米国特許取得企業ランキングで世界第7位 42年連続で世界10位以内を獲得 | キヤノングローバル
米国の特許専門調査会社IFI CLAIMSパテントサービスによると、2025年に米国特許商標庁に登録された特許数は、キヤノンが7位となりました。世界10位以内を維持する企業の中で、キヤノンは、最長となる42年連続でその記録を継続しています。
https://global.canon/ja/news/2026/20260116-2.html
先週のコラム『#25:楽しみながら「領域展開」しよう』で、「例えば契約書については、自部門の管理職自身が隅々まで読み、理解した上で承認することを徹底しました」と書きました。契約に厳しいキヤノン人の性(さが)として、どうしても契約書と聞くと身構えてしまい、口うるさくなってしまいます。社員の皆さんには申し訳なく思いつつも、契約書はしっかり見ておかないと後悔することが多く、ここはあえて心を鬼にせざるをえません。
キヤノンがカメラで培った光学技術を背景に複写機のビジネスに参入しようとした際、大きな障害となったのがゼロックス社の特許網でした。当時は複写機といえばゼロックス、コピーをとってもらうときに「ゼロックスして」と言っていた人がいたほどです。キヤノンはゼロックスの特許を隅から隅まで徹底的に調べ上げ、特許網を回避する独自技術を開発して参入しました。ここから、米国特許取得数で42年連続トップ10以内を最長で維持する「特許のキヤノン」の歴史が始まりました。
キヤノンが契約に厳しいのは、こうした強固な特許網を築くうえで、自社の権利を厳格に守る必要があったためです。他社から開示された技術情報によって特許が書けなくなる事態を避けたい。他社の技術を使って特許を書いたと言われることも避けたい。逆に自社の技術を他社に渡して特許を書かれることも防ぎたい。こうした理由から、契約書に記載される機密情報の扱いには特に注意を払ってきました。
当社キヤノンイメージングシステムズはソフトウェアの受託開発が中心であり、特許を書く機会は多くありません。契約に対する温度差がキヤノン本社と当社で異なるのは、この点が影響しているのかもしれません。
しかし、機密情報に関する契約は特許の有無に関わらずリスクを伴います。たとえばセミナー参加時の誓約書(契約書)では、機密保持期限が記載されていなかったり、署名者が個人名義だったりするケースがあります。この場合、社員が退職しても一生機密保持義務を負うことになり、うっかり口にしたことで個人が訴えられる可能性すらあります。社員を守るという観点でも、契約書へのサインは慎重でなければなりません。
キヤノン時代、私が担当していた開発分野では特許紛争が非常に多く、他社製部品を使用する際にも「知財補償契約」を慎重に締結していました。よく混同されますが「保障」ではなく「補償」です。特許侵害で訴えられた場合、部品メーカーが賠償金等を補償するという内容です。この契約のおかげで、特許紛争が起きても大いに助けられたことがありました。
以前のコラムでも触れましたが、私は開発部門の特許推進役として、こうした事例に接する機会が多くありました。この経験が、契約にまつわるリスクを最小限に抑えたいという考えを私に強く根づかせました。最近社員に「契約書は自分で読みなさい」と伝えている背景には、こうした原体験があります。
契約書を全て読むのは面倒に感じるかもしれません。たしかに、プライベートでアプリをダウンロードする際など、使用許諾に目を通さずに購入してしまうこともあるでしょう。しかし、契約書をよく読まなかったために大きなリスクを内在する可能性があります。
では実際問題として契約書にどう向き合えばよいのでしょうか?契約書にはある程度「型」があります。数をこなすうちに、ツボ(勘所)が見えてきます。たとえば機密保持契約であれば、保持期限、機密保持の範囲、裁判となった場合の管轄裁判所などがツボです。機密保持期限がなければ、義務が永遠に課されてしまいますし、機密保持の範囲が不明確だと、どんなことも公的文書に書けなくなってしまう可能性があります。また、相手が米国企業の場合、「管轄はカリフォルニア州とする」などと書かれていれば、それだけで相手が有利になります。こうしたツボさえ押さえられれば、契約書チェックも効率的になります。
当社では管理職が必ず契約書に目を通し、社長を含めチェックを厳しくしています。そのため「キヤノンイメージングシステムズは侮れない」と思せることができます。その一方で「契約しづらい会社だ」と見られ、ビジネスチャンスを逃す可能性もあります。ここは匙加減が必要だと考えています。
技術にだけ長けていればよい時代は過ぎました。技術にも法律にも明るく、会社に降りかかるリスクヘッジを適切に行えるマインドが、会社をさらに強くすると私は考えています。
……とここまで書いて、ふと思いました。「今はAIが契約書をチェックしてくれる時代なのだ」と。確かにその方が効率的で、間違いも少ないかもしれません。しかし『#16:守・破・離』で書いたように、AI時代であってもソースコードを書く力が大切であるように、契約書を真摯に読む姿勢も変わらず重要です。何も分からないまま効率だけを求めてAIを使うのと、勘所を理解した上で使うのでは成果がまったく違います。
ぜひ皆さんも、面倒がらずに契約書を今一度読み直してみませんか。
※本記事に掲載している画像の一部は、生成AIを用いて作成したものです。
※次号は3月23日(月)リリース予定です