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テイ製作所2代目がとがらせた強み

※以前インタビューいただいた記事です

抜型や紙器の製造を手がけるテイ製作所(東京都北区)は、創業者が家庭の事情で廃業を考えた過去もありました。創業者の娘で2代目の田中和江さん(48)が引き継ぐと、同業者から軽く扱われたり、人材集めに苦労したりしましたが、そのたび困難を乗り越えました。法人化後、自社の強みをとがらせながら、抜型を使った自社製品や独自の建築ブランドの開発を推進。売り上げやコストなどのデータも公開するなど、社員のモチベーションを高める工夫で、家業をもり立てています。

目次

  • 右肩上がりの抜型業界で成長

  • 廃業を考えた父と大げんか

  • 同業の仲間に仕事を奪われる

  • 情報公開で増やした人材

  • 経営者勉強会で学んだこと

  • 「あくなき挑戦」で誕生した新商品

  • コロナ禍で社員を励ます手紙

  • 二つの新ブランドを育む

  • 経営計画や財務諸表も社員に公開

右肩上がりの抜型業界で成長

抜型とは、紙器や什器などを作る時に使う器具のことです。切りたい形状に曲げられた刃物をベニヤ板に埋め込んだもので、印刷された紙を抜き取ります。

抜き取られた紙は折り曲げるなりして立体的に成型されます。商品を収める化粧箱や菓子箱をはじめ、コンビニやスーパーなどで商品を陳列するのに使われている紙製の什器も、抜型で抜き取った紙で作られたものです。

抜型業界は1990年ごろが最盛期で、当時は抜型製造企業が1千社ほどあったといいます。しかし、ペーパーレス化の進展などで紙製品の需要が減少したことから、2020年には400社程度まで減りました。厳しい事業環境の中でも、テイ製作所は現在、従業員6人、年商は1億円ほどをあげています。

テイ製作所製の抜型

テイ製作所は1992年、田中さんの父・栄光さんが抜型製造会社を退職し、個人事業として創業。父は工場長と2人で、主に封筒や振込用紙など薄紙用の抜型設計から製造までこなしました。

 田中さんは父から後継ぎに関することは特に言われず、飲食業で働きながら、20代で野菜ソムリエとフードコーディネーターの資格を取得。飲食店でメニュー開発、販促策の実行、アルバイト育成など、運営全般に携わりました。

テイ製作所で手がけている紙器

廃業を考えた父と大げんか

10年ほどたった2009年ごろ、田中さんは父から突然、父方の祖母の介護のことで呼び出されます。
父は自宅で介護に専念するため会社をたたむと言い、田中さんにも介護を手伝ってほしいと頼みました。「6人きょうだいの長男だった父親は責任を感じていました」

田中さんは、その考えに反対しました。「祖母は介護施設で看てもらったほうがいいと考えました。私の妹は当時まだ小学生で、父も若くはなく老老介護になるからです」

しかし、自分で介護する意志を固めていた父は悲しい表情を浮かべ、2人はけんかになったといいます。その様子を見た田中さんの妹が、突然泣き出し、思いもよらぬことを言います。

「お願いだからけんかはやめて。私、学校行かないで働くから心配しないで」

田中さんは姉としての責任を感じ、家業を手伝うことを決めました。

父からは「女にできる仕事じゃない」と言われますが、田中さんも粘ります。「どうせ(家業を)たたもうと思っているなら、私がやる」。そう言ったところ、父親は家業を手伝うことを認めてくれました。

同業の仲間に仕事を奪われる

家業に入った田中さんは、分からないことだらけでした。抜型製造に必要なCAD(コンピューターを使った設計ツール)も使いながら覚え、自ら取引先に納品に出向き、要望やクレームに応えることで、抜型づくりを覚えました。

しかし、ある時、仕事がどんどん減っていきました。田中さんの知らないところで、同業他社からテイ製作所の取引先に営業をかけられ、仕事を取られました。田中さんは同業他社に抗議しますが、「女のお前に何ができるんだ」という言葉を浴びせられたといいます。

悔しかったものの、何も言い返せません。「このままではつぶれる」と危機感を覚えました。

情報公開で増やした人材

田中さんは志を同じくする仲間を集めるべく、10年ごろからハローワークを通じて人材募集をかけます。すると手は挙がるものの、応募者が工場を訪れると「間違いました」と言って帰ってしまうこともありました。当時の工場は産廃業者の倉庫を間借りしており、中が狭くて汚かったのです。

このころはまだ個人事業で社会保険も完備されず、福利厚生も休みも充実していませんでした。

創業して最初の工場は、産廃業者の倉庫を借りていました

それでも、田中さんの個人ブログやSNSで家業のことや仕事場の雰囲気、仕事の合間のおやつタイムといった従業員とのコミュニケーションなどを包み隠さず公開したところ、徐々に目に留まるようになり、募集をかけたら採用できるようになっていきました。

「抜型の仕事がしたくて応募してくる人はいません。ありのままを伝えることでテイ製作所に入りたい人、私たちの仲間になりたいと思った人たちが集まるようになりました」

現在、設計や製造のリーダーとして活躍する社員は、そのころ採用した人たちです。

経営者勉強会で学んだこと

テイ製作所は薄紙の抜型が得意でしたが、田中さんが家業に関わり始めたころから、厚紙で作る什器などの加工品にニーズがシフトし、厚紙加工用の抜型への対応に迫られました。下請けとして抜型を作るだけでは、取引先の環境変化に経営を左右されるという課題もありました。

田中さんは一念発起し、東京中小企業家同友会が半年ほどかけて行う勉強会に参加しました。

経営者として同じ土俵で学ぼうと、田中さんは16年に家業を法人化し、社長に就任。勉強会では、経営理念や経営計画の策定、自社の強みをとがらせることの大切さなどを教わりました。

