「イベントを形にすることがゴールではありません。学生の熱量と技術を社会につなげることこそが私たちの介在価値です。」
企業や行政と連携しながらプロジェクトの企画・運営を手がけるON BOARDが、2023年度から事務局を担う高専生向けビジネスコンテスト「WiCON」。採択20チームに技術実証費用をお渡しし、約9ヶ月かけて実際にものを作り地域で実証実験を行うこのコンテストで、メインディレクターとしてその場を耕し続けるのが松本道子さんです。
ON BOARDが『エコシステムガーデナー※』と呼ぶ仕事の実像を聞きました。
※エコシステムガーデナーとは:多様なステークホルダーをつなぎ、持続可能な「生態系(エコシステム)」を育む役割を指す。海外では「エコシステムビルダー」という類似の概念が広まりつつあるが、ON BOARDは管理・推進にとどまらず、人と人の関係性を「耕す」ことを本質と捉え、「ガーデナー(庭師)」という言葉を用いている。
実証費用の支援が引き出す「高専生のポテンシャル」と地域課題解決への本気度
── まずはWiCONについて聞かせてください。
松本:WiCONは高専生を対象とした、「ワイヤレス技術」をテーマに人材育成・サービス創出を目指すコンテストです。最大の特徴は、単なるアイデア提案で終わらせず、1年かけて学生が「実際にものを作り、技術実証を行う」という長期プロセスを歩む点にあります。
一般的なコンテストは、プレゼンが終われば「お疲れ様でした」で幕を閉じます。しかし、高専生の本領はやはり「ものづくり」に他なりません。だからこそ、予選を通過した20チームには、技術実証費用を支援し、ものづくり・実証まで取り組んでもらいます。学生は8〜10ヶ月にわたるプロジェクト期間で、この予算を自ら管理し、部品を購入し、現場へ足を運び、実証実験の結果を3月の本選でぶつけ合います。この「自らの手で社会課題を解決する」という実体験こそが、WiCONの核だと思います。
── 「社会の課題解決」という点では、どのようなプロジェクトが動いているのですか?
松本:例えば過去には、農業のDX化や害獣駆除のシステム、自然災害時の課題を解決するといったプロジェクトがありました。高専は全国各地にありますから、それぞれの地域の「困りごと」がそのまま研究テーマになるんです。高専生はハードウェアもソフトウェアも、そして通信も分かっていないと、現場の課題を解決できるシステムを形にできません。その難易度の高いワイヤレス技術を駆使して、泥臭く現場で実験を繰り返すんです。
WiCONでは、課題を見つけ、自分たちだけで解決するのではなく、地域の方と連携することも重視しています。さらに予算を踏まえてものづくり・実証をして、最終報告を行う。社会に出て必要となるそれらすべてを学べるプログラムになっています。。
異色のキャリアで培った「ゼロベース思考」が完全内製のON BOARD流とマッチ
──松本さんのキャリアについても聞かせてください。
松本:私は派遣からキャリアをスタートし、Web制作や通信会社への常駐、リノベーション会社の広報など、多岐にわたる環境を渡り歩いてきました。代表の大山とは通信会社で常駐していた時に一年ほど一緒に働かせてもらっていました。その後はお互いの環境の変化もあって、10年近く連絡を取っていなかったんです。それが、前職を辞めてフリーランスになろうと考えていた矢先、大山から突然一本の電話があったのです。
自分のWeb制作や広報のスキルを新しい環境で試したいと思っていたため、大山のオファーは渡りに船でした。ON BOARDがWiCONの事務局を任されることになったタイミングで、私も本格的にプロジェクトに加わり、現在はメインディレクターとして運営全般をリードしています。
派遣から始まった通信業界での基礎知識、Web制作のスキル、そして前職の広報で培ったイベント企画・運営。一見バラバラに見える私のキャリアも、それらの経験がすべてWiCON運営に活きています。
──これまでの経験は、具体的にどう運営に活かされているのでしょうか。
松本:以前いたWebコンサルティング会社時代に培われた「ゼロベース思考」が、今の私の軸になっています。当時はあまり意識していませんでしたが、「そもそも、この仕事の目的は何だっけ?」と、既存の枠組みに囚われず問い直す癖がいつの間にかついていたんです。
この「そもそも……」と一から組み立て直す思考習慣が、手探り状態で運営している今のWiCONの現場にも、非常に活かされていると感じます。
── なぜ、内製化にこだわる必要があるのですか。
松本:皆様からいただく協賛費の多くは、主役である学生たちの技術実証支援に最優先で充てたい。そのため、事務局の運営費は必要最小限に抑え、Web制作から審査会の調整、会場設営に至るまで、基本的には自分たちで泥臭く手作業で行っています。
学校訪問が生んだ大手企業と学生の認識ギャップの解消。協賛企業への新たなメリットを提供
── WiCONの本選以外の期間は、どのような活動に注力しているのでしょうか。
松本:特に力を入れているのが、協賛企業の皆様と一緒に高専を訪れる「学校訪問」です。実は、学生たちは驚くほど企業のことを知りません。大人なら誰もが知る業界トップのメーカーであっても、学生たちにとっては馴染みがないケースが多々あります。
彼らにとって大切なのは自分たちの活動を応援し、対等に向き合ってくれるかどうかなんです。だからこそ、学校訪問を通じて直接学生たちの熱量に触れ、先生方も含めた教育の現場と深く繋がれる機会は、協賛企業の皆様にとって非常に価値のある、未来への投資の場になっています。
── 訪問先では具体的にどのような交流が行われるのですか。
松本:学生たちによるプレゼンと、それに対する質疑応答や意見交換を行います。企業の方からの視点は、学生たちにとっても新しい気づきになっているようです。また、学生さんに校内を案内してもらう時間もあるのですが、高専生のものづくりを実現するための専門的な機械や環境が揃っていて、私たち事務局や企業側が驚かされることも少なくありません。
お互いに机の上だけでは分からなかった、学生のものづくりへの熱意と、企業の応援したいという想いが交わる交流会になっていると感じます。
全58校のハブとなり「ワイヤレス技術の未来」を社会実装する『エコシステムガーデナー』の決意
── 今後のWiCON、そして松本さんの展望についてお聞かせください。
松本:まずは、全国58校すべての高専から応募が来る状態を目指しています。現在は約半数ですが、WiCONを「高専生なら誰もが知る、自らの技術を試す舞台」にまで育て上げたい。認知度をさらに高め、審査員が「応募が多すぎて見切れない」と悲鳴を上げるくらいにしたいですね(笑)。
── WiCONを通じて、社会にどのような影響を与えていきたいですか。
松本:今注目しているのは、社会インフラとしての通信の可能性です。WiCONから生まれた技術が、社会インフラとして必要な技術になっていく。私たちはそんな「未来の種」を育てている自負があります。
これからも『エコシステムガーデナー』として、学生と企業の願いをゼロベースで結び、全58高専へこの熱狂を広げていきたい。本選で見せる学生と企業の最高の笑顔を、全国すべての学校と分かち合うことが私の目標です。