「誰かが安心して動けるように支える役割というところに、やりがいを感じていたので、それが今の仕事にも繋がっているかなとは思います。」
認定特定非営利活動法人日本IDDMネットワークの事務局として新たに入職された野中 奈波さんは、穏やかな口調でそう語ります。
早稲田大学社会科学部を卒業後、新卒で大手損害保険会社である三井住友海上火災保険株式会社に入社。約8年間にわたり営業事務として、正確性とスピードが求められる最前線で「縁の下の力持ち」として活躍し続けてきました。そんな野中さんが、なぜ全くの未経験である医療系のNPO法人へとキャリアチェンジを果たしたのか。
その背景には、ご家族の闘病経験から芽生えた「今度は自分が支える側として社会に関わりたい」という強烈で温かい想いがありました。
今回は、野中さんのこれまでのキャリアを振り返りながら、日本IDDMネットワークに入職するまでの経緯、そして入職後に感じているリアルな組織の雰囲気や、今後挑戦していきたいことについて詳しくお話を伺いました。
「社会貢献性の高い仕事に関心があるけれど、踏み出す勇気が出ない」という方にとって、背中を押してくれるようなインタビューとなっています。ぜひ最後までご覧ください。
競泳漬けの学生時代から大手損保での8年間。培われた「相手の立場を考える力」
ーー本日はよろしくお願いいたします。野中さんは今回、全く異なる業界から日本IDDMネットワークにご入職されたとのことですが、まずはこれまでの歩みについてお伺いできればと思います。学生時代はどのようなことに打ち込まれていたのでしょうか?
2歳から水泳を始め、大学の体育会水泳部に所属するまでずっと競泳を続けていました。当時は、毎日、筋トレして泳ぐという日々を送っていました。
大学時代は思うように競技の結果は出せませんでしたが、試合の際に、速い選手のサポートをしていくうちに、「誰かが安心して動けるように支える役割」にやりがいを感じるようになり、それが今の仕事のスタンスにも繋がっているかなと思います。
ーー選手をサポートする側に回ったことで、今の「支えるお仕事」への原体験が培われたのですね。大学卒業後のキャリアについても教えていただけますか。
はい。新卒で三井住友海上に入社し、入社前から希望していた企業営業部門に配属されました。そこで約8年間、営業事務を担当していました。主に担当していたのは流通業界で、百貨店などのお客様が多かったです。
主な仕事内容としては、営業担当者が安心してお客様対応に集中できるよう、契約手続きの計上や保険料の精算対応、申込書の不備解消など、様々なバックオフィス業務をマルチタスクで担当していました。
ーー損害保険の営業事務というと、かなり細かな確認や正確性が求められそうですね。
そうですね。保険は金融商品なので、少しの入力ミスや確認漏れでも、お客様や代理店を巻き込んだ大きなトラブルに繋がってしまいます。そのため、常に正確さやスピードが求められる仕事だったと思います。
また、代理店や契約者の方からの電話やメールでの問い合わせを受けることも多くありました。その際には、「相手が何を求めているのか」「1を聞かれたら10を答える」という意識で、相手の意図を考えながら柔軟に対応することを常に心がけていました。
ーー非常にやりがいのある仕事のように感じますが、8年間の勤務の中で特にご自身の「強み」として身についたと感じるスキルはどのようなものでしょうか?
一番身についたと思っているのは、「相手の立場を考えて動くこと」ですね。 日々の業務を進める中で、「もっと分かりやすくできないか」とか、「誰が担当しても同じように進められる方法はないか」と考えて、自分からマニュアルを作成したり、募集ツールを見直したり、新人の方が仕事を覚えやすいように資料を整理したりする機会が多くありました。自分だけが見てわかる資料ではなく、「初めて見る人でも理解できるか」という視点を大切にして、相手の立場になって伝えることを大事にしてきました。
ーーただ与えられた事務処理をこなすだけでなく、自ら課題を見つけて改善していく力が強かったのですね。
そうですね。事務処理能力やExcelのスキル(VLOOKUP、IF、ピボットテーブルなど)はもちろん身につきましたが、一番大きかったのは「改善する力」だと思っています。日々の業務の中で「もっと効率よくできる方法はないか」「ケアレスミスを減らすにはどうすればいいか」を常に考えながら仕事をしていました。
また、営業担当者や代理店など、多くの人と関わり、間に立って調整する役割も多かったので、相手に合わせた伝え方やコミュニケーション力、調整力も培われたと感じています。
人生の転機。次男の闘病経験から芽生えた「支える側として社会に関わりたい」という想い
ーー新卒から8年間、同じ会社で充実した日々を送られていた中で、転職を考え始めたきっかけは何だったのでしょうか?
