小規模の病院における自己応募は、年間5〜10名が一般的だ。半年で37名という数字がいかに異例であるか、採用担当者であれば即座に理解できるはずだ。
ただし、この動画設計はあくまで「手術室のリアルを伝えたい」という目的に特化したものだ。座談会でも明らかになったように、「先輩と後輩の関係性」「スタッフ同士のコミュニケーションの風通し」「自分が受け入れてもらえるかどうか」という空気感も、彼女たちは非常に重視している。
そうした「職場の人間関係のリアル」を伝えるには、手術室の動画とはまったく異なる設計アプローチが必要になる。
その点については、また別の回で詳しく解説したい。
右高稜大
LINEで連絡が来ることへの本音
最後に、エージェントからLINEで連絡がくることについても聞いた。
「返信もしていないのにまた来ると、"空気を読んで"と思ってしまう。そうなったらブロックですね」(Cさん)
「"今日は〇〇の日です"みたいなニュースはいらない。自分が興味ないものは消してしまうかも」(Aさん)
一方、「これなら見る」という情報も挙げてもらった。
「インスタで採血のコツとかちょっとした豆知識は普通に見てしまう。あと、病院じゃない企業や保育園で働く人のリアルインタビューとか、"こんな働き方もあるよ"という情報は役立つ」(Cさん)
「身体・健康・暮らしに良い情報なら見るかも。クリックでポイントがもらえると、置いておくかもしれません(笑)」(Bさん)
まとめ─潜在看護師が「戻れない」本当の理由
今回の座談会を通じて見えてきたのは、次のような構造だ。
① 「未経験への恐怖」と「職場の人間関係」が離職の2大要因
スキル不足ではなく、未経験へ恐怖と、逃げ場のない職場環境が根底にある。
② 「話が違った」経験が、転職そのものをトラウマにしている
エージェントや採用側への不信感は、度重なる辛い失敗で形成される。信頼の回復には、実際に職場を体験できる仕組みが必要だ。
③ 「パートでゆるく戻る」入口が整っていない
責任範囲・時間・条件が柔軟なパート形態を求めているのに、それを「見学もせずに」決めなければならない構造が復職を阻んでいる。
④ 求めてるのはリアル感。ドキュメンタリーが刺さる
整いすぎた動画より、スタッフが自然体で話す"リアル感"のある動画の方が信頼される。ネガティブな情報も含めた正直さが、むしろ「行ってみたい」につながる。
潜在看護師70万人。この方々の一人ひとりに、「怖い」「こんなはずじゃなかった」「でもまた、誰かの役に立ちたい」という複雑な気持ちがある。
採用の問題は、広告や動画の「映え」だけでは解決しない。
入口の設計そのものを変える必要がある。
メドエックスは、その入口の再設計に真摯に取り組んでまいります。
ご協力いただいた看護師の皆様、貴重なご意見をありがとうございました!
右高 稜大|株式会社メドエックス 代表取締役
文章・構成・袈裟丸梨里子| 株式会社メドエックス広報戦略顧問