#39:エンターテインメントにしてしまえ~特許編~
Photo by Josh Hemsley on Unsplash
もう一年になるのか。
東京ドームで偲ぶ企画が催されたとの記事を読み、思いを馳せました。
昨年の6月3日、希代のエンターテイナーが天に召されました。
私は、現役時代のプレーを見ている世代であり、特に思い入れがありますが、引退後も監督やスポーツ界で活躍されたことから、幅広い世代に愛された方でした。
長嶋茂雄さんには数多くのエピソードがあります。私が特に気に入っているのは、後楽園球場の試合に息子さんを連れて行ったものの、試合後そのまま一人で帰宅し、亜希子夫人に「一茂は?」と聞かれて初めて気づいたという話です。
天才と呼ばれる人が物事に没頭するあまり、大切なことを忘れてしまうというのはよくある話ですが、私は長嶋一茂さんをテレビで見るたびに、「この人が置き去りにされたのか」と思い、微笑ましさを感じてしまいます。
プロ野球デビュー戦で金田正一さんから豪快なスイングを連発して4打席連続三振を喫した話や、天覧試合でサヨナラホームランを放った話など、伝説は尽きませんが、通常のプレーにおいても他の選手とは一味違っていました。
ショートの真正面のゴロにも横っ飛びで飛びつき、ひらひら~と手の残像を残すような華麗な送球を見せる。そうしたプレーに対して、当時ショートの名手であった広岡達郎さんは快く思っていなかったそうですが。
また、あえて大きめのヘルメットをかぶり、空振り三振の際にはそれを豪快に飛ばすといった演出も印象的でした。一般的な打者であればボールに当たらないと分かった瞬間にスイングは止まるそうですが、長嶋さんはむしろそこからスイングがさらに加速したとも言われています。
こうしたプレーの数々は、「どうすれば観客に喜んでもらえるか」「どうすれば絵になるか」を常に意識した結果だったのではないでしょうか。
まさに、野球を“魅せるもの”へと昇華させた存在だったと言えます。
『長嶋さんは、プロ野球を、勝ち負けを超えた「エンターテインメント」に進化させた』といわれています。
単に勝つことではなく、見る人の心を動かし、「また見たい」と思ってもらうこと。その発想は、私たちの仕事にも通じるものがあります。
ここで、私から一つ提言があります。
「仕事もエンターテインメントにしてしまえ!」
長嶋さんに倣うというわけではありませんが、同じ取り組むのであれば、楽しく取り組んだ方がよい。
一見つまらない、楽しくないと感じる仕事でも、発想を変えて“エンターテインメント化”すれば、見え方は大きく変わるのではないでしょうか。
私がキヤノン本社に在籍していた頃、無線技術の開発を担当していました。現在ではWi-Fiなどの無線機能は欠かせませんが、当時はまだ主流ではありませんでした。
そのような中、「今後は無線に関する特許が重要になる」という方針のもと、特許推進のリーダーを任されることになりました。一方で、隣の部署ではデジタルカメラへのWi-Fi初搭載という華やかなテーマが進んでおり盛り上がっていました。私はそのメインストリームの輪に入れず「地味」な特許の担当となって「やってられるか!」と思ったりしました。
しかし、「どうせやるなら楽しもう」と発想を切り替え、特許業務のエンターテインメント化に取り組みました。
特許の世界では、自社の権利が侵害されている可能性がある場合、相手企業に警告文を送ることがあります。いわゆる特許警告書で、通称「Love Letter」と呼ばれています。
当時、北米や欧州の企業からもこの「Love Letter」が届いており、カナダの企業からのものもありました。そこで私は「カナダからも“Love Letter”が届いています」と発表したところ、大いにウケました。正確には、ある年齢以上の方々にはウケました(若い方はぜひご両親に聞いてみてください)。
海を越えて届いた「Love Letter」のイメージ
写真:Nathan Dumlao/Unsplash
このエピソードは以前のコラム「#10:伝える力が未来を拓く ~プレゼンテーション 主役はあなた~」でも触れましたが、伝え方ひとつで仕事の印象が変わる一例です。
さらに、以下のような取り組みも行いました。
1. 流行語をつくる
「特許ポートフォリオ」という言葉を様々な機会で発信し続けました。そのうち、皆がこの言葉を使うようになりました。特許ポートフォリオを最大限に活用した私のチームの特許獲得の方法が『えげつない』と言われたことを逆手に取り、「特許はえげつなさが重要」とことあるたびに訴えました。この「えげつない」という言葉が社内で一種の流行語のようになりました。
2. 感動のストーリー
無線LSIのベンダーでもないキヤノンで標準無線技術(Wi-Fi/IEEE802.11)のエッセンシャル特許を獲得することができました。そのプロセスを“感動の物語”として表現し発表したところ、とても好評でした。
3. ビジュアル化
特許活動(提案・権利化・調査)をマップ化し、ビジュアルに訴えました。そのマップの作り方や活用法が知財部門でも好評で、好例として紹介され、多くの部門で活用されました。
余談になりますが、北米や欧州の企業が特許侵害で他社を訴えている事例を踏まえ、当社でも同様の戦略をとることを発表しました。その際、思わずツッコミが入りそうな表現(「欧米か!」のような)も考えたのですが、やりすぎになりそうだったので控えました。
仕事には一見すると面白くないものもあります。しかし、せっかく取り組むのであれば、楽しんでしまおう――これは私の持論です。
その一例として、『歩く』という行為も一見すると地味ですよね。当社では、そのような取り組みも『歩活』というイベントとして楽しんでいます。
今回はエンターテインメント性を追加して、同じ新潟県に事業所を構えるグループ会社キヤノントッキさんとの会社対抗戦を行いました。お互いの上位5チームの平均歩数の合計が上回った方が勝ちというルールです。中間発表ではなんと9歩差で当社がリードしていましたが、、、
最終的には2,300歩という大差で、負けてしまいました。
次回は勝つぞと今から執念を燃やしています。
話を特許に戻しますが、今回書いたような特許での功績が認められて、その後、私はメインストリームである無線技術の製品搭載のチーフを任されるようになりました。上では華やかなテーマと書いたのですが、よくよく考えれば地味な分野かもしれません。(無線関係者の方、失礼しました)
次回は、この地味な無線開発をどのようにエンターテインメント化したのかについてお話ししたいと思います。
無線開発を“エンターテインメント化”したイメージ
※本画像は生成AIにより作成したイメージです。
※次号は6月29日(月)リリース予定です。