生成AIの波は、すでに企業の業務と顧客体験を根底から変えつつあります。しかし、日本の多くの企業ではまだごく一部の業務や部門での活用にとどまっています。そんな状況を打破すべく、フライルはあらゆる非構造化データを、企業全体の成長の武器に変えていくAIプロダクトを展開しています。創業5年を迎えた今、フライルはAIプロダクトの未来をどのように描いているのか、代表取締役CEOである財部優一に話を聞きました。
財部優一/代表取締役CEO
慶應義塾大学卒業後、学生起業ののち、Fintech系スタートアップZUUの創業期に参画。執行役員として、上場までの急成長を経験。金融メディアプラットフォームの事業責任者や金融機関向けマーケティング支援事業の立ち上げに従事。創業期〜上場後までの各フェーズで採用や組織制度設計にも従事し、2020年にフライルを創業。
「世界で使われるプロダクト」を共同創業者と追い求めた
ー創業前はスタートアップで上場も経験されたと伺いました。なぜ起業しようと思われたのですか。
学生時代から起業したり、留学をした経験から「世界で使われるプロダクトを作りたい」という思いを抱いていました。大学卒業後、社員2人の創業期スタートアップに飛び込み、経営の現場で修行を積みながら上場まで走り抜けました。5年間、本当に「もうこれ以上働けない」と思うほどやり切ったため、次は「自分が心から情熱を注げるテーマ」で挑戦したいと思うようになったのです。
退職後は約1年間フリーランスとして、あえて何もしない時間を過ごし、自身が本当に取り組みたい事業領域を模索し、様々な方と話したり、事業アイデアをぶつけていました。そんな中、大学時代からの友人だった相羽(取締役COO)と意気投合します。相羽とはお互いスタートアップでキャリアを積んできて、相羽も起業を志していたこと、また性格やスキルが私と補完関係になると思い、一緒にやろうと誘いました。
荒井(取締役CTO)とは友人からの紹介で出会い、CTOを探していた中で30人以上のエンジニアの方と会ったのですが、エンジニアとしての優秀さはもちろん採用経験が豊富で組織づくりができること、またコミュニケーション力が圧倒的に高いと感じており、荒井と一緒にやりたいと思っていました。ただ最初は本人はあまり乗り気ではなかったのですが、サンディエゴで1週間一緒に過ごした旅行が転機となったと思います。互いの人間性を深く知る中で、荒井も参画を決めてくれました。同じタイミングで、大学の後輩で起業前からずっと誘っていた山下(テックリード)も参画を決断してくれました。「この4人なら絶対にやれる」と確信し起業を決意しました。
生成AIの衝撃と「VOC×AI」という挑戦
ーPM向けSaaSで創業するも、今はCX領域に事業展開しています。領域を変えた背景について教えてください。
創業当初はPM向けSaaSの事業を展開していました。共同創業者3名が、事業拡大期のスタートアップにいたこともあり、「組織が拡大すると顧客の声に向き合いにくくなる」課題を持っていたため、この領域に定めて創業しました。事業進捗は順調ではあったのですが、特に大企業のお客様と対話を重ねるうちに「大量の顧客の声(Voice of Customer。以下、VOC)を経営に活かしたい」というニーズを伺いました。大企業でもスタートアップと同様、顧客の声を事業成長をに繋げることが必要な一方で、データ量が膨大かつ関係者が多様なため、その分課題が大きく・複雑性が高い。例えば、スタートアップの場合、営業やカスタマーサクセスを介して毎月数十~数百件程のVOCを主にプロダクトマネージャーがデータ活用しています。大企業の場合、コンタクトセンターに届く問い合わせ・要望・コールログ、アンケートの回答、SNSコメント、Googleレビューなど、毎月何十万件というVOCが集まります。このデータを活用したい部門も多く、経営層からCX・マーケティング、カスタマーサポート・お客様相談室、市場調査、商品企画などなど多岐に渡るのですが、ほとんどの部門で活用できていないのが実態でした。
そして2023年にChatGPTの急普及に象徴される生成AIの飛躍的な進化により「この技術を使えば大企業の課題を解決できる」と考え、AIプロダクトの開発に舵を切りました。既存顧客へのインタビューや展示会やBDR(アウトバウンド営業)でニーズ確認や価値訴求をしたところ、多くの企業からとても良い反応があり、過去にない手応えを感じました。初めて接点をもった名だたる大企業から短いスパンで次々契約が決まったことで、PMFを実感した瞬間でしたし、私たちのバリューである「顧客の理想に、活路を見出す」を体現できたエピソードですね。
ースタートアップではまだ珍しく、日本を代表する大企業と多くの取引を実現していますね。成長できた要因は何ですか。
