こんにちは、CEOの一木です。今回は、私がサービス開始当初に、お取引先との間で起きたトラブルのお話をしたいと思います。
当時私は事業の立ち上げフェーズであったこともあり、どんどんセールスをかけて仕事を受注しておりました。おかげさまで、協力会社さんにお仕事をどんどん依頼させて頂くことが出来、とても感謝されていました。が、しかし
ある日突然、「もう仕事を受けられない」と断られました。
この出来事が、現在のSYNC LOGISTICSの事業スタイルに大きな影響を与えることになりました。
取引先が突然、手の平を返した理由
当時24歳だった私は、ある特定の協力会社さんにたくさんの船積みをお願いさせて頂いておりました。その会社さんは、取引当初は業績が振るわない状態にあったので、最初はとても感謝されて重宝がられていました。
ですが、あるとき突然先方から「もう仕事を受けられないです」と断られる事態が起こります。まさに、寝耳に水の状態ですね。当時の私は、先方の業績に貢献している存在のはず。なのに急に嫌がられる理由が分からず、腹を立てました(1年後くらいに訳が分かって反省しましたが)。
なぜ、このような事態が起きてしまったのか。ここで、国際物流の流れをちょっと説明しますね。
輸出事業者は、車が売れると船積みの手配をしていきます。この時に海貨業者などに船積み依頼するのですが、海貨業者は船積みするまでに車を置いておく土地を用意したり、コンテナに積み込む作業リソースを確保したりします。
じつはこのときに、私が依頼した船積み台数が先方のキャパを大幅に超えてしまっていたんですね。結果、先方から「車を入れないでほしい」と言われたんです。
でも当時の私は若かったので、「やりたくないなら自分でやるからいいよ」みたいに腹を立ててしまって、土地を新たに借りたり、作業リソースを探したりという一連のことを全部自分でやりました。そして、2週間後に先方に電話して、自分自身で全て船積みをやっちゃったんですね。
土地を借りるノウハウだとか現場を一気につくる知見を得られたので、物流マンとしては良い経験をしたんですが、結果的にその会社さんとはケンカ別れみたいになっちゃったんです。
物流のノウハウが分かるようになった頃合いに、自分の行動を反省することになったわけですが……。では、このとき私はどうすれば良かったのか。それは、
「需要予測」を事前に伝えておくこと。
いつ、どのくらいの車が入ってくるのか。この需要予測を伝えていたなら、相手側も事前に準備ができていたはず。今でも良い関係を継続できていたんじゃないかなと思います。
貿易物流事業の鍵を握る「需要予測」
たとえば、ネットで音楽を売るみたいな仕事だったら、とにかくガンガン売ってくるという私のやり方で良かったでしょう。コンテンツの販売ではハードを準備する必要はないので、販売量を伸ばせばいいわけですよね。
でも、物流はリアルな「モノ」を動かす事業。需要予測ができていないと、スムーズに物を動かすための土台をつくれないわけです。つまり、貿易物流事業で重要になるのは、事前に需要予測を立てること、それを取引先と共有しておくことなのです。
この反省を生かして、現在のSYNC LOGISTICSは2つの仕組みを取り入れています。
ひとつは、取引先とコミュニケーションする機会をちゃんと持つこと。アナログな手法ではありますが、現場でのちょっとした立ち話がマーケティングのヒントになって、顧客の課題解決につながることも少なくないので侮れません。
もうひとつは、在庫状況を取引先とリアルタイムで共有すること。この仕組みをつくったことで、当社ではしっかり仕事を回せています。
今持っている在庫を「時点在庫」と呼びますが、たとえば、車輌を1000台お預かりしている場合と、1100台持っている場合では対応できる内容が全然変わってしまうことがあります。なので、リアルタイムで需要を共有することがとても大事になってくるわけです。
さらに物流事業というのは、在庫を手元に多く抱えているほど効率が下がる構造になっています。需要予測から在庫の出し入れをコントロールすること。これが、「利益を出せる物流会社かどうか」の分かれ道。詳しくお話ししたいと思います。
貿易物流会社の収益性は何で決まるのか
当社は輸出に特化しているので、コンテナの船積み数が多いほど売上は大きくなります。ですが、利益という観点から言うと、もっとも重要になるのは保管スペースをどのくらい抱えてしまっているかという点です。
例を挙げながら、説明しますね。
