クライアントに伴走し、クリエイティブの力でプロジェクトを成功に導いてきたBEAKS。今回は3つの事例をもとに、BEAKSのクリエイティブメソッドに直撃インタビュー。ディレクター沖田の目線から、企画のストーリー作りやコンセプトメイキングなどの裏側に迫ります。
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沖田 壮司(おきた・たけし)
2011年入社。岩手県出身。テレビ番組の制作会社でADとして活躍後、業界未経験でBEAKSへ。ディレクターとして数々の現場で経験を積む。現在はディレクター兼マネージャーとして、ディレクター/デザイナーの垣根なくBEAKS全体を統括する司令塔的な存在。
【事例1.】会場のつくりと感情の動きをフィットさせる
- 【プロジェクト】
外資系ロードバイクメーカーさまの新製品発表イベント - 【ターゲット】
販売店/一般ユーザー
ご担当者さまにヒアリングを重ね、僕も何度かイベントに足を運ぶなかいくつかの課題が浮き彫りになってきました。そのひとつがマンパワー不足。運営業務にご担当者さまの手が取られすぎている印象でした。当人も自覚されていたようですが、これまで依頼していたイベント会社はそこまで対応できなかったようですね。
BEAKSなら空間デザインやイベント企画はもちろん、導線計画や各人員の配置、そして運営マニュアル作成や会場側との事務手続きなどなど、イベント運営をまるごとサポートすることができます。若干コストはかかるかもしれませんが、ご担当者さまの運営負担を軽減することで本来時間を使うべきマーケティングに注力し、ユーザーに向き合う時間を確実に増やせます。コスト以上のメリットがご提案できる余地があると感じました。
感情が昂る導線づくり
今回はすでに開催会場が決まっていたので、会場の図面を見て導線のストーリーをどのように描くかに重きをおきました。イベントに行く時って、会場に到着する前・あるいは到着した時からだんだんボルテージが上がっていきますよね。「ついに来たぞー!」って。来場者の心の動きを想像しながら、それにふさわしい空間を考えるんです。
本会場の側面にはガラス窓が張り巡らされていて、あえて少しだけ開けておくことにしました。そうすると外から会場内がチラ見えするんですよ。ここで来場者のワクワク感がどんどん高まっていきます。
そして重要な来場者と商品のファーストインプレッション。受付と本会場の間が扉で区切られている会場なので、扉を開けた瞬間に来場者の感動がMAXになるようにしたかったんです。だから扉の目の前に、一番メインの商品をどーんと配置しました。
クライアントの心を掴むプレゼンの流れ
企画書の構成やプレゼンテーションの流れも、来場者の感情に沿って提案しました。通常、企画書は最初のページに最も見栄えが良いデザインを持ってくることが多いんですが、今回はあえて会場外側のパースから提案したんです。
▼内側がチラッと見える会場外(ワクワク)
▼正面入口(来た!写真撮ろう)
▼高級感のあるレセプション(早く中に入りたい〜)
扉を開けると…
▼今年一番の注目商品が!(感動がMAX!)
