企業に理念が必要だ、という言葉はよく聞く。
しかし、理念は「作れば良い」ものではなく、「必要だから生まれる」ものだ。
目次
なぜ企業に理念が必要なのか
「理念」による成功と失敗
理念が実践されなかったことで衰退した“典型パターン”
①「お客様第一」を掲げたのに、現場は数字至上主義になった会社
②「人を大切に」が理念なのに、トップがワンマン化した会社
「社長は何を考えてどこを目指しているかわからない」
理念を“浸透させる”ために始まった新しい取り組み
① 月1回のMT(ミーティング)
② 年二回の理念浸透合宿
おわりに
なぜ企業に理念が必要なのか
企業にとって理念は、“会社の軸”であり“判断基準”です。
日々の仕事には、正解が1つではない場面がたくさんあります。
そんな時に、理念があることで「うちは何を大切にする会社なのか」「どう行動すべきか」が明確になり、社員全員が同じ方向を向いて動けるようになります。
理念は採用・育成・評価・サービスの質にも影響します。
会社が何を目指し、どんな価値観で行動しているかを示すことで、“理念に共感する仲間”が集まり、文化が揺るがずに成長していけます。
「理念」による成功と失敗
Fast Retailingが展開する UNIQLO は、極めて明確な理念とビジネスモデル — 「高品質で機能的、かつ手頃な衣服を、多くの人に届ける」 — を掲げ、それを一貫して実践してきたブランド
1984年に最初の店舗を広島で出して以来、シンプルで使いやすいカジュアル服を「プライベートブランド (SPA)」として自社で企画・生産するモデルに取り組みました。これにより、中間マージンの削減とコストパフォーマンスの両立を実現。代表的な戦略として、機能素材や快適さを追求するライン(たとえば「ヒートテック」「エアリズム」など)を開発し、流行に流されず「質と実用」を重視する姿勢を貫いてきました。また、衣服を“多くの人の生活必需品”と捉え、誰でも手が届きやすい価格帯と店内の整った購買体験で、「安い=チープ」「低品質」という従来のマイナスイメージを覆すことに成功。
この「理念 × 運営モデル」の両輪で、UNIQLO は日本国内だけでなく、世界にも店舗・ブランドを拡大することができた。
今やモールや駅構内など様々な場所に展開するUNIQLO ですが、
当時「駅構内に服屋をオープンする」はあまり主流ではありませんでした。「駅構内・駅近 」や交通の要所に店舗を持つ戦略も、そこにはブランド理念と一致するものでした。
Fast Retailing は、2005年ごろから従来の大型・標準店舗に加えて、小型〜中型の“駅近・駅構内型”店舗を拡充する戦略をとりました。この戦略により、「通勤・通学のついで」や「ちょっとした時間」のショッピングでも立ち寄りやすくなり、 忙しい人、時間が限られている人でも“気軽に”“必要なときに”服を買えるようになった。
これが UNIQLO の「誰にでも届く服」としてのコンセプトと合致。
さらに、2024年には東京・新宿駅近くに巨大なフラッグシップ店舗(約 4,000 m²)をオープン。これは、駅という“交通のハブ”と都心の商業エリアという“人通りの多さ”を両立させ、「買いやすさ」「見つけやすさ」「ブランド体験の質」を高める野心的な挑戦とされています。
つまり、駅構内出店は単なる「出店場所の拡大」ではなく、
「理念を体現するための場所戦略」
「多くの人に、手頃で高品質な服を届けたい」という想いを、
立地の選び方にも反映させた結果だと言えます。
理念が実践されなかったことで衰退した“典型パターン”
①「お客様第一」を掲げたのに、現場は数字至上主義になった会社
- 会社の理念 →「お客様第一」「誠実」
- 実際の行動 →「とにかく売れ」「ノルマ優先」
- 結果 → クレーム増加 → 社員離職 → 収益悪化 → 撤退・倒産
“理念と実態のギャップ”が大きくなるほど、
顧客・社員の信頼が壊れていく典型例です。
②「人を大切に」が理念なのに、トップがワンマン化した会社
- 代表は理念を掲げるが、現場では怒号・独断
- 「言っていることとやっていることが違う」と社員が離職
- 優秀な人材から抜けていき、組織が機能不全に
- 経営不振に陥り、最終的に事業売却・倒産
“理念があってもトップが体現しなければ意味がない”の典型例です。
「社長は何を考えてどこを目指しているかわからない」
カリナンの理念「上質の追求」もまた、最初から存在していたわけではない。
創業期には目の前の仕事を全力で走り抜けることで精一杯で、理念の言語化まで手が回らなかった。
ただ誠実に、ただお客様のために。
その一点だけを胸に、がむしゃらに進んできた会社だった。
