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世界に誇るエコシステム拠点を目指して。PSIが中国・四国を巻き込んだスタートアップ支援を開始

大学発スタートアップの成長加速を目的に、様々なエリアで続々と作られているエコシステム拠点。東京のGTIE、関西のKSAC、名古屋のTongali、九州のPARKSと、各地で大学発スタートアップのエコシステム拠点が立ち上げる中、中国・四国エリアでの拠点として広島大学を主幹機関として作られたのが『PSI(Peace & Science Innovation Ecosystem )』です。

主幹機関の広島大学及び共同機関による全15大学(*1)による取り組みで、2022年にエリア初となるGAP ファンドプログラム(*2)を開始しました。

今回は、PSIが目指す長期的なビジョンを探るため、プログラム代表者である田原栄俊氏(広島大学・副学長(産学連携担当))にインタビューを実施。PSIのビジョンや特徴について詳しく語ってもらいました。

*1 2024年3月末参画機関数:叡啓大学、愛媛大学、岡山大学、岡山理科大学、香川大学、川崎医科大学、県立広島大学、高知大学、島根大学、徳島大学、鳥取大学、広島大学、広島市立大学、広島修道大学、安田女子大学

*2 GAPファンド:大学の基礎研究の事業化を目的にした補助金のこと。返済の必要がなく、株式を譲渡する必要もない。

中国・四国から、世界に誇るスタートアップエコシステム拠点を

―まずはPSIが目指すゴールについて教えて下さい。

中国・四国地方にイノベーションを起こすスタートアップを生むためのエコシステムを作ることです。広島は世界的に見ても『平和』を想起する土地として有名で、その広島を含む中国・四国地方から平和希求を行いながら、スタートアップを生み出していきたいと思っています。

特に大学の研究者の中には、平和の追求のために研究に取り組んでいる方も少なくありません。彼らを支援することで、世界を平和にするような研究を社会実装できる仕組みを構築していきたいですね。

―そのようなゴールを目指す上で、モデルにしている取り組みなどはありますか?

今や国内でも大学を中心としたエコシステムが育ってきていますが、モデルとしているのは世界のエコシステムです。特に『人材』に関しては、海外のエコシステムは日本よりもずっと充足しているように感じます。

世界のエコシステムを参考にしながら人材を育て、将来的に世界中からPSIに学びに来るような環境を作るのが理想です。そのためには、経験者を育てるだけでなく自分たちで支援人材を育てていける環境づくりが欠かせません。

―人材の不足が大きな課題になっているのですね。

支援人材に限らず、地方で起業する経営人材の不足も大きな問題です。たとえば広島県は中国・四国で最も大きな県であるにもかかわらず、最も人口流出が激しい県でもあります。一見、自動車のマツダがあって産業が栄えているようにも見えますが、人口減少に伴う産業の衰退は、他の地方と同様、大きな課題になっているのです。

また、中国・四国で生まれたスタートアップが、地元で成長していける環境作りも重要視しています。PSIを通じて成長できると感じれば、東京や他の地域への起業家の流出を防げるため、とても意義ある取り組みだと思っています。グローバルを見据えるスタートアップが、地場産業を巻き込みながら地方の経済も活性化していける仕組みにしていきたいですね。

―グローバル展開と地域経済の活性化を同時に進めていくのですね。

「グローバル×地域」でシナジーを生み出していくのが理想です。たとえば海外の企業を誘致することで地域の活性化にも繋がりますし、グローバル展開の足がかりにもなります。そのような案件を、様々な分野で仕掛けていければ地域に好循環が生まれます。

実際に熊本では、台湾の世界最大手の半導体企業「TSMC」を誘致することで、地域経済の活性化に成功しています。空港も整備され、よりグローバル化が進むなどの変化が見られるので、広島でも同じような取り組みを進めていきたいですね。

『グローバル』と『地域の活性化』を同時に進めていく

―PSIを発足するにあたって、注力していく領域があれば教えてください。

広島にはマツダがありますし、中国・四国は自動車関連産業や造船業を含む製造業が強いので、それらの既存産業を盛り上げられる領域は注目しています。一方で、今まで中国・四国において行政などが取り組んできた既存産業に関する技術領域だけではなく、強くなかった産業も支援していきたいと思っています。

例えば、創薬領域です。広島大学では、敷地内にワクチンなど治験薬を製造できる施設を作っており、2年後に完成する予定です。大学の敷地内にワクチンの製造施設を作る計画は世界的に見ても珍しく、大きな注目を集めています。

―どのような役割の施設なのでしょうか。

ラボと量産工場の中間に当たるような施設です。医薬品を開発したら製造は工場に委託しなければなりませんが、小規模の製造なら大学内でも行えるようになります。試験的な小規模生産を大学内で行えることで、よりスムーズに事業を拡大していけるでしょう。

そのような施設があることで、これまで日本に進出してこなかった外資の製薬会社などを誘致できる可能性もあります。実現すれば、自治体にとっても大きな税収に繋がりますし、エコシステムも活性化していくでしょう。

アイルランドでは、国の税収の半分を製薬会社からの税金で賄っていると言われていますが、中国・四国地域でも同じように企業の誘致による地域経済活性化・雇用拡大を期待します。

―大企業とスタートアップはどのような役割分担になるのですか?