という感じですね。
「来場したい」と思わせる価値をブースにしこむ
今回のターゲットは販売店(toB)と一般ユーザー(toC)です。
まず販売店について。販売店が商品を取り扱う最大のモチベーションは「売れること」ですよね。忙しいなか、わざわざ時間を作って展示会に足を運んでもらう理由づけが必要。そこで商品の売り方と売れる理由を提供することに注目しました。
単にスペックを網羅した商品説明ではなく、「この商品を選ぶ理由」という見せ方でブースを展開していきました。これを読んで販売員さんがそのままお客さんに売れるようなネタをしこんだ、という感じですね。
そしてもうひとつのターゲットである一般ユーザー。
ファンの固定と拡大によってロイヤルカスタマーを育てることが目的です。クライアントの商品はパーツだけでも十数万、自転車本体だと100万円以上する超ハイブランド。だからこそ限られた空間で特別な顧客体験を提供することが必要です。高級感・重厚感のある空間デザインを筆頭に、レセプションの対応やアンケートの渡し方など、スタッフ対応の細部まで徹底して気を配りました。
そして目玉はイベント限定のノベルティグッズ。アンケートにお答えいただいた方にお渡しして、プレミアム感を増幅させました。
来場人数のアッパーが決まっているチケット制の限定イベントだったので、来場人数自体は例年と大差なかったですが、来場者の反応はこれまでにない反響ぶりでした。イベントでのアンケート回収率は通常30〜40%というなか、本イベントではなんと100%でした。集計ミスじゃないかな…?と今でもちょっと疑っています(笑)
【事例2.】プロダクトの新しい魅力を訴求し、ターゲットの心を掴む
- 【プロジェクト】
株式会社カーメイトさまの新製品PRイベント(東京モーターショー) - 【ターゲット】
一般ユーザー
東京モーターショーとは?
世界最大規模の自動車ショー。 自動車メーカーが最先端技術を披露し大きな人気を集めている。 出展は国産乗用車のほか輸入車、商業車から、部品やカー用品まで多岐に及ぶ。
ドライブレコーダー「d'Action 360(ダクション 360)」の認知度を高め、購買につなげるためのイベント出展。販売の打ち出し方や見せ方を考えてほしいというオーダーでした。
d'Action 360は取り外しが簡単にできて、しかも360°全方位を撮影できるドライブレコーダーです。ドラレコとしての用途はもちろん、普段使いで持ち歩ける360°カメラになるのが最大の特長。それだけ考えても、ドラレコオンリーで売り出すにはもったいないですよね。
カーメイトさまはあらゆるカー用品の企画やデザイン、販売まで行うメーカー。タイヤチェーンやチャイルドシートといった、「安心・安全」を打ち出した商品が強みのひとつです。
今回出展する東京モーターショーは最新鋭モデルの車がズラリと並び、車大好き人間が集まる車の祭典です。その中で安心・安全を押しすぎると響きにくいかも?と考えました。
「安心・安全」だけでは買わない
メインターゲットに捉えたのは20代の一般ユーザー。20代の消費行動は物欲がない・車離れなど「所有を目的とした消費をしない」のが特徴です。そのため「モノの先にあるコト」を届けなければ購買につながりません。安全・安心をメインに伝えるとミスマッチなんです。
「安心・安全」とユーザーの「楽しみたい」という想い。そのど真ん中をつく打ち出しが必要でした。
本来ドライブレコーダーとは、事故やあおり運転など「万が一」の時に活躍するものですよね。でもd'Action 360はドラレコだけじゃなく、趣味やレジャーに日常使いができるアイテム。
そこでコンセプトとしたのが
「10,000分の9,999使える、ハイコストパフォーマンスドラレコ」。
お気づきかと思いますが「10,000分の1」は万が一の時を指し「9,999」は万が一を除いたシーンを指します。
「10,000分の1だけじゃもったいない。9,999使えるドライブアクションレコーダー」
というとにかくストレートなコピーを立たせ、キービジュアルはさまざまな遊びのシーンをメインに。d'Action 360でもっと日常の遊びが楽しくなる、それを伝えることに振り切ったブースデザインにしました。ドラレコなのに「安心・安全」のキーワードはいっさい使っていないのがポイントです。
話題作りは新進気鋭YouTuberとのコラボレーション
来場者によりリアルな体験をしてもらうためにも動画の力は絶大。動画から伝わる情報量は、文字の5,000倍とも言われています。「遊ぶための使い方」「ドラレコ本来の使い方」それぞれを訴求できるよう、アウトドア系YouTube、車系YouTuberを起用し動画配信を行いました。動画の演出・企画・編集ももちろんBEAKSです。
従来の展示にくらべると、特に学生さんや若い世代からの反響が大きかったようですね。狙い通りとなったイベントでした。
【事例3.】ブースにひとだかりが!コンテンツの強さがポイント
- 【プロジェクト】
三菱重工株式会社さまのプロジェクト・サービスのPRイベント(スマートグリットEXPO) - 【ターゲット】
一般ユーザー
スマートグリットEXPOとは?
