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求:オルタナティブなアーティスト。プラスアルファの価値提供を目指す"TOKIO TOKYO"の歩みと未来

IT経験を生かしてライブハウスをアップデートする

――TOKIOさんは株式会社メルカリや株式会社リクルートホールディングスを経て、2019年にTOKIO TOKYOを運営するHYPE株式会社を設立されています。IT系企業から音楽業界に参入するのは珍しいようにも思うのですが、なぜ参入しようと思ったんですか?

父親が横浜でライブハウスを経営していて音楽やライブに慣れ親しんでいたのと、大学時代にクラブイベントを開催していた経験が大きな理由です。リアルの現場を作る楽しさや、みんなが音にノって楽しんでいる光景が忘れられなかったんですよね。


――幼少期から音楽やライブに関わりがあったとのことですが、なぜ直接音楽業界を選択せず、IT系の企業に就職したのでしょう。

今思うと嫌なんですが、当時はいわゆる“意識高い系”の学生で。やりたいことをやっていくには自分の実力を上げる必要があると思ったんです。そのために、事業作りに対しての熱量が高い人が沢山いる環境に身を置いてビジネスの基礎をつけたいと考えて、一度は音楽業界以外を選びました。



――音楽業界に参入するにあたって、レーベル業をやっていく選択肢もあると思います。その中でもライブハウス経営を選んだ理由には、慣れ親しんでいたことがあったのでしょうか。

いや、率直に言うと打算的で。勝てると思ったんです。


――それは既存の企業にということですか?

“勝てる”という表現は適切ではないかもしれませんが、”ユーザーに価値提供できる”と思ったんです。

今も思っていることですが、音楽事業をやるからには大きい会社を作りたくて。今から業界経験がない自分が、単純にレーベル業をやっても、大手の会社には勝てないし規模を大きくするのに途方もない時間がかかると思ったんです。

そこで自分たちが価値提供できる場所を考えた際に、コロナ前、良くも悪くもライブハウスは20~30年くらい変わっていないと感じたので、IT系のノウハウを活かせると考えました。元々イベントをやっていて肌感もあったので、新しく面白いことができるかもしれないなと。


“選ばれるライブハウス”になるために。プラスアルファの価値を提供する

――TOKIO TOKYOは「単なる箱貸しだけでなく、“イベントの成功”まで共に走るパートナー型ライブハウスへ。」を掲げられていますが、こういったコンセプトにした課題感や背景を教えてください。

数多く開催されている対バンイベントに出演する意味が薄れてきていると感じたことが大きいです。もちろん組み合わせを考えて、依頼をして開催をすることには大きな意味がありますが、イベントに出ることでファンが増えたり特別な見られ方をしたり、明確にかっこいいと思ってもらえるような、より深い価値提供をしたいと思っています。



――対バンイベントだけでなく、プラスアルファの部分を重視しているんですね。

はい。アーティストの人たちだけでは考えられなかったアイデアを提案したり、実行できなかったことをサポートすることで選ばれるライブハウスになれると考えていて。一緒に伴走していくライブハウスを目指しています。


――ライブハウス事業をする上で大きくなるためのコンセプトということで。TOKIOさんはイベントの成功を重要視していると感じているのですが、色々な形の“成功”がある中でTOKIOさんが思う“イベントの成功”はどのようなものですか?

数字も感情も動くことだと思っています。もちろん、お客さんが少なくても楽しんでくれることはとても素敵なことです。でも、そのアーティストを好きになったというのは感情であって、目に見えるものではない。だからこそ、分かりやすい数字も必要ですし、少しでもTOKIO TOKYOに出演することでお客さんを増やせるようにしたいですね。

あとは、アーティスト同士の関わりを生むことも大切にしています。こけら落としイベントに出演していただいたHelsinki Lambda Clubとどんぐりずは、ツーマンを機に一緒に曲を制作することになって。最近だと浪漫革命と新東京がTOKIO TOKYOの周年企画での対バンをきっかけに、浪漫革命の自主企画で対バンを発表していました。きっかけになるようなイベントは理想です。





――お客さんだけではなく、アーティストが繋がっていくことも対バンの魅力ですよね。TOKIO TOKYOは綺麗な内装も特徴的で、ライブハウスでありながらもライブハウスっぽくない、より開かれた場所への意識を感じるのですがいかがですか?

