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量子アニーリング × アートの可能性を突き詰める。伝説的なアニメ映画のプロジェクトを技術力で牽引した。

量子アニーリングで物流を最適化するソリューションを開発する傍ら、エンタテインメント領域のプロジェクトも手掛けている丸山さん。最適化技術を活用して、自動的にモザイクアートを生成する「Phosaiq」を開発しました。その独自ソリューションをベースに、人気アニメ映画のアーカイブをWeb上で展示するプロジェクトもリード。エンタメ領域での開発のこだわりや今後の展望について語ってくれました。

丸山 尚貴

シグマアイ:開発担当
東北大学大学院 情報科学研究科 情報基礎科学専攻 博士後期課程 在籍

量子アニーリングでモザイクアートを自動生成する「Phosaiq」を開発し、コンテストで優勝


▲twitter ID:@hanae0626 さんの画像を使用させていただきました。

-まずは、このプロジェクトに着手した経緯を教えてください。

2021年の冬にまでさかのぼります。東北大学の量子アニーリング研究開発室「T-QARD」で、論文の解説記事を執筆するアルバイトをしていました。そこで、量子アニーリングによるソリューションコンテストの開催を知って、後輩の原知正くんと応募したのです。テーマとして掲げたのが、モザイクアート。東北大学では写真部に所属していて、写真と量子アニーリングで何か面白いことができないか、と考えたのです。

シグマアイや研究室では、量子アニーリングを活用した社会課題解決に取り組んできました。そこで学んだスキルを活かして、アートやエンタテインメントの領域を開拓するのは楽しかったです。

-具体的には、どのようなソリューションを開発したのでしょうか?

Phosaiq(Photo + Mosaic:末尾のcをquantumのqに変更」と命名した、モザイクアートの自動生成のソリューションを開発しました。再現する画像をメッシュで細かく切って、それぞれの画像とストックした画像との類似度の計算をデジタルコンピュータで行います。その類似度をもとに画像の最適配置を量子アニーリングで計算します。そして、類似度が高い画像を表示する仕組みです。

画像を選ぶ精度を上げるのに苦労しました。一般的に使われているRGB(Red、Green、Blueの数値で画像の色を定義)の数値を活用したのですが、今回使用したデータでは良い結果につながりませんでした。試行錯誤を重ねて「Lab色空間(色相と彩度の数値で色を定義)」の指標を用いることで、元の画像の再現性が高まりました。また、同じ画像が隣に配置されるとアートとしてのクオリティが落ちるので、配置されないように制約条件や目的関数の調整を行いました。このように原君と試行錯誤を重ね、3週間でプロダクトは完成。クオリティの高いネコの画像が現れたときは、ちょっと感動しましたね。

-コンテストの結果はいかがでしたか?

優勝(D-Wave Systems社賞を受賞)することができました。審査員の皆様がそうそうたる面々で、評価されたのは素直に嬉しかったです。まだまだクオリティには課題はありましたが、量子アニーリングの新しいユースケースを提示できたことが評価されたのだと思います。私には、量子アニーリング技術は社会課題の解決だけではなく、もっと幅広い用途に活用できるのではないか、という問題意識がありました。その想いが伝わったように感じられたことが、特に嬉しかったです。

伝説的なアニメ映画のモザイクアートを手掛けた。クオリティの壁を越えるために調整を繰り返した


-そして、人気アニメ映画のアーカイブをWeb上で展示する『ANIMUSE』のプロジェクトで、新たにモザイクアートを制作しました。

シグマアイが案件として受注して、ビジネスとして取り組みました。『ANIMUSE』は、アニメに関わる様々な資料やコンテンツ、クリエーターの思いを、デジタル空間でアーカイブ化するプロジェクトです。1987年に公開された伝説的なアニメ映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の展示を行っているのですが、そのトップページで公開するモザイクアートの制作を担当しました。プロジェクトのオーナーで、著名なアニメプロデューサーの植田益朗さんとも、何度もやり取りをさせていただきました。私自身、最低でも毎日1話は見るくらいアニメ好きですので、興奮しながらプロジェクトを進めていましたね。

-このプロジェクトで大変だったことは何ですか?

モザイクアートとして求められるクオリティが非常に高く、求められるアウトプットを出すのに苦労しました。アニメのキャラクターの造形は絶妙なバランスで成り立っています。特に顔の表情など繊細な表現が求められる箇所の再現は、ハードルが高かったです。このハードルを越えるために、何度もアルゴリズムに調整を加えました。

また、原画に近づけようとメッシュを細かく設定しすぎると、モザイクアートとしての魅力が伝わらない。精密さと粗さのバランスを取るのは難しかったですね。何とかメッシュの最適な粒度を見出すことができたのですが、ネコに比べるとかなり膨大な点数を扱うことに。類似度を算出するための処理回数が指数関数的に増え、データの前処理に多くの時間を要してしまいました。

画像検索などで用いられている効率的に類似度を算出する技術を活用することで、何とか乗り越えることができました。また、生成された画像が暗くなる傾向が出てきたので、全体の明るさや輝度を向上させる処理も加えました。誰もが納得するモザイクアートを生成するまでに試行錯誤を繰り返しましたね。

他領域にも展開が可能。新たな社会実装も視野に入れている

-9月2日のリリース後はいかがでしょうか?

評判は良いと聞いています。ただし、まだまだ完成度を高めていきたいですね。たとえば、周りのギザギザの部分は、プログラム上で乱数を用いて自動的に生成しています。この部分のクオリティはまだまだ追求できますし、今後はより複雑なアートにも挑戦したいと考えています。

-今後はこの技術を活かして、どのようなプロジェクトを進めていきたいですか?

今のところ社内の小規模なプロジェクトですが、様々な検討をはじめています。この最適化技術のコアは、複数のデータを並べて、全体の価値を高めることだと定義しています。よって、画像データやモザイクアート以外の領域にも適用は可能かと。たとえば、服のリメイクへの活用を模索しています。古着のリメイクでは、幾つかの服を組み合わせることが多いのですが、手法としては『ANIMUSE』のプロジェクトで用いたものと近いです。個人的な開発・表現活動でも、様々な分野に活用してみることで、この技術の可能性を広げていきたいですね。

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