皆さん、こんにちは。株式会社EMOLVA代表取締役の榊󠄀原清一です。
私が主宰を務める「人財版 令和の虎」も、回を重ねるごとに数々の熱いドラマが生まれてきました。日頃から多くのビジネスパーソンや求職者の方々にYouTube動画をご覧いただいていますが、今回は私の公式Wantedlyストーリーというこの場をお借りして、これまでの収録の中でも特に「傑作」であり、私自身の心にも深く刻まれている「第50人目の志願者・橋本望さんの回」を振り返りたいと思います。
この回は、ビジネスモデルの優劣を競うだけの場ではありませんでした。「限られた時間の中で、虎(経営者)との本気の対話によって、人間が目の前で劇的に変わっていく瞬間」――それこそが、この人財版というプラットフォームの真価なのだと、主宰である私自身が強く再認識させられた回です。
動画をすでにご覧になった方も、まだ見られていない方にも、あの1時間の背後で何が起きていたのか、私の視点から丁寧に解説していきましょう。
最初に:志願者の属性と、驚きの「過去」
まずは、今回登場した志願者の基本情報と、番組の前提となった状況から丁寧にお話しします。初めてこの記事を読む方にも、この回の特異性がすぐに伝わるはずです。
- 志願者: 橋本 望(はしもと のぞみ)さん(46歳/福島県在住)
- 最終学歴: 高校中退(中卒)
- 現在の職業: 自宅でのアロマセラピスト 兼 夜は居酒屋のホールサービス
- 希望する雇用形態: 社内ベンチャー(1回の出張につき10万円×12ヶ月=希望年収120万円)
- 志願者の特性: 事前の自己申告として、ADHD(注意欠如・多動症)傾向60%、ASD(自閉スペクトラム症)傾向30%、SLD(限局性学習障害)傾向10%という発達特性を抱えており、パニック障害の既往もある。
今回の彼女の持ち込みプランは、「ポコに未来を。発達特性を生かし能力一点突破の人財集団を作りたい」というものでした。具体的には、発達障害などの生きづらさを抱える人たちを、彼女独自のノウハウで「高い販売戦闘力を持つ飲食店のホールスタッフ」へと育成し、就労移行支援型で飲食店へ出行・指導する「社内ベンチャー」を立ち上げたい、という提案です。
実は、彼女の登場には大きな前日譚がありました。3枠に座る山本正社長(山本君)が、別の就活番組で一度彼女を大絶賛し、採用を内定していたのです。しかし「出社して社内のメンバーのメンタルケアを行ってほしい」という山本社長側の条件と、「福島から離れられない、出社が難しい」という橋本さん側の事情が折り合わず、一度破談になっていました。
つまり、山本社長にとっては「因縁の再プロポーズ」の場であり、他の虎たちにとっては「それほど優秀とされる人財が、一体どんなプランを持ってきたのか」と、期待と緊張感が入り混じる中でのスタートだったのです。
結果から申し上げれば、彼女は当初提示した「月1回10万円の出張飲食コンサルプラン」という形では「不採用」となりました。しかし、岡田龍馬社長と山本正社長の2人の虎から、プランの枠を超えた「セミナー講師依頼」や「将来的な飲食店立ち上げでの協力」という形での「実質ダブル採用(仕事のオファー)」を勝ち取るという、非常に異例で、ドラマチックな結末を迎えることになります。
なぜ、そんな奇跡的な着地が可能だったのか。時系列に沿って、彼女の「変貌」を追いかけてみましょう。
破綻していくロジックと、虎たちの厳しい牙
前半戦、橋本さんは自身の生い立ちや特性をまとめた紙芝居(ボード)を使い、非常に流暢にプレゼンテーションを行いました。暗記が苦手だからとボードを使う工夫も含め、その話しぶりは極めて知的で、当初は虎たちも「これは噂通り、相当なキレ者かもしれない」と感じていたと思います。
彼女が熱弁したのは、飲食店の「ホール業」に対する独自の深い洞察でした。 彼女は言います。