「VOC×AI領域の顧客解像度の高さ 」「技術的な変曲点をいち早く捉えることができた」「最速でAIプロダクトを開発・提案できる強いチーム」の3点が大きいと思います。フライルは単一部門の業務を効率化するのではなく、部門を超え企業の売上・利益に繋がるような本質的な成長サイクルを実現できるサービスです。この点は、創業以来、PM向けSaaSに向き合う中で学んだことが多く活きています。生成AI技術の進化が話題になる前から、大量のVOCをAIで分類・分析するプロダクトの構想が元からあり、顧客課題をよく理解できていたという点は大きいです。おかげで生成AIの飛躍的な進化が起こったタイミングで、かなり機動的に意思決定ができました。2023年の2月には大企業とAIプロダクトのPOCを開始、半年後にはリリースすることができました。
また、創業初日からバリューを定め、厳選採用を続けてきたこともあり、プロダクト、ビジネスサイドともにかなり優秀な方々を採用できています。技術の進化が目まぐるしく起きている中、顧客課題をいちはやく捉え、プロダクト開発・提案・サクセスまで最速で実現できるチームが一番大きな成長の要因です。インターネット、スマホ、クラウドの普及など時代が変遷してきた中で、生成AIの普及がこの10年の間違いなくビックトレンドになります。企業への普及を加速させていくためにも、顧客解像度、技術の変曲点を見抜く力、AIプロダクトを開発・提案できる強いチームをさらに高いレベルに引き上げていきます。
企業の本質的な成長を加速する「NO.1 AIプロダクトカンパニー」を目指す
ーフライルが提供する価値と、他社との違いは何ですか。
世の中にある多くのB2B SaaSは生成AI時代以前から開発され、主に部門ごとの業務効率化を実現できるものが多いと思います。フライルは、生成AIネイティブなプロダクトであり、部門を超え、全社の本質的な成長を加速するために開発されています。この点が大きな違いです。旧来のVOC分析ツールの場合、キーワード単位や単純なルールベースでの分析がメインだったところを、生成AIの特性をフルに活かすことでより高度な分析を実現しています。また、「データを集めて終わり」「分析して終わり」となるのではなく部門を超えた複雑な業務フローに組み込むことができ、日々の多様なアクションに結びつけることを重視しています。「情報を収集する」「顧客の声を仕分ける」はもちろん重要なことですが、それが企業の本質的な成長に資するアクションと繋がっているのか、ここを最も大事にしています。
例えば、フライルでは自社の売上や顧客ロイヤリティとVOCを掛け合わせた分析が可能となっています。今までの定量的なデータに加えて、定性的なデータを掛け合わせて分析し、アクション設計やタスク管理が可能となっています。定量データに基づいた仮説の検証・深堀から、定量×定性でより深い仮説をつくることもできるようになっています。商品マスタ、店舗マスタ、会員データなど、大量かつ複雑なデータをかけ合わせ高速で処理し、日々の業務に活かせるようになっています。
我々のミッションである「世界に、進化の原動力を。」に沿って、部分的な業務効率化だけでなく、企業の本質的な成長サイクルに寄与するプロダクトを開発していきたいと思っています。
ー新たな事業も複数考えていると伺いました。今後やろうとしていることを教えてください。
日本は少子高齢化が進み、2030 年には労働人口が現在より 640 万人減ると試算されています。「いまの延長線で人手を増やす」 という選択肢が閉じつつある中、生成 AI はかつてのロボットや RPA 以上のインパクトで人が担ってきた定型業務を 10 分の 1 以下のコストで代替・拡張 できるフェーズに入りました。
最初の勝負所と定めるのが CX領域です。人件費も含めると年間 3 兆円を超える巨大市場であり、まだまだ自動化・AI化の余地が広大に残っています。
一方、国内 AI システム市場全体も 2024 年に 1.34 兆円(前年比 +56 %)へ急拡大し、2029 年には 4.18 兆円に達する見込み です。年平均成長率 は25.6 %とクラウド黎明期並みのハイペースで膨張しています。
フライルはこの 「巨大 × 急成長」 の 2 乗エリア にフォーカスし、VOC×AI 領域で 得た強みを武器にCX・AIシステム領域に複数のAIプロダクトを仕掛けていきます。まずは国内No.1のAIプロダクトカンパニーを目指しつつ、将来的にはグローバル展開も行っていきます。
高い壁にワクワクする仲間と、未来を作りたい
ー最後にどのような方と一緒に働きたいか教えてください。
フライルの目標はとても高く、かつ日々AI技術は進化し続けていくため、自身が現在持っているスキル、能力だけで仕事をしたいと考える人よりも、「今できないことに果敢に挑戦して成長したい人」と一緒に働きたいと考えています。実際、今のメンバーも新しいことに挑む前のめりな姿勢を持っている方が多いです。
現在、全職種で仲間を募集中をしており、全く人が足りていません。私たちのミッションと価値観に共感できる方と、これからの未来を創っていきたいと考えています。