8年間同じ会社で働く中で、仕事自体にはすごくやりがいを感じていたので、当初は辞めるという選択肢は自分の中になく、これからもここでキャリアを積み上げていきたいと思っていました。
しかし、昨年10月に2人目の育休から復帰した際、会社までの往復3時間ほどかかってしまい、時短勤務ではあったものの、生活の時間がギリギリになってしまったことで、退職を意識し始めました。
ーー往復3時間の通勤に加えての子育てとフルタイムに近い勤務は、本当に大変ですよね。ただ、そこからなぜ「医療」や「NPO法人」という全く異なる分野に進もうと思われたのでしょうか?
一番の転機は、次男が1歳になってすぐに小児がんという病気になったことです。それまで私の家族の中で大きな病気にかかった人を見たことがなかったので、初めて「医療」というものを身近に経験しました。
次男の闘病生活の中で、医療従事者の方々だけではなく、その他多くの様々な方々の支えによって、私たちが生活でき、安心して治療に向き合えている、ということを強く実感しました。
病気になると、患者本人だけでなく、その家族も大きな不安や悩みを抱えることになります。そうした中で、医療現場で働く方々だけでなく、周りで「支える」という存在の大きさを改めて感じました。
そのような経験から、「自分も今度は仕事を通じて、患者さんやご家族など、不安や悩みを抱えている方の“支える側”になりたい」「社会貢献性の高い仕事に携わりたい」という気持ちが強くなり、医療関係の仕事を探すようになりました。
「フルリモート×医療」で出会った日本IDDMネットワーク。未経験からNPOへの挑戦
ーーご自身の強烈な原体験が、キャリアの方向性を大きく変えるきっかけになったのですね。数ある医療系の仕事の中で、日本IDDMネットワークを知ったきっかけは何でしたか?
転職先を探している時に、Instagramで「フルリモート 医療」と検索したのがきっかけです。
dodaやマイナビなどの転職サイトでも「フルリモート」で探したのですが、出てくるのはIT系の事務ばかりでした。私はITの専門知識は全くないので、おそらく役に立てないだろうと思っていました。また、医療事務のフルリモート求人もあったのですが、経験者のみの募集ばかりで、未経験の私には応募が難しい状況でした。
ーーInstagramで求人を探すというのは現代ならではですね。
そうなんです(笑)。その時にちょうど、日本IDDMネットワークのInstagramアカウントが目に留まりました。「フルリモートができる事務局の仕事」と書いてあり、自分がやりたい医療に携われる仕事だと思い、「ここがいいな」と直感的に感じました。当時はまだ募集はしていなかったのですが、そこから団体のInstagramやホームページをよく見るようになりました。
ーー団体や「1型糖尿病」という病気について知った時、最初はどのような印象を持ちましたか?
日本IDDMネットワークのことを調べる中で、毎日インスリン注射などの治療を続けながら生活されている方がいることや、周囲の理解がまだまだ十分でないことを初めて知りました。
最初は、iPS細胞の研究支援や寄付金集めなどを主に行っている団体なのだろうと思っていました。でも調べてみると、「1型糖尿病の根絶」というゴールに向かって、研究支援だけでなく、患者さんやそのご家族への支援、啓発活動など、想像以上に幅広い活動を行っていることに驚きました。目標に向かって皆が一致団結して動いている姿に、凄さを感じました。
ーー最終的に「ここで働こう!」と決意された決め手は何だったのでしょうか?
一番の理由は、事業部長の内野さんや岩永理事長と面接でお話しさせていただく中で、「ここだったら、自分のこれまでの経験を活かしながら社会貢献活動ができる」と確信を持てたことです。
今ままで培ってきた事務のスキルや業務改善の経験を活かしながら、患者さんやご家族を支える活動に携われることに大きな魅力を感じましたし、何より団体の理念や活動内容に深く共感できたので、「絶対にここで働きたい」と思いました。
ーー全くの未経験からの異業種への挑戦となりましたが、ご家族の反応はいかがでしたか?
未経験の職場ではありましたが、社会貢献に繋がる仕事に挑戦することに対して、家族はみんな応援してくれました。自分の中で不安もありましたが、「自分らしく頑張ればいいよ」と背中を押してもらえて、とても心強かったです。
大手企業からNPOへ。温かい「チームプレー」の文化と、想像以上の業務の幅広さ
ーー実際に入職されて数日が経ちましたが、率直な第一印象はいかがですか?
