デジタル時代の社会的基盤を担う技術と称されるブロックチェーン。仮想通貨をはじめ、活用の幅が大きく広がりつつある。その市場規模は、グローバルインフォメーションによると、2020年の30億米ドルから2025年には397億米ドルへと拡大するだけでなく、28年までの年平均成長率は82.4%もの驚異的なペースが持続していくと見込まれている。
「この革新的な技術を活かさない手はない」と考え、ベンチャー企業を立ち上げた男がいる。Virtual Wall代表取締役の齋藤一篤氏だ。
「日本が得意としていたハードを作るビジネスモデルから、ソフトを作るビジネスモデルを必要とする環境に変わろうとしているなか、ベンチャー企業の必要性が大きく高まってきていると実感しています。また、各省庁の規制緩和やリスクを積極的にテイクするエンジェル投資家やベンチャーキャピタルが増えていることもあり、ベンチャー企業が事業を展開するには非常に良いタイミングと言えます」
Virtual Wallの設立は、2021年6月。最先端のシステムを用いてさらに便利な世の中に、未来は何事ももっと簡単であってほしいとの想いを込めて、“Make the norm for the future”というコーポレートステートメントを掲げている。目指しているのは、お金にまつわるプラットフォーマーになること。手掛ける事業は主に二つ。一つが、ブロックチェーン技術を活用した金融商品のデジタル譲渡システムの開発・販売。もう一つが、金融リテラシー向上のための3Dバーチャル空間の提供だ。
「我々が開発中の譲渡システムを利用することで、デジタル化された取引のルールに則り、ブロックチェーンのデータを使って売り手と買い手が当事者間で相対取引を行えます。また、現行の日本法の枠組みの下で定義化されたプログラム(スマートコントラクト)により、譲渡に対する各契約に付随する一連の合意であったり、承認手続きを行うこともできます。これにより、ペーパレス化や人的工数の削減、データ品質の向上など、資産の譲渡に関する手続きが高速化するだけでなく、各種契約・資産に関する情報管理の最適化が実現可能となってきます」
この譲渡システムのリリース予定は、2021年10月。まさに今、最後の追い込みに掛かっているところだ。ユニークなのは、“極楽譲渡”というネーミングだ。「難しいとされている譲渡をもっと簡単にできるようにしたい」という齋藤氏の想いが込められている。
一方、3Dバーチャル空間とは、イメージで言うとニューヨークのウォール街をインターネット上で立体的に作り出す検索エンジンの3D化だ。そこに金融商品取引業者が実際に自社でブースを構えるという作りになっている。
「3Dバーチャル空間では、金融商品取引業者がマネーリテラシー向上のためのイベント開催や自社コンテンツの提供、商品の広告などが行えます。ユーザーは、その空間を活用して各業者が運営する金融サイトに直接アクセスでき、現実社会における様々な金融サービスを体験することが可能です。こちらは、2022年春のサービスインを予定しています」
齋藤氏が、Virtual Wallを立ち上げた背景には、自らの金融機関在籍時の経験がある。齋藤氏は、もともと新卒で証券会社に入社。リテール営業を経て、プライベートバンカーとして上場企業オーナーおよび資産管理会社向けに資産運用や事業承継などをサポートする多様なソリューションを提案してきた。その後、独立することを決意する。
「痛感したのは、金融商品は換金したい時にすぐ換金できない商品もあるということ。
いわゆる流動性のない商品が多かったのです。そうした商品の流動性を高められないかとずっと考えていました。また、欧米諸国と比較すると日本の金融リテラシーが相対的に低いことも気になっていました。将来を見据えて、金融リテラシーや投資の必要性をもっと世の中に訴求できないかと思い描いたのです。金融とテクノロジーで商品の流動性とマネーリテラシーを高められないかということで、Virtual Wallを設立しました」
日本は少子高齢化により労働人口がどんどん減少している。このままでは、現状の年金制度を維持するのは困難と言わざるを得ない。安心して老後を送れるようにするためにも、金融に興味ある人々が集い交流できる場、金融知識を容易に取り入れることができる場が必要だと齋藤氏は考えたのである。
自らの構想をどう具現化していくか。齋藤氏が採用したのが、ブロックチェーン技術であった。「ブロックチェーンを使うことでセキュアな環境で金融取引ができる」と3年前に判断し、専門の技術者集団を探し求めた。ただ、齋藤氏自身にシステムの知識があったわけではない。しかも、当時はまだブロックチェーンに関して豊富な実績を誇る開発会社は極めて少なかっただけに難航を極めたが、何とかパートナー企業と出会うことができた。
いざ、開発に着手してからも難題続きであったという。
「なかなか上手く進みませんでした。最大の壁は、金融商品取引法です。日本の金融商品取引法は世界でみても非常に厳しいといわれています。その法律に則って世界レベルのシステムを開発していくのはかなり困難でした。実際、多くの企業が断念・挫折し、海外展開にシフトしていきました。でも、我々はあくまでも日本を拠点にすることにこだわり続けました。日本ならではの金融の不便さを変えたかったからです」
ようやくシステムのリリースが見えてきた今、齋藤氏は主要顧客となる二種業者にVirtual Wallの事業プランを提案し続けている。いずれも、手応えは上々だという。
「今後資金調達の手法は株ではなく、トークンの発行に移行していきます。そのトークンを流通させていくとなった時に、我々のシステムが活用されると思っています。しかも、この分野で我々はフロントランナーです。やはり、ブロックチェーン技術を使ってのシステム開発はかなり難易度が高いです。そこに我々は相当な時間と知見を投下し、先行して取り組んできただけに、簡単に真似できるとは思っていません。その点は、Virtual Wallの強みであると言って良いでしょう」
また、齋藤氏が期待を寄せているのが、Virtual Wallが挑む市場性の大きさだ。冒頭で、ブロックチェーンの市場は、2025年に4兆円が見込まれると述べたが、Virtual Wallのシステムを利用して譲渡されるのはファンドや金融商品だけでなく、不動産、未上場株などあらゆる範囲が想定されている。ファンドだけで2000億、不動産で20兆円。市場はかなり大きい。同様に、3Dバーチャル空間の出店者も金融取引業者には限定していない。中長期的には、税理士やふるさと納税業者の街づくりも視野に入れており、範囲を大きく拡充していく構想だ。
「ブロックチェーンを使っての市場の広さと、その対象となる資産が数十兆とあるだけに、Virtual Wallの事業規模は相当なスケールとなってきます」
まずは譲渡システム「極楽譲渡」のリリースと3Dバーチャル空間のサービスインを無事完了させることが命題となってくるが、その先のビジョンも齋藤氏は胸に温めている。
「これからも、金融商品取引法への適用は大きな課題になると思いますが、ユーザーや出店する金融取引業者のニーズをきめ細かくくみ取り、3D空間に色々なジャンルを拡充していきたいです。法律に則り、そこをどのような形でやっていくかがポイントです。理想的には、お金にまつわることがすべてワンストップで提供できる場にできればと願っています」
最先端の技術で未来をもっと便利に、簡単にしたい。齋藤氏の挑戦が、新たなフェーズに突入しようとしている。
転載元:Venture Times
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