当社では毎日、数百台の車を輸出していくのですが、同時にたくさんの台数の車が入ってきます。入りの台数と出ていく台数を完全にイコールにするのは不可能なので、在庫を抱えますよね。
たとえば、在庫を置いておく土地を「桶」、輸出する車を「水」としましょう。上の蛇口から桶にどんどん水を入れて、下の穴から出していきます。このときに、桶の水が溢れないようにしなければならないわけです。
では、大きな桶(=土地)を持っていれば事業は安泰でしょうか?答えは「No」です。
桶、つまり土地のサイズが大きいほど固定費が高くなるので、利益率が下がります。よく、車がたくさん入っている様子を見て「儲かってるね」と言われるんですが、収益性が良いかどうかは、車の在庫数だけでは判断できないんです。
では、物流会社の収益性を左右しているのは何なのか。それは、
「在庫を回転させるスピード」です。
たとえば、売り場面積が広くて品物がゆっくり売れていく店舗と、小さな売り場面積で品物が毎日じゃんじゃん売れる店を想像してみてください。後者のほうが収益性が高いですよね。つまり、
「輸出台数が多く、かつ抱えている在庫が少ない状態」だったら、高収益の可能性が高いということ。
たくさんコンテナに載せるだけでなく、より速く載せて在庫を抱えない(固定費をかけない)ようコントロールすることが、事業運営の手腕になってくるわけです。
マーケティングが強い物流会社をつくった理由
最初にお話ししたとおり、需要予測ができれば私たちは事前に準備ができます。例えば、土地が足りなければ一時的にサイズを増やすこともできる。つまり、収益をコントロールできるようになるには、需要を見極め適切なマーケティングを行う必要があるのです。
それともうひとつ。マーケティング力があると、顧客や業界のボトルネックを解消する商品企画力を持てるようになります。
中小の物流会社だと普通は、社長がビジネスモデルをつくって、あとはそれに従ってオペレーティングしていく構造が多いと思います。当社の場合、オペレーションスタッフは30%くらいの構成で、マーケティングとセールスの比重が高くなっています(物流会社っぽくないと思います)。
弊社のマーケティングやセールスを行うスタッフは、顧客の課題を拾いながら解決策となるサービス企画を行います。たとえば、物流担当としてお客さんの事業企画に携わり、市場参入していくフェーズからジョイン致します。この点も、他の物流会社さんと大きく異なっているかもしれません。
スタッフが自由自在に形を変えながら事業モデルをつくる。
新しい事業が生まれる土壌をつくるには、私がつくったビジネスモデルに固執しないことが大切だと考えているので、やり方も全部任せちゃいます。
大事なのは、今そこにある課題を、今解決する力です。(1年後に解決されてもうれしくないですよね)。
スタッフのマーケティング力の後押しとなっているのは、海外展開に積極的なこと。
当社はモンゴルに現地法人、スリランカとモーリシャスに代理店があり、現地側のリアルな情報をつねに共有できています。
これまでは市場参入する国を自ら選び、現地に飛んでサービスの立ち上げを行って参りましたが、そろそろスタッフにも各国に滞在してもらおうかな……と考えています(ドキドキしているスタッフも多いようですが……)。
「自分ひとりではどうにもならない」から、物流は面白い
SYNC LOGISTICSの起業は偶然の出会いが発端になっていますが、結果的にとても好きな仕事をやっているなと思っています。
※私が起業に至ったストーリーはぜひこちらも読んでみてください!
『自分の強みが活かせる分野で勝負したい』貿易SaaSを立ち上げる理由
私が物流業で好きなところは、「自分ひとりではどうにもならない」ところ。たとえば、デイトレーダーのように、自分の知識や経験をもとにひとりで勝っていくような仕事には魅力を感じないんですね。
物流って、自分ひとりががんばったところで結果が出ないんです。場合によっては、努力が報われず理不尽な思いもします。
でも、ステークホルダーの状況や利害を理解して仕組みを変えていくと、面白いようにグルグル回り出す。自分だけでは思い通りにいかなかったものが、ボトルネックを特定し解消するように動くことで、全員がストレスフリーになる。これはめちゃめちゃ面白い。
人は、好きじゃないことや理不尽なことは長く続けられないもの。物流業界の面白味をもっと知りたいという方は、ぜひ一度話を聞きに来てみてください。お待ちしています!