「地域からハッピーシナリオを共に」をスローガンに、全国各地で地域に根ざした事業づくりに取り組む株式会社NEWLOCAL。
連載「Making NEWLOCAL」は、NEWLOCALが地域と共に仕掛ける事業やプロジェクトに焦点をあて、その軌跡や未来への展望を描き出していくシリーズです。
今回話を聞いたのは、京都府の北端・丹後エリア(宮津・天橋立・与謝野)でまちづくりの最前線を走る、京都丹後企画の濱田祐太さんと井上公平さん。そして施工パートナーでもある、創業100年の高岡建材の代表取締役を務める高岡洋輔さん。
京都丹後企画が2024年に創業してからわずか2年。彼らがこの地域に次々と開いてきた拠点は、いずれも“ゼロから”作ったものではありません。閉店した名店や主を失った古民家など、すべてが“誰かの続き”から始まっています。外から来て地域の事業を承継する側と、地域で代々家業を繋いできた側。2つの視点で“続きを描く”まちづくりについて紐解きます。
株式会社京都丹後企画 代表取締役 濱田祐太
1996年、京都府与謝野町に生まれる。関西学院大学で学ぶ傍ら、2019年に株式会社ローカルフラッグを設立。特産品である与謝野ホップを活用したクラフトビール「ASOBI BEER」の展開を軸に、原料の生産から醸造までを一貫して手がける体制を構築した。現在はまちづくりや移住支援、次世代の育成にも注力し、2024年に株式会社京都丹後企画を始動。広域的なエリア開発を通じて、丹後地域の新たな価値創造に挑んでいる。Forbes JAPAN「30 UNDER 30」2023選出、KYOTO Next Award 2025では最優秀賞を受賞。
株式会社京都丹後企画 事業責任者 井上公平
関西学院大学卒業後、アナログレコード店勤務を経て、2010年に中川政七商店に入社。直営店舗のスーパーバイザー、店舗開発を歴任し、全国の商業施設における直営店舗の運営・開発に携わる。2016年からは地域活性事業にも取り組み、工芸を軸としたイベントの企画・運営や奈良県でのまちづくり事業を推進。特に、商業施設開発、イベントディレクション、ブランディングの分野で経験を積む。趣味は酒と音楽。ジャズやクラブミュージックが好きで、音楽を通じた空間づくりにも関心がある。
株式会社高岡建材 代表取締役 高岡洋輔さん
与謝野町生まれ。関西学院大学卒業後、不動産会社を経て帰郷。
2002年に家業の住宅資材全般を扱う材木建材店を継承し代表取締役に就任する。新たに不動産事業を展開し、地域の眠っている空き家等の資産活用を開始する。空き家バンク通じた不動産の売買相談をはじめ、現在2ヶ所の貸別荘事業運営や遊休不動産の利活用提案、建築や建築資材販売の知見と不動産のスキームを活かし、ローカルを中心に不動産の付加価値向上と新たな可能性を探っている。
丹後に増えた「点」をめぐる
かつては点として存在していた観光地が、宿や飲食店、ショップという新たな「点」と結ばれることで、線になり、面になる。京都丹後企画は、地域の人と手を取り合い、丹後というエリア全体を少しずつ「歩いて巡れる“目的地”」へと塗り替え始めています。
HASHIGOYA(2024年10月リニューアルオープン)

「HASHIGOYA」が目指すのは、丹後を感じる体験の入り口
京都丹後企画が初めての拠点として手がけたのが、日本三景・天橋立を望む傘松公園のふもとに位置する「HASHIGOYA」です。地元の土産屋を承継したこの店では、「A Craft Journey~丹後でクラフトを“はしご”する旅~」をコンセプトに掲げ、クラフトビールと地元食材・商品を扱います。
主役は、自社で開発・醸造したクラフトビール「ASOBI PALE ALE」。店内にはビールとのペアリングを楽しめる地元生産者のせんべいや缶詰が並ぶほか、洋風スパイスやオリジナルソースで味わう新感覚の「ビールに合う天ぷら」、天丼、特製天うどん、さらにはスムージーまで揃います。“丹後を感じる体験の入り口”を目指し、地元生産者と共にお店づくりを進めています。
mizuya(2025年5月オープン)

