当事者と支援者が”ファミリー”になる温かいコミュニティ。フルリモートのNPOで挑む、1型糖尿病の「認知拡大と根治」への道
「できるだけミッションが明確で、取り組んでいることに心から共感できる場所で働きたかったんです。」
認定NPO法人日本IDDMネットワークで個人寄付部門を担当する春田亜妃さんは、柔らかな口調でそう語ります。
これまで、子ども向けのオンライン国際交流サービスの立ち上げや、幼保施設向けの広報支援事業の創成期など、常に「まだ形になっていないものを形にする」仕事に携わってきた春田さん。営利企業で数々の事業を牽引し、確かな実績を築いてきた彼女が、なぜ次なるステージとして「非営利組織(NPO)」を選んだのか。
文学を愛した学生時代、商社でのファーストキャリア、そしてご自身の出産を機に教育・子ども向け事業へ飛び込んだ経緯から、現在の日本IDDMネットワークに至るまで、春田さんのキャリアをじっくりと紐解きました。
文学の世界、そして商社へ。すべては「見えない思い」を想像することから始まる
ーーまずはこれまでの春田さんのキャリアについて教えてください。
もともと出身は大阪なのですが、父が転勤族だったため、子どもの頃に関東へ来て、結婚してからも名古屋に行ったりタイに住んだりと、割と落ち着かない人生を送ってきました(笑)。そうやって色んなところへ行っていたからこそ、どこでもあまり怖がらずにやっていけるタイプになったのかなって思っています。
また、昔から本を読むのがすごく好きだったこともあり、大学時代は日本文学科に進んで、文学を学んでいました。言葉の世界は、背伸びしない等身大の自分でいられる気がして、とても心地が良いんです。
ーー卒業論文では樋口一葉をテーマにされたそうですね。多くの作家の中から、なぜ樋口一葉を選んだのでしょうか?
樋口一葉は若くして亡くなっているのですが、すごく不遇な人生だったり、女性のような社会の中で弱い立場にある人たちにクローズアップした作品を描いているんです。自分自身がマイノリティであるのにも関わらず、底力のある人だなと思い、そこに強く惹かれました。
社会の中で声を上げられない人たちをちゃんと描く、日陰になりがちな場面を取り上げる、という樋口一葉の視点は、「この人は実のところ、どう思っているんだろう?」みたいに、多面的に見たり想像したりすることなど、今の仕事にも通じているのかなと思います。
ーー表面的な事象だけでなく、その奥にある「見えない思い」を想像する力が、現在の仕事にも活きているんですね。大学卒業後は、商社へ就職されたと伺いました。
はい。実は大学4年生の就職活動の時期に、父が病気で入院して、そのまま亡くなってしまったんです。父はずっと営業職として働いていたのですが、私は学生だったこともあり、父の仕事や商売についての話を全く聞けないままお別れすることになってしまったんです。
「社会人になる前に、もっと色々と話を聞きたかったな」という後悔の念に駆られ、一度、自分自身で商売の現場に飛び込んでみようと思ったのが、商社に入社したきっかけでした。結果的に、商売というものを現場でしっかり見ることができたのは、その後のキャリアを考えても非常に良い経験だったと思っています
「いい子」でいるより「ありのまま」で。我が子から教わった教育への思いと、創成期を駆け抜けた日々
ーーその後、ご自身が一貫して「子ども」や「教育」の領域に関わるようになったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
自分が母親になってから、その後のキャリアを考え直し、子ども関連の路線に舵を切ったというのが大きいですね。
私自身、いわゆる昭和の割と厳しい家庭で育ったということもあり、「ありのままの自分」でいるというよりは、「いい子でいなきゃいけない」というプレッシャーをどこかで感じていたんです。実際に、私が子育てをする立場になると、「あぁ、あの時自分はこういうふうに感じていたな」と過去の感覚を再認識することが多くなりました。
だからこそ、子どもが持って生まれた可能性を信じてあげたいし、ありのままで生きられるような環境を作ってあげたいと強く思うようになりました。子どもに対して、大人が色んな選択肢を用意してあげられるようにしてあげたいし、そういう仕事のほうが自分としてはすごく幸せだなと考えるようになったこともあり、自然と教育業界に惹かれていきました。
ーー前職の株式会社Mimmyでは、子ども向けのオンライン国際交流サービスの立ち上げに携わられていたそうですが、当時のエピソードを教えていただけますか?
実は、あのサービスは私の子どもがきっかけで始まったようなものなんです(笑)。コロナ禍でオンラインの活用が叫ばれ始めた頃、海外のスタッフとうちの子を画面越しに繋いでみたら、急にいつも見ているアニメを「英語版で見たい!」と言い出したり、自分の知っている動物を英語で書こうとしたりしたんです。親がどれだけ仕掛けてもやらなかったことを、自分から「やりたい」と言い始めたんです。
「リアルに誰かとやりとりをすることが、こんなにも子どもの世界を広げてくれるんだ」と衝撃を受け、これをサービス化しようということになりました。
ーー実際にサービス化していく中で大変だったことはありましたか?