「飲食のホールサービスっていうのって、一般的に配膳って考えられがちなんですけど、実は営業だっていうことに気づいたんですね。私たちが一生懸命販売してお客様の卓に行って、交流の中からクロスセル・アップセルして単価を上げていく作業。そして、それでもお客様が気持ちよく飲食して楽しく帰っていただく。それが販売の仕事だという風に考えているんです」(橋本 望)
この言葉には、SNSマーケティングや接客のプロとして生きてきた私も、思わず「なるほど」と唸らされました。単に注文を引くだけでなく、顧客とのコミュニケーションの中から「ヒレ肉」や「おすすめの日本酒」を提案し、店舗の作対比(前年同月比売上)を向上させる。彼女自身の「販売戦闘力」の高さは本物でした。
しかし、ビジネスの議論が深まるにつれ、彼女のロジックは急激に噛み合わなくなっていきます。
問題は、彼女が「自分ができる接客」を「他人に教えるノウハウ(再現性)」に昇華できていなかった点、そしてコンサルタントとして致命的とも言える「対人関係へのスタンス」にありました。
彼女は、自分が現場でぶつかってきた経験から、「人がすぐ辞める現場は、上の人(店長やオーナー)のマネジメントや教育に問題がある。だから私が現場に入って、上の人も下の人も整える」と主張しました。これに対して、教育のプロであり数々の店舗を展開してきた竹の内幸弘社長から、鋭すぎる牙が剥かれます。
「コンサルはそんな感じじゃないです。コンサルする人たちは上が悪いことも分かってます。その上で下をどう教育した後に、上にそれを分からせるかまでやるんですね。なんですけど、そんなコンサルはいっぱいいるんですと。そんな中で、コンサルの経験もなく、上の人がこれがダメだからっていうことを語ってるのが不思議なんですね。1店舗の店員としてうまくやれたっていうだけで、これからいろんなところのコンサルっていう教育事業をやろうとしてるんで、はい、そんなのできんですかっていうことを聞いてます」(竹の内 幸弘)
この竹の内社長の指摘は、まさにビジネスの本質でした。プレイヤーとして優秀なことと、それを他社にコンサルティング(再現性を持った指導)できることは全くの別物です。さらに、現在働いている職場での実績を問われた橋本さんは、1月の売上が落ちた理由について、自身の体調不良による長期休暇など細部の言い訳に終始してしまい、虎たちを辟易させてしまいます。
「そんなこと多分聞いてないんですよね。1月がダメだった理由を教えてくださいって、誰も聞いてないじゃないですか」(竹の内 幸弘)
さらに私自身も、彼女の「危うさ」を見過ごせませんでした。彼女は自身の高い接客力を誇る一方で、「現在の職場で自分の能力を認めてくれている評価者は、元上司のたった1人しかいない」と告白したのです。その理由を問うと、「(自分が現場で)好き勝手やっているからだと思う」と。
コンサルタントとして他社に乗り込む人間が、自らの足元の職場で周囲と良好な関係を築けず、好き勝手に振る舞って孤立している。これはビジネスとして非常に大きなリスクです。私は動画の中で、彼女に対して率直な懸念をぶつけました。
「上の人から嫌われ傾向出ちゃっているんじゃないって僕は思ってるんですよ。オーナーさんのところに送り込んでね、喧嘩してこられたらめっちゃ嫌なんですよ」
この時、前半戦の彼女の表情には、明らかにトゲと、周囲への防衛本能(キツさ)が表れていました。「自分が正しいのに、周りが、上の人間が理解してくれない」という、過去のトラウマからくる他罰的な姿勢が、言葉の端々から透けて見えていたのです。
激論の中で起きた「武装解除」と、志願者の変貌
後半戦に入っても、重苦しい空気は続きました。「3日間で他社の現場を変えるなんて不可能だ」「客観的なマニュアルやデータがないのに、俗人的な魅力だけでスケールするわけがない」と、虎たちの正論が彼女を追い詰めていきます。
しかし、ここからがこの回の「奇跡の始まり」でした。