物語を感じることのできる「mizuya」
天橋立を望むロケーションに佇むブティックホテルは、都の文化を下支えした歴史を再解釈し、茶室の「水屋」などになぞらえて名付けられました。
客室には、黒谷和紙職人・ハタノワタル氏の手漉き和紙や陶芸家・片川祐之介氏の茶器がしつらえられ、歴史が紡いできた物語を静かに感じられます。1階のcafe & bar「菓寮 浮雲」では、朝食に「円卓」の庄本彩美氏監修による郷土食「ばら寿司」にインスパイアされた御膳を用意。カフェやバータイムには、老松の上生菓子と宮津「磯野開化堂」の日本茶のペアリング、お酒や肴をゆったりと楽しめます。
暇家 KAYA(2026年5月オープン)

余白を楽しむ「暇家 KAYA」
日本遺産・ちりめん街道の古民家を再生した、1日1組限定の一棟貸しの宿。「しとやかな風に包まれる、ひとときの暇を」をコンセプトに、かつて機織り場として使われた吹き抜けの土間を活かした、土地の記憶を引き継ぐ空間です。
特産の与謝野ホップ香るクラフトビールや、ホップアロマを取り入れたロウリュ付きのプライベートサウナが楽しめます。サウナ後には特製の蒸し料理、朝食には身体を無理なく目覚めさせるおじやを用意しています。この場所ならではの静けさや暮らしの余白をじっくりと味わえる滞在拠点になっています。
カネマスの七輪焼き(2026年5月オープン)

変わらず受け継がれる「一刻干し」
宮津の港町で長年愛されながらも一度は幕を下ろした名店「カネマス」。京都丹後企画は、この地域の味と体験を未来へつなぎたいという想いから、その歴史を受け継ぎ、復活させました。
名物は、宮津港で水揚げされた新鮮な地魚を、特製の調味液に漬け込み乾燥・熟成させる独自製法「一刻干し」。余分な水分を飛ばして旨味を凝縮させた地魚を、店内では一尾ずつ目の前の七輪で丁寧に焼き上げて提供します。地域の人にとっては“懐かしい”、観光客にとっては“新しい”味わいで喜ばれています。
なぜ「ゼロから」ではなく「受け継ぐ」のか
人口減少が進む地方都市において、新しいハコモノを次々と建てる新規開発は本当に持続可能なのか。京都丹後企画が「受け継ぐ」というアプローチにこだわる理由を、代表の濱田祐太さんは語ります。

株式会社京都丹後企画 代表取締役 濱田祐太
「新しく事業を立ち上げていくということも、もちろん僕は大事だと思ってはいるんです。でもそれ以上に、この地域で脈々と思いや熱を持って根付いている事業が、『後継者がいないから』と、なくなってしまうのは非常にもったいないと思っていて。だからこそ、価値のあるものをちゃんと残していく、繋いでいくということは大事にしています」(濱田)
その「受け継ぐまちづくり」の象徴であるのが、惜しまれながらも閉店した地元の名店「カネマス」の復活プロジェクトです。前店主のご家族や地域の方々と対話を重ね、京都丹後企画が事業承継をする形で2026年5月、再び灯りをともしました。