次世代電力システムに関する総合展。エネルギーマネジメント、蓄電システム、電力設備など世界中から各分野の専門家が一堂に会する。
電力自由化によってどの企業でも電気が販売できるようになった時代。「ものづくりのパイオニア」である三菱重工さまだからこそできる環境への配慮や、独自の総合エネルギーソリューションサービス「ENERGY CLOUD Service(エナジークラウドサービス)」の価値を示したい、というのがオーダーでした。
まずこのサービスを理解するところからのスタート。壮大すぎて追いつくのが難しかったです(笑)。
本サービスをビッグデータの分析ノウハウを用いて、街や工場の電力効率が悪いところに自動で電力を振り分けるシステム…と解釈。そこで街や工場を「体」と考え、ENERGY CLOUD Serviceの力でどこが悪いかを見極め治癒する「エネルギーの総合病院 エネルギーホスピタル」というコンセプトで提案しました。
好評いただき、めでたく受注!しかしもっとわかりやすいストーリーはないか?というご要望が。
いくつか提案を繰り返し、最終的に決まったのは「ENERGY CLOUD WORLD」というコンセプト。「ENERGY CLOUD」というサービスのキーワードを使ったストレートなものです。
三菱重工さまは潜水艦から宇宙船、国産初の旅客ジェット機(MRJ)の開発など世の中のインフラすべてに関わっています。そこで三菱重工さまが社会全体を支えている世界=「ENERGY CLOUD WORLD」として表現したんです。
サービスと世の中の関係性をデザイン
海から空、宇宙へのつながりをイメージし、ブースの床から壁面をブルーで統一。さらに監視塔を立てENERGY CLOUDが世界を監視しているように見立てました。
ENERGY CLOUDは来場者にとって理解しにくいサービスなので、わかりやすく噛み砕き目線を合わせることが大切でした。
それは三菱重工さまが世の中にどのように関わっているのかを可視化すること。
世界地図を模したパンチングメタルの背景に、点滅ランプを灯した壁面を創りました。これは衛星写真がヒントに。衛星から地球を見た時、街の光がパーッと光っていますよね。この電力を作っているのが三菱重工、というように表現しました。
ブースに引き込むため仕掛けづくりはコンテンツを主力に。MRJのデザイナーやデバイスの開発担当者、ブランド企画室のインタビュー動画をフックにし、ブース内のプレゼンテーション(MC)で解説したんです。結果、ブースがあふれるほど人だかりになりました。これは今でも忘れられない光景として焼きついています。
漫画がヒント?引き出しの多さが武器になる
どんなところから発想を広げているのか、とよく聞かれるんですが…。あくまで僕のやり方ですが、構想段階で全体のストーリーを描きます。企画書としてまとめるというより、先にナレーションを作ったり、セリフ調で書いていくなどで徐々にイメージをふくらませることが多いですね。
どんなプロローグがこのブースにはまるんだろう?そこに入ってくるビジュアルってどんなだろう?
参考写真を集めて「今回のイメージはこんな感じで」とデザイナーに相談します。どうなってるかわからないから詳しく説明して、と言われちゃうこともありますけど(笑)。大枠から少しずつ細かい部分を詰めていく感じです。
僕は普段あまり本は読まないんですが、漫画はめちゃくちゃ読むんですよ。特に動画のコンテを考える時はヒントになっていますね。ディレクターによって発想方法は違いますし、正解もありません。しかし経験上、引き出しの多さがものをいうのは間違いないと思います。普段からアイデアの源になるものを見つけておくのはおすすめです。