彼女のロジックが完全に崩壊し、逃げ場がなくなったその瞬間、4枠の岡田龍馬社長が、議論のベクトルの向きをガラリと変えたのです。岡田社長は、彼女の「ビジネスモデルの穴」を叩くのではなく、「なぜ彼女は、これほどまでにこのプランに執着するのか」という、彼女の『心の原体験』に優しく手を伸ばしました。
「もう全部ひっくり返しちゃうんですけど、このプランを貫きたいんですか?なんか僕は前回(別の番組)もちょっとお話をしているので、今日言わなくて偉いなって思ったことは、過去の結構厳しかった、生きづらかった話を1つも今日してないと思うんですよね。でも彼女は割と壮絶な経験をしていて、生き苦しかったんですよ、ずっと。できっとやりたいことって、過去の自分をもう生み出さないとか、なんか救いたいっていうことをやりたいってずっと言ってるんじゃないかなって僕は聞いていて。で、その表現方法がたまたま今飲食店やってるからそこをやろうだけであって、なんか同じように困ってる人をライフワークとして相談みたいなことがマネタイズしたいとか、なんかそういうことをやる方がいいんじゃないかなって」(岡田 龍馬)
この岡田社長の言葉は、完璧なカウンセリングでした。 ビジネスとして不完全な「出張コンサル」という鎧を被らなければ、この場に立てなかった彼女の本音。それは、「かつての自分のように、発達特性ゆえに現場で潰されていく人たちを救いたい」という、純粋で、痛切な願いだったのです。
この言葉を受けた瞬間、橋本さんの表情から、それまで張り詰めていた「トゲ」が一気に消え去りました。目に見えて肩の力が抜け、顔つきが柔らかくなった。まさに、目の前で人間が「武装解除」した瞬間でした。
彼女は、涙を堪えながら、自らの未熟さを認め、本当に伝えたかった心の底からの叫びを口にしました。
「プランが狂うこととかは、まあ私全然、あの、何も考えてなくて……どちらかというと、やっぱりこの思いというか、その、やっぱり発達傾向の人たちが潰されていく現場が辛かったんですね、見てて。それをなんとかしたくて。で、それってなった時に、この、まあ私が考えられる今の、これしかなかったっていうか、まあ数字もできないので、こんなちょっとね、拙い内容にはなってしまいましたけど……」(橋本 望)
さっきまで「上の人が悪い」「自分は売上を上げている」と、自己防衛のために尖らせていた言葉が、一瞬にして「救いたかった、辛かった」という純粋な原動力へと変貌したのです。
この彼女の「弱さの開示」と「純粋な思い」は、虎たちの心を激しく揺さぶりました。 同じように身体障害という逆境を抱えながらビジネスの第一線で戦ってきた5枠の虎も、「人生の後半戦を迎える中で、弱みを武器にするだけでなく、それを克服していく生き方に共感する」と、彼女の存在そのものを肯定しました。
さらに、彼女がずっと憧れ、ブログへのコメントの返信を宝物にしていたという竹の内社長への感謝を、拙いながらも一生懸命に伝える姿を見て、スタジオの空気は完全に「審査の場」から「一人の人間をどう救い、どう輝かせるか」という応援の場へと変わっていったのです。
運命のファイナルジャッジ:形を変えた「採用」
そして迎えたファイナルジャッジ。 主宰である私は、最初の宣言通り「不採用」のボードを出しました。なぜなら、彼女が最初に提示した「月10万円の出張コンサル事業」という社内ベンチャーのプラン自体は、やはり他人の店舗をお預かりする経営者として、リスクが高すぎてGOを出せるものではなかったからです。私は、彼女の強みは他店舗のコンサルではなく、一対一で深く人に寄り添うカウンセリングの領域にあると確信していました。
しかし、他の虎たちの決断は熱かった。
まず、山本正社長(山本君)が「どう出せばいいかわかんないんですけど、協力したいです」と、プランの枠を超えたサポートを表明しました。