世界中のサーカス団員の方やアーティストの方などに声をかけて画面を繋ぐのですが、これがもう本当に大変でした(笑)。
毎日16時から20時の間に、10分のコンテンツを1時間に3回、月曜から金曜まで生配信で走らせていました。累計で10万人以上の子どもたちが参加してくれたのですが、時差がある中でアメリカやヨーロッパのスタッフを手動でスケジューリングしたり、電波チェックのルールを作ったりと、まさに人力の泥臭い運営でした。
生配信なのでトラブルも日常茶飯事でしたし、時間感覚の違う海外スタッフにリマインドし続けたりと苦労は絶えませんでした。しかし、「子どもを喜ばせたい」という目的は私たちも海外スタッフも完全に一致していたので、対話を重ねることで乗り越えることができました。参加した子どもたちからは、海外の活動家との出会いを受け「将来は動物の保護に関わりたい」という夢への思いが届くなど、非常に価値のある体験を提供できたと思っています。
ーーその後、株式会社スマートエデュケーションでも新規事業の立ち上げに参画されたんですね。
はい、会社の拡大期に新サービスを立ち上げる部署にジョインしました。もともとデジタル教材を提供している会社だったのですが、少子化で地方の幼稚園が経営危機に直面しているという課題があったんです。
そこで、単にホームページをリニューアルするだけでなく、園の魅力を引き出すコンサルティングをしたり、先生たちが自分たちでSNSを活用できるようにサポートしたりする事業を始めました。私は、まだ形になっていないものに対して、限られた制約の中でどう最適解を設計するかという、工夫のしがいがある状況にすごくワクワクするんです。
ここで広告運用やウェブディレクション、データ分析などを経験したことは、今の寄付のコンバージョン設計などにもすごく活きていると感じます。
売上よりもミッションへの共感を。非営利組織(NPO)という新たな選択肢
ーーこれまでの営利企業でのキャリアから一転して、非営利組織(NPO)である日本IDDMネットワークへ転職されたのはなぜでしょうか?
一つは家族の事情として、子どもが小学校低学年の一番手がかかる時期に、ベンチャーの創成期の激務をこなしていたため、少し息切れしてしまったというのがあります。子どもとの時間をもっと大切にしたいという思いがありました。
もう一つ大きかったのは、仕事に対する「共感」の度合いです。家庭との両立を考えると、それまでクリエイティブな事業で確かな経験を積むことができた分、限られた時間の中で自分の経験やスキルを活かすには、どのような環境がより良いのか考えるようになりました。その中で、「何をするか」だけでなく「何のために取り組むのか」という点を、これまで以上に重視するようになりました。
だからこそ次は、「できるだけミッションが明確で、取り組んでいることに心から共感できる場所で働きたい」と強く思うようになり、社会課題の解決に直接関わることのできる非営利(NPO)に絞って転職活動を始めました。
ーー非営利組織に絞って探される中で、日本IDDMネットワークのどのような点に惹かれたのでしょうか?
Wantedlyで色々な団体を探している中で、日本IDDMネットワークのことを知りました。
職員の方のストーリー記事なども読んでいく中で、一番の決め手となったのは、ミッションの明確さと熱意です。
私自身、社会貢献に関心があったにもかかわらず、「1型糖尿病」という病気のこと、そして患者さんが約10万人もいるということを全く知らなかったことにすごくショックを受けたんです。社会的な認知がこれほど低いという大きな課題がある中で、「1型糖尿病を根治する」という極めて明確なミッションを掲げている点に強く惹かれました。
また、理事長ご自身が当事者(娘さんが患者)であり、並々ならぬ熱意を持っていらっしゃること。さらに、研究者へ助成を行うための人脈や基盤がすでにしっかりと整備されている影響力のある団体だったこと、に魅力を感じました。
「ここなら、自分が今まで培ってきた『ゼロから何かを形にする力』や『発信する力』が役に立つかもしれない」と思い、迷うことなく入職を決めました。NPOだから、営利だからといった違いはあまり気にならず、ミッションに共感さえできれば自分の力は活かせるはずだと思っていました。
フルリモートでも感じられる温もり。当事者と支援者が繋がる「ファミリー」のような関係性
ーー実際に入職されてから、最初の数ヶ月で苦労されたことはありましたか?
