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従来のレベニューマネジメントの課題
ホテル業界において、客室稼働率と収益の最大化を目的としたレベニューマネジメントは、これまで多くの施設で広く導入されてきました。しかしながら、その一般的なアプローチには、いくつかの構造的な課題が内在していると言わざるを得ません。
従来の一般的な手法として、客室の販売開始時点で比較的高い価格帯を設定し、早期の売り切れリスクを回避する方法が挙げられます。
この手法を取った施設の特徴として、収益性を求める姿勢からか、宿泊日が間近に迫るまで価格調整に踏み切れない、ないしは、プライシング業務に時間が割けず、結果的に宿泊日間近まで価格変更できていないケースが多く見受けられます。その結果、多くの場合は宿泊日直前の急激な値下げによって在庫の解消を図るアプローチをとることになります。
しかしながら、こうした手法は中長期的な収益の最大化という観点からは必ずしも合理的ではありません。その理由は、大きく以下の3点に集約されます。
- 需要の価格弾力性が極めて低い
ホテルの客室における宿泊日直前の需要価格弾力性は0.1程度と言われています。この数値は食塩と同程度でかなり低い値であり、つまりある程度大幅に値下げを行わなければ需要の増加は見込めないといえます。
宿泊直前の予約客の中には、ビジネス利用など、価格を重視していないケースが少なくありません。安易な値下げは、本来なら高単価で獲得できたはずの顧客を逃している可能性が高いと言えます。 - ブランドイメージの毀損リスク
基本的にホテルビジネスにおいては、総合的に鑑みてearly booker(早期予約者)を優遇するべきです。値下げ戦略は本来優遇すべき早期予約者の不公平感をあおり、ブランドイメージを毀損しかねません。
また、直前の値下げ早期予約者が自身の予約をキャンセルし再予約をするケースも出てくるはずで、そうなれば確定的だったレベニューを失うことになります。
現在はSNSでの情報発信や、各施設の価格変動が容易に把握できる仕組みも出現しており、上記の課題が発生しやすい環境になってきています。 - 安定的な需要予測の阻害
宿泊直前の値下げが常態化すると、顧客はその特性に気づき、安くなる直前での予約を行うようになります。
購買行動のリードタイムが短くなるため、需要のブレが大きくなり需要予測が困難になります。計画的な客室運営や効率的なオペレーションが立案しづらくなります。
つまり需要予測の精度低下は、単に機会ロスを生むだけでなく、コスト増につながるリスクを孕んでいます。安定的な収益管理という意味で、直前割引が頻発する状態は望ましいとは言えません。
レベニューマネジメント戦略の必要性
上記のような構造的な課題を踏まえても、ホテル業界におけるレベニューマネジメントの在り方を再考する余地があるといえます。
10pct.が推奨するアプローチは、比較的安価な価格帯から販売を開始し、需要動向を見極めながら徐々に価格を引き上げていく方式です。
値下げを極力行わないこのアプローチであれば、前述した課題を解決することができます。
もちろん、安易な低価格販売は、本来獲得可能だった収益を逸失するリスクがあることも事実です。本アプローチの実践には、リアルタイムでの市況分析(競合や自社のブッキングカーブなどの分析) による需要予測と機動的な価格調整が不可欠となります。高度なレベニューマネジメントの実践には、専門的なスキルと豊富なリソースが求められるのです。
10pct.では、データサイエンティストを筆頭にクライアント施設の過去実績や競合データなどを分析しブッキングカーブの予測や価格弾力性の予測を実施しています。
これらの分析結果・予測をインプットに、経験豊富なレベニューマネージャーが日々のオンハンドの状況を確認しながらプライシング業務を遂行します。
10pct.の先進的事例と今後の展望
10pct.がレベニューマネジメント支援を行ったクライアントの事例は、上記のアプローチの有効性を端的に示しています。従前の直前割引に依存したレベニューマネジメントから脱却し、早期予約の獲得にシフトしたことで、大幅な収益改善を実現しました。4ヶ月連続で前年比150~180%の売上を達成したことは、オフシーズンにおける成果としては特筆に値するものです。
また、直前の値下げにより散見されていた早期予約者からの問い合わせ(価格についての確認・再予約の打診など) はなくなり、運営上の負担軽減にもつながっています。
加えて、安定的な需要(収益)が予測可能となったことで、計画的な設備投資やサービス強化の原資を捻出することが可能となりました。中長期を見据えたブランド価値向上の取り組みが、より積極的に展開できるようになったのです。
今後、ホテルの価格変動に対して情報収集が容易になり、一層納得感のある価格戦略が市場に求められます。短期的な売上追求だけでなく、中長期での顧客価値と収益性を両立させるより高度で効果的なレベニューマネジメントの実践が必要だと考えています。
参考文献
田澤 彌栄. 「宿泊業における収益最適化とその実践に関する考察」. 日本国際観光学会論文集. 2021年. 28号. p91-100