皆さんが本当に優しく、温かく迎えてくださっていると感じています。
フルリモートという環境ですが、今はまだ「何がわからないのかがわからない」状態の私に対しても、皆さん全部丁寧に教えてくださっています。まずは自分で調べることが大事だとは思うのですが、「ここがわからない、助けてほしい」という時には、すぐにオンラインツールなどで通話して一緒に調べてくださいます。本当に優しい方が多いと感じています。
ーー前職の大手損害保険会社と比べて、社風や働き方に違いを感じる部分はありますか?
前職では、営利企業ということもあり、どうしても営業の目標達成などの「数字」を強く意識する場面が多くありました。一方で、日本IDDMネットワークでは、患者さんやご家族、寄付者の皆さんの「想い」が常に活動の中心にあるということを日々感じています。
また、組織の雰囲気としても違いがあります。前職では組織が大きく、マニュアルや約款が完璧に整っていたため、それを自分で見て学んで仕事を進めるという「個人プレー」の側面が強かったように思います。でも今の職場は、「みんなで分からないことを解決していこう」というような「チームプレー」の意識がとても強いですね。
ーー実際に中に入ってみて、「思っていた通りだった」ことや、逆に「意外だった」ことはありますか?
思っていた通りだったのは、「社会貢献への想いが強い職場」だということです。これは実際に入ってみても、皆さんの行動の端々から感じます。
一方で意外だったのは、業務内容が想像以上に幅広いということです。入職前は事務局のサポート業務をイメージしていましたが、実際には「ふるさと納税」の運営や、イベントの企画・運営、寄付者の対応など、本当に様々な活動があり、業務の幅の広さには、良い意味で驚いています。
得意の「業務改善」で団体を支えたい。社会貢献を志す方へのメッセージ
ーーこれから事務局として、具体的にどのような業務に携わっていく予定ですか?
今はまず、「ふるさと納税」関連の業務を中心に引き継ぎを受けていて、「ふるさと納税とは」という基礎的なところからしっかり学んでいる最中です。今後はそこから枠を広げて、事務局全体の業務に幅広く携われるようになりたいと思っています。「わからない業務がない」と言えるくらいまで、団体全体をカバーできるようになりたいですね。
ーー前職で培われたスキルは、今後どのように活かしていきたいとお考えですか?
前職では「業務改善」をすごく得意としていたので、その経験を存分に活かしたいです。
まずは今どんな業務がどのように動いているのか、全体像をしっかり理解してからにはなると思いますが、「ここの作業は少し省けるのではないか」「このフローをもっとわかりやすくできるのではないか」といった視点で、より効率的で、誰にとっても分かりやすい業務の仕組みづくりに貢献していきたいと考えています。
ーーNPOという環境でも、これまでの一般企業での経験が直接的に活きてくるのですね。「支える側」として、今後どのような存在になっていきたいですか?
今はまだ、私自身が患者さんやご家族の方と直接接する機会というのは多くありませんが、日々の事務局の仕事を一つ一つ丁寧に積み重ねることで、団体の活動の基盤をしっかり支え、「野中さんに任せておけば安心だ」と思ってもらえるような存在になりたいなと思っています。その積み重ねが、最終的に団体全体の活動を前進させる力になれたらいいと考えています。
ーー最後に、この記事を読んでいる方、特に「社会貢献性の高い仕事に関わりたいけれど迷っている」という方へメッセージをお願いします。
社会貢献性の高いNPO法人での仕事というと、「何か特別な経験や、医療に関する専門的な知識が必要なんじゃないか」と思われる方も多いかもしれません。私自身も最初はそう思っていました。
でも実際に飛び込んでみると、これまでの一般企業で培ってきた事務処理の経験や、業務改善のスキル、相手の立場に立って考えるコミュニケーション力など、自分の持ち味を活かせる場面がたくさんあると感じています。
私自身もまだ入職したばかりで、職員の皆さんに支えられながら日々学んでいる最中ですが、新しいことに挑戦しながら「誰かの安心や支えにつながる仕事がしたい」という強い想いがある方にとっては、とてもやりがいのある温かい環境だと思います。もし少しでも興味があれば、自分のこれまでの経験に自信を持って、ぜひ一歩を踏み出してみてほしいと思います。