最初に時間をかけて理解しなければならなかったのは、私たちの団体ならではの寄付のあり方です。日本IDDMネットワークでは、ご自身やご家族が1型糖尿病の当事者である方が、「未来を変えたい」という強い思いで寄付をしてくださるケースが非常に多くあります。
そのため、一人ひとりの思いや背景を理解し、それを社会に伝えられる職員であることが、団体として非常に重要だと感じました。発症して間もなく不安を抱えている方もいれば、長年病気と向き合いながら生活されている方もいて、その状況や気持ちは本当にさまざまです。だからこそ、1型糖尿病そのものへの理解を深めることはもちろん、SNSやメールでの発信においても、一人ひとりの日常や思いを想像しながら言葉を届けることの大切さを学びました。
ーーフルリモートという働き方に対して不安はありませんでしたか?
最初は「うまくやっていけるかな」という不安もありましたが、実際は全く問題ありませんでした。
団体として、通話ツールを導入しており、いつでもメンバーに質問や相談ができる環境が整っているんです。ちょっと聞きたいなと思った時にすぐに話せる環境ですし、先輩方が本当に丁寧に教えてくれるので、孤立感を感じることは一度もありませんでした。
ーー入社当初と現在で、団体に対する印象やご自身の意識で変わった部分はありますか?
想像以上に、団体と支援者、そして当事者の方々が「ファミリー」のような温かい関係性で結ばれていることに驚きました。
当事者やご家族の声を大切にしながら活動している団体ということもあり、皆さん本当に協力的で前向きなんです。例えばSNSで、働く世代の当事者の方からご自身の経験をお寄せいただき、それを発信してみたところ、多くの方に共感していただきました。こうしてご自身の経験を共有してくださる方や、その発信を広げてくださる方も多く、「みんなで、治る未来を実現したい」という思いを日々感じます。
私たちの団体に「1型糖尿病を治したい」という切実な思いを託してくださっているからこそ、ボランティアさんも含めて「みんなで一緒に頑張ろう」という一体感がすごいんです。私自身もファミリーの一員として、もっとエネルギーを注ぎたいと思うようになりました。
ーー現在は具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか。また、やりがいを感じる瞬間について教えてください。
現在は個人寄付部門に所属し、様々な寄付プラットフォームでの発信設計や、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングプロジェクトの企画・運営、そして東京マラソンのチャリティプログラムの運営などを担当しています。
その中で、最もやりがいを感じるのは、やはり「現場」で皆さんのリアルな声を聞ける瞬間です。東京マラソンのようなイベントの現場に行くと、ボランティアさん同士が初対面なのにも関わらず、熱心に情報交換をしていたりするんです。1型糖尿病患者の保護者の方々からも「ここで同じ境遇の親同士で繋がれて本当に嬉しい」というお声をいただいたこともあります。
また、あるイベントで研究者の方が当事者の親御さんの声を直接聞いた際に、「日々の研究を進めるための、本当に大きなモチベーションになりました」とおっしゃってくださったこともありました。
私たちの活動が、人と人を繋ぐ大切なコミュニティの場を提供できていると実感できた時、言葉にできないほどの存在意義とやりがいを感じます。電話対応一つとっても、「本当にありがとう」と心の底から感謝していただけることが多く、自分自身も一員として受け入れていただいているような温かさを感じています。
1型糖尿病を発症した時、真っ先に頼られる団体にしたい
ーー最後に、春田さんが今後この組織で実現していきたいこと、そしてこの記事を読んでいる求職者の方へのメッセージをお願いします。
実現したいことは、1型糖尿病と向き合うすべての方にとって、日本IDDMネットワークが選択肢の一つとしてすぐアクセスでき、最初に力になれる状態をつくることです。
患者さんの中にも、まだまだ私たちの取り組みをご存じでない方がたくさんいらっしゃいます。不安や悩みを抱えた時に、必要としている方に私たちの活動や情報がしっかり届くよう、コンテンツの整備や認知拡大にこれまで以上に力を入れていきたいです。
求職者の方へお伝えしたいのは、非営利(NPO)という働き方が、実際はとても身近なものだということです。営利企業からの転職先として、自分に合うのだろうかと感じる方もいらっしゃると思います。しかし実際には、とてもオープンで自由度の高い環境だと感じています。東京マラソンのような歴史ある大きなイベントの運営でも、「次をもっと良くするためにどうすればいいか」という改善のアイデアを積極的に聞いてくれて、自由に挑戦させてくれる風土があります。
また、他のNPO団体の方とお話しする機会も多いのですが、同じ社会課題に向き合う仲間として、組織の垣根を越えて率直に情報交換や相談ができるフラットな風土があります。そのオープンさや協働の姿勢には、日々刺激を受けています。今私は、これまで培ってきたスキルや経験を活かしながら、社会課題の解決に直接関わることができています。日本IDDMネットワークには、私自身も成し遂げたいと願う価値あるミッションと、それを支える温かいコミュニティがあります。もし「自分の経験を、心から共感できる活動に活かしたい」と感じている方がいれば、ぜひ一度お話しできれば嬉しいです。