歴史と思いが詰まった「カネマス」
「カネマスは僕がめちゃくちゃ好きな店で、毎週のように訪れるほど。会社のお客さんや、移住を検討している人などを案内して、ごはんを食べながらいろんな話をしてきました。大事な人との時間や、会社のターニングポイントになる食事は全部カネマスで、というくらい、本当に思い出深い場所だったんです。
だから、この事業が伸びそうとかどうこうはちょっと一旦置いておいて、好きな場所、好きなお店をなんとか復活させたいという思いがありました。事業承継できたのも、”元々のカネマスのスタイルを大切にする”という、リスペクトが伝わったのかなと感じています。
前店主のお父さんはあんまり喋らない方なんですけど、『暖簾やロゴを使っていいですか?』と聞いたら、『頑張ってくれ』と。言葉としてはそれくらいなんですけど、やっぱり僕らにとってはすごく大きかったですね」(濱田)
丹後のまちづくりをする上では欠かせない、過去・現在・未来を見る視点の重要さを語るのは、京都丹後企画で事業責任者を務める井上公平さん。

株式会社京都丹後企画 事業責任者 井上公平
「僕自身は、以前のカネマスには行ったことがなくて。当時働いていた方を繋いでいただいたり、濱田くんの記憶をたぐり寄せて、シェフと一緒に再現する作業を進めました。やっぱり嬉しいのは、元々通ってらっしゃった方々に喜んでもらえたことです。現場でのやりがいは本当にそこに尽きますね。
ただ、事業という視点で見たときには、元々のやり方をそのままやるのではなく、“今の時代に合った形”で引き継いだものを活かしていく視点がめちゃくちゃ重要だと思っています。カネマスの話でいくと、ブレさせてはいけないところは『一刻干し』という製法やこれまでの歴史です。一方で、今の宮津の現状を見ると、観光客がすごく増えていますし、外国人も増えています。以前はなかったSNSでの発信も今の時代の流れになっています。守るべきところは守りつつ、事業としてはちゃんと利益を出して継続させていくことが何より大切です」(井上)
歴史と信頼を継ぐ責任
京都丹後企画のプロジェクトを、建設・不動産の専門知識と100年の歴史という圧倒的な信用で支えているのが、暇家KAYAの施工パートナーでもある、高岡建材の代表・高岡洋輔さんです。高岡さんと濱田さんの出会いは、10年ほど前に遡ります。

株式会社高岡建材 代表取締役 高岡洋輔さん(写真左)
「濱田くんの実家がうちのオフィスの近くだったんだよね。2020年に、彼が地元に帰ってきて、会社を立ち上げた時に『オフィスをこれから探さないといけない』と言うから、うちの会社の小さなショールームの端っこを間借りしてもらったんです。最初はお風呂のサンプルパネルなんかが並ぶ中でweb会議なんかをしていて、そこからストーリーが始まりました」(高岡さん)
高岡さんは100年という長い歴史とともに家業を継ぎ、26年間にわたり地域経済の前線に立ち続けていています。歴史とともに信頼を引き継ぐことの難しさや必要性を理解しているからこそ、京都丹後企画のように地域に参入する若き世代と手を取り合うことの意義を感じています。
「事業を引き継ぐ場合、先代から培ってきた信用とお客さまというステージがあるところに飛び込めるのがメリットだと思います。一方で、ずっと支えてくださっているお客さまたちに対して、その期待に応える責任の重さがある。前の人たちがやってきてくれたことに対するリスペクトや感謝がないとうまくいかない。それが事業を継承していく難しさであり、自分なりにずっと答えを探し続けているところです。
若い人の良さは、やっぱり行動力や突破力、そして発信力があるところ。ただ、見ていて当然危なっかしいところもある。うちは100年近く建材屋をやっているので、地域の人脈や土地柄の習慣も分かります。彼らの事業をサポートし、地域の大人たちとの橋渡しをしてあげるのが、僕らの世代の役割だと思っています」(高岡さん)
既にある場を、地域と人の手で磨く