しかし、事業が広がり、人が増え、仲間が増えるにつれ、少しずつ違和感が生まれていく――――
「社長は何を考えているんだろう?」
「会社として、どこを目指しているのかが分からない」
「私たちは何を大事にして働けばいいの?」
これは、ある社員が面談の中でぽつりと言った言葉だった。
その一言は、代表の胸に深く突き刺さった。
“自分の想いが伝わっていない”という現実に気づかされた瞬間だった。
代表自身は、会社を良くしたい、社員を幸せにしたい、もっとお客様に喜ばれる会社にしたい、社会を世界を幸せにしたい——そう強く願っていた。しかし、その想いが「言葉として共有されていなかった」ため、社員は不安を抱き、迷いを感じ、判断基準を持てずにいたのです。
トップと現場の想いが一致しないままでは、チームは一つにはなれない。
それを痛感し、代表は初めて「理念の必要性」を本気で考え始める。
代表はよくこの例え話をする。
「あるパン屋さんが、Aさんはグルテンフリーなヘルシーパンを作ろうとしている。Bさんはがっつりカロリーが取れる惣菜パンを作ろうとしている。この二人が別々のパンを作り続けた結果どうなると思う?お客様はもちろんのこと、従業員も混乱するだろう。店内でパンの方向性を統一せねばより良いサービスは提供できず、従業員は混乱から不満・不安に変わって辞めていくだろう。」
理念は、飾りではなく、社内の羅針盤である。
そして同時に、採用・社員育成・働く判断・お客様との関係性——あらゆる場面での“基準”になるものだ。
言語化されていない想いは、存在していないのと同じ。
だからこそ、「理念として形にする必要がある」と代表は決意した。
時間をかけ、何度も自分と向き合い、会社の存在理由、やりたいこと、譲れない価値観を掘り下げた。
その中で生まれたのが、今の理念である。
「上質の追求」
——人としても、サービスとしても、関わる全てに“上質さ”を届ける。
ここには、「社員の幸せを起点とし、その幸せをお客様、社会へ広げていく」という創業時からの想いが込められている。
上質とは、高級のことではない。
誠実であること。
ごまかさないこと。
人を大切にすること。
相手に寄り添い、自分の成長にも真摯であること。
つまり「心の質」を高め続けること。
理念を“浸透させる”ために始まった新しい取り組み
理念を作るだけでは意味がない。
大切なのは、全員でその理念を「共有」し「体現」できる状態をつくること。そこでカリナンでは、理念を実践へ落とし込むために、次の取り組みが始まりました。
① 月1回のMT(ミーティング)
毎月テーマを設定し、理念を軸に、
- 仕事の振り返り
- チームで起きた良い行動の共有
- 理念に沿った改善点
- 今後の目標
などを話し合う時間をとっています。
ここでは上下関係にとらわれず、
「感じていることを正直に言える」
「相手を尊重しながら意見交換ができる」
というカリナンらしい文化が育っています。
② 年二回の理念浸透合宿
また、半年ごとに一度、年二回、
“理念を深く理解し、行動レベルまで落とす”ための合宿も実施。
ここでは、普段の業務から離れてじっくり互いの価値観を共有し、
「自分にとっての上質とは?」「仕事を通じて誰を幸せにしたいのか?」を
対話しながら明確にしていきます。
合宿を通じて、ただ理念を読むだけではなく、
理念が“一人ひとりの生き方”にリンクしていくプロセスが生まれています。
奈良県五條市で古民家を借り社員全員で理念合宿
理念ができたことで、社員は判断軸を持ち、会社の向かう方向が見えるようになった。
会議の中でも、「この決断は上質か?」「上質を追求できているか?」と自然に会話が生まれるようになっていった。
理念は、代表の頭の中だけにあった想いを、初めて“会社全体の想い”へ変えてくれた。
そして何より大きかったのは、社員たちが安心したことだ。
「社長の考えていることが分かるようになった」
「会社が何を大事にしているかが伝わる」
「迷った時は理念に戻ればいいと気づいた」
そんな声が増えていった。
おわりに
理念は、立派な言葉を作るためのものではなく、
代表と社員が「一つの想いを共有するための言葉」だ。
今、カリナンが大切にしている社風、温かい空気、支え合う文化は、
理念とともに育ってきたものだと言える。
そして理念は、過去の反省から生まれたものではなく、
未来のために必要だった言葉でもある。
「社員が幸せで、誇りを持てる会社をつくりたい」
「モノだけでなく、人の心にまで価値を届けたい」
「関わった人すべての人生が、少しでも良くなるように」
その願いが形になったのが——「上質の追求」。
理念は“会社の心”であり、
これからのカリナンが歩む道を照らす灯台である。