僕は古き良きライブハウスも大好きですが、一見さんが行きづらい雰囲気も感じていて。行き慣れていない人も気軽に来てもらえるようにするためには、見た目が分かりやすい解決法だと考えました。明るくて清潔感のある色を基調にすることで、誰もが入りやすくて足を運べばワクワクできる場所にしたいです。




3周年を迎えたTOKIO TOKYOの歩み 自己紹介替わりの『ONE WEEK WONDER』

――TOKIO TOKYOではこれまでに数え切れないほどのイベントを開催されてきたと思いますが、TOKIOさんが特に印象が残っているものを教えてください。

まずは、2021年に開催したBREIMENとw.o.d.のツーマンイベント『超存在感』ですね。ファンクとグランジという違ったジャンルの音楽でありながらも、同世代として切磋琢磨するような意識が生まれたと思いますし、チケットも即完売して。数字もバンド同士のスパークも実現できた例だと感じています。



――TOKIOさんが考える“イベントの成功”を実現できた例ですね。

あとは、こけら落としイベントの『ONE WEEK WONDER』も印象に残っています。とにかく200~250キャパで見れないようなアーティストをガンガン呼んで、7日間連続で開催しました。TOKIO TOKYOのブッキング像を提示してくれた企画だと思っていますし、自己紹介替わりになったかな。



――『ONE WEEK WONDER』は現在も継続して行われているイベントで、TOKIO TOKYOのカギを握っている印象です。

2023年3月にはKT Zepp Yokohamaで、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとPEOPLE 1、BREIMEN、鋭児の4組で開催しました。昔から大好きだったアジカンと同世代の3組と一緒にライブを作れたのは喜びでしたし、アジカンのライブを舞台袖から見ている時に、出演者のみんなと目を合わせて「最高だな」って話して。忘れられない景色ですね。


――TOKIO TOKYOではアーティストの方からの出演希望のフォームを作成したり、チケットを販売できるショップを設けたりと、プラットフォームを広く持っている印象もありますが、その点はいかがですか?

すごく意識している点ではあって、可能な限り自分たちで完結できるようにしています。


――それは金銭的な側面から?

お金や能力、アウトプットの質ですね。自分たちで一貫してやれれば、進行もしやすく時間を短縮できるし、意図したそのものが完成すると思っています。即座にチケットを販売できれば他の施策に力を回せるし、アーティストフォームを作ればバラバラに届いていた依頼が一元管理出来て見逃しも減ります。アーティストとファン双方に、快適で便利な体験を提供したいです。


――インディペンデントな活動を通じて、アーティストやお客さんとダイレクトに繋がることを大切にされているように感じました。

そうですね。今の時代、データを外部が握っていることは弱点になると思っていて。極論、アーティストとお客さんのメールアドレスさえ持っていれば、いつでも連絡はとれますよね。でも、実際にどんな人が来るのかまでは分からない。データを持つことで、現場の感覚と擦り合わせながら、ニーズに応えたり不便を改善したりできると考えています。


TOKIO TOKYOはオルタナティブを求めている

――ライブハウスにはハコのカラーがあると思いますが、TOKIO TOKYOはR&Bやファンクの系譜に位置するアーティストが多い印象があって。TOKIO TOKYOとして出演しているアーティストのジャンルは意識しているんでしょうか?