様々なバックグラウンドや想いを持つメンバーたち
京都丹後企画が運営する「mizuya」や「HASHIGOYA」の運営現場でも、既存の資源を次世代へと繋ぐためのコミュニケーションと人材育成が花開いています。地方における最大の課題である「人材採用と定着」について、濱田さんは確かな手応えを語ります。
「今、バイトを含めて30人弱くらいスタッフがいるんですけど、ほぼ地元の人です。『この会社に関わったら地域に貢献できる』『面白そうなことができそう』と集まってきてくれて。英語が喋れたり、高いスキルやモチベーションを持っていたりする。地域の中で『面白そうな会社』というポジションができつつあるのかなと思います。やる気のある人が集まるからこそ、いろんな事業を継いで、今のチームに面白い仕事を供給し続けないといけないなという思いもあります」(濱田)
「店舗スタッフの中には、『家が近所だから』というモチベーションの方もいらっしゃいます。その状況で会社のビジョンをあまり強く求めすぎても、続けることがしんどくなってしまう。1人ひとりの考え方に寄り添い、コミュニケーションや目標設定を変えていくことが、地域でやっていく上にはすごく重要だなと模索しています。
『mizuya』の地元スタッフの中には、支配人の考え方に強く影響を受け、アルバイトから社員になってくれた方もいます。まずは働く人がワクワクするような場を作ること。そして、ビジョンを掲げる社内の人に感化されて、人が変化していく。この会社が、ひとつの”起爆剤”になれているのは、すごく感じるところですね」(井上)
仲間とともに、丹後で「続き」を描き続ける

「当事者」になることに意義がある
京都丹後企画の「受け継ぐまちづくり」は、地域からの信頼と期待を高めながら、さらに次のフェーズへと向かっています。
「僕らのイメージとしては、いろんな拠点を担う人が増えていってほしいなと思っています。究極、京都丹後企画でやっている宿やお店を『自分で独立してやりたいです』という人が出てくるような会社になったらいいなと。ここで働いていた人が地元で起業するとかもそうですし、地域の中で前向きにチャレンジして活躍する人がどんどん増えていったらいいなと思っています。
地域を見ていて思うのは、やっぱり『やります』という人がいないと物事は動かないということ。カネマスも、『復活したらいいのに』と多くの人が思っていたけれど、じゃあ自分がやりますという人は中々いなかった。そこで自分たちが手を挙げることで、『それなら応援する』『協力する』という人が集まって、形になっていく。その最初の一歩が、地域においては大事なんじゃないかという思いでやってます」(濱田)

歴史と共に想いをつなぐ事業承継
丹後の風景が変わり続けるのを見守ってきた高岡さん。そして、新しい視点で丹後を見ている井上さん。二人がおすすめする「今の」丹後の楽しみ方とは。
「丹後には伊勢神宮のもとになった歴史的な神社や、ちりめん街道、舟屋といった建築的にも面白いものがたくさんあります。昔、中央の鉄道が引かれていない、北前船が通っていた時代は、宮津も含めてもの凄く発展していたエリアなんです。その後、鉄道が引かれてこっちが“裏日本”になって衰退してしまったという歴史の転換点も含めて、地域の文脈を紐解きながら回ってもらうと、すごく面白いと思います」(高岡さん)
「丹後というと、天橋立や伊根の舟屋が強くピックアップされがちですが、実際に住んでみると、まだ知られていないディープで良いものがたくさんあります。街道や山の風景を感じながらビールを飲む体験や、山奥の集落で若い子がやっているサウナへ行ってみるなど、あえて王道から少し『外した楽しみ方』をしてもらえると、今の丹後の解像度がぐっと上がるはずです。まずは『mizuya』や『KAYA』に泊まって、ディープな情報に詳しい現場のスタッフにまちの魅力を聞いてみてほしいですね」(井上)
何もないところに新しいものをつくるのではなく、すでにそこにある名店の味、古民家の記憶、職人の技を「終わらせない」ために受け継ぎ、次の世代へ手渡していく。
宮津・天橋立・与謝野を舞台に、京都丹後企画が地域の人たちと一緒に書いている“丹後の続きの物語”は、まだ始まったばかりです。変化の真っ只中にある丹後のまちを訪れ、この場所で心を燃やす仲間たちと一緒に、新しい未来の景色を覗いてみませんか。