田中さんは人が増えるにつれて「最初は家族のために頑張っていましたが、やがて社員を守ろうと思うようになりました」。この想いは、法人化し勉強会に参加したころから強固になったといいます。社員が幸せになり、長く勤めてもらえる会社にするために何をすべきか、経営者として真剣に考えるようになりました。

木に彫られたテイ製作所の経営理念

「あくなき挑戦」で誕生した新商品

テイ製作所の経営理念には「あくなき挑戦」という言葉があります。それを体現したのが、特殊硬質繊維ボード「PASCO」を使った製品作りを可能にする抜型作りでした。

PASCOは抜くことが難しく、抜き加工業者も扱いたがらないという話を耳にしたことからチャレンジしました。

PASCOはとにかく硬く、加工機にセットした抜型を押し当てると、抜型の刃先が潰れてしまうほど。かといって刃先を硬くしすぎると、今度はPASCOが破れてしまいます。最適な刃の硬さなどを実現するため、協力会社の協力を得るなど半年ほどトライ&エラーを重ねて実現しました。

「仕事とは問題の解決です。やってもいないのに『ダメ』とは言えません。挑戦意欲は失わないようにしています」

持ち運べるゴミ箱「Baglike」

PASCOを使った自社商品が、ゴミ箱の「Baglike(バッグライク)」です。ゴミ箱として使えるだけではなく収納ケースとしても使え、紙バッグのように持ち歩くこともできます。

デザイン会社と共同で開発し、21年にクラウドファンディング(CF)で販売したところ、目標金額の30万円を大きく上回る88万円を集めました。

しかし、販売はCFのみで終了しました。1日最大6個しか作れず利益が出ないためです。「やり続けてももうからず、社員が疲弊する商品をいつまでも続けても仕方がありません。トライする勇気も大事ですが、やめる勇気も必要です」

コロナ禍で社員を励ます手紙

バックライク開発に先立つ20年、新型コロナウイルスの感染拡大で、テイ製作所も受注のキャンセルや納期延期が相次ぎ、社員は将来に不安を覚えるようになりました。

東京に緊急事態宣言が発出された20年4月7日の朝、田中さんは社員に次のような文面の手紙を書き渡しました。

「私たちはものづくりの会社だから、今はチャンスだと思って新しい商品の開発や未来の種まきに集中して頑張ろう。雇用はしっかり守るから安心して」

こうしてできたのが「Baglike」です。他にもPCR検査用の段ボール検査ボックス、飛沫感染防止用の段ボール製パーティション、在宅勤務用の段ボール机など、抜型技術を生かした新商品誕生にもつながりました。

コロナ禍で開発した段ボール机

段ボール検査ボックスは、ボックスに入ったままPCR検査ができる製品で、検査員は作業が終わるたびに防護服を脱いだり着たりを繰り返さなくても済むようになりました。

PCR検査用の段ボール検査ボックス

同年4月中旬から依頼を受け、1週間程度で設計を終えて池袋保健所(東京都豊島区)に納入しました。田中さんは「設計力と対応力がないとこれほど早く対応できないと思います」と振り返ります。

二つの新ブランドを育む

抜型や紙の知識以外にも、新たな強みをとがらせることで、田中さんは未来の種まきをしています。「弱みを克服するより強みをもっと伸ばしたら、企業は成長し、必要としてくれる顧客が必ずいるはずです」

そうした強みの一つが、コロナ禍直前に抜型作りのために導入したレーザー加工機を生かした、「和.co(カズコ)」と「KIZAMU(キザム)」という二つのブランドになります。

テイ製作所のレーザー加工機

「和.co」はインテリア・建築素材で、レーザー加工機で木材やアクリルをカットしたり焼き付けを行ったりして透かし模様を作ります。切削や組子より低コスト・短時間で作ることができるのが特徴です。

「KIZAMU」は、レーザー加工機で彫刻や焼き付けを施した商品です。工場見学に訪れる人たちへのお土産として、コースターなどをレーザー加工機で作ったのがはじまりでした。天然木に経営理念を刻むことに特化した「KIZAMU理念」という商品も作りました。

テイ製作所の展示スペースに並べられた、レーザー加工品のサンプル

ユニークな自社製品を次々と送り出すテイ製作所には、年間65社が工場見学に訪れています。社屋2階の展示スペースには見学者向けに、「和.co」や「KIZAMU」の製品例を置いています。何ができるかを具体的に見せることで、訪れた人が、新たなものを創造するきっかけの場にしたいといいます。

経営計画や財務諸表も社員に公開

テイ製作所は、毎日の朝礼で社員が集計した前日の売り上げを報告するほか、法人化して初の決算を終えてからは、経営計画や財務諸表も公開しています。

それは、情報がないと社員が考えて行動することができないからです。「社員に主体的に動いてほしいなら、その材料として財務状況などの経営情報を公開しないとダメだと思っています」

田中さんは次代のリーダーを育てています

社員研修にも積極的です。社外で実施される管理職研修に社員を派遣することもあれば、社内に講師を招き会議スキルを学ぶ研修を行うこともあります。

以前は社員を説得して研修に派遣していましたが、今では研修のスケジュールを公開すると社員が自ら申告するようになったといいます。

「リーダーに大切なのは、社員が自ら考え主体的に行動できる場を提供することです」。最終的に田中さんがいなくても回る組織にするため、自身が担っている仕事を徐々に社員に移行したいといいます。

「希望や夢は時間とともに変わりますが、いつまでも変わらないのは、働きやすい環境を作り、いい経営者になり、いい会社を作ることです。事業内容が変わって自分がいなくても永続できる会社に、社員が豊かな人生を送れるようにしたいです」


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