立ち上げの時はこだわっていたんですが、今では様々なジャンルの方に出演していただきたいと考えています。当時、僕はBREIMENのマネージャーをしていたので、周辺のジャンルになることが多くて。今はジャンルを問わず多くのアーティストさんとお仕事をして、幅を広げていきたいですね。


――ジャンルへの拘泥は薄れ、より外に出ていきたいという感覚が強くなったと。

ええ。ジャンルへのこだわりは薄れていますが、カウンターっぽいことをしている人は変わらず好きで。世の中であまりやられていないことや「メインストリームで勝負してるけど、こんな角度でくる⁉」という活動をしている人に出て欲しいと思っています。


――語義的な意味でのオルタナティブだと感じましたが、TOKIOさん自身が持っているライブハウスをモダンにしていこうとする価値観と合致していますよね。

まさしく! 今の時代誰もやっていないことを一から生み出すのは難しいですが、自分のような新参者は既にあるものを、ただ踏襲してやるべきではないと考えています。誰かから引き継いだものだけではなく、新しく何かを起こすのであればちゃんと価値があることと、新規性が大切だと考えています。



ーー初めて連絡をいただくアーティストの方にはどの程度ビジョンを持っていて欲しいと考えていますか? 「やりたい」程度の緩い感覚で良いのか、それとも明確なテーマがあった方が良いのでしょうか。

「やりたい」の気持ちが何よりも必要だと思っています。ただビジョンの解像度としては「こういうライブがしたい」よりも「こういうアーティストになりたい、こういう音楽がやりたい」の方が大切だと考えていて。


――もっと中長期的なビジョン?

そうですね。どういう音楽がしたくて、何を伝えたくて、何がやりたくないのかというのが明確であれば他のことは自然と全部ついてくると、周囲のアーティストを見ていて感じます。


新しい音楽体験を作りたい。TOKIO TOKYOのこれから

――TOKIO TOKYOは2024年の3月で3周年を迎えました。TOKIO TOKYOとしての今後の目標を教えてください。

ライブイベントの文脈で運営しているTOKIO TOKYOをもっと外に広げていきたいです。関西や九州などのエリアに直営店を作ったり、他店舗の支援をしながらアーティストに価値提供ができるライブハウスを増やしていきたいと思っていて。(※現在TOKIO TOKYOでは、関西や他地域の他社ライブハウスと連動した企画も展開しています)選ばれるライブハウスになることで、多くのアーティストにTOKIO TOKYOに出演してもらえると思うので、その上でレーベルやマネジメントに発展させたいですね。


――レーベルやマネジメントの側面ではいかがですか?

日本の音楽やアーティストを、アジアをはじめとした海外に広めていきたいです。昨年、担当しているバンドがロサンゼルスで制作をした際に、漠然と「海外に行けたらいいね」と話していたことが現実味を帯びて。想像以上に遠いものではないと感じたので、正しい努力の仕方を理解した上で、一歩一歩進んでいきたいですね。そのために、まずはTOKIO TOKYOを広げて一緒に頑張れるアーティストの方と出会っていこうと思います!


――TOKIO TOKYOとして目指しているハコの形はありますか。

今やっているコンセプチュアルなハコ作りも継続しなくてはならないし、新しい形の音楽体験を作りたいです。普通の対バンライブだけではなく、会場とアーティスト、ファンの人が集まったからこそできる体験を生み出したいですね。

――新しい音楽体験というと?

2021年にBREIMENと開催した『PARTY SRSSIOONe』がヒントになると思っています。作曲するところをその場で披露していたんですが、お客さんからは非常に好評で。単にライブを見るだけではなく、相互作用が生まれるようなイベントもやっていけたらなと。


――最後に、読者の方へメッセージをお願いします!

ライブを通じて成長したい方や面白い自主企画・ワンマンライブをしたいと思っているアーティストさんは、公式ホームページ公式LINE、SNSに連絡をもらえると嬉しいです!



取材・文=横堀つばさ

撮影=高木健太


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