心臓弁膜症治療に革新をもたらした「TAVI(経カテーテル大動脈弁治療)」。エドワーズライフサイエンス(以下、エドワーズ)は、日本で初めてTAVIを導入して以来、製品開発や診療体制の構築支援などを通じてその普及と発展を支えてきました。一方で、高齢化が進む日本では、今なお適切な診断や治療へたどり着けていない患者さんも少なくありません。
どうすれば、より多くの患者さんを適切な治療へつなげられるのか。この課題と向き合うエドワーズでは今、営業組織のあり方そのものを変革しようとしています。営業活動を担うテリトリーマネージャー(TM)が担当施設により注力できる環境を整え、臨床面で高い専門性を持つ人材との連携を強化。医療現場や患者さんのニーズをこれまで以上に深く理解し、適切な治療へたどり着ける患者さんを増やすための取り組みを進めています。
この記事では、TAVI導入当初に入社して日本市場での立ち上げと成長を支え、現在は営業本部長として事業を率いる営業本部長にインタビュー。心臓弁膜症治療ニーズの拡大を見据えた事業戦略や組織戦略、そして「これからを担う未来の仲間」に向けた思いを聞きました。
<この記事の登場人物>
エドワーズライフサイエンス合同会社
THV事業部 営業本部 営業本部長
K.N
大学卒業後、金融業界の営業職としてキャリアをスタート。「人に感謝される仕事がしたい」「社会に貢献した証を残したい」との思いから医療機器メーカーへ転職。ペースメーカーや不整脈領域での経験を積み、2013年、日本で初めてTAVIを導入しようとしていたエドワーズライフサイエンスに入社。現在は営業本部長として事業拡大と組織づくりに邁進中。
「ハートチーム」による診療を支え、より良い医療の実現に貢献
—Nさんは、日本で初めてTAVIを導入するプロジェクトの立ち上げメンバーとしてエドワーズに入社しています。TAVIは日本の心臓弁膜症治療にどのような変化をもたらしたのでしょうか?
最大の変化は、それまで治療を受けることが難しかった患者さんにも、新たな選択肢を届けられるようになったことだと思います。
心臓弁膜症治療における外科的(開胸)手術は、長年にわたり多くの患者さんの命と健康を支えており、確立された治療法です。一方で、高齢であることや併存疾患などにより、身体への負担が懸念される患者さんでは、手術そのものが難しい場合もあります。開胸手術を必要としないTAVIは、そうした患者さんの治療の可能性を広げることにつながりました。
—エドワーズが日本市場での先駆者となれた要因はどこにあると考えていますか?
大きな要因は、長年にわたって積み重ねてきたエビデンスだと思います。エドワーズは1960年代から心臓弁膜症治療に携わり、世界中で数多くの症例に触れ、データを蓄積してきました。日本市場においてはサージカル事業部が生体弁の領域で実績を積み重ねており、TAVIを導入する際にはそうしたエビデンスや実績が大きな土台となりました。
また、私たちは患者さん一人ひとりのため、より良い医療の実現に貢献することを目指して活動しています。
その中で大切にしてきたのが、ハートチームによる診療です。循環器内科医師や心臓血管外科医師だけでなく、麻酔科医師や看護師、各領域の検査技師など、さまざまな専門職が専門性を持ち寄るハートチームは、心臓弁膜症診療において欠かせない存在です。
私たちはTAVIの黎明期から、こうしたハートチームによる診療の重要性について医療従事者と共有し、その実践を支援してきました。その結果、患者さんごとに適した治療について多角的な観点から検討する診療体制が広がってきたことには、大きな意義があったと感じています。
とはいえ、まったく新しい治療法を医療現場で理解を広げていくのは、簡単なことではありませんでした。TAVIはすべての開胸手術に置き換わるものではなく、これまで治療が難しかった患者さんの選択肢を広げるもの。私たちはその考え方を、医療従事者へ粘り強く伝えてきたんです。
—患者さんへ最適な治療を届けるための活動は、医療機器メーカーとして製品を提供するだけではないのですね。
はい。心臓弁膜症の患者さんは、自覚症状があっても「年齢のせいかな」と軽く片づけてしまうことがあります。また、地域のかかりつけ医の診察を受けても、専門的な治療が必要なタイミングで適切な医療機関へつなげなければ、治療機会を逃してしまう可能性もあるんです。
だからこそ私たちは製品を売るだけではなく、患者さんへの疾患啓発や、地域のクリニック、基幹病院、TAVI実施施設の診療連携にも力を入れています。
TMが担当施設の課題を深掘りできる体制へ
—日本では今後、高齢化の進行により心臓弁膜症治療のニーズがさらに高まっていくと考えられます。営業組織にはどのような役割が求められるのでしょうか。
これからは、一人ひとりのTMが担当地域や担当施設とより深く向き合うことが重要になると考えています。
TAVIが日本に導入されて十数年が経ち、市場は導入期・拡大期を経て、新たなフェーズに入っています。普及は進んできたものの、適切な治療につながっていない患者さんは依然として存在しており、今後の高齢化を考えても、さらなる啓発や診療体制の充実が求められています。だからこそ、これからは単に市場の拡大を追うのではなく、一つひとつの施設や地域とより深く向き合うことが重要になると考えています。
そこで現在は、一人当たりの担当施設数を従来より少なくし、施設ごとの課題やニーズにより深く向き合える体制への転換を進めています。TMには、施設や地域が抱える課題を深く理解し、医療従事者と長期的な信頼関係を築きながら、患者さんが適切な治療にたどり着ける医療環境づくりに貢献できる存在であってほしいですね。
—そうした存在であるためには、心臓弁膜症領域の高い専門性が必要だと思います。人材育成ではどのような点を重視していますか?