大企業とスタートアップそれぞれが強みを活かして、シナジーを活かせる仕組みを作っていきたいと思います。たとえば創薬のフェーズでは不確実性が高いため、スピーディーに動けるスタートアップの方が向いているのです。

一方で、スタートアップは大量生産が難しいため、そのフェーズでは大企業と手を組む必要があるでしょう。加えて、創薬フェーズはすぐに売上に繋がらないので、資金繰りが難しいのも問題です。そのような課題をPSIがサポートすることで、スタートアップの成功率を高めていきたいと思います。

大きく変わりつつある研究者たちの『起業』観

―近年、スタートアップ5カ年計画が発表されるなど、スタートアップ環境にも大きな変化が起きていますが、大学側から見た変化について聞かせてください。

国の政策によってスタートアップへの資金の流入が増えて、これまでできなかったことが可能になってきました。特に、前例のないチャレンジには大きなリスクとコストがつきものです。スタートアップを活用することでそのようなチャレンジにとりかかれる意義は大きいでしょう。

また、大学の先生たちのキャリアの中にも、スタートアップという選択肢が視野に入ってきているように感じます。アカデミアから起業した成功事例を見たり、行政から手厚いサポートが受けられると知ったりすることで、起業を考える研究者が増えてきました。

実際に私の周りの教授で「スタートアップをしてみようかな」と口にする方もいて、大きな変化を感じますね。

―研究者はどのような点でスタートアップを立ち上げることに魅力を感じているのでしょうか。

研究のステージを高められることが魅力です。スタートアップで成功すれば、その利益を研究費に充てられます。これまで少ない研究費で基礎研究を繰り返してきた研究者にとって、自分たちの研究で社会に貢献しながら、さらにレベルの高い研究ができるのは大きな魅力でしょう。

一方で、これまで『起業』には大きな経済的リスクがありました。しかし、GAPファンドから提供される資金は、「返さなくてもいいお金」です。リスクが少ないお金を使ってチャレンジできるからこそ、起業を考える研究者が増えているのではないでしょうか。

―起業のハードルが下がってきているということですね。

これまでは起業するとなれば、手続きなども自分たちで調べなければならず、面倒に感じる方も多かったと思います。PSIのような支援体制があれば、手続きなどもサポートしてくれるため、様々な意味で起業のハードルは下がっているでしょう。

一方で、課題になっているのは大学側の起業ルールです。広島大学では教授がそのまま起業した会社の代表になれますが、大学によっては代表になれないケースもあります。今後、PSI参画機関が連動して大学側のルールの制定や見直しなどによって、より起業のハードルを下げていきたいですね。

―どの程度まで起業のハードルを下げればいいのでしょう。

いたずらに起業のハードルを下げようとは思っていません。何故なら、起業『数』を増やすのが目的ではないからです。どんなにスタートアップの数が増えても、事業として成立しなければ意味がありません。成功する可能性が低い研究者に対して「No Go」とすることも、PSIの大事な役割だと思っています。

一方で、これまで研究一筋だった研究者たちに、「成功する事業モデルを作って」と言っても作れるはずがありません。一緒に事業モデルを考えるなど、伴走をしながら、いざ起業に値するフェーズにきた段階でスムーズに起業できるような環境を作っていきたいと思います。

―PSIとして具体的にどのような支援をしていくのか聞かせてください。

まずは、事業モデルの作成支援です。どんなに素晴らしい研究をしていても、それが事業として成り立つとは限りません。いかに基礎研究を事業として成立させるか、その点を一緒に考えながら起業に導いていきます。

また、起業後に大きな壁となるのがチームビルド、人材です。プランを実現できる人材をいかにして集めるかが成功を左右するため、その点もサポートしたいと思っています。他にも資金調達など、スタートアップの成長に欠かせない要素をワンストップで支援していくつもりです。

―これまでベンチャーキャピタル(VC)などが担っていたサポートを、代わりに行っていくということですか?

VCの代わりになるのではなく、VCをエコシステムに組み込みながら伴走支援してもらうつもりです。GAPファンドのステップ2に進むためには、VCの伴走支援が条件となるため、VCとのマッチングもしていきたいですね。

伴走支援してもらうのは必ずしもVCだけではありません。銀行、士業、コンサルタントなどスタートアップを支援してくれるプレーヤーとも連携し、必要に応じて支援をお願いしていきたいと思います。支援してもらうプレーヤーは中国・四国に限定する必要はなく、他の地域のエコシステムの方々にも支援してもらいながらスタートアップの成長を加速していくつもりです。

―そのような支援をしていく上で、取り組みの目標があれば聞かせてください。

私たちが大事にしたいのは、スタートアップの「数」ではなく「質」です。どんなスタートアップが増えても、その多くが5年も続かないようでは意味がありません。闇雲に数を追うよりも、しっかりと成功するスタートアップを増やしていきたいと思います。

ただ、スタートアップの「成功」の定義も様々で、もちろんユニコーン企業になれば成功といえるかもしれませんが、それだけが成功だとは思いません。売上が1億円でも、安定した経営を続けて、かつ地場の産業に貢献できていれば、それも成功だと言えます。規模に限らず、しっかりと自分たちのビジョンを達成できるような企業を増やしていきたいと思います。

―最後に、記事を読んでいる方へのメッセージをお願いします。

中国・四国地方の企業に、ぜひスタートアップと何か一緒にできないか考えてほしいと思っています。壮大な社会課題を解決することも大事ですが、地元の小さな課題を解決することも同じくらい重要です。

もしも、自分たちが抱えている課題をスタートアップと一緒に解決したいと思っている企業は、PSIの土台となる「一般社団法人ひろしま好きじゃけんコンソーシアム」に入っていただき、一緒にどんな取り組みができるか考えていきましょう。


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