「発達障害だとかそういうところに、なんかちょっとこだわりすぎちゃってる部分、引っ張られすぎちゃってる部分があるのかなって。例えばですけど、福島県の方で小さな飲食店をやるとかスナックをやるとかで、それに悩む親御さんだったりだとか、障害に悩む人もお客さんとして来るかもしれないんで、そういう人に寄り添ってあげることによって間接的に幸福をもたらすんじゃないかなと思うので、なんかどんな形でもいいので協力したいなっていう思いで出させていただきました」(山本 正)
一度は条件が合わずに破談になった相手に対し、「どんな形でもいいから、彼女の良さを活かして福島で輝ける場所を一緒に作りたい」という、山本社長の圧倒的な優しさと器の大きさ。これぞ人財版の醍醐味です。
そして、彼女の武装を解いた張本人である岡田龍馬社長も、自社が運営する就労移行支援事業所の存在を挙げ、力強いオファーを出しました。
「うちには就労移行支援事業所があって、今もうリアルタイムでまだ光が見えてない人たちがいっぱいいる。で、その人たちの光になる方法は多分考えればあると思うので、いったん彼らに対してセミナーしてもらうとか。……YouTubeに出てて2回出会うってないわけですよ、こんなものはもう運命を感じるしかないので、僕が一緒に考えます」(岡田 龍馬)
「具体的な解決策は今はないけれど、君という人間の熱意と運命に賭けて、一緒に新しい形を模索しよう」という岡田社長の男気。
当初の「飲食コンサルプラン」は見事に粉砕されましたが、橋本望という一人の人間の「本質」が虎たちに伝わった結果、彼女は「セミナー講師」と「将来の店舗展開のパートナー」という、身の丈に合った、かつ彼女が最も輝ける最高の切符を2枚も手にして、笑顔(と涙)で席を後にしたのです。
最後に:榊󠄀原社長が語る「人財版 令和の虎」の真価
今回の第50回という節目を終えて、主宰である私自身、非常に深いカタルシスを覚えるとともに、「人財版 令和の虎」という番組が存在する社会的意義を、改めて強く噛み締めています。
本家の「令和の虎」は、冷徹な数字と市場規模、そして綿密な事業計画書を元に、投資価値があるかどうかを判断する「ビジネスリアリティショー」です。そこでは、ロジックの破綻は即座に「ALL or NOTHING」の「NOTHING(終焉)」を意味します。
しかし、私たちがやっているのは「人財版」です。
人財版の主役は、完璧なビジネスモデルではなく、常に「人間そのもの」です。 志願者が持ってくるプランがどれほど拙く、穴だらけであったとしても、その奥底にある「なぜこれをやりたいのか」という執念や、過去の苦しみを昇華しようとするエネルギーが本物であれば、虎たちはビジネスモデルという鎧を引っぺがし、その人財が本当に活きる「別の席」を用意することができる。
今回の橋本さんの回は、まさにその真価が100%発揮された時間でした。 もし彼女が最初のロジックだけで突っぱねていたら、結果はただの冷酷な不採用(NOTHING)で終わっていたでしょう。しかし、虎たちの鋭い指摘(牙)を受け止め、自分の弱さを認め、感情を素直に吐露したことで、彼女の魅力が爆発した。あの1時間の中での彼女の表情の「変貌っぷり」こそが、人間が成長し、他者と本当の意味で繋がる「瞬間」そのものでした。
経営者として、また一人の人間として、これほどエキサイティングで、温かい可能性に満ちた場を主宰できていることを、誇りに思います。
最後に、視聴者の皆様、そしてWantedlyを読んでいる求職者やビジネスパーソンの皆様へ。 人財版令和の虎は、単なるエンタメではありません。私たちは、形に捉われず、個人の持つ「一点突破の能力」や「純粋な思い」を、企業の力と掛け合わせて新しい未来を作るプラットフォームであり続けます。
これからもルールをよりフェアに、より透明にアップデートしながら(※今回の収録後、雇用形態の明確化や2ヶ月以内の合意ルールなどの新規定を導入しました)、本気で挑戦する志願者と、本気で向き合う虎たちの姿をお届けしていきます。
橋本望さんのこれからの福島での、そして岡田社長の元での新たな挑戦を、私も一人の虎として、心から応援しています。