まずは疾患や製品についてしっかり理解することが大切です。入社後は約1か月半の本社研修で基礎知識を学び、その後は先輩TMとの同行を中心としたOJTを通じて、実際の臨床現場で経験を積んでいきます。
実際に立ち会ったことがある人はイメージできるかもしれませんが、臨床現場では、知識があるだけでは仕事にならないこともあるんですよね。医療従事者へはいつ声をかけるべきなのか。どのタイミングで、どんな情報を提供するべきなのか。そうした判断力は、現場でしか身につけられません。
そのため私たちは、新たに入社したTMができるだけ早く現場で学び始め、着実に成長できる環境を整えています。そしてOJTの期間は、学びに集中できるようにしています。
また、エドワーズには多くの症例やTAVIの臨床知見が蓄積されています。そうしたナレッジを全国で共有し、営業活動へ生かしていくため、2026年にクリニカルエキスパート(以下、CE)という専門職ポジションを設けました。CEには医療従事者としての豊富な臨床経験を有するなど、高度な専門知識を持つ人材が就いています。
TMはこのCEと連携することで、全国どこでも質の高いサポートを医療従事者へ提供できる体制となりました。こうした環境も、エドワーズならではの強みだと思っています。
「営業の再現性」を重視し、目の前の結果だけでは評価しない
—営業本部長として組織を率いる中で、Nさんはどんなことを大切にしていますか?
私がメンバーと接する際に大切にしているのは「数字に厳しく、人に優しく」というスタンスです。
私たちの部門は営業組織なので、数字に責任を持つことは当然です。一方、私は数字だけで人を評価したいとは思っていません。エドワーズが大切にするコアバリュー「Patients First(患者さん第一)」に照らし、 目標を達成できたかどうかだけではなく、目標に向けてどのようなアプローチを行ったのか、そのプロセスは患者さんや医療従事者に対して誠実なものだったのかを、しっかりと見ています。
なぜなら、営業職にとって本当に大切なのは一時的な成果ではなく、継続して成果を出し続けられる再現性だと考えているからです。評価の際には、結果に至るまでの考え方や行動を振り返る会話を大切にしています。
また「人に優しく」とは、耳当たりのよいことだけをメンバーに伝えるという意味ではありません。必要なフィードバックを避けると、相手の成長につながらないこともあります。メンバーそれぞれにはこの先の長いキャリアがあり、生活をともにするご家族もいる。だからこそ、その人が数年後により良いキャリアを歩めるよう、必要なことは率直に伝えたいんです。メンバーの人生まで考えて本気で向き合うことが、本当の優しさだと思っています。
—外資系企業である以上、グローバル本社から業績への高い期待を受ける場面もあると思います。プロセスを重視する評価とのバランスをどのように取っているのでしょうか?
日本法人として、業績に対する高い期待を受けるのは当然のことだと考えています。
とはいえ、そうした期待をそのまま現場へ伝えるだけでは営業本部長の役割を果たせません。私の役割は、経営層と現場をつなぐこと。現場では何が起きているのか、その背景も含めて経営層へ正しく伝えるとともに、会社が目指す方向性についても、現場が納得感を持って前に進める形で共有していく必要があると思っています。
その中で、現場との認識にずれが生じる場面があったときには、「自分が現場の状況を十分に伝えられていなかったのではないか」と振り返っています。できる限り現場に足を運び、メンバーと何気ない会話を交わすことも大切にしていますね。この立場になっても、現場から学ぶことは本当に多いんですよ。
困難を乗り越える支えになった、「何のために働くのか」を問う気持ち
—THV事業部をどのような組織へ成長させていきたいと考えていますか?
私は、今のTHV事業部が完成形だとは思っていません。ここまで事業を成長させてきた自負はありますが、さらに前へ進むためには、組織そのものも変わり続ける必要があります。その原動力になるのが、新しく加わる仲間です。
THV事業部には、さまざまな会社や領域で経験を積んだメンバーが集まっています。それぞれが持っている知見や考え方が、もともとのエドワーズのカルチャーと混ざり合いながら、現在の組織がつくられてきました。
だから私は新しく入社する方にも、前職で得た成功体験や学び、良いカルチャーを持ち込んでほしいと思っています。そうした違いが新しい発想を生み、組織をさらに進化させてくれるはずです。
—これから入社するTMには、どんな力を求めているのでしょうか?
循環器領域での営業経験や、手術などの臨床現場に立ち会った経験がある人は、入社後も自分自身の強みとして生かせるでしょう。ただ、私がそうした経験以上に大切だと考えているのは、「何のためにこの仕事をするのか」という自分なりの軸を持っていることです。
エドワーズの仕事には、楽しいことだけでなく厳しいこともたくさんあります。命に関わる循環器領域だからこそ高い専門性と責任感が求められますし、思うようにいかない場面も多いでしょう。
そんなときに自分を奮い立たせてくれるのは、知識や経験ではありません。患者さんの役に立ちたい、医療の発展に貢献したい、この仕事を通じて自分なりの足跡を社会に残したいー。そうした強い思いを持っている人は、困難な状況でも学び続け、成長していけるはずです。
私自身もそうでした。日本でTAVIが始まるタイミングに立ち会い、困難を乗り越えたことでキャリアが広がっていったんです。これからも、より多くの患者さんへ治療を届けるために奮闘し、この世界に自分が生きた証を残したいと思っています。
この業界でキャリアを築きたいと考えている人なら、誰しもそうした「熱い気持ち」を持っているのではないでしょうか。もしエドワーズに来てくれるなら、その気持ちを遠慮することなく、思いきりぶつけてほしいですね。